「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
【日没:ユウヤ/軽トラック】
ユウヤの入寮に向かう軽トラックの揺れは、どこか懐かしく、そして少しだけ胸に沁みた。
荷台には、父さんがロープでしっかり固定した円筒形のシーサック。
あれはママが使っていた遠征用のバッグで、ユウヤにとっては、家族の歴史そのものみたいなものだった。
軽トラックの助手席で、ユウヤは窓の外を眺めながら思う。
父さんは、昔から家にいない時間の方が長かった。
輸入・輸出、海外の市場調査、文化や商習慣のアドバイス───世界中を飛び回っているような人だ。
小柄で中性的な顔立ちなのに、年齢を重ねるほど渋みが出てきて、危険な匂いのする大人みたいな雰囲気がある。
大胆なのに慎重。無茶をするようで、最後の一線は絶対に越えない。
そのバランス感覚が、父さんの商売を成功させた。
そして──
ユウヤに対しては、自分の知る知識や技術を教え込み。自分の専門外のユウヤの求めた学びに、金を惜しまず。
そのくせ、それ以外は「自分で責任とれるなら放任」というスタンスは、まあ、父さんらしい。
ママのことを思い出すと、ユウヤの胸は少しだけ痛む。
ユウヤが物心つくかつかないかの頃に病死したママ。
ロシアとか中央アジアとか北欧とか、出所の不明な混血に、さらに日本の血が混ざった、長身で、豪快で、でもどこか少女みたいな可愛らしさを持つ人だったそうだ。
父さんの話によれば、若いころは二人で海外を彷徨い、鉱物資源を探して山を歩き、鉱脈を見つけては企業に売る山師で、その資金で事業の基盤を作ったらしい。
法律すれすれ──
いや、時効だから言えるけど、たぶん越えてたこともあったそうだ。
その中心にいたのはママで、父さんの持っている地質学の知識と行動力を、ママが引っ張っていったのと。
ママに惚れていたという理由でついていった。
父さんの、そういうところは本当にシンプルだ。
ママはユウヤを妊娠して、二人は安定を求め日本に帰国した。
そこで父さんは、海外で繋いだコネと資金を武器に事業を立ち上げた。
ママが亡くなってからは、父さんが一人で事業を回しながら、ユウヤをしっかりと育ててくれた。
まあある程度、目を話せるようになったら、世界を飛び回っていたが。
【父の教え】
父さんの教育として「人生で必要なことは全部教える」と言っていた。
実際に、礼儀、金の扱い方、危険の見分け方、人間関係の距離感、逃げるべき時の判断──そういうものは全部、父さんから叩き込まれた。
だから僕は、父さんのこと嫌いじゃない。
家にいない時間が長くても、父さんは父さんなりに、ちゃんと俺を育てようとしてくれていた。
夕暮れの光が、運転席の父さんの横顔を照らす。
「───ユウヤ、寮での生活、好きにやれ。ただ、責任は自分で取れよ。だが、まずは自分で考えろ、そして行動しろ。それでどうしても必要なら、大人が話をつける」
父さんはいつも通りの声で言う。
放任に見えて、本当に危ない時は必ず一緒に考えてくれる。
その距離感が、ユウヤにはちょうどよかった。
ユウヤは、自分の手を見つめる。自分に流れているママの血───
危険を恐れない豪快さ、自分の考えを、自分の道を、自分で貫き通す、意志の強さ。
ママのことは───おぼろげでほとんど覚えていない。
父さんの話を聞くたびに、その影が自分の中にもある気がした。
軽トラックは、サクラ寮へと近づいていく。
ユウヤは深呼吸する。
僕はここで仲間と共に戦うことに。
母さんが生きてたら、きっと笑って背中を押してくれたはずだ。
父さんは、何も言わずに前を向いている。
でもユウヤにはわかる。
父さんも、僕を信じてくれてると。
【母】
あまり、いや、あえて今まで強く聞かなかった。
しかし今なら、今この軽トラの運転席と助手席に並び、寮へと走るわずかな時間なら聞く事ができる。
そんな不思議な魔法の時間なのだろう。
ママは、どんな人だったのか?
普段は鋼のように落ち着いた父さんの横顔が、ほんの少しだけ懐かしさと照れを混ぜた若い男の顔になる。
「あいつはな───豪胆な変人だったよ。普通の物差しで見ちゃいけない人間だな」
その言い方があまりに自然で、ユウヤは思わず笑ってしまった。
およそ普通とは言えない、父の口から聞けば、説得力がありすぎる。
父さんは、懐かしむように目を細めた。
「一攫千金を狙って海外を彷徨って、山師みたいに鉱脈を探して……危ない橋なんて、何本渡ったかわからん。あいつの人生を語ったら、ハリウッド映画が三本は作れるぞ」
「あいつの無茶に死にそうな目に合って、喧嘩もしたし、成功したからいいじゃないかと笑ってごまかされたり。地元のマフィアとトラブって、宿から素っ裸で逃げ出したこともあったな───でもな、あれでいて女の子らしくかわいらしいところもあったんだ───支えてやらなきゃって思わなかったら、たぶん逃げてたな。付き合いきれないって」
その言葉には、破天荒な冒険に、父さんがなぜ付き合い続けたのか?
惚れた弱みをそのままに感じた。
「見た目もな。長身で、かわいらしい童顔で……まあ、その……色々と迫力があった、でかかった」
父さんは照れ隠しのように咳払いをする。
幼く残る記憶にも…………大きな体、大きな胸、大きな尻。わかりやすく残ってしまっている。
「とにかく、あいつは目立つ女だった。危険な匂いとキュートさと包容力が同居してる。その不安定さも、ちゃんと見てあげなきゃ世話しなきゃ。そうだな……夢がいっぱいに詰まったそんな感じだ」
父さんは苦笑する。
その夢に付き合いきった男にしか語れない、甘いコロンを垂らした火薬の香り。
「ユウヤを身ごもった時にな……あいつが言ったんだ。そろそろ帰ろう、てな」
危険な冒険を支え合う相棒。
男女であるから、そういう仲になるのも自然で。妊娠もいつかはそうなるだろうと覚悟はしていたとの事だ。
それなりに小金は貯まっていたし、世話したりされたりで色々とコネも太く強く握れた。
ママの決断は、日本への帰国だった。
複雑な混血な身の出どころ、国境をものともしない感覚。
それでも、帰る所に選んだのは。
父さんと───
「それで日本に戻って、籍を入れて、安定した生活を始めた……長く続かなかったのは悔しいが」
父さんの声は少しだけ寂しそうだった。
ユウヤは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じる。
ママは僕のために帰ってきてくれたのだと。
父さんは静かに言葉を締める。
「あいつはな……自分の人生は満足だって、笑って言ってたよ」
その言葉は、日の落ちる車内に静かに満ちた。
日没の残光の中、軽トラックはゆっくりと寮の前に停まる。
ユウヤが選んだ道。選んだ所に。
【気づき】
軽トラックのエンジンが止まり、ユウヤは荷台のシーサックを降ろしながら、胸の奥にざわつく感情を抱えていた。
ケイ、ヒナタ、マリア───
この三人の女性の特性と母性の部分。
それを全て合わせれば───
ユウヤの心の奥にある渇きを。
空白を刺激して、埋めているのではないか?
複雑で、恥ずかしくて。
でもどこか切実な欲求の感情。
破廉恥で身勝手で失礼な甘え。
その欲望をぶつけて───ぶつけられて。
貪っている。
求めている。
立ち尽くすユウヤ───
運転席から夕陽に照らされた横顔のまま、静かに、的確に、鋭く。
「ユウヤ。誰かに埋めてもらう穴を探すな。自分で立って、それから誰かと並べばいい」
「あいつがいなくて寂しかったのは同じだ。だがな、求めるだけじゃ、人は強くなれない」
「お前は、自分の足で立てるように育てたつもりだ。誰かに寄りかかるだけじゃなく、誰かと肩を並べられる男になるんだろ?」
「あいつの血も、俺の血も継いでる。危うさも、強さも、優しさもな」
「悩め。だが、前に進め。それだけで十分だ」
父の言葉。
ほんの少し───背中を押す。
ユウヤは頷く。
「いってくる、父さん」
日没の光を浴びながら、ユウヤはサクラ寮に歩いて行った。
【ユウヤ入寮と……】
「おつかれさま……先に、いただいているから……」
「よう、まだ肉残ってるぜ! 野菜も牡蠣もまだまだたっぷりだ!」
サクラ寮玄関周りには、篝火が焚かれ───
篝火?
とにかくも、原始的な照明。揺れる炎が、バーベーキューパーティーを照らしている。
少し早めの夕食が、既に始まっているようで。
カオリの性格性質、育った環境の自己顕示と金銭感覚が溢れ出ていた。
食事を進めながら、ケイとヒナタが迎え。
アキラたちも串を持った手を上げ、ユウヤを歓迎する。
だが──ユウヤはすぐに気づく。
マリアの姿がない。
マリアは距離的にも時間的にも、先に到着してるはずだ。
「マリア……まだ来てないの……」
「連絡もまだってやつだ、そろそろ入れてみるかって思ってたらその、さ」
「ごめんなさい…………食べるのに気を取られちゃって……」
ケイとヒナタも、どこか気まずそうに言葉を漏らす。
マリアは日本に残るか、国へ戻るかで揺れていた。
ユウヤはその葛藤を知っている。
寂しさはある、しかしその決断はマリアのものだ、誰のものでもない。
「ケイ、ヒナタ…………マリアは───」
その時だった。
ユウヤのスマホが震える。
画面には──
「マリア」 の文字。
ユウヤは深呼吸を一つし、静かに覚悟を決め───通話ボタンを押す。
ケイとヒナタも見守っている。
最後の連絡かもしれない───
「マリア……僕だ───」
「ユウヤァァァァァァ!! タスケテクダサァイィ!!」
スマホを通じて、マリアの泣き叫ぶ声が上がる。
なにかあったのか? 帰国前にトラブル? 事故? ハラマセー!?
さまざまなパターンが、ユウヤの思考を駆け巡る。
「マリア!? どこだ!? 何があった!?」
「迷子、ナリマシタ」
沈黙の天使が数秒間、横切っていった。
「──────はい?」
「寮ニ向カウタメ、バス乗リマシタ。コレカラノ事、考エテイタラ……景色オカシクテ。ドウヤラ違ウ路線乗ッチャッタミタイデ。アワテテ降リテ、戻ルバス探シテモワカンナクテ。気ヅイタラココドコデスカー!! タスケテクダサィィ!!」
「わかった、わかったから迎えに行く。来たばっかりだけどみんなごめん、マリアを迎えに行ってくる! 確かまだ───」
荷物を降ろし、ユウヤは走り出す。
マリアの下宿へのルートとして、表通りに出て利用できるバス停の時刻が迫っているのを、既に計算しながらいま走れば間に合うと、ユウヤは一目散に走る。
「あら……必要でしたら、車を回しますのに」
カオリはその背を見送りながら、独り言を漏らした。
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ユウヤのこと、マザコンとは言ってあげないでください(汗)