抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
ドタバタと出て行った卵を見送り、アサちゃんと別れてSHO本社ビルの会議室に入る。
精
「おはようございます。連絡した通り家庭の事情で遅れました」
やっと来たかと周囲の視線を集める。俺は我関せずに光姫姉さんの隣に座る。
SHO役員A
「重役出勤とはいいご身分だな?」
精
「事実重役ですので……で、議題は何ですか?」
ニノマエ
「ズヴァリ! 反交尾勢力、通称トリ公についてだよ!」
ニノマエは黒い全身タイツとスーツとネクタイと金色のバタフライマスクを装備して会議を仕切っている。誰も何も言わないあたりアレがニノマエのフォーマルウエアらしい。
ニノマエ
「正体不明で神出鬼没、やつらの名前は『トリ公』。イキイク希望をビュルビュル勇気をオホM余裕をアヘする心を奪うよこの島の皆から……そんな存在だ」
精
「要するにドスケベ条例違反者の集まりということでいいですね?」
光姫姉さん
「その通りです。かつてSHOにあった生産行為促進委員会、通称『ラブラビッチ』と真反対の一味です」
恐らくドスケベ条例黎明期にあった委員会なのだろう。あとで調べてみるか。トリ公の資料に目を通す。俺の知っているあの反交尾勢力とほとんど変わらないようだ。
SHO役員B
「奴らの存在は青藍島を脅かす……即座に捕まえ即座にギロチンにかけ────」
精
「ちょいと資料を眺めましたが、彼らの活動は生産行為の妨害というより只の逃亡に見えます。なら、こちらから捕まえる事はせずに、まずは情報を集めるのが優先だとますが?」
俺には元の世界の情報がある。淳之介君曰く無事に帰ることを目的としたエクストリーム帰宅部だったはずだ。そして今の俺の立場は治安管理委員会特殊戦闘部のリーダーだ。リーダーとして無駄なことにリソースを割くような真似はしたくない。
SHO役員C
「君は犯罪者を野放しにしろと言っているのかね?」
精
「確実に捕まえるために準備をしましょうって言っているんです。反交尾勢力が何時、何処で、誰が、何を、何のためやっているか……誰か説明できますか?」
俺の発言に役員たちは口をもごもごさせる。
精
「癖を知りオホれを知れば百連戦殆からずです。まずは敵を調べ、そして我々SHOの戦力で可能な作戦を立ててから行動を起こしても────」
SHO役員D
「君の妹に容疑がかかっているから遠ざけようとしているのではないかね?」
卵に反交尾勢力の容疑がかかっている? ありえない、とは言い切れない。大切な家族ということを一旦捨て客観的に見れば、普段の素行の悪さや同性愛者である以上十分な容疑者だ。俺もかつては反交尾勢力のリーダーである淳之介君を見逃していたから、卵もアサちゃんを反交尾勢力と知った上で見逃しているかもしれない。
精
「…………否定はしませんよ。大切な家族を疑いたくないというのはあります。ただ……」
俺は徐に立ち上がり妹を疑った役員の前に立った。
SHO役員D
「ただ……なんだね────」
精
「卵がああなったのは手前等のせいだろうが」
足を振り上げ、踵落としで机を叩き割る。異常事態に場が騒然とするが俺は構わず言葉を続けた。
精
「ただの同性愛者なのに異端者扱いをしてこの島で孤立させ……助けを求めた卵の手を振り払い……理解してほしいという俺の訴えも聞かず……両親を事故で失ってなお見向きもせず……なのに怪しくなったらすぐに捕らえろだ……? 手前等の馬鹿さ加減は天井知らずだな────殺すぞ」
特殊戦闘部による殺害予告は脅しとして最高に効果があるだろう。もはや誰も何も言えなくなった。
精
「……とりあえず、治安維持委員会としては調査を進める方針だ。情報が集まったら作戦を立てて確保に移る。あと、机代は俺の給料から引いておいてくれ。以上だ」
会議室を出ようとする際、役員の1人が俺に向かって遠吠えをしてきた。
SHO役員A
「あの
精
「父さんと母さんは関係ないだろ? 俺は俺の意志を持って『やりたいようにやれ』を貫いているんでな」
会議も無事に終わったところでニノマエが慌てた様子で俺に駆け寄ってきた。
ニノマエ
「いやー、流石『金色の狂犬』だねえ……余もよもやよもやだよお」
ニノマエのよく分からない感想を聞き流し、光姫姉さんから聞いた『ラブラビッチ』について調べる。ドスケベ条例を青藍島に広める際に活躍した組織で、委員長である土口一成と副委員長である土口美蘭が先導し────
精
「俺の父さんと母さんが所属していた組織なのか……」
ニノマエ
「そこで出会った二人が結婚して精くんと卵ちゃんが産まれたんだろうねえ……それだけにあの事故は裏があるように思えてしょうがないんだあ」
この世界の俺の父さんと母さんが死んだ青藍島での事故の事だろう。考えてみればかつてはドスケベ条例を広めた実力のある2人が、同性愛者の娘のために動いたとなったら厄介この上ない。事故で片付けれるのなら慰霊碑の一つで済む。
精
「結果としては残された子供が両親以上に厄介な存在になっちまったがな」
ニノマエ
「…………そこなんだよねえ。裏があるように思えるのはあ」
ニノマエが釈然と来ないと言わんばかりに首をかしげる。
ニノマエ
「もしSHOが仕組んだ事故なら、その場で全員殺しちゃえばいい訳じゃん? なのに君達二人が生きているのは……何でだろうね?」
精
「あくまで事故で片付けるためじゃないか? 流石に殺しまでやったらSHOそれを隠し続けるリスクを背負わなきゃいけなくなる」
ニノマエの考え過ぎだとは思うが指摘されれば気になる点はある。しかし、それを明かして何に繋がるか分からない以上、後回しにするべきだろう。
ニノマエ
「裏がある事故といえばあ……精くんはバブみ保育園の"開かずの扉"はご存じかなあ?」
精
「オカルトの類か? 否定はしないが、存じ上げないな」
ニノマエ曰く、何年か前にバブみ保育園に車が突っ込む事故が起きたらしい。死傷者はいなかったものの、その際の工事でドアノブのない扉ができたという。押しても引いても開かないらしく、マジで"開かずの間"だという。
ニノマエ
「でも、こっちはどうでも良さそうだねえ」
精
「言われたら気になるんだよな……ちょっと調べてみるか」
ニノマエと共にメインストリートを歩く。今日も今日とて嬌声で大盛況だ。すぐそこで青藍島に来て間もないカップルが盛大に生産行為をしている。
気弱な男性
「ダメだよ
黒髪ロングの赤目の女性
「だからいいのではないですか鈴口さん! それと
気弱な男性
「……っ! わ、わかった……! 自分で負うリスクは自分で決める! これが僕のドスケベセックスだ! 孕めオラァ!」
黒髪ロングの赤目の女性
「すっご──―い♡♡♡」
ピルが効くまではそれを理由に断ってもいいのに、あえてそのリスクを背負ってドスケベセックスするとは。彼女はハメ狂いの女なのかもしれない。さて、バブみ保育園で"開かずの間"の捜索だ。保育園の職員室に件のドアがあった。壁にドアノブもドア枠もない木のドアが埋まっているという奇妙な光景だった。
ニノマエ
「事故でリフォームする際にできたって言うけどお……それにしたってこんなミスするかなあ?」
精
「今の所は杜撰な突貫リフォームって感想だが……」
とりあえず押したり横にスライドさせようとする。当然動く訳がなかった。
精
「簡単に開いたら"開かずの間"なんて言われないよな……」
ニノマエ
「いやいや、"開かずの間"じゃなくて"開かずの扉"だよお。この先に何かあるのかも分からないんだよねえ」
精
「ノックすれば分かるだろ。コックしてもしもーし?」
反響音から奥に空間があるのは確かだ。しかし、どうやったら開くのか全く見当もつかない。
精
「……ん? なんだこの跡……?」
床から20㎝程の高さに何かを当てたような跡がある。ノックしてみると明らかに音が違った。中に金属が埋め込まれているようだ。おそらく何かを読み込ませると開く仕掛けなのだろう。俺の社員証をかざす。特に反応はなかった。
精
「うーん……誰ならいいんだ?」
ニノマエ
「誰だろうねえ? でも、痕が残るぐらい頻繁に出入りはしているみたいだからねえ」
光姫
「やっと追いつきました……! 後始末大変でしたよ……!」
あからさまにお疲れ様な光姫姉さんがやって来た。
光姫
「他人事のような顔しないでくださいよ……! 卵ちゃんのことを酷く言われて怒る気持ちは分かりますけど……! だからと言ってやって良いことと悪いことがあるじゃないですか……!」
精
「だとしたら先に悪いことをやったのは青藍島の人間ですよ。俺と卵は虐げられてきた、なら奴らを虐げる権利が俺達兄妹には────」
瞬間、左頬に凄い衝撃が走って視界が揺れた。視線を元に戻すと光姫姉さんが泣きながら胸ぐらを掴んできた。
光姫
「そしたら今度は精が虐げてきたからって精が酷い目に遭うのよ!? そしたまた精はそれを理由にもっとひどいことをして……そうしたらいつか精は人を殺してしまうかもしれない! そんなの私には耐えられない!」
光姫姉さんが俺の胸に顔を埋めてきた。この世界の光姫姉さんは俺と結婚していて、とても大切な人なのだろう。俺を止められるのは自分しかいないと思っているからここまでの事をするのだろう。
"お前は約束を忘れることはあっても、破ることはしないだろ……? 『私を幸せにする』……こうやって約束しただろ……? "
怒りに我を忘れた時に俺を止めてくれた礼先輩の言葉を思い出す。
光姫
「だから…………もうあんなことはしないで…………青藍島は…………きっといつか卵ちゃんを受け入れるから…………」
元の世界でも反交尾勢力がきっかけになって同性愛は認められた。この世界にも反交尾勢力がいるのだからいつか果たされるだろう。卵を目の当たりにして物事が見えなくなっていたようだ。光姫姉さんを抱き返す。
精
「…………そうですね、光姫の言う通りです。少し乱暴にやり過ぎました。ごめんなさい。あとでSHOに謝ってきます」
光姫
「精くん…………」
お互いに見つめ合い、仲直りのキスをする。俺は光姫姉さんに特別な情を持っているわけではないのでこれといって思うところはないが、光姫姉さんは複雑な顔をしながらも満足そうにしているからいいだろう。
ニノマエ
「夫婦を見せつけてくれるねえ……shitメラメラだぜえ……」
光姫
「…………ニノマエさんにも良い人が見つかると思うわ。いいセンスしていますから」
毎回思うが光姫姉さんはニノマエの何を気に入っているのだろう。ニノマエが悪い奴ではないのは俺にも分かるが、どこか掴みづらい奴でもある。
精
「それじゃあ、SHOに謝ってきます」
ニノマエ
「じゃあ余は光姫さんと不倫してるよ。イェーイ! 精くんみてるぅー!? 今から君の奥さん寝取っちゃいまーす!」
光姫
「ああ、ごめんなさい精くん……♡私、ニノマエさんに好き勝手されちゃいます……♡」
さっきまで本気で怒っていた人とは思えない変わりようだ。しっぽり仲良くどうぞと保育園を後にする。一人になり、ビンタされた頬よりも心が痛い事に気が付いた。
精
「…………礼先輩…………」
俺はいつも口先だけの男だ。言った事を何一つ出来ず、誓った約束も守れていない。
精
「……帰ってきたら光姫姉さんに甘えようかな」
この世界の光姫姉さんは偶に母さんを思わせるような優しさを見せる。この世界で荒んだ俺はそこに惚れて結婚したのだろう。さて、このしんみりした表情と心なら十分に反省しているように見えるだろう。早く行かないと。