※この作品はR-18です。

東方二次創作劇場「月と太陽」 - 月の章 -   作:俄かさん。

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霖之助、紫と語らい霊夢の異変を思う中、男童が駆け込む。


「 その三話 」 霖之助の邂逅

「ふぅ、もういい加減慣れてるはずなんだけど、やっぱりこの石段は足腰に応えるね」

 

陽の沈み始めた幻想郷界隈、時刻は流れて夕暮れ時。

仕入れから戻って来た霖之助は、人里から伸びる人一人がどうにか通れるぐらいの細い獣道を抜けて博麗神社の境内へと続くやや険しい石段を上っていた。

その最上段、聳える鳥居の下まで辿り着いたところで、やれやれと腰を下ろす。

ここは実のところ、幻想郷界隈を一望できる数少ない隠れスポットだったりする。

ついぞ先程まで仕入れに赴いていた人里を起点に開けるその景色を眺めながら、小さく息をつく。

 

「……やれるだけのことやる、か。とはいっても、僕に何ができるんだろうね」

 

背を丸め、膝頭に両肘を添えて頬杖をついて、そんなふうに呟いた矢先。

それまで見ていた景色が突然の漆黒の闇に遮られた。それと同時に耳元から茶目っ気のある女性の声が聞こえる。

 

「うふふ、だーれだ?」

「ああ、その声は、『幻想郷の管理人さん』もしくは『大家さん』かな。よければ目隠ししてるその手をどかしてくれると嬉しいけどね」

「あらやだ、そんな大それた呼び名なんてよして頂戴?いつもみたいに『紫』って呼んでくれる?」

 

いつの間にかリボンを両端に結わえた「次元の裂け目」から上半身だけを出して、霖之助を背後から抱きしめるように両手で目隠ししていた「八雲紫(やくも・ゆかり)」は金色の長い髪を揺らしつつ、ころころと笑う。

そのあまりの密着具合に、その背中に微妙にふにふにとした柔らかい胸の感触を感じた霖之助は、困惑気味な顔を浮かべる。

 

「八雲紫」。

 

この幻想郷の創始に関わった賢者のうちの一人。そして、「大妖怪」。

さらに大妖怪でありながら、「博麗の巫女の保護者」みたいな、そんななんとも微妙な立ち回り。

それはともかくとして白と紫の道士服のようなたおやかなドレスに身を包んだ彼女を、人はその名を口にするのも憚れるほどに畏怖している。

しかし、そんな大妖怪に抱き着かれても恐れることなく、霖之助は戸惑いつつも普段通りの物腰を崩さずそのままの状態を維持する。

それを見た紫はいよいよ調子に乗り出して、彼の顔から両手を放す代わりにすぽっと全身を次元の裂け目から抜け出すと、逃がさないと言わんばかりに更に密着してべったりとおぶさる。

その重みと何とも言えない柔らかな感触と温もりに包まれつつ、霖之助はどうしたものかと心持ち顔を赤くさせつつかりこりと頬を掻いていると。

 

「この一瞬間、本当にありがとうね。あのコが寝込んでからずっと、なんだかんだとほぼ毎日通ってくれて。だけどあなたのお店の方は大丈夫なの?」

「まあ、僕のお店は他のお店と違って大半は趣味でやってるようなものだからね。……それに、いろいろ事情があってだね」

「そう。……わたしが寝てる間に、あのコに何かあったわけ?」

「うーん、まぁ、その。言外には出せないよ。『誰にも言うな』と彼女に頑なに口止めされてるからね」

「そう、ならそこまで詳しく問い詰めるつもりもないけれど」

「ああ、うん、ありがとう、助かる」

 

そんなやり取りをしつつ、ふと霖之助は一週間前のことを思い出す。

 

あの日も「月に一回のご奉納」と称して日用品を届けに行った際、普段なら外から声かけをすれば勢いよくすっとんで来るはずの、あの巫女は何度も声かけしても一向に現れなかった。

それを不審に思い、失礼かと思いつつも社務所へ上がって寝室の方まで出向くと、そこで信じ難い光景に出くわしたのだ。

彼女は「怯えていた」。というより、「取り乱していた」。

寝起きだったのか、白い寝間着姿で頭から布団をすっぽりと被り背を丸めて膝を抱えるようにしながら、小さな身体を更に小さく縮こまらせて震えていた。そうして呆気に取られている彼の存在に気付くなり、被っていた布団を払いのけざまにしがみついてわんわん泣き出したのだ。

そこで耳にした彼女の悲痛な叫びを今一度思い浮かべながら、霖之助はまた小さく溜息をつく。

 

「と、いうより、あちらこちらを自由に行き来できるキミなら、むしろ僕以上に今回の件については事情なりなんなり把握してるんじゃないのかい?」

「あら、それは買い被りすぎね。あなたも知ってるとは思うけど、私は一日のほぼ大半は寝て過ごしてるし?それに四六時中あのコに張り付いてるわけでもないしねぇ」

「そうか、それもそうだね。キミも他にもいろいろと気を遣うべきこともあるだろうし、特にここ最近のここら界隈の動向は、キミにとってかなり頭の痛いところだろうしね」

「ええ、そうね。……そんなところね」

 

そうして二人は夜の帳に包まれていく人里を見下ろす。

陽もすっかり落ちてしまえば、人里は周りと同じように宵闇に暗く閉ざされていく、はずだった。

 

ぽつ、ぽつ、ぽつ。……ぱぁあああっ。

 

まるで蛍の灯のような心許ない灯りが人里のどこからともなく現われ、されどそれが放射状に広がるようにしながらやがてその一帯すべてを眩いばかりに埋め尽くしていく。それはまるで、燦然と光り輝く星々がそのまま地上に降り注いだような、そんな光景だった。

 

「……こんな光景、かつては見なかったわね」

「『電灯』と、いうらしい。蝋や油やガスじゃなく、『電気』なるもので灯りを灯すそうだ」

「そう、でんき、ねぇ?」

「うん。しかも、その電気は最近新しくあの山の山頂にできた『お社さまからの賜物』らしい」

 

そう告げながら霖之助は人里を隔てて聳える大きな山を指差してみせる。

その山を、紫はどこか冷めたような眼差しで眺めた。

 

「あの調子だと『彼ら』は彼らでうまくやっているみたいだね。閉鎖的な山の妖怪たちとはもちろん、こうして人里に住まう人々とも良好な関係を築きつつあるんじゃないのかな」

「そう。そうね。今はまだそれでいいのかもしれない。……けれど」

「ああ。キミからすればこれも『異変』の範疇に入るのか。そう括ってしまえば穏やかではない話でもある」

「……そうね」

 

そこで二人はこれまでにこの幻想郷界隈に起きた「異変」を思い起こす。

 

「異変」。

 

幻想郷界隈に纏わる怪事件や怪現象を差す事案のこと。

その規模や状況は実に多岐に渡り、これまで起きた異変はあの博麗の巫女とその関係者らの活躍によって鎮められてきた。

 

幻想郷を覆い尽くす紅い霧の異変、「紅霧異変」。

暦的には春を迎えても終わりなき冬が続く異変、「春雪異変」。

三日おきに延々と催される宴の異変、「三日置き百鬼夜行」。

変わらぬ満月が齎した永遠に明けぬ夜が続く異変、「永夜異変」。

そして突然と幻想郷中にありとあらゆる花が狂い咲き乱れた「華の異変」。

 

そのひとつひとつをどこか感慨深げに思い出していた、その矢先だった。

 

「こ、ここに博麗の巫女さまはおられますか?」

 

人里に灯る電灯に比べて頼りない狐火の灯る石灯篭の連なる石段を勢いよく駆け上がり、肩で息をしながら一人の男童が二人の前に現れた。

 

「あら、あなたは?どうしたの?」

「『餡蜜堂』から、の、使いの、者で、すっ」

「餡蜜堂?」

「人里で甘味処を商ってるお店だよ。この神社の檀家さんでもある。ついでにいうとあのコはそのお店の常連だ」

「ふぅん、そうなのね。……それで、そんなに息を切らせてどうしたの、坊や?」

 

相変わらずべったりと霖之助に取りついたまま、紫は怪訝そうな顔でその男童を見つめる。

 

「は、博麗の巫女さまにお目通りを、今すぐにっ、どうか、どうか!」

 

あまりに切羽詰まった男童の悲痛な叫びを前にただならぬ雰囲気を感じ取った二人は、互いの顔を見合わせるのだった。

 

 

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