東方二次創作劇場「月と太陽」 - 月の章 - 作:俄かさん。
「突然と」空は何の前触れもなく「深淵の闇」に包まれた。
そしてまた「突然と」空は「穏やかな秋の日差しが降り注ぐ澄み渡った青空」へと戻った。
それは「刹那の間のできごと」であったとはいえ、かつての「永夜の異変」をも思わせる。
現在(いま)から遡ること「二か月前」、文月(7月)の「七夕の夜」に突然と発生した「その異変」。
その「異変」の発端の場となった「永遠亭」にまたこの舞台は「返り咲く」。
「ほら、そんなに慌てて食べなくてもいいのよ。それにちょっと固くなってるからしっかりと良く噛んでね。でないと『つっかえちゃう』わよ」
「う、うん(もぐもぐっ)っ!!……んぐぐぐぐぐぅう!!」
「ああ、言ったそばから。もう、しょうがないコね?(そっと背中をとんとんっ)」
広大に開けた「あの」枯山水の庭園を埋め尽くすほどに、所狭しと並べられた物干し竿に干された大量の洗濯物。
それらが秋風に吹かれたなびく中で、縁側に座る二人の少女。
一人は「いうまでもなく」、「月よりの姫君」こと「蓬莱山輝夜」。
そして、もう一人は。
「ぷはぁっ、し、しぬかと思ったぁ。おねえさん、ありがとう。おねえさんのおかげでたすかったよぅ」
「それはなによりね。……でも、正直びっくりしたわ。だって、あなた、『いきなり空から落ちてくる』もの」
「だってぇ、急に『お空が暗くなる』なんて知らなかったもん。それでびっくりして、そのまま『ひゅーん』って」
輝夜は困ったように笑いながら、あまりの勢いで掻きこんだせいでせわしなく咽せ込んだその少女の背を優しく叩き、落ち着いた頃合いで竹筒の水を与えていく。その水を飲んだ少女はようやく落ち着きを取り戻し、あのときの状況を説明するのだ。
「光」から「闇へ」。そしてまた「闇」から「光」へ。
ちょうどその切り替わりのタイミングと同じくして、唐突に「空から落ちてきた」その少女。
たまたまここで洗濯物を干していた輝夜は、その光景を「偶然にも」目の当たりにし、「唯一空いていた」この庭園のど真ん中にある「クレーター」めがけ真っ逆さまに墜落してきたその少女を介抱しがてら、「ゆうべのうち」にこっそりとくすねていた「月見団子」を与えていたのだった。
そう、それこそが、「真のラストワン」。
「ほんと、おねえさんってやさしいんだね。でも、わちしと関わると『もれなく不幸になる』って知ってた?」
「……それは『はじめて』知ったわ。だけど知ってもいなくてもそれは関係なく、わたしは自分の行いを変えるつもりなどないわ」
突然のその少女の「不穏極まりない告白」を受けても、輝夜はまるで動じない。
動じないどころか、さもそれが「あたりまえ」のように満面の笑みを浮かべながら「己が信念」を告げてみせる。
そのまるで「聖母のような優しい笑み」を目の当たりにした少女は、「柄にもなく」その頬を赤らめ、そっと俯いては膝の上で両手を組みがてら所在投げに両足をぶらぶらと揺らしてみせるのだ。
「ねぇ、おねえさん。……なまえ、聞いてもいい?」
「輝夜よ。蓬莱山輝夜。あなたは?」
「雛。『鍵山雛(かぎやま・ひな)』。……、あ、いっけないっ!わちし、『おともだち』待たせてるの忘れてたっ!!」
「あら、それはたいへん。すぐに行ってあげて?」
「う、うん、行ってくるっ!……『またね』、かぐや?」
ここで「忘れてはいけないこと」を唐突に思い出した雛という名の少女は、慌てて庭へと飛び降りて「天高く」舞い上がっていく。
その少女が向かうその果て、「遥か高み」にて心配そうに彼女の帰還を待ちわびる「三人の姉妹」。
そんな三姉妹の手には、それぞれ「ヴァイオリン」、「フルート」、「アコーディオン」が握られている。
彼女らは無事にその少女と合流を果たし再会を喜び合ったところで、何かを示し合わせたかのようにその少女とともに「彼方へと」飛び去っていく。
そんな光景を縁側から静かに庭へと下りて、薄い笑みを浮かべながら遠目で輝夜が眺めていると。
「おう、輝夜。んなとこにいたのか。探したぞ」
「……あ、妹紅。どうかしたの?」
「どうもこうもねえよ。今『何時』だと思ってんだ?昼飯だぞ昼飯っ!もう慧音も授業やり終えて『飛んで』帰ってきてる」
「え、うそ、もうそんな時間だったの?……妹紅、ごめんなさい、わたしすっかり手伝うの忘れてたわ」
長袖の白シャツを肘まで袖まくり、だぼついた朱色のサロペットといったいつもの服装の上に、ゆったりとした白の「割烹着」を着込んだ「不死身の不良娘」こと「藤原妹紅」は頭にかぶっていた白の「三角巾」を外しがてら、待てど暮らせど一向に戻ってこない輝夜をこうして呼びに来た次第。そしてあまりにも急いでいたものだから、汁物を掬うための「柄杓」すらそのままそっくりと右手に握られていたりする。
そんな妹紅のありさまを目の当たりにした輝夜は、心底申し訳なさそうな顔を浮かべ平謝りする。
それをふんっと鼻を鳴らし、妹紅は「いつも謝ってばかり」のこの娘の頭を「わしゃわしゃ」と手荒に撫でまくる。
「おまえはさっきまで洗濯してたんだろ。飯炊きなんざ他のやつらに手伝わせときゃいい。あのバカ兎二匹どもとか」
「え、ああ、そ、そうか。『てゐ』も『うどんちゃん』もいたんだ」
「ま、そんなところだ。に、しちゃ、今朝は朝飯も食わずに、ずいぶん懇々と『あいつ』と話し込んでいたみてぇだな?」
「ええ。そうね。気づいたらもうけっこうな時間が経ってたわ、そこから慌ててお洗濯しに行ったんだけど」
そこまで告げたところで、どこか気遣うように妹紅の身体中の至る所を改めたように見回す輝夜。
そんな輝夜の仕草を前に、「お、なんだ?」と妹紅はしきりに怪訝そうな顔を浮かべる。
「……今日はまだ『発作』は起きてないのね。『くすり』はちゃんと飲んでる?」
「まあな。ただそれを飲んでても、たまに『収まりが効かない』ときもある。……包丁使ってるときとか、特に」
「っ!……ごめん、迂闊だった。やっぱり持ち回りで役割分担するんじゃなくて、固定制にした方がよかったわね」
「気にすんな。あいつが言うには『服用治療』だけじゃなくて『リハビリ』も必要なんだと」
「そう、『永琳』がそう言うなら、そうかもしれないけれど」
「だからァ、おまえがそう深刻に気にする必要なんざねぇっての!それに慧音のこともあっからさあ?」
「あいつ」こと「八意永琳」の名前を口にし、輝夜は重いため息をつく。
それを見た妹紅は今度は「ばんばん」とその背中を叩いてみせる。
そうやって互いに互いを気遣い合うことの繰り返し。
それは「あのとき」から「いまのいままで終わりなく」続いている。
と、そんなときに。
「あああっ、たいへん!洗濯物がっ!!」
「うわっ、マジかよ、なんでこんなときに『突風』が吹きやがる!?」
何の前触れもなく庭園一帯を凄まじい勢いで吹き抜けていく、一陣の「突風」。
それはまるであたかも「なんらかの意志が宿ったかのように」ドミノが一斉に崩れるように次々と物干台まで薙ぎ倒しながら、干されていた洗濯物のことごとくを「天高く」舞い上げていく。
「妹紅、先に行ってて?わたし、ぜんぶ回収してから行くわ?でないと、明日から着るものなくなっちゃう!」
「お、おう、てか、どうすんだ、一人でこんなにたくさん?」
「わたしだって『飛べるわよ』?……久しぶりに飛ぶけど、これくらいどうってことないからっ」
「お、おう、じゃあ、先行ってる。おまえも早く来いよ?待ってっから!!」
遥かに小さくなっていく妹紅を見下ろしながら、「久方ぶりに空へと舞い上がった」輝夜はその声に答えるように大きく手を振ってみせるのだった。
ここから少し時間は「遡る」。
「あんたが知りたいのは『ふたつの疑問に対するそれぞれの答え』だったわね?その『ひとつめ』から教えてあげるわ」
散々輝夜にどやされいまさらのように普段の格好に身を包んだ永琳は、自室の事務机の最下段にある「厳重に鍵のかけられていた」引き出しを引っ張り出して、その奥にあったふたつのクリップ留めの書類を傍らにいた彼女の方へと投げ寄こす。
「一応言っておくけど、コレは『社外秘』。いわば極秘資料。でもあんたは『建前上』は『私の助手』ってことになってるから、特別に見せてあげる」
「ありがとう、永琳。でも、これって?」
「問診表(カルテ)よ。『博麗の巫女の分』と『先客の分』。先にあの貧乏巫女の方から見て」
宙を舞うそれらを慌てて引っ掴んで手繰り寄せ、その『二人分』のカルテを眺めてから、言われたとおりのものから目を通していく輝夜。そんな様子を眺めながら、「あー飲み過ぎた、目が回りそう」と永琳は頭を抱える。
「依頼者は『華村ハナ』。あの『お守りを首にかけてた』女の子ね。その横に『(八雲紫)』って書いてあるけど、これはなに?」
「いくらなんでも年端もいかない『こども』から直接仕事なんて受けられないでしょ?その場合は保護者ないしそれ相応の立場の『代理人』の連名が必要。ま、それに値しそうな『おとな』がたまたまその場にはあの『飲んだくれのゲス女』しかいなかったわけだけど」
「そうなんだ。んー、受付した日付は『今日』ね。あのときはもう日付変わってたし。『9月26日の水曜日』。そしてくすりの受け渡し日も『おなじ』。それでそのくすりに対する『病名』は。……って、これ、本当なの?」
「書いてある通りよ。ウソなんか書くわけないじゃない。しかもその病気は『初期症状』は『風邪と似ている』が『似て非なるモノ』。
……そして、現代という『いま』に至っても『未だ完全に根絶できない難病』。それは」
「 結 核 」
その病名を耳にしたとき、さしもの輝夜も愕然とならざるを得ない。
おまけにその病気は一度かかったら最後、耐え難い苦しみの果てに『そのまま死に至る』。
「あんたも知ってると思うけど、あの人里の医学じゃまともな薬だってつくれやしないし、下手をしたらその病名まで当てることさえもできない。おまけにろくに人体の構造さえも把握も理解もしてないヤブ医者ばかりよ、あの界隈は」
「そ、そうなの?……でも、永琳はすごいのね、こんな難しい病気の治療薬を作るのに、『あのとき』は受付してからたった『半刻(30分)』で製剤から包装までやってのけるなんて」
「だからあのとき言ったじゃない、そのときは『先客のあまりもの』で作ったって。いくらわたしだってろくに患者を診ない状態でその病気に見合った薬を無から作るなんて芸当、できやしないわ」
呑みすぎてよっぽど辛いのか、永琳はぐてぇっとなりつつ「ほら、もうひとつの方を見なさい」と微妙に震える指先で「先客のカルテ」を見るように輝夜に促す。輝夜は促されるままにこれに倣う。
「んー、こっちは受付日が『9月18日の火曜日』。というと、一週間前?あ、違う、『八日前』ね。それで受渡日が、ん?えーっと、『今日』になってる。それで依頼者の名前。……なんて読むのかしら。『東風谷早苗』、『こちや・さなえ』?それに『処方箋の名前も同じ」じゃない。しかも、『服用の対象者も同じ』。……ねぇ、これって?」
「その読み方で合ってるわよ。そう、彼女が最初にここに来たのは9月18日の火曜日。時間はけっこう遅かったわね。閉局一時間前の『夜の8時』ぐらいだったわ。で、そうよ、『お察しの通り』そのとき彼女が所望した治療薬もまた、あの貧乏巫女にくれてやったそれと『全く同じ』。そしてその『対象者もまた同じ』。……まあ、そのときは『アポなしでの来局』でそれに加えての『突然の所望』だったから、一週間の猶予をくれってお願いして、さすがにその日は『丁重にお帰り願った』けれどね」
ここまで告げたところで、いよいよ永琳の様子が「とてもおかしくなる」。
口元に手を添えて懸命に「何かを堪えている」。
あ、これヤバいかも、と輝夜も輝夜で思ったのだが。
「まあともかく、あんたはあのとき呑気に『長風呂に浸かってた』から気付かなかったかもしれないけど、『あの二人』、ものの見事に『行き違った』わ。しかも、『同日の三、四時間くらい前』というなんとも絶妙なタイミングでね」
「そ、そんなことが。……ぜんぜん気付かなかった」
「さて、これでひとつめの質問に対する答え合わせは終わり。次で最後ね。なぜ私が『これ』を代金としてせしめたのか」
ひゅっと永琳は机の上に放置していた「それ」を輝夜の方へと投げ寄こす。
慌ててそれを受け取る輝夜。その手に握られたのは、紛れもなく、あのハナという女童が首にかけていた「それ」。
「……お守り?ああ、これは言ってはいけないことだと思うけれど、けっこう『造りが雑』ね。『不器用な誰かさんが一生懸命こしらえた』感じがする。だけど、刺繍に関しては『かなり頑張ってるみたい」ね。えっと、なに?『無病息災』?で、その裏が。……あ」
じいっとそのお守りを「検分」したところで、なんとはなしにそれを裏返しにしたところで、輝夜は言葉を失う。
そこに記されていたのは。
「 博 麗 神 社 」
「……びっくりしたでしょ。私も驚いたわ。こんなお粗末な『お守り』をこしらえたのは、他ならぬあの『貧乏巫女』。この朱色のお守り、一見すればそれこそ何の代わり映えもしない、『ただのそれ』。……だけど」
「うぷっ」とそろそろ「限界を迎えそう」な永琳。
それを察した輝夜は慌てて永琳を介抱しようとするが、永琳はそれを制する。
「あのハナとかいう娘の母親、『華村ルナ』が結核に罹患したのはこの『一か月前』。あの貧乏巫女よりも『一足お先』に『東風谷早苗』なる娘が処方箋を届けに行くまでの間、まともに治療さえも受けられなかったその女がそれまでの間、『生き長らえていた』のは」
「……まさか、この『お守りのおかげ』?」
改めて思い直したように輝夜はその手の中のそれを見つめる。
そんな輝夜の様子を見遣りながら、そろそろ「限界突破しそうな」永琳。それでも「最後の力」を振り絞る。
「私は今まで、この世のすべては『数式で体現できる』と思ってたわ。曲がりなりにも『科学者だけに』。だけど、その前提がもうこのおかげで無残にも『崩れてしまった』。この世には数式では決して表せない、きわめて『不透明で不確定な何か』が存在する。それを敢えて言うなら」
「 ハナなる娘はあの貧乏巫女から賜ったこのお守りで懸命に『博麗の神』に祈りを捧げ続けた。
そして『博麗の神』はそれに応え、『ご利益』という形でその母親であるルナを『生き長らえさせた』。
『居るのよ』。
こ の 世 界 に は 目 に は 見 え な い 『 神 な る 存 在 』 が 」
ここでついに「限界突破」を迎えようとする永琳。
その口から七色の光がダダ漏れになる寸前で、慌てて輝夜は部屋の外に出て炊事場にあるバケツを取りに行ったのだった。
ちなみに永琳が飲んでいた蒸留酒の名前は「ドーバー スピリッツ88」。その度数、「88度」。
ついでにいうならば、「Made In Japan」。
そして、「また」時間は「元に戻って」。
「……ふぅ、これで全部、ね。もうすっごく時間かかっちゃった。みんな心配してるかなぁ?」
ふよふよと空を漂いつつ、すっかりと「お疲れモード」の輝夜。
その両手にはきれいに折り畳んだたくさんの洗濯物が「みっちり」と抱え込まれている。
そんな彼女の「本日の衣装」は今朝と同じ「白衣に緋袴」という、「典型的な巫女スタイル」。
やれやれと輝夜が地上に降りようと「降下し始めた」そのタイミングで。
ひゅんっ。 ばっ。 ぎりぎりっ。
「えっ、な、なに!?」
突然地上から突き出した「赤黒い何か」で「あっという間に」その身体を両腕もろともに「何重にも拘束される」。
必死にその拘束から逃れようと藻掻く中で、輝夜が眼下に見たその地上で待ち構えていた、のは。
「……なんで、『あんなの』が『ここにいるの』?」
それはまさしく、「超巨大な牛蛙」。
その大きさは、別の場所で「風祝」こと「東風谷早苗」を襲った「あばれうし」とほぼ同じ。
何の前触れもなく「忽然と」そこに「現れていた」その黄土色のぬめつく体表に無数の疣を生やしたその「怪物」は、その「大口」から「極太の赤黒き舌」を伸ばして輝夜を「拘束せしめていたのだ」。
その「ばけがえる」の舌の突き出す「根元」、「口腔の奥底」には、「何よりも深い深淵の闇」が広がっていた。
( の み こ ま れ る )
これから我が身に降りかかる「おぞましい現実」を予感した輝夜は、不覚にもその頭の両側から突き出た「大きな禍々しき目玉」を見てしまう。それと同時に「意識を失い」、ただ力なく黒色の長髪を揺らしながらその身体を「ぐったりと弛緩させていく」。
「動かなくなった」その獲物を、迷わずに「ばけがえる」はその舌を巻き取り、勢いよくその大きく開いた口の中へと放り込もうとした。
その刹那。
タ タ タ ン ッ
空を切り裂く「電光石火のスタッカート」が唐突に刻まれる。
それはまるで空をつんざく「稲妻の閃き」のようだ。
その「三点バースト」の「銃声」が轟いたと同時、その舌は「断ち切られ」、その拘束から解放された輝夜の身体は、真っ逆さまに地上へと「墜落していく」。
「ったくよぅ、帰りがおっせぇと思ったらなんて状況になってんだよ」
悪態交じりに落ちゆく輝夜の身体を、しっかりとその腕の中に抱き留めるのは、他ならぬ「不死身の不良少女」。
軽やかに宙を舞い、その「月よりの姫君」を確保した妹紅はそのまま華麗に着地し、「ちらり」と遥か後方の「もう一人」へと合図を送る。
そのもう一人、とは。
直立した「兎耳」。
足元に届きそうなほどの長さの「薄紫のロング」。
白の「ブラウス」に赤い「ネクタイ」。そして紺の「ブレザー」、たなびく薄桃色の「ミニスカート」。
そんな「兎耳少女」の右手には、未だ紫煙をその銃口からくゆらせる黒塗りの「大型拳銃」がしっかりと握られている。
B e r e t t a M 9 3 R 。
「対テロリズム用マシンピストル」。
「空の薬莢」が三発、排出口から排出され、宙を舞う。
このタイミングでようやく「ばけがえる」はその鈍重な巨躯をその少女へと向けるも、同時に「硬直して動けなくなる」。
それはまさしくその少女の紅の双眸から発せられる、「魔眼(ルナティック・アイズ)」によるもの。
「 散 符 」
本来なら両手で保持しなければ耐えられないほどの「反動すら」易々と右手首ひとつで抑え込んだ少女は、躊躇いもなくそれを宙へと放り投げ、矢継ぎ早に懐中から「呪符」を取り出しては構える。
それを遠目に垣間見た妹紅は、とっさに輝夜を庇うように地面へと伏せる。
『 真 実 の 月 ( イ ン ビ ジ ブ ル フ ル ム ー ン ) 』
「みっつの空薬莢」が地に落ちたと同時にその「ばけがえる」は、断末魔の叫びを上げる間も与えられずに「爆発四散」していく。
そんな光景を「睥睨しながら」、「月兎の少女」こと「鈴仙・優曇華院・イナバ」は、遅れたように落ちてくるマシンピストルをその場から微動だにせず「直立不動」のままにその右手で受け止め、鮮やかなジャグリングを極めてから悠然と制服の裾をめくりがてら左腰のホルスターへと収めていく。
「ええい、くそっ、なんてことだ。なんてことだっ!……『また出遅れる』とは、なんたる不覚!!」
そこへ遅ればせながら、ようやくその現場に到着する「愉快な教師」こと「上白沢慧音」。
そして同着の「幸せの地兎」こと「因幡てゐ」。
「……………っ」
慧音は到着するなり、その現場の「壮絶な惨状」を目の当たりにして不甲斐なく絶句してしまう。
そんな彼女の目の前に、ひらひらりと舞い落ちてくる、「何か」。
それに気付いた慧音は、慌ててそれを掴み取る。
「ああ、なんだ、此れは。……『式、符』、なのか?」
ただ呆然とその札を眺める慧音の様子を見たてゐは、「ものすごくいやそうな顔」をした。
それはまるでこれから降りかかる「新たな災厄」を予感するかのように。
そして、そのころ。
「うぎゅうう……(ぴくぴく)」
「蓬莱の薬師」こと「八意永琳」は、あまりの悪酔いのせいでその自室で「うつ伏せになってしんでいた」。
こやつもあのスキマ妖怪と「どっこいどっこい」かも、しれない。
「みんなー、きょうはどうするのー?どんな曲で踊る~?」
「そうですねぇ。でも『ポルカ』と『ワルツ』といった舞踏曲の類はもうあらかた『やり尽くしました』し、何かあるかな、『メルラン』姉ェ?」
「んー、そうだねぇ、『リリカ』。でも、こーゆーときは『経験豊富な長女殿』に決めてもらうのが一番。……って、どこ見てんです、姉上?」
「未だ」穏やかな秋の青空の「遥かなる高み」で「きょうのおあそび」を仲睦まじく相談する「三人娘」。
そこから少し離れたところで、その三人に背を向けるかたちで「何か思い詰めたように」虚空を眺める一人の少女。
「ねぇ、どうしたのー、『ルナサ』ちゃん、おかおがすっごくこわいよー?」
大きな暗赤色のヘッドドレスから伸びる長いリボンをなびかせ、「くるくる」と回りながら「全ての厄を流す鍵」こと「鍵山雛」は、「ルナサ」という名の「騒霊(プリズムリバー)三姉妹」の長女の方へと近付いていく。
「……ああ、すみません。ちょっと『見えたくもないもの』を『見てしまった』ので」
「へぇ、それはどんな?」
「あんまり言いたくないのですけれど、それでも声に出して言うのならば、『この世界の終焉』」
「ふーん、しゅーえん、ってなあに?」
「『この世界の終わり』です。しかもそれは、『はっきりと目に見える』『ふたつの』『全知全能の』『禍々しき邪神ども』によってもたらされる。そしてそれを前に果敢に立ち向かう『たくさんの勇気ある少女たち』。けれど、そんな少女たちをもってでしても、『その神々には勝てない』。その悉くが『無残にも片っ端から屠られていく』」
「……へぇ~?『あっ、そう?』」
なにやら物騒な予言めいたものを語りだしたルナサに興味をなくした雛は、ぷぅっと頬を膨らませて他の妹たちの方へと飛んで行ってしまう。さっきまで熱心に聞き入ったかと思いきや、雛のその突然の豹変ぶりにルナサは思わず携えていたヴァイオリンを落っことしそうになる、のをかろうじて堪える。
「それはまぎれもない、『この世界の終わり』。けれどその『途方もない絶望の果てに希望という名の奇跡はある』」
そこまで独り言ちてから、ちらっと妹二人の方へと顔を向ける。
「メルラン、リリカ。楽器を替えて。ついでに楽譜(スコア)を出してもいいわ。今日は『アレ』を奏でるわよ」
「えっ、い、いきなりなの、ルナサ姉ェ?」
「あーあ、『あれ』ってまだ『ソロリハ』しかやってないじゃん、いきなり『セッション』組むのは無謀すぎませんか、長女殿?」
「え、ええ、なにやるのなにやるの?わちしはどーしたらいい?」
「……雛ちゃんはいつも通り好きなタイミングで『回って』くれればいいわ。と、いうことで」
チラ見からガン見で二人の妹へと「圧をかける」長女。
それを前にそれぞれ盛大なため息をついてから、仕方なしに次女はフルートから「トランペット」に、三女はアコーディオンから「キーボード」へと楽器をチェンジし、「気休め程度」の「スコア」を呼び出しては広げていく。
それをひとしきり眺めてから、こほんと長女は軽く咳ばらいをする。
「さあ、用意はいいかしら。それじゃ、奏でるわよ。これから耐え難い困難に立ち向かう少女たちを『鼓舞する』ために」
「 『 』 を 」