「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
【昼:1Fキッチン/給仕後のひととき】
キッチンが落ち着くひととき。
ガーデンパラソルの下では、カオリ令嬢と入寮者が、ランチを楽しんでいるであろう。
私は黒服3号。
ふくよかな体躯、丸眼鏡の奥で穏やかに光る瞳──影で「かわいいぶたさんコック」と囁かれるのも承知の上。
寮のキッチンを預かり、今日も満足できる料理を届ける事が出来た。
そこから夕食の準備に入る前のこのひととき。
このまどろみは至福───のはずだった。
しかし──ランチは消えた。
戦争が始まる。
「し、し、し、し、し、シェフぅぅぅぅ!! ランチが、ランチがっ!」
「どうした、落ち着いて報告しろ。我々の『前線』で何が起きた?」
メイドが息を切らして飛び込んでくる。
黒服3号はゆっくりと起き上がり振り向き。
まどろみから覚醒し、眼鏡の奥に剣呑な光が灯る。
「全滅です!! サンドイッチも、キッシュも、スコーンも……すべて……すべて食い尽くされましたぁぁぁ!!」
「ほう───敵は手強いな」
「敵……というか、アキラさんとアヤさんとケイさんが、ものすごい勢いでして……」
メイドは涙目で叫ぶ。
黒服3号は天井を仰ぎ、まるで戦況を分析する将校のように呟いた。
「し、しかも……まだ物足りなさそうで……追加を……追加を要求する雰囲気ですぅぅぅぅ!」
「ふむ───よく食べる若者か。実に良い───実に健全だ! お上品なランチでは胃袋は収まらぬか───ふふふふふ、はははははははは」
メイドが震えながら前線の報告を続ける中。黒服3号はぽんぽんと手を叩く。
「よろしい───ここからは『戦争』だ」
黒服3号は冷蔵庫を開け、巨大なソーセージを取り出す。
「まずはブルストを茹でろ! 大鍋を使え! 湯は惜しむな、塩を多めにだ!」
「は、はいっ!!」
「黒パンを温めろ! 粒マスタードは瓶ごと出せ! ザワークラウトとピクルスは山盛りだ!」
「了解ですシェフ!!」
黒服3号はさらに叫ぶ。
「厚切りベーコンを焼け! 遠慮はいらん、脂が跳ねても構うな! 食パンは厚切りだ! ラクレットチーズを溶かして上からかける準備を整えろ、戦場の士気はチーズで決まる!!」
メイドたちが一斉に動き出す。
キッチンは軍隊の作戦本部のような緊張感に包まれた。
黒服3号は白いコックコート姿に、軍人のような姿勢で腕を組み眼鏡が光る。
「諸君!! 夕刻にはバーベーキューが控えている! その仕込みもこれから同時に行う!! 肉を切れ! 野菜を洗え! マリネ液を準備しろ!! これは戦争だ!!」
「「「了解ッ!!!」」」
黒服3号は満足げに頷く。
「これで夕刻まで戦線を持たせる───ティータイムも継続して突入としよう───我々は退かない───サクラ寮の胃袋を満たすまで!」
「「「ウオオオオオオ!!!」」」
様子を見に来たコベニは。
「またはじまった」
と、呆れた目で見守り、カオリに報告するべく戻っていった。
【昼:1F寮玄関/斥候という軽食潰滅】
一方ガーデンパラソルの下では。
テーブルの上には、さっきまで並んでいた軽食の残骸───
皿は空、カップは空、まるで嵐が通り過ぎた後のようだった。
「……なんか、まだ食えるな」
「うん、なんか、お腹がもっとって言ってるわね~」
「わ、わたしも……ちょっと……足りない…………かなって……そういえばユウヤは?」
「いや、ちょっとじゃないだろおまえら。ユウヤは寄る所があるから、到着が遅くなるっていま連絡来たぜ」
「なんの用なの?」
ユウヤの遅れに、アヤが興味を示す。
詳細な内容ではなかったが。
「入寮前に挨拶しておきたい人が、ようやく見つかったって」
「誰……だろ?」
「まっ必要なら話してくれるさ」
ケイの疑問に、ヒナタは軽く流し、後で確認の脳内フォルダーに振り分ける。
「それにしても、あっさりなくなったよなあ」
確かにお茶会の延長上のようなランチ。
例えばフィンガーサンドイッチなどは、一つまみにはちょうどいいかもしれないが、彼らは食べ盛りの若者たち。
キッシュもスコーンも上品で美味しくいただけだのは事実だ。
だがしかし、物足りなさを胃袋を感じてしまったのも事実。
特に、アキラ、アヤ、そして、ケイはよく食べる。
ヒナタも小食ではないが、この三人には突っ込みを入れざるをえない。
「なんか、キッチンからすごい声聞こえてこないか?」
「そうね~でも……追加来るの嬉しいわね」
「う、うん……なんか……すごいの作ってる気配がする……」
キッチンの熱気の入った怒号が、ここまで伝わってくる。
「黒服3号は、戦場の料理人ですもの。皆さまの食欲など、想定の範囲内ですわ」
「いや、絶対想定外だろ、これ」
カオリは優雅に微笑み、ヒナタは食いつくされた現状と現実を指さして訴えかける。
【昼:1F寮玄関/歩兵による足止めと騎兵と砲兵の連携というランチの追加】
「諸君、我々は勝つ。必ず勝つ。サクラ寮のキッチンに、敗北はない!!」
黒服3号は腕を組み、戦場を見渡すように言い放つ。
キッチンの扉が勢いよく開く。
新たな援軍を前線に運ぶために。
───戦場補給物資、到着。
黒服3号自らワゴンを押して現れる。
その姿は、まるで前線に物資を届ける将校のようであった。
「諸君。追加ランチを、援軍を持ってきた」
テーブルに置かれた瞬間、香りが一気に広がる。
茹でた大型ソーセージ(ブルスト)
湯気を立てる太いブルストが、皿の上で堂々と横たわっている。
ナイフを入れると、皮がぱつんと弾け、肉汁がじゅわっと溢れた。
横には、山盛りのザワークラウトとピクルス。
酸味が肉の旨味を引き立て、粒マスタードも、辛みを変えた種類を揃え、単調にならぬよう用意されている。
そしてあえての黒パン。
クロワッサンなどでは味わえない、噛み応えと香ばしさこそが、今はふさわしい。
「これ絶対うまいやつだろ!」
「このがっつり感! これよこれ!」
「粒マスタードたっぷり……ザワークラウトやピクルスもいい感じの酸味……」
皮ごとパリッと音と歯ざわりを弾けさせて齧る。
そして口に広がる肉汁と脂が舌をねっとりと覆う。
ザワークラウトの柔らかな酸味が脂をすっと切り裂くように口の中が軽くし、ピクルスの鋭い酸味とシャキッとした歯ごたえが、舌に残る味をリセットしてゆくであろう。
ずっしりとした重みのある味わいの黒パンに挟みのも、まさに戦場での自由な食べ方と黒服3号も頷く。
「ブルストの重厚な戦列歩兵。ザワークラウトのさわやかな騎兵。ピクルスの着弾する砲兵はいかがかね?」
黒服3号が押してきたワゴンから、湯気を立てる野太い肉の腸詰が堂々と皿に並べられた瞬間。
熱々のぶっとい肉の詰め物が、ぷるんと震えながら横たわる。
皮はつやつやと張り、表面からじんわりと脂が滲み出し、ナイフを入れる前から、すでに肉汁が少しずつ溢れ、皿の底に小さな水溜まりを作っていた。
女の子たちの視線が、一斉にそのブルストに釘付けになり。
食欲もだが、少しイケナイ見え方もしてしまう。
アヤは頰を少し赤らめ、ツンとした顔で目を逸らそうとするが、すぐにまた戻ってしまう。
(なにこれ太すぎるし、熱々でなんか……バカ! アヤ、何考えてんのよ! こんなのただのソーセージでしょ! でも、皮ぱつんって弾けそうな感じ、やだ、想像しちゃうじゃないのっ!)
ケイは小さな手を口元に当て、瞳を潤ませながらじっと見つめている。
内気な表情の奥で、食いしん坊の本能と別の欲求が混じり合う。
(あ……大きい……熱い……肉汁が……溢れて……もし、これを……口に含んだら……先っぽからじゅわって……喉の奥まで……んっ……だめ、だめなのに……でも、舐めたい……ぺろって……吸いついて……ぱくってしちゃいたい……)
ヒナタは腕を組んで強気に睨むが、耳まで赤くなっているのがバレバレだ。
(くそっなんだよこのデカさ、まるであいつの……いや、違う! ただの食い物だろ! でもよ、皮が張ってて噛んだら肉汁ぶちまけそうで……なんかエロいってちくしょう、興奮すんなよ自分!)
三人の視線が、熱を帯びてブルストに絡みつく。
それぞれの心の中で、ソーセージはすでにただの食事ではなく、ねっとりとした妄想の対象と化していた。
一方、アキラは動きの止まった女の子達を、不思議そうに首を傾げている。
「お前ら、どうしたんだよ。そんなにソーセージが好きか?」
「あはは、そうね、みんな食べよっ」
「うん……いっぱい食べる……」
「おう、美味そうだしな!」
アキラの一声に我に返り、湯気を立て続けるブルストにナイフとフォークが向かう。
(((───の方が、大きいし)))
少しどころでない、はしたない思いを過らせながら。
【昼:1F寮玄関/爆撃による地均しというランチの追加】
厚切りの食パンの上に、さらに厚切りのよく焼けたベーコンがどん、と乗る。
滲み出る塩気と脂がパンの生地に染み込み浸食してゆくのみならず。
「これで終わりと思うかね?」
その上から──
とろりと溶けたラクレットチーズが───煮立った溶岩のごとく流れ落ちる。
その熱が、パンへ、脂へ、香りへと伝播していく。
パンはすでに主食という立場を失っていた。
ベーコンの脂が染み込み、チーズの熱が生地を柔らかくし、表面はとろり、中はふわり──
パンというよりも、肉と乳脂肪の祭壇を支える土台と化している。
「諸君、この逃げ場のない戦いに、どう挑むかね?」
黒服3号の眼鏡がギラリと光る。
「反則だろこれって、見た目も臭いも……もうだめだ、待つのがしんどい」
「カロリーの暴力じゃない! こんなのっ! あぁぁぁぁぁぁもう食べるしかないじゃない!」
「チーズ……すごい……いただきます…………」
ひと口かじった瞬間、まずベーコンの塩気が舌を叩く。
その直後、ラクレットの濃厚な旨味が波のように押し寄せて全てを覆い尽くす。
パンはすでにチーズと脂を吸い込み、主食ではなく旨味を運ぶスポンジと化している。
噛むたびに、ベーコンの脂がじゅわり、チーズがとろり、パンがふわりとほどける。
それはもう、料理というより口内で展開される三軍合同作戦。
食いしん坊三人も、無言ではむはむと食らいつくのみ。
黒服3号は腕を組み、満足げに頷く。
「諸君。これが補給だ。これが若者の胃袋を満たし、活力を生み、夕刻まで戦い抜く力となる。カロリーは敵ではない。我々の味方だ」
「黒服3号の料理は、いつも迫力がありますわ、お~ほっほっほっ」
「迫力っていうか、破壊力だろこれ」
カオリは優雅に紅茶を飲みながら高笑いをあげ。
ヒナタは普通にパンを齧りながら突っ込むしかない。
【まず食べなくてはならない】
「これで夕刻まで持つ。諸君、遠慮なく食べたまえ」
「サクラ寮は、食も大切にしておりますわ。皆さまが元気でいてこそ、寮は輝きますもの」
「いやあ~マジ感激」
「確かに食事って大事よね」
「こんなに……気合入れてくれるなんて……本気……伝わる」
「まっメシの不味い所には、確かに長居したくねえよな」
───若者の胃袋は、戦場である
「ふむ、よく食べる。実に、よく食べる。若者が食べるということは、それだけ未来への燃料を必要としている証拠だ。体力、集中力、精神力……すべては食うことから生まれる」
「確かにまず食わないと、なにもできねえよな」
アキラの返答に、黒服3号は満足げに頷く。
「諸君、これから君たちは、日々の活動で体力を消耗するだろう。戦い、走り、支え合い、時には心身の負荷も大きくなる」
「確かに、色々あるわね」
アヤの感じ方に、黒服3号は指を一本立てる。
「だからこそ、栄養補給は戦略である。タンパク質は筋肉と回復力を支え、ビタミンとミネラルは疲労を軽減し、炭水化物は即時のエネルギーとなる」
「なんか……授業みたい……大事な事……」
ケイの栄養学への向き合いに、黒服3号は続ける。
「そして……若者の健康維持には、ホルモンバランスを整える栄養素も欠かせない。亜鉛、ビタミンB群、良質な脂質……これらは活力を支える重要な要素だ」
「活力…………」
「そうだ、心身のコンディションを整え、日々の活動に必要な元気を生み出す。それは戦いにも、学業にも、生活にも必要だ」
若者が持つ活力の無限感。
それが尽きる、へたばるという経験は、確かに上限が削れてこなければ、なかなか実感は出来ないであろう。
ヒナタの疑問も最もである。
だが、ピュアとヒーラーとしての活動を考えれば、ちゃんとした栄養の取り方も大事と、黒服3号は語っているのである。
───食は、戦いの根幹である。
「諸君、君たちがどれほど強くても、空腹では戦えない。疲れていては守れない。食べることは……生きる力そのもなのだ」
「なんか、すごい説得力」
「黒服3号は、食で人を支えることに誇りを持っておりますのよ」
カオリは優雅に微笑み、黒服3号は深く頷いた。
「私は料理人であり、諸君の後方支援部隊だ。君たちが前線で戦うなら、私たちは厨房で戦う。それが私の役目だ」
「頼りにしてるぜ、俺達はがっつり食わせてもらう」
「任せたまえ、諸君の胃袋が満たされる限り、君たちに敗北はない」
アキラの激励に応え、黒服3号はキッチンへ戻り───立ち止まり、背中越しに言い放つ。
「諸君。夕食はバーベーキューだ。覚悟しておきたまえ」
「「「うおおおおおお!!!」」」
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