「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
【夜食】
ユウヤとマリアが案内された夜の寮食堂は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
照明も少し落とした柔らかに落ち着いた空間は、食堂の広さを感じさせない気遣いに満ちている。
黒服3号が整えた夜食の湯気だけが、ほのかに温かさを漂わせている。
肉を薄切りにして、強く味を込め軽く炙り直した一切れのステーキ
パプリカ、ズッキーニ、玉ねぎの切れ端を、温かく仕上げた焼き野菜サラダ。
牡蠣は火を通し、ミルク少な目で優しくまとめたクラムチャウダー
一度焼きおにぎりにしたご飯を茶碗に盛り、だし茶をたっぷりとかけた、焼き米の香ばしさが生きる茶漬け。
多彩ではあるが控え目な量で、疲れた身体に負担をかけない優しい味だ。
二人は言葉も少なく、ゆっくりと一口ずつ口に運び、疲れた身体に染み渡る優しい味わいに、ほっとしたように肩の力を抜いていく。
(あのハラマセーは、やっぱり妙だった……カオリさんに報告したいところだけど……)
少しの強い味気が刺激し、茶漬けが舌を洗う味覚の洗浄。
過度な満腹感を与えず、それでいて空腹に痛むこともない、絶妙な量と味。
それを味わいながら、歓楽街での戦いともいえないが、謎のコンビニ爆破を含めて、今日の出来事をユウヤは反芻していた。
仮定はあるが、現場で裏を取る時間はなかった。
今後の活動にどれだけ影響があるかわからないが、些細な情報でも共有すべきだと。
食堂の時計を見上げる、既にもういい時間だが、取次ぎを願うと。
「カオリ様は、先ほどお休みになられました。ワインを少々……いえ、けっこう召し上がったため、軽い体調不良と判断し、早めに就寝されています」
「ソレ、飲ミスギナダケデスヨネ?」
マリアが言いにくいことを、すっぱり言ってしまったので、メイドは苦笑いを浮かべている。
体調不良とは?
酔いの残っている状態で話をしても、まともに進まないであろう。
それに二人とも疲労が勝っている。
「では後ほどに、ごちそうさまでした、シェフ」
報告は後回しに、食事を終えた二人は黒服3号に挨拶すると、自分のフロアへとエレベーターに移動してゆく。
【触手城:ハラマセー会議】
かつて巨大ショッピングセンターであった触手城。
指を軽く鳴らす乾いた音が、暗い空間に響く。
5F映画館のスクリーンには、炎に包まれ崩れ落ちるコンビニエンスストアの映像が映し出される。
人類社会に潜み、触手を量産させるための繁殖工場───ファクトリーが灰塵と化している映像だ。
沈黙を破ったのは、最後列中央のプレミアムシートであった一角を独占する触手城城主、セキュリオンの甲高い笑い声だった。
「ふぇっ~~~へっへっへっ! いやいや、実に愉快。と言いたいところだがぁ!」
派手な軍服の肩章を揺らしながら、彼は椅子に深く腰掛け、余裕の笑みを浮かべている。
しかし、その目は鋭く光っていた。
「最前線ファクトリーが完全消失とは、さすがに想定外だな。まあったく、正義のヒーローもやってくれるじゃないか、チルドレンでも凶悪な強さのテンを派遣していたのだよな? オクトパシーの隠蔽も完璧だったはずだがどうやって感づかれたものかなあ~~そして跡形もなく木っ端みじんにされちまっているし! まさしくどういう事だってやつだ」
「ピュアとヒーラーたちは、前回の撃退にて肉体も精神も相当に痛めつけましたが。にもかかわらず、ここまで早く反撃に出るとは───解せませぬ」
元ヒーラーであり参謀のフォールンは、報告された資料をめくるが、その手がかすかに震えているのは、息子をまた一人失った動揺であろう。
資料の画像には確かに、ヒーラーフロストとピュアスフェーンの姿らしき人影が、歓楽街の人々を救いながら、敗走するゾンビーや触手を撃退している姿が遠目で記録されている。
「問題はコンビニエンスストアそのものの喪失です。あれは触手資源の供給ラインの中でも最遠方の拠点。ここが破壊されたということは、敵が我々の影響を強く意識している証拠。それも、戦力を立て直すには不十分なはずの状態で、これほどの破壊活動を行っているのは由々しき事態です。以前、試験的なファクトリーが襲撃されたのも、敵に組織的な抵抗の予兆が見受けられました。触手城を襲撃した者たち以外に、控えていた戦力を温存していたのではないでしょうか?」
皺ひとつないスーツのソルトマンが、静かに眼鏡を押し上げ意見する。
淡々とした声が、逆に場の緊張を高めていた。
「それに関してはどうも引っかかるな。いやさ、こないだ来た連中は、仲間を奪還せんと突っ込んできたやつらと、こそこそと侵入してきた奴ら、てんでバラバラだったぜ? 確かにいままで潰したピュアやヒーラーよりは戦えていたが、あいつら別に組んでいるわけじゃなかった。リサのお嬢ちゃんを取り戻すんだったら、苗床になりかけたやつらの攻めっ気がわけわかんねえし、罠にはまり込む直前はヤバさを感じて進むのを躊躇してたってやつだ。俺としちゃ、見ず知らずの連中が同時に入り込んだってのを押すけどよ……ぼこぼこにしてやったとはいえ、生かして帰っちまったから、あいつらが手を組むって事もありうるんじゃねえか? それにソルトマンの拠点を潰したのは、単独のピュアがなんか訓練された連中を引き連れて襲ったって聞くぜ」
プリズンが見た目のチンピラっぽさに似合わない、長舌ながら的確な見解を述べる。
「まっどっちにしろ、今度はもっとわくわくするようなひりつく戦いがまってるってね。まさに戦争ってヤツさ。ふぇっ~~~へっへっへっ! 楽しもうじゃないか、いままで狩ってきたような、へなちょこなピュアやヒーラーでなく、歯ごたえのある連中を、負かして、犯して、絶望させ、ぶっ壊して、繁殖する。最高じゃないか! それでこそあふれて食いでのある美味なエナジーを感じるんじゃないかな、諸君?」
セキュリオンは貴賓席で軽やかに笑う。
まるで舞台の道化を楽しむがごとくスクリーンを見つめながら。
その声音には、戦場を娯楽として眺める者特有の冷たさと昂揚が混じっている。
破壊と混乱が織りなす祝祭。
敵が強ければ強いほど、心を躍らせる刺激となるのであろう。
「はっ、しかし油断は出来ぬかと。なによりもこの触手城から逃げおおせた連中です。敗北に身も心も傷つき怯えるか、その経験を糧にまた立ち向かうか───後者であれば、なかなかの精神となっているでしょう」
「人間社会の肉をもって、ゾンビーと触手の戦力を補給できる距離を縮めるためのファクトリープランでしたが───こうも早くに隠蔽工作が揺らいでいるのは私の失策です。プランを見直し、廃墟スラム地区の再開発も視野に入れつつ。今稼働しているファクトリーを防衛するのか、一定の利益をもって撤収するのか、判断が必要かと思われます」
「援軍を出すならさ、早いとこ出られる奴を出した方がいいんじゃねえか? 現場に張り付いてる奴らはモンスターの中でも隠蔽に長けてるけどよ、荒事は今一つってやつだぜ、おチビさんたちの兄弟が出張ってるけどよ、そんなかでも有望な奴が討ち取られたんだろ? 鍛えるのに手伝った俺としても、そういうやつらが潰されるのはやだね」
フォールンは、逃げ延びた者たちが恐怖に沈むか、あるいは逆境を糧に立ち上がるか───ヒーラーであったからこそ知っている苦しみを語る。
続いて口を開いたソルトマンは、対照的に淡々分析を述べて。プリズンは腕を組み、低く唸るように言葉を続ける。
将来を嘱望された個体が討たれたことは、僅かな間だけでも師匠面した彼にとっても、無視できない悔しさだった。
パン!! パパパンッ!
セキュリオンが大きくひとつ、そして連打する三つ手を叩き鳴らすと、スポットライトがチルドレンズ・ゼロワンを浮かび上がらせ、壁面に歪にはめ込まれた三つの大型モニターに画像が映し出される。
残る三つの拠点に護衛として入っている、ゼロスリー、ゼロフォー、ゼロシックス。
現場のチルドレンズとその長男に発言を許すと、セキュリオンの演出だ。
「ゼロシックスだ、廃墟区域でホームレスや不法住居者等を攫って繁殖だけど意外と密度が低い。とりあえずいま集めた連中でゾンビーや触手を産ませて浸食させてるけど、危険を感じているのかそういうやつらは移動したりしてるみたいで、最初のころのように狩れないのが現状だよね。一応攻められてもいいように、砦化やゾンビーをもっと戦力になるようにしている。目途がたったらまた報告と思っているのでよろしく」
「ゼロフォーだよ~こっちはまあね、あまり欲張らないってとこでまとまってる感じ~もっちろん援軍は大歓迎だよ~~」
「ゼロスリー、倉庫の荷物として保管と繁殖状態は良好。ただし……いえ確実な事を掴んで報告」
「なにか違和感があるんだったら、今話せるだけでも聞きたいな」
各地からの報告。
ゼロシックスの纏めに、ゼロフォーの気軽さ。
ゼロスリーの言い淀みに、ゼロワンが質問するが。
「……拠点の周囲でも、繁殖が広がっている、勝手な活動があるか懸念だ、兄貴」
「え? それは……なんだろう?」
「ふむ、野良でモンスターにまで進化したのが、いるのかもしれないな」
「あ、なるほど……」
「援軍が到着後本格的に調査でどうだ、ゼロスリー?」
「了解、パパ」
ゼロスリーの報告は、簡潔ながらも予定外の不穏を含む。
だが、その意図をすぐに読み取れず、ゼロワンは首をかしげるだけだった。
その様子を見たフォールンが、父として、そして指揮官として静かに補足する。
拠点周辺で起きている勝手な繁殖───それが、野良化し独自に進化した個体の存在を示す可能性。
フォールンの説明は、ゼロワンの中で点と点をつなぐように理解へと変わり学んでゆき、その後の的確な指示を飲み込み素直に頷いた。
その反応にフォールンはわずかに目を細める。
「城主。このままでは、他の三拠点にも波及する危険があります。テンがやられたのは、僕たちにとっても大きい。でも、だからこそ冷静に動かないといけないと。僕としては……続けての襲撃の可能性があると思われます、あと……その要因となる拠点の隠蔽にはなにか綻びがあるのかもしれません、ピュアとヒーラーはそれに感づいて暴いたのかもだから。現地に赴いてそれを検討するのと、単純に戦力を増やし襲撃に対抗できるようにと、意見具申をいたします」
チルドレンズ代表のゼロワンは、長男らしい落ち着いた声で口を開く。
彼はまだまだ経験も少なく、能力も強いわけではない個体だ。
しかし兄弟をまとめる柔らかいカリスマがある。
面倒見のいい長男───それに尽きる。
「いいだろ、速やかに援軍を差し向けろ。そして現地での問題解決ってやつを実行ってな。現場を預かってる連中とは仲良くな。ふぇっ~~~へっへっへっ」
セキョリオンが決定を下し、手のひらを空間を掃くように動かすとモニターが次々に消え、最後にスクリーンが暗くなった。
座っている手摺をポンと叩くと座席ごと階下へと沈んでいく。
会議は終了し、派遣する援軍にはチルドレンズたちが選ばれることになっている、現場での経験を積むために。
緊張から解放され、ゼロワンは大きく長い息を吐く。
無理もない、人間から生じたハラマセーと違い、人間であった時の経験がなく。急激に成長し知性も経験の無い知識ばかりだ。
虚勢を張って長男としてチルドレンズを率いるゼロワンには、まだまだ学ぶことが多すぎる。
父であるフォールンが頭に手を置き、小さく「よくやった」と声をかけてくれるが、自分の足りなさにゼロワンは悔しく思うのを感じる。
【会議の終わりに】
「え~~~ぼく出ちゃだめなの? つまんないなあ~」
「お、おいらはその、時期早々っておもうっす」
「何事も初めてはあるんだよマーシェ」
「ぬ、抜けだそうとしたら、捕まえておけって、その、厳命です」
「へ~~もし取り逃がしたら? お仕置きされるマーシェがかわいそうになるなあ~」
「なんで、嬉しそうなんすかっ!」
今まで会議を静観していた、城主の息子リオンとその従者と言っていいマーシェの掛け合いに。
無理やり援軍についてこられたらどうしようと思う、ゼロワンであった。
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