「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
まずはアキラとアヤから
【朝:アキラ・アヤ/大八車】
入寮日である。
朝早くから暖かな風が吹き抜ける中、ひときわ目立つ二人組。
アキラの引く大八車。
その上に積まれた引っ越し荷物と、妙に存在感のある、手作りの小さなタンス。
引き出しは二つしかなく、武骨な表面にかわいらしいシールが無造作にペタペタと貼られ、かなり幼いころから使い込まれた年数を感じさせている。
そして──タンスの横に、当然のように仁王立ちで揺れているアヤの姿。
二人の家は通う学園からも近く、サクラ寮では家具や生活用品も十分に充実しているため、思っていたより実家から持ち出す荷物は少ない。
衣類は。下着、靴下、Tシャツ、部屋着、制服、私服、寝間着、アウターをとりあえずとして、大きめのスーツケースになんとか収まる量。
洗面・身だしなみ用品も、自分が使用していたものだけなら、そうかさばらない。
個人的に必要なものも、ちゃんと選べれば段ボール箱ひとつあれば十分であろう。
寝具は寮に備えられているため、どうしても必要な人は枕を持ち込むくらいか。
寮には家具も家電も揃っているならば、これだけで本当に生活できるのか?
そんな不安と期待が入り混じるが、足りないならば実家にまた取りに行って補充すればいい。
大概は住めば都。住んだところ中心に活動してゆくものだ。
とにかく大八車での引っ越しは、学校周辺であるからには、通りすがりの一般生徒の目につくわけで。
生徒たちは足を止め、ひそひそと囁き合う。
「えっ? 大八車……? あれって夜逃げ? 家から追い出されたってやつ?」
「いやもう朝だろ、雰囲気ちげーよ」
「ああ、噂になっていた新しく作った寮に、入るってやつら」
「ていうか、あのタンス手作り? なんか味あるな。微妙に重そうだし」
「家が近いって聞いたけどよう、荷物載せて大八車で歩いてくるのってすげーよな」
「しかしその………」
「乗るんだ……荷物だけじゃなくて彼女も……」
一般生徒たちの視線が、荷台に立つアヤに視線が向いてしまう。
「ていうか彼女、なんで乗せてんの? 運んでる? 荷物? 略奪品? 戦利品? 嫁入り?」
「いや、ありゃあ乗せてるんじゃなくて、乗ってるんだよ。自分から」
「………強い」
「なんか……あの二人、仲良くない……?」
「あの子ら幼なじみらしいよ」
「幼なじみで大八車、なんか青春だな」
「どういう青春だよ」
「ていうか彼女、めっちゃ楽しそうじゃん」
「タンスと共に去りぬ……だな」
大八車を引くアキラは、汗を拭いながらもどこか誇らしげで。
乗っているアヤは、まるで王の帰還のごとく堂々としている。
逆に妙な説得力を生んでいた。
一般生徒達の空気は、驚きと笑いと、ほんの少しの羨望が混ざっていた。
【入寮裏事情噂】
「それにまあさあ、新しく寮制度の発足に伴って、事前にモニターとして在校生から選抜して寮生活させるという話だけどさ~」
「まあ集めてるメンバーがメンバーだもんな」
表立っては、寮制度のテストモニターとして、生徒から選抜して寮生活を行ってもらうだが。
裏で流れている噂では、学園内でなにかしら問題のある生徒を、寮に入れて監視するとの話が流れている。
ユウヤとヒナタはいじめを行っているグループへの抑止力になっているが。
表面的には不良のツートップであるし。ケイとマリアを庇護しているが、取り巻きと見られている。
アキラとアヤ、そしてリサの三人は、学校のイベントでとにかく目立つ。
悪目立ちが過ぎると言ってもいい。
「たとえば、知っとるか? 去年の体育祭?」
「ああ、男女混合騎馬戦バトルロイヤルだろ?」
「あらためて考えると、とんでもない競技だな」
「それでアキラが馬、アヤが騎手ってやつなんだが───」
回想
「男女混合騎馬戦! 馬を努めるアキラ君に複数の騎馬が襲い掛かるも、びくともしません!! なんというフィジカル! なんという体幹! 逆にぶつかってきた騎馬を引き潰す勢いはまるで蒸気機関車!! しかもこの機関車は絶対、石炭を燃料にしていないぞ! 稼働しているのは禁断の核動力! だれだ! こいつに、ニュートロン・ジャーマー・キャンセラーを搭載したのわ~~~~!!」
「そしてぇ騎手としてハチマキを奪い取る戦乙女アヤ! 情け容赦ない略奪! 騎馬の上で風を切るように立ち上がり、ハチマキを狙って一直線に突っ込んでゆくぅぅ!! なんという姿勢ッ!! なんというバランス感覚ッ!! 躍動するポニーテールゥゥゥゥ!! まるで落ちるという概念を知らないッ!! すれ違いざまの一閃で奪うさまはもはや狩りだぁ!」
「しかしぃ! この騎馬戦はバトルロイヤル! あっという間に包囲された! 笑ってる、彼女は笑ってるぞ! アキラの肩に足をかけてぇ跳んだぁぁ! 騎馬戦で跳んだ! 審判も困っているっ! 相手の騎馬に飛びつきハチマキを強奪! そして海賊船が接舷するかの如く騎馬のアキラがぶちかましアヤを回収する空母接舷戦法! だれかぁぁこいつらを止めろぉぉぉぉ!! どうしましょうか、解説のリサさん?」
「さすがはあの二人だわ………ふふふふふ………」
「今年からあの二人は出場禁止だそうだ」
「さもありなん」
「後ろ馬していた二人は『あの二人について行けた』ということで、次回の前馬候補として人気あるみたいだし」
「それ以外でもさ。文化祭では、模擬店でのアキラとアヤの集客パフォーマンスに、リサの接客が話題をかっさらい。他のクラスが営業妨害と抗議が殺到」
「避難訓練にて、アキラが負傷者役を複数救助搬送を速やかに行い。アヤの誘導指示の的確なリーダーシップ。リサの救護負傷処置が、レベルの高い掌握っぷり」
「校内マラソンは、アヤのぶっちぎり独走の持久力。アキラの脱落しそうな生徒たちに並走しての応援伴走を各所で。リサの救護が必要な生徒の見極め申告」
「校外学習の博物館見学で、展示物の歴史背景の説明や、ガイドの説明の補足───というより訂正だったよなありゃ。ガイドさん凹んで最後泣いてたぞ」
「嫌な気持ちにはならんけど、一部だが鼻についている人間がいるのは確かだし。やっかみや逆恨みレベルだけどよ」
「目立つよなあ、目立ちすぎる。そして悪目立ちも十分すぎるほどしている」
「そして男一人に女二人の三人組に。最近はカリスマギャルまで加入しているという話だし、アキラ爆発しろ」
「もう既に三人ともアキラの女って噂だぜ、凄くて20センチでメロメロって話だ」
「それ考えれば、学校も隔離して監視下に置きたいってのも判るよな~」
「でも……なんかいいよな、ああいうの」
大八車の軋む音が、ぎしぎしと勇ましく聞こえるのは気のせいか。
無神経で無作法な噂が飛び交うが、悪意よりも好意が勝るのは、アキラとアヤの人柄と人徳であろう。
朝の夜逃げみたいな、アキラとアヤの入寮に向かう風景は。
しばらくの間、いちばんの話題になった。
【思い出箪笥】
大八車の車輪がぎしぎしと鳴り、さわやかな風が二人の間をすり抜けていく。
アキラは取っ手を握りしめ、汗をぬぐいながら聞く。
「にしてもさ。ほんとにこれ持ってくの? このタンスのために大八車借りたんだぞ」
荷台の上で立っているアヤは、ぷいっと横を向いた。
「べ、別にいいでしょ。私の荷物なんだから」
「いや、荷物っていうか。これ、俺が小学生の時に作ったやつだろ。引き出し二段しかないし、シールべたべた貼ってあるし……今となってはさすがに小さくないか?」
アヤは一瞬だけ肩をびくっとさせ、すぐにツンと顎を上げる。
「そ、そういうこと聞かないの! 大事なの! 以上!」
「いや、理由くらい──」
「聞くなって言ってるでしょ!!」
アヤは顔を真っ赤にして怒鳴ったが、その声はどこか照れを含んでいる。
アキラは苦笑しながら歩みを続ける。
「まあ、いいけどさ。そんなに大事なら、持っていけばいいよ。俺も………嬉しいしさ」
「だって……アキラが初めてくれた誕生日プレゼントでしょ。不格好でも……小さくても……わたしには一番大事なの」
アヤはタンスの横で膝を抱え座り、小さく呟く。
アキラは思わず振り返りそうになったが、照れ隠しのように前を向いたまま言う。
「そっか。そんなふうに思ってくれてるならさ、作った甲斐あったな」
アヤはさらに顔を赤くし、タンスの引き出しが間違っても飛び出ないようにとそっと押さつけてしまう。
(本当は……ここにあの時のために用意してた、大事なものも入ってるなんて……絶対言えないわよ……)
アキラは気づかず、大八車を引きながら笑った。
「にしても、タンスの中身さあ、そんなに大事なもん入ってんのか?」
「なっ……!! だ、だから聞くなって言ってるでしょ!! 馬鹿! 変態!」
「へいへい、じゃあ寮まで全力で運んでやるよ」
アヤの罵声に、アキラは苦笑しながら歩みを速める。
「うん───お願い」
アヤはタンスにそっと触れながら、風に揺れるポニーテールを押さえ、アキラの大きな背を眺める。
(秘密は秘密のままでいい。でも……このタンスは、ずっとそばに置いておきたい)
いつか。
アキラとの仲が接近してゆき、処女を捧げる時に用意していた勝負下着。
派手なわけじゃない、でも大人っぽさと色気をめいいっぱい感じたデザインの品。
買いに行った時の恥ずかしさと勇気は今でも思い出せる。
ハラマセーの襲撃。ピュアとヒーラーへの覚醒。
負傷してのひーりんぐで、初めてのセックス。
それで処女を失った事はもう後悔はしないが。
引きずっている想いは、まだタンスの引き出しに眠っている。
微妙微細な自分でも整理もつかない、タンスに封じ込められたモノ。
たから……傍に置いておきたいのは、幼稚なのだろうかともアヤは思う。
コンドームも一緒に入れていたしと思い出し、頬が染まる。
大八車はぎしぎしと音を立てながら、二人の複雑な距離をゆっくりと運んでいった。
【朝:アキラ・アヤ/入寮】
サクラ寮の玄関前。
朝の日差しを遮るガーデンパラソルの下、白いテーブルセットが置かれていた。
その中心に──まるで避暑地の別荘にいるかのような優雅さで、カオリ令嬢が紅茶を嗜んでいた。
隣には、護衛兼メイドのコベニが控えている。完璧な姿勢、完璧な無表情、完璧な警戒態勢。
アキラとアヤは、大八車を引きながら近づく。
「なんか、想定外にすごい出迎えだな」
「そうね、寮の玄関で朝からティータイムって発想がまともじゃないわ」
アキラとアヤが小声で囁きあう。
「ごきげんよう、アキラさん、アヤさん。サクラ寮へようこそ。お二人の到着を、わたくし心よりお待ちしておりましたわ」
カオリは二人に気づくと、ふわりと微笑む。
「え、えっと、わざわざ朝から外で待っててくれていたの……?」
「もちろんですわ。新しい寮生を歓迎するのは、寮長として当然の務めですもの」
((寮長? まあそうか、カオリさんならそうだよなあ!!))
アキラもアヤも心の中で突っ込んだが、口には出さない。
二人はタンスと荷物を自室に運び込み、ひと息つく。
アヤはタンスを撫でながら、ふわりと笑う。
「ふぅ、やっぱり持ってきてよかった」
「まあ、部屋に収まったしな。ちょっと浮いてるけど」
「べ、別に、あんたのために持ってきたわけじゃないけどね」
「言ってねぇよ」
アキラが笑うと、アヤは照れ隠しのようにそっぽを向き。アキラは苦笑しながら肩をすくめる。
部屋を出てエントランスを抜け外に出ると、まだカオリはガーデンパラソルの影の下、出迎えに陣取っている。
「あら、お二人の荷物は無事に収まりまして?」
「まっ台車一回で運べる量だし、エレベーターもある。荷ほどきはまた後でってとこで。それによう、俺たちが一番乗りだったらやる事はひとつ!」
「後に来る連中を、出迎えてやるってやつでしょ!」
「あらあらまあまあ、では、後続の寮生を一緒にお迎えいたしましょう。最初の印象は大事ですもの、お~~ほっほっほっ」
カオリの問いに、二人はやや暑苦しく答え。
カオリは嬉しそうに頷き高笑いを上げた後、新たな椅子を出すよう黒服に指示を出す。
アヤはアキラの袖を引っ張り、小声で囁く。
「ねえアキラ。なんかこの寮、思ってた以上にお嬢様力高くない?」
「まあな、元からそんな感じだったけどよ。カオリさんがそれ以上に無駄に全部引き上げてる気がする」
「だよね……」
「そこんとこは、つきあうしかねえぜ」
寮の外から聞こえる、甲高いエンジン音。
その響きに気を取られたカオリは優雅に立ち上がり、パラソルの影から歩み出る。
「さあ、参りましょう。サクラ寮の新しい仲間たちを、華やかにお迎えいたしましょう」
アキラとアヤは顔を見合わせ、苦笑しながら後に続いた。
「なんか寮生活、波乱の予感しかしないが」
「楽しくなりそうね」
アキラとアヤはそう語りあいながら、玄関前に立つカオリの横へ並んだ。
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