ふかふかダンジョンでエンジョイ&エキサイティング! 作:RAP
無事に資本金を得て、ようやく事業に手をつけられそうなユーリ・アイダ・ハサマール子爵令息です。やったね、内政チートタイムのはじまりだよ!
やりたいことは沢山あるんだけど、技術ツリーとか禁忌のことをしっかり考えないといけない。
絶対に必要なのはなにか、あると助かるものはなにか、やりすぎてはいけないのは何か。
技術と戦術の進化は、互いの悪意と死者を増幅させていく。戦国時代に転生した人が、硝石生産チートまでならまだしも、そこを超えてミニエー弾やライフリング概念まで時計の針を進めてしまったとしたら? 生きてさえいれば国力の一端に戻せたはずの怪我人すら皆殺しになって、男性人口はどんどん減っていき、やがて男女比が狂った貞操逆転世界になって薄い本が厚くなるってノクターンとFANZAさんが言ってた。僕は詳しいんだ。
栗結パイセンも、技術を加速させすぎて「ゆがみ」が起こらないようにすると言っていて……ん? 一切自重してないよねパイセン達? あれ?
栗結パイセンのリピットとリピラス、そして織津江パイセンの圧縮空気ボンベ系技術ツリー武装は、どれもバランスブレイカーだ。
いつかは着手し、存在ごと秘匿しておくことになるけれど、これらの特許なんて絶対に取らないし、取る気もない。特許は独占ではなく、広めるためのシステムなのだ。
特許による技術公開の加減をミスったら、光の速さで王族や聖教会がでしゃばってきて、面倒くさい流れになる可能性は高い。種の存続を賭けた絶滅戦争でやらかすのはいつだって身内なんだ。
ねぇ、なんで亜人を皆殺しにしようとしたの? バカなの? 死ぬの?
頭にクソの詰まった人類指導者側と違い、亜人側はとても仲良しなので、列車による物資輸送だの、連弩戦車だの、創世神の加護とか愛情をこれでもかと注入されて、ひたすらにやりたい放題で技術時計を回してる。
だから、仮に人類側について亜人と全力で戦うと決意した場合、織津江パイセンっぽく「まったく……一切加減してやれないじゃないですか」と暗黒微笑でリミッターを外す必要がある。
よーし、地対空全自動迎撃システム・ファランクスCIWSでハルピュイアを皆殺しにしてから、オーク帝国にツァーリ・ボンバかまそうぜ! 人類側のS勝利! やったね! 第三部完!
『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日記』にはハーバー・ボッシュ法も可能だと書いてある。自分の知識レベルでは「ま……まぁ、あんたほどの実力者がそういうのなら……」と言うしかない。耐熱レンガを作るのに耐熱レンガが必要になるという内政チートあるあるを乗り超えたとしても、一般的な中世ファンタジーの技術レベルで20メガパスカル(約200気圧)に挑むのは、もぅマヂ無理とか言いたくなるギャル語案件だ。
仮に高圧に耐えられる金属ケースを作れたとして、隙間を埋めるシール技術はどうすれば? シリコンシーリングとか無理ですわよ? 作中屈指のチート素材ことセルロースナノファイバーさんに頼めば全部なんとかしてくれる?
うーん、せめて硫黄と出会えれば突破口を開けるかもしれんけど……火山どこ?
ハーバー・ボッシュ法に無理に手を出さなかったとしても、対ドラゴンや対国家を想定した作中最強、圧縮空気ボンベ系技術ツリー武装は200気圧さんの向こう側にある。
だから最終的にはどうしたって200気圧さんの壁を乗り越えないといけない。
「何ができるんだ?」「割と『何もかも』です」って織津江パイセン達が会話しているように、圧縮空気ボンベは禁忌さんを陵辱レイプしてアヘ顔ダブルピースさせる技術ツリー。
日本の工業高校の高校生が、圧縮空気だけで走る次世代エンジン搭載バイクを作り出した逸話がある。国交省の許可を得て公道まで走れる。空気圧でピストンを動かしているから、「蒸気の水車」にも「燃える水の水車」にも該当しない疑惑。禁忌さんのアナルはガバガバである。
200気圧さんにはソルベー法が絡む以上、塩の確保問題をクリアしないといけない。残念なことに、アイダ領には海がない。輸入強化? 買い占め? 金が足りない。
日本人が異世界に絡むと、大豆があるなら味噌や醤油だよねーっていうのが標準だけど、両方とも塩が必要になるから、輸送の弱い内陸部ではどうしたって小規模展開になる。
なかなかうまくいかないね。焦らずいこう。
禁忌さんのアナルといえば、亜人側は原油を蒸留してナフサ精製からのナパーム的なやつを、原作でやらかしてる。
ナフサ精製は「燃える水の水車」には該当しない。あの世界観で、亜人達は何故禁忌さんを研究しようと思ったのだろうか? サイエンが踏み込んだのか? ここは闇深案件の1つ。
原作では「原始的な蒸留」ってさらっと流しているけれど、精製の温度管理は非常に難しいのに、精密な温度計を作るのは不可能であるからして、沸点の近い成分(ガソリン、ナフサ、灯油、軽油など)を細かく分離することはできないはず。
沸点の低い軽質な成分(より燃えやすい油)と、沸点の高い重質な成分(粘り気のあるタール状のもの)を大まかに分離する程度が関の山か? ふわっとナフサ概念。
ナフサ精製からのナパームは、亜人達の対戦車戦や、ドラゴン戦を考慮すると絶対欲しい。
問題は、禁忌の燃える水であるからして、疑わしきは罰せよ。国に見つかるとヤバい。
でもやっぱ抜け道があるんですねえ!
魔王国に商談を持ちかけた商人が禁忌について詳しく知らなかったように、禁忌は禁忌だからこそ、心理的にはみんな近寄りたくないし考えることすらしたくない。投獄や死刑すら絡んでくるからなおさらだ。
結果、どうなるかというと……臭い物には蓋とばかりに、極めて扱いは雑になる。黒い水が湧き出てくる土地は「穢れている」から禁足地扱い。
封印して近寄れないようにと、壁で覆って放置されていることも多い。
ただでさえ人が近づかないから、夜中の隠密行動でサクッと収集できそうなぐらいにはガバい。
水車はある程度必要になるが、人類側と亜人側のどちらにつくのか本気で決めたあとならともかく、そうでないのなら無理して数を揃える必要は無い。
織津江パイセンは200人以下の規模で水車50台とかやってるけれど、あれは魔王国の発展と開拓を全力でやっているからこそだ。中央大陸で同じ事をやろうとすると、必然的に亜人や魔物連中との遭遇確率が増えてしまう。中央大陸から人類以外が一掃されてないから、油断はできないのだ。
最低限必要なのは、水車旋盤と、セルロースナノファイバー作成用の水力キャビテーション微粉砕機ぐらい……か?
水車よりは、竹林大明神を崇める神社を建立したい。竹はチート。戦略物資級だ。
そういえば、石鹸チートは以前に転生した人が着手したのか、粗雑なものとはいえ既に市場にある。上質な石鹸にはオリーブオイルとか必要になってくるし手間もかかるしローリターンだから、石鹸関係は忘れて良さそう。
マヨネーズ? あれは日本人の偏執的な養鶏技術と衛生管理と輸送システムの上に成り立っている。ドラクエのキアリー的な毒消し魔法があればまだともかく、手を出すわけがない。
とにかく、歯車を回すにあたり、三段階に分けて進めたい。
1、規模を大きくするために、最小のリスクでお金を回し始める時期。
2、開発費と開発期間が相応に必要だがリターンが大きいものに着手する時期。
3、黙っててもお金が入ってくるからガンガン使って経済を回しつつやりたい放題する時期。
将来的にどう動くかの判断は暗黒大陸で決めることになるが、暗黒大陸に行く以上、亜人や魔物、
・開拓城壁都市アイギス内で店舗や住居用の土地を購入する。
・アイギス最寄りの港周辺の土地を大量に買う。可能なら川沿い。
・原油が湧き出る場所をどうにかして見つけ、確保する
暗黒大陸に行く前から、土地関連は仕込んでおきたい。
ハサマール商会の名を使って、開拓城壁都市アイギスの発展と防衛に全力で寄与するための投資ですうんたらかんたら。全力で口八丁手八丁するし、賄賂……じゃなくて、寄付もしちゃうよ?
積もう……ヒジの高さまで(福本伸行顔)
* * *
その空いた時間を、僕はいま、全て執筆作業に費やしていた。グラスちゃんとの茶会も、こっち(ハサマール邸)まで来て貰ってる。
まだ子供だから睡眠時間が大事なのはわかってるんだけど、念願の内政チート案練り練りに興奮しちゃって、気がついたら徹夜していたとか色々やらかしちゃってる。
僕の部屋の床中に、丸めてポイした沢山の紙が落ちている。本来なら即座に掃除されてしまうヤツだけど、個人的な気分の問題ですぐに掃除せず、1日の終わりにまとめて掃除してくれと指示してあるから、とにかくまぁ、部屋中がぐちゃぐちゃだ。
だからアイリスもバーチェも、困り顔で待機している。
僕は机に向かって一心不乱、ただひたすらにペンを走らせていた。机の上の脇には、書類の束が複数の塔をなすがごとく積まれている。
ストレス。ストレスが溜まる。
中世ファンタジー異世界において大量のプレゼン書類を、しかも全く同じものを複数用意する単純行為の苦行! 機密レベルMAXの書類でさえなければ、人海戦術で手伝って貰えるのに!
全てがヤバい書類だから、全部僕がやらないといけない! むぎゃおー!
「せいぞーーーーん、せんりゃくぅぅーーーーーーーー!」
僕は両手を広げて大声で叫ぶ。勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに倒れる。
アイリスはびくっと震える。最近のアイリスは僕に少し怯えている。
のしのしと僕は部屋の窓まで歩き、カーテンごと勢いよく窓を開けた。
パソコンと!
書類製作ソフトと!
スキャナーと!
画像修正ソフトと!
コピー機と!
冷たい炭酸飲料が!
欲しい!
「イマーーーージーーーーーーーン!」
外に向かって叫ぶ! 僕のストレスはMAXだ!
うおお! 必要だからといって! 限度があるわ! ざっけんな!
ふにゅっと、後頭部に柔らかい感触。
柔らかな両腕が、僕を優しく抱きしめた。
「……ユーリ様。大丈夫です。大丈夫ですよ……」
なにが大丈夫なのかよくわからないが、慈愛に満ちた声で僕を後ろから優しく抱きしめる聖母バーチェがそこにいた。ふにゅん。
窓の向こう、庭園で仕事をしていた庭師が僕達を微笑ましい目で見ている。
「ゆっ、ユーリ様! 新しい紅茶をお持ちします!」
ポットを抱えたアイリスが、慌てて部屋を出て行く。
僕は聖母バーチェに包まれたまま、窓から見える中央大陸の景色をぼんやり眺めていた。
上下水道とかもそうだけどさぁ……やっぱさぁ……。
たまにコーラとかさぁ……コンソメ味のポテチとかさぁ!
味噌はまだ我慢できる。醤油、醤油が欲しい……。
多くの異世界モノで食事チートに走る主人公の気持ちがわかってきた。
僕はバーチェの両腕を包むように腕を回し、おっぱい、じゃない、聖母バーチェに身を預けた。
そよ風が、カーテンを揺らす。包まれて、落ち着いて、癒やされる。
落ち着きと同時に、怒りにも似た強い意志を取り戻した。
いらついている? ……ああ、ずっといらついていたのか、僕は。
「離すものか。逃がすものか。アイリスも、バーチェも。……僕のものだ」
僕を包む聖母の腕に、力が籠もるのがわかった。