※この作品はR-18です。

東方二次創作劇場「月と太陽」 - 月の章 -   作:俄かさん。

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永琳と紫の激闘後、姫君と巫女の痛み分けが幻想郷の絆を繋ぐ。


【 追憶 】 迷いの竹林「さいはて」 - 東方永夜抄 - より

月は相も変わらず移ろい、満ち欠けを繰り返し、やがて昇る太陽と入れ替わるように地平線の彼方へと没していく。

そのことわりに異を唱え、「いつわりの望月」によって「永遠(とわ)の夜」を生み出し、幻想郷の朝を奪った「つわもの」どもがいた。

 

されどそのつわものどもも、今はまさに「夢の跡」。

 

迷いの竹林、その「さいはて」。

 

白石の敷き詰められただだっ広い見事な枯山水の「庭園」も、もはやその思影すらなく。

大粒の雹が一度に大量に降り注いだかのような無数の弾痕が庭一面に穿たれ、すっかり焼け焦げた落葉松は今も尚、燻り続ける。

しかしそれは、それまでここで繰り広げられていた「激闘」を思わせるその名残の「ほんの一部」でしかない。

 

見るも無残に荒れ果てた庭園の中央、すり鉢状に陥没した巨大なクレーター。

その底で大の字に転がる「不死身の不良娘」。

その不良娘の道連れになるかたちでそれに巻き込まれた「幼女な獣人」。

 

その現場を目の当たりにし、一目散に「脱兎のごとく」藪の中へと逃げ込む「地兎の少女」。

地兎の少女にしてみればこの案件はまさしく「とばっちり」。ここでトンズラしても誰にも責められたりはしないだろう。

 

庭園を一望するに都合のよい「縁側」。

その縁側にて柱に背を預け、仲睦まじく手を繋ぎながら互いに寄り添うように微睡む金髪の「魔法使い」と「人形使い」の少女二人。

何度被弾しても「倒れなかった」この迷いの竹林の「番犬」二匹を前に、持てる魔力をすべて「使い切った」二人がそこから回復するのには、まだしばらく時間を要するようである。

 

そんな二人の少女の眠る縁側から飛び込む、ほぼ半壊状態の「どこか真新しくもどこか古めかしい」広大なる屋敷内。

「無限回廊」を思わせるような果てなく続く板張りの長い長い廊下を抜けた先の最奥にある「大広間」の手前。

踏み荒らされた板張りの床の上にひっくり返り、左の脇腹を抑えて小刻みに悶える「月兎の娘」。

プライドの高い月兎の娘にとって、その「敗北」はまさしく「信じがたい」モノであった。

 

そんな月兎の「魔眼」を「瞑目」で躱し、「峰打ち」ではあるが横薙ぎに振り抜く一刀一閃で仕留めた「半人半霊の少女」。

容赦なく月兎の指先から放たれる、さながら暴風雨のような「魔弾の洗礼」すら浴び続けてもそれに怯まず、床深くめり込むほどに力強く踏み込んだ左足が、その少女の「思いの強さ」を如実に物語る。

されど抜き身の刀を鞘に収めることもままならず、頑なに閉じられた双眸すら開けることなくその姿勢のままで「尽き果てて」いた。

ややあってその小さな身体が揺らぎ、糸の切れた人形のように倒れていくのを慌てて抱き支える「亡霊女」。

「まだ生きている」と腕の中で眠る少女の愛らしい寝顔を前に安堵しながら亡霊女は、蹴破られた襖の向こう、不気味なまでに静まり返った大広間へと思いを馳せるのだった。

 

「……ッ」

 

この「屋内」において本来ならば決して直に感じられるはずのない月明かりを受け、小さく瞼を震わせながら「蓬莱の薬師」なる女はゆっくりと双眸を開いていく。

その身体はまるで自らのものではないかのように自由が利かず、指一本とて満足に動かすことすらままならない。

ただ呆けたように遥かなる天井に穿たれた大穴から見える「半円の月」を見上げ、そしてその光景と「満身創痍」の自身のありさまからそれとなくすべてを察した薬師は、それでもその無情なる現実を拒絶するように左手の甲で顔を覆うのだ。

 

決して赦されざる「大罪」を犯し、「月の都」を追放されし「月の姫君」。

それに付き従うかたちでこの地に落ち延びた薬師。

その途方もなく永い刑期を終えても尚、都に帰還することを拒み、この地に留まることを選んだ姫君を都からの追手から護るために拵えた「いつわりの望月」。

その月が空にある限り、姫君の安寧は永遠に護られる、はずであった。

しかしそれは思わぬかたちで破綻したのだ。

 

さながら季節外れの大型台風のごとく何の前触れもなく突然と押し寄せた「人と妖のつがいの群れ」。

いつまでも明けぬ夜に痺れを切らした彼らを迎撃すべくこの屋敷で臨んだ「一大決戦」の勝敗の行方は。

 

「どうやら私たちの『負け』のようね。……認めたくないけど」

「いいえ、そんなことはないわ」

 

ふと漏れた呟きは誰かしらに向けたものではない。

けれどそれは思わぬ方向からその答えが返ってきた。それにはっとなり、薬師は翳していた左手を外して、顔だけを上げてその声がした方へと目線を投げかける。その目線の先には、ひび割れた壁に凭れ掛かる「スキマ妖怪」なる女がいた。

 

「……そもそも、まだ終わってなどいないから」

 

スキマ妖怪が指し示す大穴越しに覗く夜空の遥か彼方、対峙する「二人」。その二人は、いうまでもなく。

二人の存在を把握した薬師は慌てて跳ね起きる。

 

 

「  終  言  ・  蓬  莱  の  樹  海  」

「  終  言  ・  夢  想  天  生  」

 

 

「っ!ひめさまっ!!」

 

薬師がたまらずそう叫んだ瞬間、爆ぜんばかりの轟音が轟き、眩いばかりの閃光が空一面を埋め尽くす。

その閃光が晴れるころ、真っ逆さまに墜落していくのは、「博麗の巫女」。

それを間一髪で抱きとめ、金色の燐光伴いながらゆっくりと薬師らのいる大広間へと降り立つ「月の姫君」。

 

「姫様、ご無事で?……?姫、様?」

 

薬師の問いかけに答える代わり、姫君はうっすらと微笑んで見せる。

それと同時に腕の中に抱きとめた博麗の巫女もろとも、仰向けにひっくり返っていった。

 

「あーあ、これじゃ、どっちが勝ったのか負けたのかぜんぜんわかんないわね。二人仲良く『痛み分け』ってところかしら?」

 

文字通り「燃え尽きた」二人の様子をしげりと眺め、やれやれと嘆息交じりにぼやくスキマ妖怪は、そのままずるずるとその場にへたり込む。そんな女を睥睨しながら、倒れた姫君の傍らに寄り添いつつチッと薬師は舌打ちする。

 

「いずれにせよ此方の術式が破られたことに変わりない。私が倒れた時点で私たちの負けよ、不本意ながらね」

「……あら、ずいぶんと殊勝なのね?」

「そうなったのも貴女らが『三対一』で挑んでくるからよ、この卑怯者。貴女には恥という概念がないのかしら?」

「あらあら、昔から『戦いは数』だって言うじゃない?というか、三人がかりでやっと倒せたあなたの方こそ、どんだけ強いんだか」

 

そんな「年増女」二人の会話に正座をしながらじっと耳を傾ける「瀟洒で今はボロボロのメイド」。その膝元には彼女が仕える「吸血少女」が安らかに眠っていた。静かに寝息をたてる主人の頭を、メイドは慈しむようにそっと撫で上げる。

 

「ああ。しかし、どうしてくれるのよ。これで何もかもご破算。姫様の御身の安全だってこれじゃ保証できやしない」

 

何にせよ、これで何もかも台無しになった。せっかくの「偽装工作」が破られた今、いつ何時都からの追手が来るか分かりもしない。

その時の状況次第ではいくら私でも、と両膝をつき頭を抱えて悲嘆に暮れる薬師をスキマ妖怪は優し気に見つめる。

 

「それは大丈夫よ。この幻想郷に来た時点で、既にあなたたちの安全は保証されたようなものだから」

「……??それはどういう意味なわけ?下手な慰めついでの口から出まかせのつもりなら、それこそ止して頂戴?」

「あら、わたしは生まれてこのかた、嘘をついた覚えはないわ。とにもかくも、そういう『仕組み』なの。納得してもらえると嬉しいけど」

「なによ、その何もかも知ったかのような言いぐさ。正直、嫌いよ。貴女みたいな『胡散臭い』女は」

「あらぁ、それはざんねん。わたし、あなたとお友達になれると思ったのに?」

「は?貴女と私がお友達?ふざけんじゃないわよ、そんなのこっちから願い下げ!」

 

「なによ」「何よ」と弾幕勝負の次は口を使った果てなき「延長戦」に雪崩れ込んでいく年増女ども。

そんな喧騒を前にうっすらと目を開ける吸血少女。傍らの従者と顔を合わせては、小さく笑い合う。

 

「まぁ、でも」

 

ひとしきり他愛のない「痴話げんか」をやり終えたところで、スキマ妖怪は「あの二人」をしげりと眺める。

それにつられ、薬師も思い出したかのようにそちらへと目線を移していく。

 

「見なさいよ、あの幸せそうな寝顔。おまけに二人仲良く抱き合って?さっきまでやり合ってた敵同士とはまるで思えないわ」

「……そうね、確かに」

 

ここで珍しく意見が合う二人。

そんな二人がまたこの地で再会するのは、それなりの月日が流れてからのことだった……。

 

 

 

 

 

 

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