抜きゲーみたいな島に住んでいる狂犬はどうすればいいんだ? 作:神剣狩刃
SHOへの謝罪はうまくいった。あれだけ荒れた奴が急にしおらしく謝ってきたらそれはそれで怖いだろう。減給処分だけで済んでご機嫌だ。帰って来て光姫姉さんに思いっきり甘えてから眠り夢を見る。SHO本社ビルの一室で俺と仁浦県知事が話をしている。
精
「お忙しいでしょうから単刀直入に言います。ドスケベ条例を同性愛にも適応してください」
仁浦
「……妹のためか?」
精
「それ以外に何があるって言うんですか? 嫌なら武力で脅してでも────」
仁浦が片手を挙げると同時に数人のガードマンが俺に銃を向ける。俺は刀を一振りし全員を倒す。この世界の俺はこんなに強いのか。身体能力だけなら元の世界以上だ。
精
「────通しますよ?」
仁浦
「なるほど、確かに史上最年少だな……青すぎる」
県知事がポケットからスマホを取り出す。誰かと通話中になっている。
仁浦
「私だ。彼が私に手を出した……その女をやれ」
卵
「待って! いやだ! 私、女の子としかセックスしたくない!」
スマホ越しに卵の悲鳴が聞こえる。まさか県知事はこのことを見越して卵に刺客を向けていたのか。
精
「待て!!! 卵に手を出すな!!!」
仁浦
「では、取引をしよう……金輪際、ドスケベ条例に口出しをするな」
県知事らしい手段を選ばない方法だ。となると────
精
「…………分かった…………だから、卵には手を出すな…………」
俺は土下座をして県知事に頼み込んだ。
仁浦
「これからもSHOを、青藍島を、そして────ドスケベ条例を守ってくれよ」
卵は心労が祟って記憶障害になったと言っていたが、これが本当の理由だろう。卵のために力を付けて、その力で変えようとした結果、卵を危険に晒し二度と条例を変えることができなくなった。そのショックは人の心を容易く砕くだろう。やりきれない怒りに思わず下唇を噛む。その痛みで目が覚める。
精
「…………まだ4時か……もうひと眠り────なんかいい匂いすんな……?」
匂いに誘われて給食室に行く。先日のように卵が何かを作っているのだろうか。
光姫
「うーん……今日の卵焼きは甘めにしようかしら……」
光姫姉さんがカワイイ花柄のエプロンを着て卵焼きを作っている。折角だからお手伝いしよう。
精
「卵焼きにチーズを入れると冷めてもトロッとおいしくいただけますよ」
光姫
「あら、精くん……起こしちゃった?」
精
「ちょっと刺激的な夢を見たもので……お手伝いしますよ」
スライサーを借りてキャロットラペを作る。千切りにしたニンジンに塩を入れて揉んでげんなりさせる。水気を絞ったら砂糖と酢とオリーブオイルと胡椒を入れて混ぜる。甘めの卵焼きに合わせるため胡椒を効かせるといい。光姫姉さんの方はそろそろ焼き上がるといったところだ。
精
「……卵多くないですか? もしかしてお弁当も作っています?」
光姫
「え、ええ! 園児達と一緒に食べるお弁当はお楽しみですから!」
というと今日は光姫姉さんはバブみ保育園ということになる。折角だから"開かずの扉"について聞いてみよう。
光姫
「"開かずの扉"……職員室のあの扉ですね。あそこはSHOの機密書類の保管庫になっているんです」
あっさり教えてもらった。反交尾勢力のハッキングを受けて、本当にやばいデータは書類に残してあそこに保管しているという。SHOの人間でも限られた存在しか入ることができず、俺の予想通り社員証をかざすと開くらしい。
光姫
「折角だから一つとっておきの情報をあげちゃうわ。土口家についてなんだけど……」
光姫姉さん曰く、土口家には生まれながらにして『際限なき鍛錬による成長』と『凶悪な二面性』の体質がある。前者はどんな物事でも訓練すればできるようになってしまうというもので、幅広い分野に精通した土口家がいたという。しかし、後者を懸念されて盛大な粛清が行われ今では幻の一族とまで言われるようになった。
精
「なるほどなあ……俺や卵が滅茶苦茶強いのは血筋だったのか……」
確か桐香様や文乃ちゃんも特別な血筋から生まれたはずだ。常人から逸脱した才能は選ばれた血からしか出て来ない。その才能故に苦難に巡り合う、なんとも苦労する世の中だ。
精
「って、それ言って良いんですか? 機密情報じゃ……」
光姫
「これは精くんが"開かずの扉"に気が付いた時に決まって言っているの。ほら、精くんはよく忘れちゃうでしょ? だからこれだけは言って良いってことになっているの」
これぐらいの事だったら他言しても大した損害はないということか。言い方を変えれば外に出たらマジでやばい情報があの中にはあるということだ。何かに使えるかもしれない、覚えておこう。
昼頃、SHO本社ビルでデモが発生したの報告を受けて、私服のまま現場に急行する。文字通り全国にドスケベ条例を広めるUSDの第一歩であるドスケベ法に対してのデモだ。LGBTの観点やジェンダーレスについて議論を重ねるべきだと言っている。
デモの中心女性
「精を搾取するドスケベ仁浦は県知事を辞任しろ―!! 女性をAV女優のように扱うなー!! 日本をドスケベゼロの国にー!!」
ただ、どうも言いたいだけ感というか、間違った方向に話が進んでいる。ドスケベが悪で自分が正義だと言わんばかりだ。価値観は人それぞれあるが、それを強要することはあまりよろしくない。
ニノマエ
「どんな時代でも厄介だよねえ……善人になるために少数派を騙って優越感に浸る奴う……」
精
「少数派がどんな思いをしているかも知らずにやってるから質が悪い。少数派に対して一番偏見を持っているのは誰なんだろうな」
卵だったらあんなことは言わないだろう。あーしを認めろと、少数派を認めろと、ただそれを叫んで暴れるだろう。もっとも、本心ではないにせよSSに所属している以上、ああいう乱暴な手段はとらないだろう。
卵
「……おい、お前」
その女性の前に卵が立った。卵から見ればデモ側の女性はどちらかといえば味方のはずだが、どうも険悪な雰囲気が走る。
デモの中心女性
「近づかないで汚らわしい! 欲望のままに男と交わるなんて女性じゃないわ!」
よりにもよって最悪の展開だ。ほかのSSに言うのもマズいが、卵にだけはそれを言ってはいけない。次に卵が何をするのかが簡単に想像できる。
ニノマエ
「ちょ、ちょっと精くん!?」
ニノマエの制止を振り切って駆け出す。間に合え。
卵
「────二度とその口を開くんじゃねえ」
2人の間に割り込んで卵の拳を胸で受ける。来ると分かっていなければ確実に吹っ飛ばされていた衝撃が走る。これで普通の人の顔を殴ろうものなら、整形必須の傷が生じるだろう。
卵
「っ!? なんで庇うんだ────」
デモの中心女性
「まあ、なんて素敵な人でしょう! 人間はこうあるべきです! 野蛮に生きるのではなく誰かのために────」
精
「いい加減にしろよこのクソアマ……」
俺は振り返って女性の顔を睨みつける。
精
「相手がどんな人間なのかもわからないまま……手前の意見を言うだけ言って……理解しようともせず否定して拒絶して……そんなの手前が一番嫌っているこの青藍島の人間と同じだぞ……」
デモの中心女性
「な、なに……あなた何なの……!? 私は大学で男女平等について教えていて────」
精
「俺の名前は土口精、SHOの治安管理委員会特殊戦闘部のリーダーだ。そしてお前が罵っていたのは土口卵、俺の妹で同性愛者だ。アイツが欲望のままに男と交わった事は一度たりとも無い────謝ってもらおうか」
卵
「それができないなら二度とあーしたちの前に面を見せるんじゃねえ────殺すぞ」
俺と卵の圧にデモ隊は蜘蛛の子を散らしたように逃げて行った。
凛
「見てくださいよ水引さん! あんなに威勢よく啖呵を切っていたのに! 無様で惨めで最高ですね!」
秋野
「…………うん、そうだね……」
卵を見る水引ちゃんの目はほの字そのものだった。卵は見た目もいいし優しいし家事全般も出来て床上手の最高のパートナー候補だろう。いずれはアサちゃんも加わって三人で仲良く暮らしてくだろう。そしていつの日か子供もできて精伯父さんなんて呼ばれて────
卵
「悪い兄貴……そんなに痛かったか……?」
精
「次からはビンタにした方が良い……音の割に痛くないやり方があるから……」
こんな時にお前の幸せな未来を想像したから、なんて言ったら間違いなく場違いだろう。胸の奥にしまっておく。
帰りの船で"トリ公"の出現を聞いて卵と一緒に現場に向かう。兄妹で任務を行う日が来るとは思ってもいなかった。この世界に来て良かった。良かったに決まっている。叶うはずのない願いが叶ったのだから。
卵
「あーしに合わせてくれ。今のあーしじゃ兄貴に追い付けねえ」
精
「了解。1番隊のやり方は体に染みついているんでね……!」
卵の動きに合わせて"トリ公"の一員を追う。元の世界のNLNSと同じく、片桐、渡会先輩、畔がいる様だ。
精
「…………いや、違う! 卵! 狙撃手がいるから気を付けろ!」
卵
「っ、サンキュー兄貴!」
文乃ちゃんの狙撃を卵が躱す。どう見ても当たらない軌道だったのは卵が反交尾勢力の協力者だからだろうか。ともかく卵と一緒に"トリ公"を追う。しかし、T-E-Aと渡会先輩の椅子と岬のドラテク、さらに文乃ちゃんの狙撃の前に巻かれてしまった。仕方がないと卵と2人で山中の倒木に腰掛ける。
精
「治安管理委員会特殊戦闘部のリーダーと『反逆の緑髪』から逃げ仰せるとは……なんてわざとらしいか?」
卵
「…………やっぱり兄貴には気付かれちまうか」
卵は諦めたようにハアと息を吐き出す。
卵
「……あーしは反交尾勢力と通じている」
やはり、卵もかつての俺と同じようだ。だが、俺としては一切咎めるつもりはない。それよりも続きを言いたそうな卵に話を促す。
卵
「だから……あーしに隠し事をしないでくれ、兄貴……いや、
俺はこの世界の俺のことを知らず、手掛かりもほとんどなかったから差異があったはずだ。ニノマエや光姫姉さんはともかく、卵ならいつの日にかはバレると思っていた。
精
「ああ……俺はお前の兄貴じゃない」
だから包み隠さず白状する。これで卵から否定されても何も言うつもりはない。俺は俺のために『やりたいようにやった』。だから卵の『やりたいようにやれ』と尊重する。でも、一緒にいたいと言ってほしい。
卵
「…………あーしは兄貴と一緒にいたい」
精
「…………いいのか?」
俺の望んだ通りの言葉が返ってきた。思わず聞き返してしまった。
卵
「記憶障害の兄貴が嫌だからとか、今の優しい兄貴が良いからとかじゃねえ。あーしが兄貴だと思ったから兄貴なんだ。誰が何と言おうと兄貴は兄貴なんだ。だから兄貴と一緒にいたい」
その言葉を聞いて手で顔を覆う。どうしようもなく涙が出てきて止められなくなったからだ。
卵
「…………ぶっちゃけて言うと、BIG4から聞いてたんだけどな」
そんなことどうだっていい。
卵
「…………これからはあーしの傍にいてほしいんだ。光姫さんやニノマエには何とかうまいこと言ってさ、昔みたいに……兄貴と一緒にいたいんだ……」
精
「わかった……! 絶対に何とかしてみせる……!」
断るわけがない。卵と一緒にいるために礼先輩を捨てられたんだ。良く知らない配偶者も監視役もどうにかしてやる。そしてまた卵と一緒に暮らすんだ。