東方二次創作劇場「月と太陽」 - 月の章 - 作:俄かさん。
ちゅんちゅん、ちちち……。
どこからともなく雀の囀る声が聞こえた。
締め切られたカーテンの隙間から差し込む眩しい朝日を顔に受けて、むずがるようにしながらうっすらと目を開ける。
(……「また」、夢見てた。それにしても「兎に蹴られる」なんて、変な夢ね)
今の今まで、奇天烈極まりない夢を見ていたせいか、思考がまるでうまく働かない。
ここのところ、こういった変な夢ばかり見ているような気がする。その夢は荒唐無稽ながら、それでいて妙に「生々しい」。
けれど意識が覚醒していくたび、その夢の記憶は淡雪が溶けるように消えてなくなり、その詳細を思い起こすことがままならなくなっていく。
(ま、いっか。とりあえず。ここは、どこ?……そいでもって、わたしは「誰」だっけ?って、おい)
見慣れぬ淡いピンクの天井を呆けたように見上げながら、ここがどこなのか以前に自分が何者か分からぬ重大事案にはたと気付き、心持ち焦りだす。
そう、これぞまさしく記憶喪失。そんなのそれこそ、冗談ではない。わたしは誰だ、わたしは誰だ、誰なんだ。
狼狽えるあまり軽く身じろぎした矢先、じゃら、と鈍い鎖の音色が頭の上の方から聞こえて、起き上がろうにも動くに動けず、それがまた動揺と混乱を大いに助長させる。
(いやいや、これ、どんな状況?わたし、なんで「拘束」されてんの?……動けないんですけど)
それこそ訳の分からぬ自分の置かれてる状況に追い打ちをかけるように、ここに来て自分が「何も着ていない」ことに気付く。
(なんか肌寒いなって思ってたら、なんで「はだか」なの?それになんか、「あったかい」、……え?)
そんな新たに判明した衝撃の事実を前に「かああ」と頬を赤らめたところで、更なるおまけが襲う。
天井からさりげに目線を下に向けると、仰向けに寝ているであろう自分にべったりとしがみついて微睡んでいる、これまた「何も着ていない」緑色の長い髪をした愛らしい女の子の存在に気付いて。
そういえば、なんかさっきからやたらとあったかくて柔らかいなとか思ってのは「これのせい」か。そんなことよりも。
(え、な、なにこの子?って、もう、なんなの、なんなの?こんなの余計わけわかんないよ)
次から次へとせわしなく押し寄せるあまりの情報量の多さに、脳の処理がさすがに追いつかずそれこそ頭がパンクしそうになる。
そのタイミングでぱちっと目を開けて、むくっと胸を揺らしながら起き上がるその女の子。図らずともその目線は彼女の肢体に釘付けになる。
(わあ、起きちゃった、どうしよう?んぅ、よく見るとこの子、「わたしより」スタイルがいい。……おっぱいも「大きい」)
ここに来てそこはかとなく湧き上がるジェラシー。同性を前にして抱くちょっとした羨望交じりの嫉妬めいたモノ。
それと同時に「自分が何者か分からない」のに、彼女と比べて「自分」の「とりたてて何の愛着もない」、「残念なくらいに貧相な身体」を認識していることへの妙な「違和感」。
「あー、『センパイ』。起きたんだ、おはよー?」
まるで猫が顔を洗うようにくしくしと手の甲で目元を擦りながら、寝ぼけ眼で自分に声をかける女の子。
「センパイ」というのは「自分のこと」か。ということは、この子は「後輩ちゃん」ということになるのか。とりあえず、無理矢理納得する。
「ああ、うん、……おはよう」
納得ついでにひとまず臨機応変に対応したところで、彼女は小さく笑って身を乗り出して覆い被さるようにしながら、唐突に差し伸べた右手で顎先をしゃくり上げる。
その突然の所作に流石に驚いて、大きく双眸を見開き、吸い込まれるように彼女の翠の瞳を覗き込む。
そして互いの顔がやたらと近すぎることにも今更ながら気付いて、大いに慌てる。
「ちょ、ちょっと、顔、顔っ!近い!」
それこそ互いのおでこがぴったりとくっつきそうな距離感を前にテンパる自分を、さも楽しげに彼女は笑う。
その笑みは愛らしい風貌に反してまさに「小悪魔」そのものといったところか。けれど、それを前に何故か「怖い」とは「思わない」。
「ふふ、センパイ。『昨夜』は『お楽しみ』でしたね」
「え!?そ、それは、どういう……?」
「あはっ、またぁ、惚けちゃって?」
突然と彼女の口から告げられるとんでもない「爆弾発言」に、たまらず面食らってしどろもどろに目の前の彼女に問いかける。
それに答える代わり、彼女はぷぅと小さく頬を膨らませがてら、あろうことか「小ぶりの」胸の先端を左手で摘み上げて、軽く抓りだす。
途端にそこから走る甘く痺れるような痛みに思わず首を竦ませると、彼女はにんまりと笑みを深めていく。
「センパイ、かわいい♪」
かわいい?かわいい?……「わたし」が?
普段言われたことのないその言葉を前に狼狽える。
そんな様子を見て彼女はまたどこか楽しそうに笑ってみせた。
「ねっ、センパイ、もう一回しよ?」
ひどく甘ったるい声が耳元に響く。
一体何のことか把握できずにいると、それまで胸をなぞっていた彼女の白く細いしなやかな指先がそのまま下へと辿りお臍を辿って股の付け根へと向かっていく。彼女の意図を察し、慌てて内股を頑なに閉じあわせようとした、その時だった。
ぐ に っ。
「ぃ゙っ?!!」
本来なら感じるはずのない、痛み。
その痛みが何を意味するのが分からないうちに、畳み掛けるように彼女は唇を重ねた。
「ん、ぅう………」
甘い、甘い、蕩けるようなキス。
それはとても心地良くて。
「……ふぁっ」
やがて連なる長い唾液の糸を伸ばしながら離れていく彼女の唇の行方を頬を赤らめながら眺める。
「うん、そうね」
まるで夢見心地の気分でその言葉を口にする。
そう、まるで「夢を見ているようだ」。
それから、考えるのをやめた。
すべてを「放棄して」彼女に身も心も委ねる。
これは「夢」か「現」か。
もう、それさえもどうでもよくなっていった……。