東方二次創作劇場「月と太陽」 - 月の章 - 作:俄かさん。
正暦2年(991年)、神無月(10月)。
「鶯の啼く都」の片隅にあるとある菩提寺にて、早朝より「とある男」の葬儀がしめやかに執り行われていた。
既に納棺は終えられ本殿に安置される中、最後のお別れをするために弔問に訪れた参列客は皆一様に鈍色の喪服に身を包み、そう広くもない境内を埋め尽くすほどの長い行列を連ねていた。
本殿にて僧侶の唱える念仏。鳴り響く木魚の音色。立ち昇る線香の煙。揺らめく蝋燭の炎。そしていつからか降り始めた氷雨。その氷雨に打たれながら、その参列客の列に交じる一人のひときわ背の高い娘。
その娘の名は「藤原妹紅」。
やがてこの葬儀が終われば「火葬」され、その遺骨は裏にある墓に埋葬されるであろうその男とその娘との間には「並々ならぬ因縁」があった。
その因縁とは「捨てた男」と「捨てられた女」という、実に穏やかではないモノ。
双方の親を交えての見合いから始まり、縁組を経て結納、果ては挙式の日取りまで決まろうかとした矢先、その男はその土壇場になって文字通りこの娘を「裏切り」、そして「捨てた」。
そしてあろうことか「他所の女」に求婚を迫り、その挙句の果てにはその女にすら「捨てられ」、勝手に「首を吊って死んだ」。
その一連の顛末を今更のように思い起こした妹紅はギリッと歯ぎしりをし、憎々し気に南東にある「里山」の方を睨み上げる。
いつのころからかこの都に広まり始めた、その里山深くに構える「庵」に住まう「絶世の美女なる姫君」の噂。
その見目は大変美しくも麗しく、その風貌はまさに天界から舞い降りた天女をも思わせるほど。
そしてその暮らしぶりはまさしく隠者そのもので、その傍らには一人の従者と一人の「兎耳の」番兵を侍らせるのみ。
そう、いうまでもなく「その女」こそが、このすべての。
やがてその噂を聞きつけ、その姫君を娶ろうとさながらゴキブリのように群がり始める数多の男ども。
そんな害虫どもの悉くを「駆除せしめる」ようにその美女が課した、この現世(うつしよ)においては到底適えられぬ「難題」。
その難題を前に誰しもが果敢かつ無謀にも挑戦し、そしてすべからく失敗し、一人残らず文字通り「尽き果てて」いった。
そして「あの男」もその難題に挑み、同じ轍を踏んだ一人でもあった。
その男が課せられた「難題」とは。
「この世の何処かにある『蓬莱の玉の枝』を献上せよ。検分の上それがまごうことなき『本物』であるならば、汝の望みを叶えよう」
この難題に対し男は姑息にも持てるコネと財産のすべてを費やし、腕利きの鍛冶屋を雇いてそれを「創作」せしめた。
そしてその謁見の場においては、これみよがしにそれを入手するまでの苦労話をでっち上げ、得意げにそれを姫君へと献上せしめる。
そのあまりの完成度の高さを前に不安気に従者と番兵が見守る中で、それを受け取った姫君は男の目の前でそれを即座に「叩き壊した」。
床に勢いよく叩きつけられるなり、音を立てて壊れ、無残に砕け散るそれ。
まごうことなき「贋作」を宛がわれた姫君の男に対して向けられた「蔑み」と「憐み」の入り混じったその目線。
それらを目の当たりにした男は、ぷつりと自分の中で何かが切れていくのを悟ったのだった。
「捨てられた女」、妹紅にしてみればそんな男の末路など正直どうでもよかった。
むしろ男に対して今抱く心境はまさに「ざまあみろ」であり「おっ死んでせいせいした」の域である。
そんなもはや今となっては「どうでもいい男」の葬儀にわざわざ赴いたのは、「とある目的」を果たすためであった。だがそれも限りある生涯において、一度か二度起こればそれでよしとする「偶然」という不確定要素が多分にも含まれていた。
しかしそれでも、妹紅にとってみればその目的を果たすためにはこの機会を除いて他になかった。
やがて行列が進み、いざ自分が弔問台の前に立って几帳の後焼香をするそのタイミングでその偶然は「起きた」。
今更ながらのように現れた、その「三人の女」ども。
弔問を終えても尚、未だその場に留まり続ける数多の参列客がひしめく中で、その女どもをめざとく見つけた妹紅はか細く煙る焼香の壺をひったくるや、そのまま男の眠る棺めがけ本殿へと勢いよく投げ入れる。それと同時にその大柄な体躯を活かし邪魔な人波を強引に押し分け掻き分けながら、迷うことなくその女どもの面前へと躍り出るのだ。
突然の妹紅の出現を前に、狼狽える従者と番兵。その只中においても特段驚いた様子を見せぬ「あの女」。それはいうまでもなく。
その女のどこか涼しげな目線と憎悪に満ち満ちた妹紅の目線が交錯した瞬間、妹紅は番兵の腰元に差されていた太刀を引ったくり、その抜身の刃でその女を真正面から一刀の元に斬り伏せる。
それはあまりにも突然であまりにも鮮やかで太刀を奪われた番兵すら、まともに反応すらできないほどであった。
迸る紅の血飛沫。
その返り血をその身に浴びながら妹紅は喜悦に醜くその顔を歪ませ、ぐらりと仰向けに倒れていく女を見た。
だが。
「……なんでだよ、おまえ。なんで『死なない』んだよ?『死ねよ』。死ねよ、死ねよっ!!」
「ごめん。ごめんね。……あなたのために『死ねなくて』ごめんね」
力なくその背を従者に支えられ、驚愕する妹紅を悲しげに見つめながら詫びる女。
その眼差しはまるで、最初からこうなることを予見していたかのようだ。
そしてあろうことか、普通なら「即死レベル」のその傷がみるみるうちに塞がり、やがて跡形もなく消えてなくなっていく。
そんな信じがたい光景を目の当たりにし、半狂乱になった妹紅は返す刃で再び斬りつけようとするが、それを番兵に取り押さえられ、奪ったその刀すら叩き落とされる。
「ちくしょうっ、ふざけやがって!!」
にわかに騒然となるその現場。どこからともなくそこに集まりだす数多の人影。
もはや本懐を果たすことが適わなくなった妹紅はそれでも番兵を払いのけ、懐に忍ばせていた懐剣で自らの左胸を貫いた。
この女を殺せぬのなら自ら死して怨霊となりて『永遠に呪ってやる』。
しかし、それすら、も。
「……ないで。『死なないで』」
「 わ た し の た め な ん か で 死 な な い で 」
薄れゆく意識の中で最期に妹紅が耳にしたその言葉。
そして掠れつつある視界の中で目にしたのは、「殺そうとした」自分の死を嘆くその女の悲嘆極まった「泣き顔」だった。
それから月日が流れた。
しんしんと雪が降り積もる師走(12月)。
凍えるような寒さの中で妹紅が目覚めたのは「あの世」ではなく、あの三人の女どもが住んでいた「庵」の中だった。
誰ひとりとて居ないその屋内で、むくりと起き上がった妹紅は、傍らの化粧台の鏡に映る自分の顔を見て愕然となる。
艶やかなる自慢の黒髪は、今や完全に色素が抜けて見るも無残なまでの白髪に成り果て。
それに狼狽え、よろめいた拍子に左手に触れる「空の薬瓶」。それは、いうまでもなく。
そしてはっとなり、鏡越しに自らの胸元を見てまたさらに動揺する。
「……傷が」
そこで目ざとく見つける枕元に置かれてあった懐剣。
その刃を引き抜いて左手首を切りつける。
「死なない」
今度は喉を突く。また胸を突く。そのうち所かまわず思いつく限りの個所を突きまくる。
そうして景気よくザクザクと何度も何度も自傷行為を繰り返した挙句、自ら流した血の沼に沈んでいく。
「やっぱり『死ねない』」
そこから思い出したかのように起き上がれば、その数多の傷がみるみるうちに塞がって消えていくのを感じ取る。
それから何とはなしに拾い上げた空の薬瓶を見るなり、妹紅はあの女が自身にしでかした「所業」を悟る。
弾かれたように手にしたそれを妹紅は勢いよくその場で「叩き割る」。
「あの女っ、よくも!!」
手にしていた血塗れの懐剣すら放り捨て、自らは望まぬかたちで「不死」となった妹紅はあらん限りの大声で叫ぶ。
その怨嗟の籠りに籠った叫びに対して、答える者はそこには居ない。
ひとしきりすっかり白くなった髪を掻きむしった後で、今更ながらに気付く化粧台の上の「封筒」。
「………………」
その封筒を手に取り、封を破って中身の手紙を取り出す妹紅。
それはあろうことか、あの女が直々にしたためた妹紅に対しての「詫び状」だった。
端的にその内容を要約すれば、次のようになるだろう。
あの女、「蓬莱山輝夜」なる女のまるで夢幻のような「出自」とここに至るまでの「経緯」。
最初からあの男と妹紅との因縁を知っていたこと。
あのとき「蓬莱の玉の枝」を男の前で叩き壊したのはそれが「贋作」であったからではなく、自分よりも「大切な人」のことを思い出してほしかったからであること。
そして願わくば、その大切な人とよりを戻しその人とともに末永く幸せに暮らして欲しかったこと。
それが適わくなった今、自分という「つまらない存在」のために死んでほしくなかったということ。
「くそっ、あの女、輝夜め。……ん?」
いろいろな感情が複雑に入り混じる中、それをひとしきり読み進めた妹紅は最後の『結び』に気付く。
『 桜 咲 く 西 の 果 て の 社 で あ な た を 待 っ て い る 』
その結びを読み終えた直後、妹紅はその手紙を苛立ち交じりに破り捨てる。
それからドタバタとせわしなく庵の中を駆け回り、そこらにあった「残り物」で支度を済ませるや、勢いよく戸を開けていつの間にやら吹き荒ぶ吹雪の中へと躍り出ていくのであった。
そこから始まる、当てのない「一人旅」。
その一人旅はまさしく修験者さながらの行脚。その歩みを進めるたび、いつしかあの女への憎しみすら薄れていく。
そしてその旅路は決して生温いものではなく、それこそまさに「苦行」の一言に尽きるものではあったが。
そして年は変わって正暦3年(992年)、葉月(8月)。
そんな果てしない旅路の中で、迂闊にも方角を誤り迷い込んだ「不二の山」の樹海にて。
「ああ、なんだおまえ?」
「……捨て子。『忌み子』だから捨てられた」
望月の光が朧げに照らし、白骨があちこちに散乱するその樹海の中で、ぐったりとうつ伏せに横たわる幼子の傍らにそっと寄り添う妹紅。
その幼子はまさしく「鬼子」そのもので、頭からは一対の角が突き出ている。
しかしそれに留まらず、その幼子の尻部からはふさふさの白く長い尻尾が生えていた。
いずれにせよ、速やかな処置を行わねばすぐにでも死んでしまいそうなほど、その幼子は衰弱しきっていた。
「変わった奴。……で、名前は?名前ぐらいあるだろ」
「けい、ね」
「けいね、ね、ふーん?」
名前だけ聞いて「満足した」妹紅は、立ち上がり様に身を翻し今にもその場から立ち去ろうとする。
それを幼子は残り僅かな力を振り絞り、衣裾を掴んで妹紅をその場に繫ぎ止める。
怪訝な顔をして肩越しに振り返る妹紅。
「まって。いかないで」
「 ま だ 生 き た い 。 死 に た く な い 」
顔だけを上げ、大粒の涙を流しながら助けを求めるけいね。
そんな幼子のありさまを淡々と眺めていた妹紅は、すっかり忘れていた「何か」を思い出した。
それはまぎれもなく、「生への執着」。
「ったく。しょうがねぇな」
根負けしたかのように妹紅は悪態をつくや、振り返って再び幼子の傍らに屈み込んでそっと抱き上げてやる。
がりがりにやせ細ったその小さな身体は、妹紅が思っていたよりも「軽すぎた」。
それから甲斐甲斐しく膝の上に仰向けに寝かせ、そっと半身を抱き起こしがてらなけなしの竹筒の水と咀嚼した干飯を粥代わりに口移しで与えていく。
「死にたくねぇってんなら、『拾ってやる』よ。『番犬』代わりになるだろうし」
「あ、ありがとう。……なまえ、おしえて」
「妹紅。藤原妹紅」
「もこう。……もこう。もこうっ」
久方ぶりの食事を与えられ、ほんの少しばかり元気を取り戻したけいねは、しきりに覚えたての彼女の名を呼びかける。
「んだよ。何度も呼びかけんなよ。鬱陶しいだろ」
「もこう、だいすきっ」
尻尾を振りたくりながら、にぱあっと満面の笑みを浮かべながら告白をするけいね。
その「愛の告白」を生まれて初めて耳にした妹紅は、不覚にも年甲斐もなく顔を赤らめてしまうのだった。
そうして始まる「二人旅」。
その夜の容姿にちなんで妹紅によって「上白沢慧音」という名前を与えられたその幼子は、「昼」に限ってはいつの間にやら覚えた「仙術」でたびたび「年頃の娘」に化けては、大いに妹紅を惑わせるようになっていく。
そして「満月の夜」に限っては、それこそ「頼もしい番犬」として妹紅を逞しくも健気に護り続けた。
そこからまた「二年」の月日が流れて。
正暦5年(994年)、睦月(4月)。
「もういつまでも此処にも留まっていられないわ。いい加減『あの娘』のことは諦めなさいな」
「ごめんね、永琳。だけど。せめて、もう今年の間だけでも待ってあげて」
桜の花びら舞い散る中、遠目に海の見える「銅鳥居」の下で佇む永琳と輝夜。
三年の歳月が流れても今尚もにこの地に留まり続けようとする輝夜を呆れたように永琳は見つめる。
「ここの住民どもだって、私たちを胡散臭がってる。どこに行ったって私たちは結局は『よそもの』なのよ」
「わかってる。わかってるわよ。だけど、だけど」
「私たちは『この星の人間』と関わってはいけない。関わればどうなるか、その身体で思い知ったはずでしょ?」
「永琳、でも……」
そんな二人のやり取りを遠目で眺めながら物々しい甲冑姿で周りを警戒していたイナバは、ぴくっと兎耳を真っ直ぐに立ててみせる。
「輝夜さま、永琳さま。何者かがこっちの方に向かってきます。しかもその足音、ふたつ」
そう二人に警告を発するなり、イナバは二人の前に立って携えていた薙刀を構える。
その切っ先の示す向こう、「松の参道」からやって来るのは。
それは、紛れもなく。
「よう輝夜。よーやく追いついたぜ。だいぶ回り道しちまったけどな」
「久しぶりね、妹紅。それにこの子は?」
「慧音だ。不二の樹海で拾ってきた。……んなことよりも」
桜色の着物を着た青髪のおかっぱ頭の幼子の手を引きつつ、妹紅は怨嗟の表情浮かべ番兵に構うことなく輝夜に詰め寄る。
それはどこからどう見ても、「感動の再会」には見えない。
「輝夜さま、お下がりを」
「大丈夫よ、うどんちゃん」
またあのときの「惨劇」を起こすつもりかとイナバは妹紅を突き放そうとするが、輝夜はそれを制する。
ハラハラとする永琳を横目に、迷うことなく妹紅は輝夜の胸倉を引っ掴む。
「よりにもよって勝手にアタシを『不老不死』にしやがって。それになんだっ、あの『詫び状』。いまさら偽善者気取りかよ。ふざけんな」
「それは、ごめんね。『一度死んだ』あなたを生き返らせるのには、そうするしかなかったの。だから、ほんとうにごめん」
「ごめんごめんで済む問題か。……アタシのことは『もう』どうでもいい。だけどこいつは」
そう一気に捲し立てたところで、ちらりと妹紅はきょとんとした顔をする慧音を見遣る。
その目線につられ、輝夜もまた慧音を見つめる。
「その子がいったいどうしたの?」
「うるせぇ。こいつ、餓死寸前のところを『口移し』で餌付けしたら、『不死』とはいかないまでも『不老』になっちまった。おかげでこいつ、ずっとこの『ナリのまま』だ。このオトシマエはどうつけてくれる?」
「そ、そんなこと言われても」
「……呆れた。まさかあの霊薬にそんな『副作用』があったなんて」
「あぁ゙、そこの薬師。おまえがそもそもの『主犯』か。薬師ならさっさと『解毒薬』寄こしやがれ」
「そんな都合のいいモノ持ってるわけないじゃない。だいいちその肝心の霊薬すら、その製法自体ももう覚えてないわ」
「なんだと、このヤブ医者っ!!」
「な、なんですって!?誰がヤブ医者よ!!!!」
「きさまっ、輝夜さまのみならず、永琳さまにまでなんたる無礼をっ!」
瞬く間に「修羅場」と化したその現場を前に、一人ぽつんと妹紅に手を繋がれるままに立ち尽くす慧音。
そんな大人三人の織り成す大乱闘とそれを止めようとする一匹をひとしきり眺めた後で、ひときわ甲高い声で「だめっ」と大きく叫ぶ。
そのあまりの大きな声に、妹紅はもちろん、他の面々も驚いたようにぱたっとその場で動きを止めてしまう。
「けんかよくない。みんななかよくする。それに、それに」
「ずっとずっと妹紅といっしょにいられる。だから、慧音、しあわせ」
その小さな身体から発したとは到底思えない声量で一同を「一喝せしめた」慧音は、ぷくぅっと頬を膨らませた後に、にぱぁっと嬉しそうに微笑むのだ。それを聞いて「かああ」と顔を赤くさせる妹紅。そっと胸倉を掴んでいたその手を除けながら、輝夜は口元に手を添えて楽しそうに笑いだす。
「お似合いじゃない、あなたたち。そのままずっと一緒にくっついちゃいなさい」
「な、ななな、なんだとっ」
「それにどうせあなたたちも行く当てがないのでしょ。ならわたしたちと一緒に旅をしましょう。わたしも楽しい道連れが増えてとても嬉しいわ」
「だ、だれがおまえらなんかと」
赤ら顔のままの妹紅を楽しげに見つめながら、ほら、と輝夜は彼方に見える「海」を指し示す。
「こんどは海を渡ってみましょう。その先には何があるのか、そう思うだけで、とてもわくわくしない?」
そこから舟で海を渡って辿り着いた「新天地」。
その新天地にて「四十八か所巡り」をしていた一行は、図らずして「境界」を乗り越え知らぬ間にとある「竹林」に迷い込んだ。
「……ここはどこかしら」
「さあね。あの世ではないことは確かだけど」
白い霧の立ち込める竹林の只中で先頭を歩く輝夜と永琳は、互いの顔を見合わせながら途方に暮れる。
するとそこに、どこからともなく「ぴょんぴょん」と跳ねながら二人の前に現れたのは。
「やあ、キミたち、どうしたの?迷子にでもなっちゃった?」
「そうね、迷子のようなものね。……帰る場所もないけど。そういう、あなたは?」
「『てゐ』だよ。よろしくね?」
やおら腰を屈めてその愛らしい「地兎の少女」の問いかけに困ったように笑いながら輝夜は答える。
それを聞いた少女は、ふぅんと小さく嘆息を漏らしがてら個性豊かな面々を一様に眺めていく。
「帰るところがないのはたいへんだね。ここはボクらの『縄張り』だけど、よければここに住んでいいよ」
頭のうしろで両手を組みつつ、てゐはにんまりと笑みを浮かべながらそう提案する。
それを聞いた永琳は、何もない殺風景なその光景を前にやれやれと大仰に肩を竦める。
「住むにしたって、まずは『家』を作らないと。この大所帯、それこそ広い『屋敷』がいるわ。どうやって作るのよ?」
「それには及ばないよ。流石に無から作るコトはできないけど、『図面』さえしっかり用意してくれれば」
そんな永琳の懸念を払うように得意げにそう告げるてゐは、ぱちんと指を鳴らしてみせる。
それを合図に、竹林のあちこちから一斉にたくさんの「モブ兎」どもが顔を出す。
「おうちはボクらが作ってあげる。争いごとは勘弁だけど、それさえ守ってくれればずっとここに住んでいいからね」
同年、文月(7月)。
奇しくもまた七夕の夜に偶然にも「幻想郷入り」を果たした一行は、こうして長い長い旅路の果てにこの「迷いの竹林」にて「安住の地」を得たのだった……。