「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
お客様は、ケイとユウヤです
【うららかな午後】
静かな午後の空気を、カフェの店内がゆっくり吸い込んでいく。
ランチのピークは既に終わり、皿の音も注文の声も、すっかり影を潜めている。
にぎわっていたテーブルは、まるで「お疲れさま」と言っているみたいに整然と並んでいる。
カウンターの奥でクロスを畳む店員の俺は、ふと肩の力が抜けるのを感じた。
エスプレッソマシンの金属が、熱の余韻で「ピシッ」と小さく鳴る。
冷蔵庫のモーター音が、やけに存在感を主張してくる。
普段なら気にも留めない音が、この時間帯だけは妙に耳に残る。
「……今日は、誰も長居しないんだな」
常連のあの人も、ノートPCを広げて居座る学生も、昼下がりの読書家も、井戸端会議のマダムたちも来ない。
静かすぎて、逆に落ち着かない。
手持ち無沙汰になった俺は、カウンターを磨き直したり、ミルの中の豆を軽く混ぜたり、いつか来る準備の動きを繰り返す。
「こういう時間も悪くないけどさ」
血気盛んな性格のせいで、じっとしているとソワソワしてしまう。
でも、誠実に仕事をした後の静けさは、どこか満たされているような気もする。
窓の外では、閑静な住宅街のゆったりした午後が流れている。
犬の散歩、買い物帰りの主婦、自転車のブレーキ音。
その全部が、店内の静けさと混ざり合って、妙に心地よい。
マスターはこの時間を在庫と帳簿の確認に充て、厨房担当は食器と調理器具の洗い物を終えて一休みの時間を過ごしている。
時計を見る。
針はゆっくりと、けれど確実に進んでいる。
この静けさがあとどれだけ続くのかはわからない。
扉のベルが鳴るその瞬間まで、この穏やかな空気を味わっておこう。
「よし、もう一回カウンター磨くか」
暇を持て余しながらも、どこか満足げに、俺はクロスを手に取った。
【来客】
静けさに包まれた店内で、扉のベルがひとつだけ澄んだ音を立てた。
その瞬間、俺は反射的に顔を上げる。暇を持て余していたせいで、ちょっとした物音でもやけに敏感になる。
入ってきたのは近所の少女。
彼女は普段から控えめで、声も小さくて、かわいらしくも儚げさは庇護欲と嗜虐心を煽ってしまう感じの娘だった──が、今日はその揺れ方が違う。
力なく肩がすぼまり、歩幅がいつもより小さくため息が深い。
視線は伏せながら落ち着きがなく、まるでこれから厳しい面接や裁判に呼ばれるような、余裕のない緊張が滲んでいた。
「……あれ、今日はずいぶん………」
つい、声をかけようとしたが、その気配に押されて言葉が喉で止まる。
彼女は俺に気づいたものの、小さく会釈するだけで、すぐにふらりと店の奥へ向かう。
店の奥まったテーブル───他の席からは死角になっていて、人目を気にするタイプにはちょうどいい場所。
彼女は、迷うことなくそこに腰を下ろす。
まるで「ここなら大丈夫」と自分に言い聞かせているみたいに。
椅子に座ったあとも、両手を膝の上でぎゅっと握りしめ、指先がわずかに震えているのが見えてしまう。
俺はカウンター越しにそっと様子を見ながら、胸の奥が少しざわつく。
「……なんかあったのか? いや、詮索はよくないけど……あの感じは、放っておけないよな」
困ってる人を見るとつい動きたくなる。
でも、彼女は。そっとしておく優しさを必要としてる気もする。
さっきまで穏やかだった店内に、彼女の緊張だけがぽつんと落ちて、空気の温度が変わった気がした。
さて──どうするか。
帳簿を見ながらのマスターが差し出すメニュー。
そうだ、そうだよ。俺はカフェの店員じゃないか、なに勝手に心配しているんだ。
まずは注文だろ。
俺は水で満たされたグラスとメニューと共にテーブルに向かった。
【注文と回想】
「オムライス一丁入りまーす」
注文はオムライス。
厨房にオーダーを告げ、添えるスープの準備をしながら、彼女が初めてこの店に来た日のことを思い出す。
あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。
扉のベルが鳴って振り向いたら、そこに立っていたのは──まるで外の世界に慣れていない小動物みたいな女の子だった。
パジャマのまま。もこもこのルームガウン。髪は乱れ、目に隈が濃く張り付き不安で揺れている。靴はちゃんと履いていたけど、部屋からそのまま出てきましたという格好。
店内の空気に触れるだけで怯えてしまいそうだった。
そして後で知ったのだが、近所でひきこもりをしている少女だということを。
(……大丈夫か、この子)
正直、最初はそう思った。
そして無防備にも、パジャマの布地に隠しきれない巨乳と、太い腿の肉感な色気。
悪い奴の餌食になるのではないかと、心配と素直な欲情が股間に直撃してしまう。
理性と保護的な気持ちで押さえつけたのは、我ながら見事だった。
でも、席に座り、震える手でコーヒーを口に運んで、ゆっくりと息を吐いた瞬間──
ああ、この子は、外に出るというだけで、とんでもない勇気を振り絞ってるんだな、とわかった。
それから何度か来店するうちに、彼女の服装は少しずつ外出用になっていった。
最初はスウェット。次はワンピース。その次は、季節に合わせたちゃんとしたコーディネート。
そしてある日、彼女は二人の同世代であろう若い子を連れてきた。
小柄で色白の男の子。長身で褐色肌の女の子。
三人で席に座り、ぎこちないながらも笑い合っていた。
誰かと自然に会話している姿を見た時、胸の奥がじんわり温かくなった。
(…………ああ、この子、ひきこもりから抜け出したんだな)
そう思った。
店員としての距離感は守りつつも、人として、なんだか誇らしい気持ちになった。
そんな彼女が、引きこもっていた時以上に、揺らぎ震えているのを感じる。何かを抱えている。
外の世界は魑魅魍魎だ、そして人と接していく。何かあったには違いない。
だが……俺はカフェの店員だ、焦らせてはいけない。
いつもの味を、いつものように出すだけだ。
トレイにオムライスとスープを並べ、テーブルに運び給仕する。いつものごとく、いつものように。
彼女の心が少しでも休まるように。
【次の客そして指定席の秘密】
扉のベルが控えめに鳴る。
生白い肌で、一瞬女の子かと見まごう顔立ち。背丈は彼女と同じくらいの男子としては小柄な方。
それでいて、やや剣呑な雰囲気を持ちながらも、彼女には優しく接している彼だが……いつもの落ち着いた雰囲気とは違っていた。
冷静さを装っているが、その奥に張りつめた緊張が見える。
肩の力の入り方、歩幅の硬さ、視線の揺れなさ。
(今日は、ただの友達って顔じゃないな)
俺の見立てでは、二人は、男友達以上恋人未満の距離感。
だが今日の彼は、その曖昧な関係を抱えたまま、何か覚悟を決めて来たように見えた。
彼は迷わず、店の奥──彼女の指定席へ向かう。
「待たせた?」
「ううん……」
彼が椅子を引く音が、静かな店内にやけに大きく響く。
彼女は小さく首を振る。声はか細く、まるで息の一部みたいに弱い。
二人の間に沈黙が落ちる。
会話が弾まない。いや、弾ませる余裕がないのだろうと俺は思う。
空になった皿を下げに行き、軽く会釈して席を離れようとすると新たな注文だ。
「珈琲を……ハンドドリップの深煎り。あと、追加湯できるケトルも。カップは二つで」
長居する気満々の注文だ。あのIHヒーター付きのケトルは、腰を据えて話す客がよく頼む。
続いて、彼女が小さく声を上げる。
「……ミックスサンド…………大きいバスケットの方で……………」
複数人用の、あれだ。一人で食べる量じゃない。話しながらつまむための注文。
(これは、長く深い話になる)
俺は心の中でそう呟いた。
トレイを持ってカウンターへ戻ると、ふと、あの席の位置を思い出す。
確かに、他のテーブルからは死角になっていて、注目されない。
彼女が安心して座れる場所だ。
だが──
カウンターには、声が届いてしまう。
店の構造上、あの席だけは、店員には漏れ聞こえてしまうのだ。
もちろん聞き耳を立てるつもりはない。ないのだ。
ただ、あの二人の声は微かに、静かな店内では自然と耳に届いてしまう。
(大丈夫か、あの子)
二人の沈黙が重く落ちていた。
俺はカウンター越しに、そっと二人の様子を見守るのと、耳に入ってしまうのをそのままにした。
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