ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
『メスと幼体の駆除』。
ゴブリンのメスと幼体は、最初に逃がされるので滅多に狩れるようなものではない。
人間に置き換えてみれば簡単だ、誰だって女と子供を最初に逃がす。
誰だってそうする、僕だってそうする。
なお僕のパーティは、僕以外は巴御前・井伊直虎・甲斐姫・立花誾千代・妙林尼が揃っているガンギマリ勢なので、逃げろと言ったら僕の方が殴られます。
薩摩兵子かなにかで? チェストとは知恵捨てと見つけたり。
ゴブリンとオークは異世界ごとに扱いが変わり、創世神の趣味で強さもなにもかも変わる。
この世界のゴブリンは人語も解するし力も強いし罠も使うし毒矢も使う。
この世界のオークは……そういう意味では一際個性的だろう。
オーク。どことなく豚に似た顔つきの亜人系モンスター。
オスしかおらず、人間の女を攫ってオークを産ませ繁殖するため、種族そのものが強姦魔として忌み嫌われている。
体格は平均して相撲取りに近く、身長は2m前後、体重は200kg前後と巨大である。
散々ゴブリンやオークを殺しておいて、あまつさえオーク肉を喜んで食べていたはずの主人公が、盗賊などの人間の敵を相手にすると突然殺せなくなったり、人間を殺した後に吐いたりする物語はテンプレ的にお約束。……同じ二足歩行生物なのに何が違うというのか? 人間病の猿とか言う前に、この現象に名前をつけたほうがいい。
話が逸れた。
大体の異世界において共通しているのは、オークは序盤のレベルアップの経験値の足しにしかならない雑魚扱いということだ。この世界の小説などでも、オークは「強いが嚙ませ犬」「力は強いがノロマ」な存在として扱われている。
余裕で創世神の情報操作である。そんなことはない。『村娘ルマノ』は一刻も早く焚書したほうがいい。実際のオークは鎧が通用しないほどの強力な矢を放ち、200kgの巨体でありながら俊敏に動き、2m以上の高さから見下ろし、こちらの動きを頭から地面まで一方的に把握してくる『絶望の権化』だ。
漫画ベルセルクの主人公ガッツや、ゲームFF7の主人公クラウドが使う巨大なグレートソードを見たことがあるだろうか。
『それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく分厚く重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった』
彼らオークは20kg級の武器を平然と振り回し、長槍の槍衾も容易くへし折り、鎧の上からでも殴り殺す。原作では何度も触れられているが、オークと人間の比較は、成人男性が小学生を相手にするようなものだ。
オークが戦場にいる、と判明しただけで男のみが戦場に出る。
女は留守番しててね、と言われる。
それが普通だ。当たり前だ。オークにはメスがいないから、人間の女を攫って強姦して繁殖するのが当たり前の行為であるからして。
女騎士が脱ぎやすい格好をしているのも、オークを目の前にしたらすぐに脱いで「私を犯してください」と股を開いてお願いするためのもの。
それぐらい、オークと人間の間には種族の性能差がどうしようもないぐらいに存在している。
そんなオークが二体、完全武装で僕達の目の前に立っている。
オークの後ろには、複数のゴブリンのメスが子供や赤子を抱えながら震えている。
人間に例えれば、女子供を守るために死兵と化した軍勢。そんなところか。
あの、オークの眼力。
お前達を犯して殺す。いや、犯すことすら面倒だ。皆殺しにしてやる。
大きな陣笠。大きな胸甲。大きなブーツ。人間の大型盾を中型盾のように。
そして人間が両手で扱う
「……伏兵、奥にゴブリンが2匹やな」
「了解」
なんでもないかのようにバトさんが告げる。
僕はバトさんに
2.7m、九尺の槍。戦場の槍としては短い方だ。この2.7mというのは、宝蔵院流槍術の長さ。
「アイリス、
「スタンバイ・レディ、セットアップ!
僕の指示を受け、盾を捨てたアイリスがラケットメイスを水平に構える。
偽装デザインを施された隠しレバーを引くと、ラケットメイスの先端が開く。
開かれたラケットメイスの先端からは、ノズルのようなものが見える。
僕は悠然と、十文字槍を手に歩き出す。
絶対皆殺しにしてやるというオークの眼力を前に、不敵に笑いながら。
弓の発射音が2つ。
僕を狙う音。
さあ、試してみるか、試作品!
* * *
さて。少し長い話になるが、試作品の話をしておこう。
今回の試作品は、僕が今つけている『指ぬきグローブ』だ。
別に厨二病だからでも、スマフォを操作したいから指ぬきグローブにしたわけではない。
実戦の中で相手に触れた時の
まず前段階として、セルロースナノファイバー(CNF)の説明をしなければならない。
CNFは、木材や草などの植物に含まれるセルロースをナノメートルサイズまで微細化した繊維状物質のこと。
このCNF、原作で無双しているだけあって性能がおかしい。
鋼鉄の5倍の強度を持ち、重さは鋼鉄の5分の1と軽量。さらにアラミド繊維並みの高弾性。温度変化による伸縮が少ない低熱膨張と寸法安定性、高い透明性を持つ高性能素材。
ぶっちゃけ中世ファンタジー世界に投入してはいけないファッキンチートである。
アラミド繊維は防弾チョッキに使用されたりしていると言えばヤバさが伝わるだろうか。
CNFの欠点は、ナノスケールまで繊維をほぐすための機械処理が必要で、製造コストが高いこと。しかし生きるか死ぬかのこの世界において、製造コストの高さなどどうでもいい。
さて、栗結パイセンと織津江パイセンが異世界転移した『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』は、2017年からの連載だった。
ゆえに彼らが転移したのもその時期だったと仮定する。
技術は進化する。パイセン達が転移した後の2023年、セルロースナノファイバーを原料にした新材料に関する論文が発表された。セルロースの結晶相転移現象を利用して作る、従来にない強い三次元構造を持つセルロース「多孔質ゲル」。
セルロースナノファイバーがCNFなら、多孔質ゲルはTKGでいいよね、と僕は思った。
日本原子力研究開発機構・物質科学研究センターをはじめ、多孔質ゲルの開発に関与した多くの研究者が聞いたら激怒しかねないが、
凍結によりセルロースの結晶構造が相転移して高強度化し、氷が溶けた後も維持される。
強度と弾性が強化されたセルロースナノファイバー、
凍らせるのは『革命』の車
水酸化ナトリウムは、水酸化カルシウム(消石灰)と炭酸ナトリウムの複分解反応、つまり二つの水溶液を混ぜればいい。
ジャン君は生石灰ほかほかチートを使っていたが、消石灰はそのチート後に生まれる。つまり生石灰に水を加えて発熱した後にできるものが水酸化カルシウム。
炭酸ナトリウムは織津江パイセンお得意のソルベー法で塩水から作っても良かったが、それは暗黒大陸の港付近の土地を押さえるまで我慢する。
海水に浸るような区域で生育した植物はナトリウムを豊富に含んでいるため、塩生植物と呼ばれている。人は売れるものなら何でも売るので、塩生植物すら『革命』で入手可能だった。この塩生植物を燃やして得た灰が炭酸ナトリウム。炭酸ナトリウムはアルカリ性が強いので取り扱いに注意だが、ファクチスで作ったゴム手袋もある。
クエン酸はレモンから抽出可能だ。幼い頃の僕がグラスちゃんにレモン飴をプレゼントしたが、アイダ領はレモンがとれる。レモン果汁と炭酸カルシウムがあれば、クエン酸の結晶を抽出できる。生石灰を作るには石灰岩を900℃前後で加熱する必要があるが、その材料となる石灰岩が炭酸カルシウム。
……つまり、出来てしまうのだ。
この異世界でも、セルロースナノファイバーより強い
この世界の創世神が、セルロースナノファイバー警察を皆殺しにしているだろうし、それなら多孔質ゲル警察も皆殺しにしてくれるんじゃ?
それぐらいにこの世界のCNFは加護を得ている。創世神お気に入りのブツである。
いけるいける! 行けるはず! やっちゃおう、
そして、僕は試作品として
『強度と弾性が強化されたセルロースナノファイバー』って響き……いいよね。
僕は肩当てと胸甲の他は貴族礼服の軽装姿に見えるが、服の裏地はCNFだし、グローブはTKGなので、実はめちゃくちゃ防御力が高い。
わりと直前まで、僕は当世具足姿となって栗結パイセンと織津江パイセンと似た格好でひゃっほいしたかったし、実際に研究もさせていた。戦国時代的甲冑姿なら
でも、ファンタジー世界観のゲームキャラが着ているようなデザイン優先の格好いい軽装鎧がさ。実は最新技術の投入により、重装鎧並の防御力を誇っているとしたら、どうだろう?
ジャン君の全身赤甲冑や、パイセン達の当世具足系鎧姿は超格好いい、それはわかる。
でも、デザイン優先のなんちゃって鎧なのに実際はプレートアーマー以上の防御力。
つまり趣味デザインと最高性能の両立とか、右脇腹の浪漫回路がきゅんきゅんしない?
僕が前世で敬愛していた眼鏡スキー漫画家「小野寺浩二先生」も右脇腹の浪漫回路について熱く語っておられた。
なお、僕が今世でグラスちゃんとの婚約を速攻で承諾したのは、このふかダン世界においてネームド眼鏡っ娘がグラスちゃんしかおらず、僕が前世で「小野寺浩二先生」と「西川魯介先生」を敬愛していたから、とかそういう理由は、あったかもしれない。
離せ! 僕は正常だ! 眼鏡っ娘が好きで何が悪いッ! 僕は正常なんだッ!
* * *
モーブ男爵令息にフルボッコにされたクコロ嬢を助けたあの日のように、僕は剣術の授業のたびに相手にわざと攻撃させて、ギリギリで回避する訓練をしていた。
これもYoutube検索で簡単に見られるが、相手の攻撃を大きく躱すのではなく、ギリギリで回避しながら相手に近づく鍛錬、というのはとても大事なわけで。
例えばジークンドーなら、相手の拳打に自分の額や頬をこすらせるようなレベルで回避する鍛錬が日常風景だ。
雷光流の鍛錬の一つとして定めた
情報を得ようとする鍛錬を重ねることで非接触対象、つまり周囲の空間そのものの情報を得られるようにするのも目的だ。
その上で、ゴブリンが
……ならばやってみよう。この感覚に身を任せる。
僕は僕に向かって飛んできた二本の矢を、一本は左の肩当てをかすらせるように回避し、もう一本は矢の先端に右手グローブの掌を添えるように軽く持ち上げて逸らした。
二本の矢が、僕の身体をすり抜けるように後ろに抜けていったと第三者には見えたはずだ。
「……灘神影流……ンンッ! 雷光流、『弾丸すべり』」
僕は慌てて言い直す。
そんな僕を知ったことかとばかりに、怒りの形相のオークが盾を構えて
宝蔵院流槍術は、槍を使って自分を中心とした円錐を相手に広げて攻防する技術だ。
僕は左手で握っていた十文字槍に改めて右手を添え、槍を両手で持ち上げ、額の前に構えた。
槍の先端が少しだけ下がったこの構えを、「冠」という。
槍ごと切断しようと迫る
オークは馬鹿なガキだと笑う。受け止められるわけがない。
上下に分断された哀れな僕のできあがりだ。
……いや、いや。受け止めるわけがないでしょう。
すると円錐の力で
腕力による力業ではなく、構造の原理。そのまま僕は右手を巻いて腰まで下げる。
自然に左手も下がり、結果として槍が回って下がる。
螺旋の力と重力が加わり、槍が
オークの剛力で握られているはずの
宝蔵院流槍術「
オークは
流れの中で、僕はそのままオークの首を十文字槍で突く。
手練れのオークは、頭を横にずらすことで槍を避け、回避する。
首ではなく、オークの右耳に切れ目が入った。オークは止まらない!
「オオオオオオオッ!」
オークが叫びながら盾を僕に叩きつけようとしたその瞬間、僕は槍を引いた。
十文字槍の槍の穂の両側にある刃が、オークの首の後ろを切り裂きながら固い骨に引っかかる。
首を切断できなければ意味が無い?
仮に頸動脈を切れてもオークは問答無用で僕を盾で撲殺する?
創世神が何度も主張する「即時無力化」に失敗した僕の敗北?
いいや違うねっ!
十字刃の本当の使い方は、こうさ!
……あった! 掴んだ!
どれだけ体格差があろうとも!
どれだけ筋力差があろうとも!
どれだけお前の方が種族として優れていようとも!
十文字槍を引くことで、十字刃と首の骨を経由し、オークの首関節と腰関節と
僕は運足でオークの横に回り、オークの右肘を踏みつけながら十文字槍をオークの首と後頭部に添えて。十字勁と沈墜勁で頭に槍を突き入れ、纏絲勁で捻りながら槍を引き抜き、ついでに右腕の筋を切り裂いてから残心をする。
「マジカル、ファイアーッ!」
アイリスの声が聞こえてくる。
突進してくるオークに対し、まるでファイアードラゴンのブレスがごとく、大量の炎が襲いかかった。
『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』において、デーモン「白い歯」がおこなっていた魔術と仕組みは同じ。
アイリスが背中に背負っているバックパックに燃料と圧縮空気(200気圧さんの研究途上の試作品)が入っており、チューブを通じてラケットメイス改と繋がっている。
ラケットメイスはレバー操作で可変してレイジングハート……じゃない、
そう、火炎放射器。
禁忌じゃないんだよねコレ。
ナフサも灯油も気軽に入手できるし。
武装を手放し、顔を押さえながら絶叫して悶絶するオーク。
セスレとクコロがすかさず前に出て、それぞれオークの膝裏を切り、倒れたオークの急所を的確に斬っていく。
火炎放射の被害に加えてロングソードに切り刻まれ、オークは絶命した。
動揺したゴブリンが姿を現してしまい、超反応したバーチェとバトさんがしゅこんと弓を撃つ。その一発ずつで、ゴブリンは死んだ。
「……なによ、マジカルファイアーって」
セスレが呆れる。僕は真面目に答える。
「あえて叫ぶことで、仲間を巻き込まないよう注意喚起をしてるんだ」
今度、アタッチメントでラケットメイス改に小型ボーラ・シューター機能を追加できるようにして「バインド」とか言わせよう、そうしよう。
しゅこん。
バーチェが無慈悲にコンパウンドボウを放ち、逃げだそうとしたゴブリンの妊婦――子供を抱いている――の頭を射貫く。
バトさんも
「ああ。そうだね……駆除をしないと」
駆除する必要は、無いと言えば無いのだけれど。
駆除しておかないと、コマクサの花を採りに行けないし。
さらに言うなら、将来の僕がハーベラ領を継ぐのであれば、なおのこと駄目だ。
「
ゴブリンの幼体、つまり子供が泣き始める。
バトさんは矢を放ちながら、呟く。
「なに言うとるのか、わからんわ」
「やだ、と言っています」
バーチェが同じように矢を放ちながら答える。
「
ゴブリンの子供とはいえ、その姿は人間に近い。
矢に射られ、死んでしまった母親に抱きしめられながらゴブリンの男の子が泣き叫ぶ。
そんな二人を気にすることなく、
僕は優しく、泣き叫ぶゴブリンの男の子に声をかけてあげる。
「
バトさんとバーチェがひそひそ会話する。
「なんて?」
「大丈夫、怖くないよ、と」
震えて泣き叫んでいたゴブリンの男の子が、僕の言葉に驚く。
僕は微笑んで、彼の頭を撫でる。
涙を流しながらも、それでも彼はきょとんとして僕を見つめる。
僕は彼の頭を撫でながら、笑顔で告げた。
「
大丈夫、怖くないよ。ママ達のところに、行くだけだよ。
僕はいつかハルピュイアにしたように、彼の頭をありえない角度に優しく曲げてあげた。