「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
アスカの入寮です
【昼:墓参り】
静かで、風の音だけが聞こえる場所だった。
入寮前の慌ただしさとはまるで別世界のように、ユウヤはひとり、その墓標の前に立っていた。
墓といっても、遺骨はない。
ただ、名前と没年だけが刻まれた石碑。
失踪から一定の年数が経てば死亡とみなされる──その制度に従った、静かな記念碑。
ユウヤはその年数を遡り、失踪者名簿を調べ、ようやくこの場所に辿り着いた。
触手城の地下深く、苗床となり打ち捨てられていても抗いを遺したピュア。
ユウヤの絶望を助け、先人の知識を授け朽ちていった彼女。
墓前には、風がそっと吹き抜ける。
ユウヤは花を添え、手を合わせ静かに目を閉じる。
「僕は、僕たちはこれから本格的に戦います。あなたが守ろうとしたものを僕は守りたい。感傷かもしれません、けど───伝えたかった」
背後での足音。
振り返ると、ビジネススーツを纏った二十代半ばの女性が立っていた。
落ち着いた表情の奥に、深い影。
彼女はユウヤを見て、息を呑む。
「あなたは、なぜこの墓を参っているの?」
「彼女に……僕たちは助けられました」
女性は墓標に視線を落とすと、ゆっくりと墓標に花を供えた。
その仕草は、祈りというより、痛みをそっと置くようだ。
「私の仲間だった。あの城で……一緒に戦った」
「……触手城、ですよね」
「ええ……私たちは……城主のところまで辿り着いた。苦しくギリギリで、あと一歩、あと一歩だった。でも……ヒーラーの一人が………………逃げたの。その瞬間、全てが崩れた」
ユウヤは静かに頷くと、女性の肩が震え、目を閉じる。
「仲間は……次々に倒れた。私は捕まって……長い間、耐えがたい目に遭ったわ。犯されて産まされて、快楽に狂わされ……そうね、諦めから発狂に逃げていた時間もあったわ……心も体も……壊れかけた」
「……それでも、隙を突いて逃げられた。その起点になってくれたのも……ね。あの子は……最後まで残って……私を逃がしてくれたのに……私は逃げて……あの子は戻ってこなかった」
声は震えておらず淡々と。まるで他人事のように彼女は語っていたが、涙が頬に伝わっていた。
もしかしたら彼女自身も、気づいていないかもしれない。
「あなたは、生き残ったのですね」
「ええ……生き残っただけ。戦いに戻ることなんて、もうできないしたくない。思い出すだけで……息が苦しくなる…………それにもう別の生き方をしてしまっているわ。いまあなたの目の前にいるのは残滓、ハラマセーに怯えながら、瑕を抱えて生きているピュアだった女よ…………」
ユウヤは静かに確認するように聞いた。
彼女はユウヤを見つめるその瞳には、深い疲労が澱んでいる。
「……あなた、ヒーラーなのね」
「はい」
「なら……お願い。仲間を裏切らないで。あの時みたいに……誰かを置いて逃げたりしないで」
ユウヤは強く頷く、それを選びかけて……留まった記憶はまだ新しい。
「絶対にしません。僕は……仲間を守るために戦います。あの人が守ろうとしたものを……僕は受け継ぎます」
「…………そう、なら……もう何も言わない。私はもう戦えない、けれど……あなたが行くのなら……生きて……帰ってきなさい」
言葉を終えると、視線で「もう行きなさい」と彼女は見つめていた。
今、戦っているヒーラーを、いつまでも視界に入れておきたくないのだろう。
ユウヤはたとえどう話しても、彼女から過去の話は引き出せないと悟る。
あの時自分がピュアたちを見捨てて逃げていたら。とてもではないが、戦いに関わる事はできなくなっているだろう。
いまここで少しだけでも話ができたのは、ユウヤを救ったピュアとの縁があったからこそだ。
ユウヤは深く頭を下げ、墓前を後にする。
女性は、ほっとしたように一度微笑み。墓石に目を落とす。
「あたりまえだけど、戦いは続いているのね」
逃げ伸びた後、傷だらけの全裸で街を彷徨い、運よく保護された。
その後が地獄だった。
ハラマセーの脅威を訴えても、錯乱としか聞いてくれない。
薬物の使用も疑われ、拉致、監禁、強姦、その影響での精神的外傷と判断され、厳重監視下での入院。
理解している、自分を救うためだと。
独り生き残ったことに心も折れ砕け。ハラマセーは妄想と思い込み、忘れる事にした。
忘れられるはずがない。
辛さも痛みも喜びも共に戦った仲間。
助ける事の出来た人たち。
打ち滅ぼした敵。
目の前で無惨に殺され、犯された仲間。
逃げ伸びた安堵と罪悪感。
「どうして私、この街に留まってるのかしらね…………ねえ、あなたの後を継ぐ子が……ちゃんといるわ」
その声は、風に溶けてゆく。
【午後:アスカ/高級外国車】
サクラ寮へ向かう道。
黒い高級外国車の車内は、外の喧騒とは無縁の静けさに包まれていた。
運転席にはアスカの父。
企業の役員らしい落ち着いた背中。
後部座席にはギャル風の装いでアスカが座り、窓の外をぼんやり眺めている。
専属の運転手がいるというのに、わざわざ父自らがハンドルを握り、アスカを入寮に送ってくれている。
しばらく沈黙が続いたあと、アスカがぽつりと口を開いた。
「…………パパ、この前の下請け切りの件……あたし、ずっと怒ってたんだ」
「そうだろうな。あの現場を見たら、誰だってそう思う」
父は視線を前に向けたまま、静かに相槌を打つ。
アスカは拳を握りしめ、声を絞り出す。
「だって……あの人たち、泣いてた。急に切られたら生活できないって。パパは……それを、ただ……その……」
「切り捨てたように見えたか。うん、切り捨てにいってるからね実際…………あの会社にも問題があった。品質管理も、納期も、改善の意思も。何度も話し合ったが、変わらなかった。そのまま取引を続ければ、うちの社員が困る。取引先も、顧客も、家庭も……守れなくなる」
アスカの小さく頷きに、父は少しだけ息を吐き、穏やかないつもの調子の声で続けた。
「私、最初は目の前で見聞きした所ばかりで、ちゃんと調べれば理解できる事で……わかってる……頭では、わかってる、わかっちゃったんだけど。力を持つ側が切り捨てるって……なんか……正義じゃない気がして……それにパパに酷いことも言ってしまって……ごめんなさい」
アスカは、自分の浅さを認めた謝罪と葛藤に、目を伏せ震える。
父はゆっくりと車を走らせながら言った。
「正義は必要だよね。だけど、正義だけでは社会は動かない。会社も、家庭も、誰も守れない」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
アスカは顔を上げ、自分よりも長く生きている人に問う。
「正義と現実の間で、折り合いをつけることだ。どちらかだけを見ていては、必ず誰かが傷つく。下手をすれば自分が一番傷ついて、それを自分が認めていない方のせいにしてしまう。それはね、とっても悲しい事だよアスカ」
アスカはその言葉を噛みしめるように、ゆっくりと息を吸った。
「……あたし、自分の目の前のことしか見てなかったんだな」
「それは悪いことじゃない。若い頃は、正義を信じられる。それは強さだ」
「だがアスカ。これからはね、力をどう得るかどう使うかを考えなさい。力は振るうだけでは正義にならないのだからね」
父はバックミラー越しに、優しい目を向けてくれる。
アスカは胸の奥が熱くなるのを感じた。
「うん、わたし、もっと強くなる。ちゃんと考えられる強さを持つ」
「それでいい。お前ならできる。この寮に入るのも、そのためなんだろ? 他人と暮らすのは簡単じゃない」
「ありがとう、パパ。でも大丈夫、仲間がいるから」
アスカの決心と、信じられる仲間。
そういう人がいる事に父は満足そうに頷いた。
「それにしてもだね~事業への融資があって、下請けにもまあ有余はできちゃったんだけど。ここからがパパ大変なんだよ~~まるっと借りを作ることになっちゃうし、きっちり搾り上げる監査しなきゃだし、業務改善で融資以上の成果をださなきゃいけないんだよぅ~」
パパの嬉しいのか泣言なのか、挑戦への意欲なのか。
色々と混ざりすぎた言葉に、アスカはなんと声をかけていいかわからなかったし。
パパもそれを期待していたわけではないので、親娘だからこその会話なのであろう。
もっとも融資の話の切欠は、アスカとアキラのレストランでの会話を、トキジロウに読み取られたのが発端なのであるが。
そんなことは知る由もない。
【サトルの出奔】
「サトルに続いて、アスカまで家を出てしまうとはねえ~家が広くなって、パパこまっちゃうよ」
「え? それウチ初耳っしょ!?」
軽い調子で言うが、声の奥には寂しさが滲みアスカは慌てる。
「あ~話す機会がなかったからなあ、家を空けっぱなしのアスカもわるいんだぞ~」
「う……ごめん」
父は笑いながらも、バックミラー越しにアスカの項垂れた表情を、しっかりと見ている。
「ちょうどいい、いま簡単に話すけど。『社会性と強さを持つために、一人暮らしをちゃんと経験しておきたい』と言ってきてね~パパも悩んだけど、社会人になる前にそういう経験は確かに積んでおいた方がいいと許可したんだよ。もちろん受験勉強が本格化する前には戻りなさいというのが条件でね。自分で生活を管理するのもいいけど、それで勉強を疎かにしたら本末転倒だもの」
「そっか、サトルがそんな事を……」
「親離れ、姉離れも、しっかりし準備しておきたい。目を見ればわかる。浮ついた気持ちで親の目を気にしない生活がしたいなんていうことじゃない。あれは自分を鍛えたいっていう本気の目だった」
「サトルが入院から戻ってきて、そんな事があったって、パパ大変じゃん」
父の声は、静かで重みがあった。
ゴリアテの一件の直後、サトルを病院に入れ。触手の侵蝕もひーりんぐでの浄化で影響なしとの結果を得られた。
サトルの童貞は、アヤとリサが奪っていったが、それはまあしょうがない。
そして父は退院後のサトルの申し出が遊びでなく、強さを得たいという真摯な気持ちを、男として感じたからこそであろう。
「まあ、男の子は強くなりたいって無茶したくなる。パパも色々心配したんだぞ? 家賃と最低限の生活費と家具は支給して、必要な費用は自分でバイトして捻出するとの事だ」
「えぇ~それやばっ無理無茶無謀じゃね? いままでパパのお小遣いで───あ、まあ、色々考える機会になっちゃったってわけなんだろうねえ」
ゴリアテを師事してまでの、力の欲求。
姉に護られていたという反発もあった、そのために誤った力の求め方もしてしまった。
アキラから聞いた話だと、黙々と身体を作るトレーニングを繰り返しているとの事。
だからこそ、地に足を付けた考えを、自らの鍛えにさらに実行しているのであろう。
「パパも色々聞きたいけど、パパだって学生の時それなりに貧乏してたんだぞ。そんな中、ご近所との付き合い挨拶、生活資金の取捨選択、学業とバイトの両立、友との語り合い───その時にしか得られない経験というものはあるんだよ」
「じゃあさ、ウチが寮に入るのも……そういう経験になるって思ったの?」
「そうだよ、アスカは強くなりたいんだろう? ギャルをやってるのも、自分を強く見せたい表れだって、パパは理解している」
「うっ……パパがウチの化粧や着こなしを、咎めないのは、無関心じゃなくてその───」
父はそれに答えるのは野暮とニコリと笑う。
アスカは思わず目を伏せた。
父にそこまで見抜かれているとは思っていなかったからだ。
「あの人……義母さんは、喜んでいたかもだけどね。ウチが家出るって」
「アスカ、思うの自由だ。それでも口に出すのは……やめなさい」
「はい……」
父はすぐに声のトーンを変える。
短い言葉だったが、父の中にある親しき間にも礼儀ありを表し。
咎めるところはちゃんと釘を刺す。
アスカは、自分が厳密には違うが、愛人の子に等しいであることを理解している。
父がどれだけ気を遣ってくれているかも、本当はわかっている。
でなければ、出世の政略結婚が決まった後、行方をくらました部下を探しはしないだろう。
既に父の子として、アスカを身ごもっていた。それを隠して消えたのだ。
父とは再会出来ず、事故で母を亡くし途方に暮れているアスカをわが娘として引き取った。
サトルの母にとって、どれだけアスカは存在してほしくないか、痛いほどわかってしまう。
学業を収めたら、家を出るべきだ。
引き取られてから、ずっと───アスカは考えていた。
だからこそ、父が自ら運転して送ってくれていることが、深く胸に刺さった。
【午後:アスカ入寮】
「強くなりたいなら、強さの意味を間違えるんじゃないよ。見た目や勢いだけじゃなく、自分の目と耳で捕らえ考え、自分の足で立ちなさい。そして…………頼る時はちゃんと人に頼りなさい」
「パパ……ウチ、ちゃんとやるよ。強くなる。自分で選んだ道だし」
「うんうん、アスカならできる。パパは信じてる」
車はサクラ寮の前に静かに停まる。
アスカだけが降り、自分の荷物を纏め持つ。
アスカは振り返り、少し照れたように笑って。
「ありがと、パパ……行ってきます」
父は手を振り、車をゆっくりと走らせていった。
アスカは見送りながら、胸の奥で小さく呟やく。
(…………ウチ、ちゃんと強くなるから)
「え? お昼? ウチはサクッとすましてきたっしょ!? って、うわ、なにこれ? ちょ、まってまって、まってぇ~あ~~~~うぅ~~そのパン一つと……ソーセージ一つちょうだい」
カロリーの暴虐に葛藤しながら、アスカもランチの援軍に手をつけてしまうのであった。
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