※この作品はR-18です。

ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング!   作:RAP

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第28話 原作開始前・聖戦体験会

 聖戦(ジハード)体験会、その会場となっている広場的空間。

 そこには、濃厚な血の匂いと、饐えたゲロの匂いと、子供と赤ん坊の泣き声と、聞き慣れない言語の悲鳴と、大人の怒鳴り声と叫び声が入り乱れていた。

 

 全裸に剥かれ目隠しをされたゴブリンの子供達の列。男の子も、女の子も、等しく後ろ手に縛られ、首に縄をかけられて。

 そんな子供達が縄を引かれて強制的に歩かされる中、兵士見習い達が震える手で剣を構え。

 「いくぞ!」というベテラン兵士のかけ声と共に子供達が一人ずつ縄を解かれ、解放されたと勘違いした子供が走り始めた瞬間に剣で刺され、斬られ、首を刎ねられる。

 女性の聖騎士見習いが涙目で弓を構えるその先には、お腹を大きく膨らませたレッドキャップの妊婦が赤ん坊を抱えたまま射撃の的となり、何本もの矢が身体に生えている。

 新兵達(ニュービー)はゲロを吐きながら、震える手で武器を握り、大声と共に自分に気合いを入れ。

 指導役は、「覚悟決めろ!」「慣れりゃ豚シメるのと変わらねぇ!」と怒鳴り続ける。

 

 控えめに言って、この世界の地獄を一点に濃縮したかのような景色。

 この光景を亜人達が見たら、一人の例外なく全員が人間スレイヤーと化し、「ドーモ、人間=サン」とアイサツするマッポーめいた白面金毛になってしまうだろう。

 

 要は、捕まえて拉致してきたゴブリンやレッドキャップ――主に赤子や子供や女性達――にトドメを刺して、殺しの童貞を捨てさせる訓練場。

 それが聖戦(ジハード)体験会の内容である。

 

 冒険者ギルドの依頼は、偶然の遭遇が無い限りは基本的に調査のみで戦闘には至らない。戦闘を担当するのは冒険者ではなく軍だ。

 その代わり、聖教会の騎士見習いまたは兵士見習いとなるか、入信者として宣誓するか、あるいは聖教会への協力者として寄付金さえ払えばこの素敵な体験会(パーティ)に参加できる。

 亜人を殺したいだ(・)け(・)なら、はっきり言って最短最速のRTAである。

 

 

 懺悔を終え、遅れてやってきた僕は、会場の端で佇んでいたバーチェ達を見つけて。

 泣き声と悲鳴と怒鳴り声と、あと斬首音、そういうのをBGMとして聞きながら歩いて行く。

 

 メイド的待機ポーズをとっていた二人は、なんともいえない表情で会場を見つめていたが。

 僕が近づいてくる姿を見て顔を緩め、合わせて一礼をしてくれた。

 

「どう? 終わった?」

「はい。私はゴブリンの少年を割り当てられました」

「……私は、レッドキャップの少女を……」

「そっか」

 

 頑張ったね、とばかりに二人の頭を優しく撫でる。

 整えた髪型が崩れてしまうような撫で方をすると、女性に嫌われる。九割の女性は彼氏相手ですらあまり撫でられたくない……というのが個人的には前世知識チートだったが、今世では髪型の崩れ云々を気にせず撫でても許されるようだ。

 

「それでね、彼らが話している亜人語を習得しようとも思ってて、」

「はい、ユーリ様。大体覚えました」

「「えっ!?」」

 

 僕とアイリスが、驚いてバーチェを見る。バーチェはなんでもないように。

 

「ハサマール邸図書室483冊目『亜人言語探求本』、同1097冊目『亜人研究 ~雑魚冒険者の疑念~』、貴族学校図書室232冊目『亜人の孕み袋から奇跡的に生還した私の手記』からの断片的な情報と、会場の亜人達が呟いてる言葉から類推して言語法則を割り出しました。この会場内でもう少し言語情報を集めることができれば、より完璧に会話できるようになると思います」

「え……マジかぁ……」

「ば、バーチェ姉様、凄いですね……」

 

 もしかして、写真記憶とか、なんかそういうやつ?

 アイリスはドン引きしている。うん、気持ちはわかる。海外旅行をして1時間もしないうちに「言語を習得しました」とか言われたら外交官が泣くわ。

 

 亜人語は、前世的に言えば『JISかな配列の日本語キーボード』で解読可能だ。もっとも、僕が死んだ頃の家電量販店は英字キーボードの展示ばかりで、日本語キーボードは中古かAmazon頼りだったけど。

 

 例えば、我らがネームド英雄カマセドッグスのカマセさんvs白面金毛戦での「thd@ i 4w(ザダイシウ)!!!」という叫びは、「カクジ ニ ウテ!」となる。

 いやぁ、最新刊のカマセさんが亜人達を殺戮無双する姿は最高でしたね……(存在しない記憶)

 

 亜人達の大半は人間が使っている言語を研究し、流暢に話したりしている。一方の人間側は、虜囚の孕み袋と化した女性達ですらカタコトでしか話せない。亜人語を話せる人間が皆無に近いレベルなので、人間サイドは亜人語を使われるだけで暗号同然となり、解読できずに詰む。

 もし聖教会が、敵性言語だから使っちゃ駄目! とかいう戦時日本のようなことをしていたら、聖教会上層部の首を軒並み刎ねていいレベルだ。それ以前に、亜人との対話もなしに絶滅戦争モードに移行しやがった一件だけで鏖殺案件ではあるのだが。

 

「バーチェ、どれだけ時間がかかってもいいから、亜人言語を習得できるような教本を書いてみてくれない? ボーナスは弾むからさ」

「はぁ、わかりました?」

 

 バーチェは不思議そうに小首を傾げている。

 あ、これ、なんでそんな指示を出されたのか、よくわかってない顔だ。

 1+1は2なのに、どうしてそんな事を聞かれているのだろう? みたいな。

 超絶美人で写真記憶で解析能力つきとか、なんだよ、エルフかなんかですか?

 

「ねぇバーチェ、18かける587かける46かける980かける4は?」

「はいユーリ様。19億とんで526万1120です」

 

 エルフか。エルフだわこれ。あー、天は二物も三物も与えてる系? 前世のオフ会で出会った、毎日痴漢されるレベルの美人なのにイラストも音楽もプロ級だった女性?

 あれ、でも、思い返してみればバーチェの射撃、特に一定の力で射出可能なクロスボウ系の命中率は偶然にしては恐ろしく高すぎたような……。もしかして、目視による距離測定とか風速とか空気抵抗とかなんかそういうの一射ずつ全部、物理演算的に計算して撃ってたりする?

 薙刀の習熟が早かったのって、教えられた型の全てを3Dモデルのモーションデータのように全部暗記してたから、とか……?

 

 これは、後で念入りに確認しないと駄目なやつですねわかります。

 

 なんで育児放棄(ネグレクト)されて奴隷商に売られてたの? ほんとわけわかんないんだけど?

 まさかアイリスも、なんか二物も三物も持ってたりする?

 ぶっ倒れる寸前まで頑張って『革命』をして、必死に稼いで金貨3000枚x2を叩きつけて二人を迎え入れたけど、もしかしてそれですら『お買い得案件』だった?

 

 なんかもうよくわかんなくなってきた。

 僕の嫁さん達は、なんか凄かった。もうそれでいいや。

 

 脳内で日本語キーボード配列をイメージしながら亜人言語を聞けば習得できたりしないかな? なんて甘い考えを抱いていたんだけど、ちょっとこれは本腰を入れる必要がありそうだ。意識を切り替えて、バーチェの力を借りて焦らず学んでいこう。

 

 

「そうだ、手がけたゴブリンの少年とレッドキャップの少女の死体はどこ?」

「こちらに」

 

 案内先に、ナイフで即死させられたとわかる亜人の死体が2つ転がっていた。

 丁寧に寝かされ、手を組んで。そのまま棺桶の中にいれて問題ない綺麗な死体だ。

 

 体験会(パーティ)会場に入るにあたり、僕もショートソードを手渡されている。

 僕はゴブリンの少年が組んでいた手を、剣先を使って離しておいて。

 胸と腹をまとめて十字に切り、剣先で軽く表面の皮膚を開く。

 腕は筋繊維に沿って切り開き、脚も同様の措置をしていく。

 人体模型のように、少年の中身が段々と見えてくる。周辺は血だまりだ。

 

「「わァ……ァ」」

 

 なにげない僕の行為に、今度はバーチェ達がちいかわのような声をあげた。

 

「ふむ……」

 

 前世で人体解剖学実習を学んでいた、とかそういうチートはない。

 だが、今世では武術習得を自分なりに頑張っている。

 人間と亜人の、どこが同じで、何が違うのかぐらいの観察はできる。

 

「筋密度が凄い。小柄だけど力はある。でも……それぐらいだ」

 

 ゴブリンと言っても、解釈は様々で。

 異世界に存在する創世神の数だけ、ゴブリンはいると思っていい。

 弱いゴブリン、強いゴブリン、様々だ。だが今回もっとも大事なのは。

 

「骨があり肉があり、血が流れて神経も通っている。関節可動範囲も人間と大して変わらない、つまり……点穴を含め、急所は人間と変わらない」

 

 レッドキャップの少女も同様に身体を開いていく。

 外見的に人間と変わらない部分は、中身も似たようなものだ。

 だが、やはり問題は……この脚。

 

「馬の速度で走れるだけあって、馬と似たような脚だ。脚の形状的に、身体の重心も低めだろう」

 

 僕はレッドキャップの、膝に間違えやすい箇所に剣先を刺す。

 

「恐らく弱点はここだ。『肉の無いかかと』の部分、あとは……」

 

 少女の閉じられた両目、その片方だけを剣先で斬る。

 

「恐ろしいまでの暗視能力と引き換えにした、日中の視野の弱さ。つまり目」

「ここまで……しなくてはならないのですか?」

「逆だよ、バーチェ。僕達はあまりにも彼らのことを知らなさすぎる」

 

 僕は顔をあげ、二人の顔をじっと見つめる。

 

「人間は、何百年も彼らと戦い続けているくせに、身体のことも、言語のことも、何一つわかろうとしていない。全滅すら願っているのに、勝ち方の研究すらろくにしていない。能力と肉体だけで知恵がないと侮り、馬鹿にすらしている。なのに100年近く戦線を押し込めていないことに疑念すら抱いていない。誰(・)の(・)意(・)思(・)か(・)は(・)、(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)が(・)」

 

 バーチェとアイリスが、ごくりと息を飲む。

 僕は剣を軽く振り、血を払う。

 

 

「おや? このようなところに……なんという」

 

 こちらに近づきながら、男が声をかけてくる。

 神父服のイケメンが、迷わずバーチェの手をとってこう言った。

 

「ものすごい美人だ! 結婚しましょう!」

 

 殺すか。

 僕はハイライトの消えた瞳で、ソウハカイ神父を見た。

 

 

 

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