「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
【父娘】
カオリは父との対話がこれほどに早く実現するとは思わなかった。
財閥の当主は多忙を極め、たとえ親子といえど、面会は困難。
幾重の予定が阻み、意志を伝える過程が時間を喰らってしまう。
パーティーの事件でも、自分の無事が確認できれば、さほど動揺はないはずと思っていたが。
その内容の詳細を説明したいと、駄目元で申請したら───即日で面会が叶ってしまった。
これは、異様だ。
カオリはそう感じつつも、己の思う所を正直に伝える覚悟を固めた。
屋敷の執務室。
重厚な扉の向こうで、父が待つ。
家に招き入れてこの部屋で父が会話するのは、よほどの要人ぐらいだ。
カオリもいままで必要がなかったため、この部屋で父と対面することなどなかった。
今は説得すべき人として、目の前の初老に差し掛かった男と向き合っている。
トキジロウ。
カオリの父、財閥の当主。
魑魅魍魎の政財界世界を戦い抜く男。
その威厳と鋭い眼光に委縮してしまいそうになる。
しかしカオリは気品を保ち対峙し、付き従うミナミは緊張で震え、コベニは影のように静かだがミナミ同様の震えがある。
「まずは、この場をおつくりいただき、ありがとう───」
「無駄な挨拶はよせ、今はただ親と娘として会っている。控えている者たちも楽にせよ」
カオリの挨拶は、広げた手を突き出される事で、中断させられる。
トキジロウはカオリと、それに付き従ったミナミとコベニにも席を促す。
この場にいる全員が席に座り一呼吸置くと、カオリはパーティーでの顛末を嘘偽りなく語った。
ハラマセーの襲撃、自分達のピュアとヒーラーとしての覚醒。子供たちを救った戦い。
ハラマセーの脅威を訴えかけ、対処するための経済的社会的な支援を、カオリは訴えかけた。
「荒唐無稽ではありますが、わたくしは現実に襲われそれに対処し、生き延びました」
「あれは報道などで表されているテロなどではありません。信じろというのも無理かもしれませぬが、これは人類の脅威です」
「詳しい資料等はいまからでも纏めますので、御一考を……」
「わかった、予算を組もう」
「は、はい?」
父、トキジロウはあっさりと返答し。
自分でもまぬけと思える声を、カオリは漏らす。
「あ、あの……父上?」
「なんだ? これから対策のために費用が必要なのであろう、私も吝嗇な事は言わないつもりだが?」
「いえその、ありがとうございます。信じていただけて嬉しくではありますが、その」
「納得いかない、そういう顔だな……まずは報告があった」
パーティー会場で暴れる、ゾンビーや触手の映像が、執務室の巨大なモニターに映し出される。
「運転手の黒服からの報告だ、その後お前たちを迎えに行ったが、未帰還行方不明となっている」
「それとこの襲撃直前に、警備センターが真っ先に破壊され、監視カメラの撮影と記録ができないようにされている……これがどういうことかわかるか?」
「それは……襲撃の記録が残らないように、ですね」
ミナミがやっと発言するが。
「ふむ、それではまだま足りぬな」
「化け物がパーティーを襲撃したのと、その証拠が不十分な状態で化け物が襲撃したと報告されたら、どう思うかね?」
「そっそれは、信じて、くれません、よ、ね? ああ、つまりその、ハラマセーが活動しているのが知れ渡るのは、彼らにとって都合が悪いことがあるがら……ではないでしょうか?」
トキジロウの問いに、ミナミはつっかえながらも。
トキジロウは、まだ満点には足りない答えに、これ以上はしょうがないと。
「ハラマセーの脅威が世間の周知となり、人類の脅威だと認識されたとする」
「拠点を探り出し、軍も動き強力な火器で殲滅するであろう」
「はい、わたくしは情報を開示し、脅威を訴えかけ備えるべきだと思います」
「さすればあのような化け物など……」
トキジロウは大きくため息を漏らす。
「社会を動かすというのは、理想論でしかない」
「脅威に備えるには冷静さが要るが、知ると怯えるは紙一重だ」
「奴らの脅威が広まれば、明日には隣人が化け物に見える。疑心は社会を壊す毒だ」
「ですが、信じて動くことこそが……」
「信じたくても信じられなくなるのが人間だ、そして己を信じるのも人間だ」
「魔女狩りが始まる───そして人は信じるであろう、異常を見つけた、変だと思う、それに妬み嫉み利己的という、主観的で身勝手な感情だけで排除を叫ぶ声が上がる」
「自分に都合の悪い存在を排除する手段に、自分の正義を行う免罪符となる」
「それこそ、敵が望んでいる混沌だ」
行い動くべきではないか。カオリは訴え、食い下がろうとするが、トキジロウは、娘の言葉を途中で遮り一蹴する。
「化け物が人間の社会構造に入り込むほど賢いなら、恐怖と混乱は最良の手札になる」
「残念ながら人類は、それに抗うほど成熟してなどいない」
「経済も治安も、思っているほど理想に耐えられるような強さや堅固はない」
「むしろその矛先が人に向かいかねない。理想を掲げる旗より、沈黙を守る壁のほうが社会を救うこともある」
「人はそこまで愚かではっ!」
カオリは父の言葉に、事なかれを感じてしまい。
立ち上がり詰め寄るのをミナミとコベニに止められる。
「愚かなのだよ」
モニターには古い記録が映し出される。
昭和の時代、街の広い区画が焼失した大火の記録。
焼け野原と黒焦げの遺体。
この街の歴史でも、悲惨な災害として記録されている。
「この災いは、私達が……いや、私が引き起こした」
「そう……当時のハラマセーとの戦い、私はヒーラーだった」
「そんな……お父様が?」
父が災害の当事者でヒーラーとして戦っていた事は、二重に驚きでしかなく。
カオリは絶句した。
【疑心群鬼】
かつて、カオリほどの年齢だったトキジロウは、今の都市で、また違った別の危機に身を投じた。
敵は異形で、社会はまだ情報も統制も脆弱。
にもかかわらず、トキジロウは数人の同志を集め、命を懸けて街を守った、守りきった。
そして犠牲も大きかった。
最後の戦いで二人のピュアが戦死。
ヒーラーのトキジロウと、後に妻となるピュアのカオル。
そしてトキジロウに仕えるメイドであり、コベニの母であるピュアのベニが、この戦いを生き残った。
最終決戦の直前、人々にハラマセーの脅威を訴えかけ、理解を求め。
直接戦えなくとも、警鐘を鳴らし、知恵と協力の網を張ろうとした。
確かに一部の市民の賛同を得た。
しかし、異常さや違和感という曖昧な主観を盾に、嫉妬や利己心が『正義』の皮を被って膨れ上がる。
「バケモノは隣にいるヤツかもしれない、ヤラれる前にやらなければ」
「あの金持ちは、バケモノだから金を稼げてるに違いない」
「あいつがモテるのは、バケモノの力で惑わしているからだ」
「バケモノを匿っているはずだ、どんなことをしてもいぶりだせばいい」
「バケモノを生み出してるって話だ、排除しなくては」
「あいつはオレに恨みを持っている、バケモノに違いない」
疑心暗鬼と群集心理。
そしてその『正義』がトキジロウの親友で、戦友でもあるヒーラーのゴロウの家族を襲う。
ゴロウの妹は、以前苗床にされていたのを救い出せた。
それがどう歪んで漏れ伝わったのか、バケモノを産む娘として暴徒が押し寄せ、家に火が放たれる。
その炎は広がり家を焼き、燃え広がり街を焼き、なにも関係ない人も巻き込んで、悲惨な事件として処理されてしまう。
黒焦げになった妹を抱きしめ、立ち尽くすゴロウ。
その姿が異形へと化してゆく。
それ見た事かと囃し立て、バケモノに石を投げつける民衆。
怒りと悲しみと、絶望がゴロウをハラマセーに変化させ。
暴徒たちを虐殺してゆき、火災の被害が広がってゆく。
「こんなことになるなんて、こんなことになるために、オレは……」
激しい火災に茫然自失のトキジロウは、ピュア達に引きずられ連れ出され。
なんとかその場を脱出した。
この災害は都市の記録にも残る大火となり、どの記録も『なぜ暴徒が暴発したか、原因は不明』と書き残したが、トキジロウは知っていた。
それは『正義に酔った社会の手と、自分の浅はかさ』によるものだったと。
【決心】
「あの日、私は人を信じた。力を持たないからこそ、心で抗いたかった」
「しかし人は、自分の都合と正義を満たすために他者を殺すこともある」
「今の社会は、何も変わっていない。いやもっと酷いかもしれないな」
「違うのは、私はもうあの日のように『人を信じていない』ことだ」
「仮に、この巨大都市がハラマセーに占拠されたことが公になる、さすればどうすると思う?」
「それはさすがに、国が動いて軍が対処を……!?」
カオリはその後を察する。
「大規模な都市ごと破壊するような攻撃を行うであろうな、必要であれば核攻撃も辞さないであろう」
「そ、そんな………いいえ、そうですわね、民衆ごと焼き払いますわ。疫病に浸りきった街は焼き捨てるしかありませんもの」
冷徹なトキジロウの言葉を、抗い否定しそうになるのを、押さえつけカオリは同意する。
「ならばどう戦う? 娘よ?」
父の言葉は冷たく鋭いが挑発ではない。
愛娘が理想を掲げるならば、社会の悪意とより大きな判断すら跳ね返す実践を。
理想だけで救う事の空虚を理解し、社会を都市の内側から救う力を持ち戦えるか。
持ち得るかを問うもの。
「焼かれる前に守ればいいのですわ」
「敵の侵食より早く、希望を示し胸を張りますわ」
「わたくしたちの中に、戦える意志があると、証明し続ければ、人は変わっていきます、そんな方々もいるはずですもの」
カオリは、父の冷徹な言葉に絶望を覚えるのではなく、むしろ背筋が伸びる感覚を覚える。
あれほど弱さにまみれていた大人たち。
悲鳴を上げて子供を押しのけ、逃げ惑った人々を目の当たりにして。
それでも、救いの余地がある限り、灯は消してはならないと感じている。
この言葉を聞いたミナミは、静かに拳を握る。
緊張と恐怖、だが男の子としてそれ以上の覚悟を込めて。
コベニは、視線を横に逸らす。
「また無茶をなさいますね」と、ぽそっと口にする。
だが、顔にはどこか笑みが浮かんでいた。
「先人として言っておこう、戦いは辛く厳しいものになる」
「手助けはできるが、覚悟するのだな」
トキジロウはカオリの決心を認め。
カオリは自身の胸に、父の過去と自身の使命が刻みこんだ。
そして遺影の母───
カオルが父娘を見守っていた。
「ところで父上、このワイルドでリーゼントの不良なイケメンは、どなたですの?」
「私だが」
「……!?」
【挿絵表示】
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