「ピュアっとヒーラー」異世界からの孕ませ侵略者と戦ってエロで治療!? 作:白拍子
043「あせり」
【屋敷使用人用喫煙室】
「ふぅ~~~」
胸元のネクタイを緩ませ紫煙をたなびかせる、四十半ばの執事。
カオリがピュアとヒーラーの支援作りに奮闘する屋敷の地下、目立たないよう設置された使用人用の休憩に使われる喫煙室。
業務中の整然とした佇まいを崩し、喫煙による一服の一時。煙を吐き出す姿にはどこか人間らしい疲れが滲む。
「ご一緒しても?」
三十半ばのメイドが入室し、一応の許可を執事に求める。執事は煙草を小さく振って肯定の意思をメイドに伝える。
メイドも自分の煙草に火を灯し、煙を肺に吸い込み堪能する。
「今回の仕事は大変だったな、おかげで向こう側の臨時ボーナスの額にはびっくりだよ」
「そうね、まあ情報が情報だし。まさかお嬢さんがあ~んな男にだらしない淫乱女だったとは、誰が想像できます?」
執事の声は低く事務的だ。そしてメイドの受け答えも違和感が漂う。だが、その裏には任務の成功に対する冷徹な満足感が潜む。
この執事とメイドはクロノス社のスパイとして、この家に使用人として潜入。
執事は20年前から黒服として入り込み。地味ながら不足なく実務を積み上げ、10年前には執事に昇格。
その後は現場では大した活躍は無いが、上からの要求をかみ砕いて下に説明を行い。
また下からの意見を翻訳し上に上げる。また支援や設営等、派手さは無いが裏方の仕事を丁寧に遂行する所から、中間管理として重宝されている。
一方のメイドも十年近く潜入を続けており、互いに信用を築きながら、適宜に抜いた情報をクロノスに流し。必要な工作指令を遂行する。
そしてもし、クロノス社が全面的な攻勢をかける時があれば、獅子身中の虫として致命的な働きを行う役割を担う。
そしてピュアとヒーラーを支援する部署に席を確保している。
「カメラの設置と映像の回収ごくろう、私が社に渡りをつけておく」
「はいはい、セーフハウスの増設や施工に紛れて、本来に使うとは別にカメラを仕込むのって、結構重労働なんですけど」
執事の声は低く淡々としていたが。その裏には、任務の進捗に対する確かな満足が滲んでいた。
メイドは肩をすくめながら答える。彼女の表情には疲労の跡が残り、任務の裏に潜む労力は、誰にも知られることはない。
「その分、金は弾んでもらってるだろ。バレないように気を付ける事だ」
「たしかにね。少し危ないのもあったから、ごまかすのは出来たけど。全てにおいて完璧な仕事って無茶よね」
メイドの言葉には、現場での緊張と、わずかな誇りが混ざっていた。完璧を求められる世界で、完璧に近づくことの難しさを知っている者の声だった。
「まあ屋敷内と、学園敷地に設立する寮に関しては、私が仕込んではいるがね。お互い建築構造意匠について、それなりに知識と実践があるからこそできる事だし。その実績を報酬にしてくれるってわけだ」
「それはそうですけど、それで抜き出す記録映像が。ピュアとヒーラーのセックスですか? なにエロってるんですかこれ?」
執事は複雑なロックを解除したスマホを見せる。
そこには、監視のための導線が巧妙に織り込まれ、それに絡みつく様に隠されたカメラの存在が隠され。建築という名の仮面の下に、情報収集の牙が潜んでいる。
メイドの声にあからさまな嫌悪が混じる。任務の一環とはいえ、若者たちの無防備な姿を盗み見ることへの抵抗感は拭えない。
「それに関しては、クロノスの上が必用だって事だから、俺達は従うしかないって事だ。まあ、脅迫やスキャンダルには格好のネタだろ、性の乱れってやつはな」
「それはそうですけど、十代の若い子達が避妊もせず、乱れた関係を記録に取られている。想像もしたくない恥辱ね」
執事は冷酷に語る。倫理よりも目的が優先される世界に生きる者の、諦めにも似た冷静さだった。
メイドは視線を逸らす。記録された映像の断片が脳裏に浮かび。それを利用する事に、吐き気にも似た感情が胸を締め付ける。
「それに俺達が仕えている、お嬢さんも加わっているって事さ。正義の味方をするにも、こういうのが必用っていうのは、悩ましい事だな。まだヒーラーが弱気で格下なミナミくんだから、関係性がマシってやつだし。他の監視中のチームに関しても、男一人に女複数のわりには青臭くまとまっているて感じだからな」
「それにしても刺激的すぎますよね、豪快すぎるのが。あ~あ、今度の休暇、派手に買い物しちゃおうかな~」
執事の言葉は、どこか遠くを見ているようだった。
監視対象の若者たちに対する感情は、もはや同情でも嫌悪でもなく、ただの観察に近い。
メイドは冗談めかして言うが、その声には疲れが滲んでいた。
任務の重圧を、消費で紛らわせようとするのは、彼女なりの防衛だ。
「あまり足の着くような買い物するなよ。不自然な出費は、疑いの対象だしな」
「はいはい、わかってるわよ、あんたは?」
釘を刺されるような言葉に、つい詮索を探らせる。
「そうだな………久しぶりに女をはべらせて、ぱぁっと遊ぶか」
執事の陰湿さのない、カラっとした声にメイドは呆れる。
「なによ、あんたこそ足つきそうな感じじゃないの」
「男はい~んだよ、たまには遊ばなきゃだし、若い連中のああいうの見ていてムラってくるものもあるってね」
「うわあ、セクハラ」
メイドの咎める声さえも、明るく笑い飛ばすのは年期の余裕か。
「ま、独り身としては、時にそういう遊びも必要って、判ってくれるさ」
「あ、結婚……されてないんですか」
つい薬指を確認しながら、メイドが尋ね。
「こんなスパイなんかしていると、家族作って責任なんて持てないってね。ここの使用人連中は代々って感じで仕えているのも半分はってとこだが。近代に入ってからは外部からの雇用もされているのは、時代の流れって事だろうし」
「それで私達も潜入できていますものね、経歴などかなり洗濯されちゃいましたけど」
「その分給与も二重取りだし。クロノスの給与がどれだけ溜まりこんでいるのか、楽しみではあるがね………………」
執事の声が急に途切れた。過去の記憶が、思いがけず言葉を奪ったようだった。
「どうしました?」
「ああ、ミナミくんの両親だが二人とも同僚だった。まあ職場でくっつくのは珍しくもなかったし、嬉しそうに子供の写真を見せられるのは微笑ましかった。ミナミくんを残して、互いに殉職したのを目の当たりにしてな……なにも判っていないミナミくんが残されたわけだ」
「それは…………」
「つまらない感傷の昔話だ。俺達のような存在には必要ない話だったな」
「そうですね……」
二人は吸い終わった煙草をしっかりと処分し。仕事へと戻っていった。
彼らの提供した映像は、地下ビデオとして利用されるが。本編に影響されるようなスキャンダルには使われなかった。
二人のスパイは、遠い先の話ではあるか。屋敷の使用人としてもクロノス社の社員としても定年まで勤めあげ、静かに無事退職する。
【突入できず】
「あ~~~ん! もう、なんでこうなるのよっ!! 今、リサが何されてるのかわかんないのにぃ!!」
「しょうがないっしょ、途中で襲われている人を救出して。ウチらもひーりんぐ必要になったし」
「いまから夜襲をかけるか? それもいいかもだが、コベニちゃんからリサが攫われた話を聞いて、俺達……俺とアヤは血が上ってたわこれ」
セーフハウスの壁を拳で叩きながらアヤが沸騰する。苛立ちが湯気を立てあふれそうだ。
触手城近くのセーフハウス、アキラ達はそこで足止めを受けていた。
アキラが少し、少しは落ち着きを取り戻した声だが、いまにも飛び出したい気持ちは滲みすぎている。
「今無理して疲れ引きずって、返り討ちで倒れたらバカでしょ。それこそリサを救えなくなるって感じかなってね」
アスカの言葉は鋭く、現実を突きつける。アキラとアヤの視線が一瞬交錯し、渋々ながらも頷く。
リサ救出に触手城に向かう途中でアキラ達は。触手の一団に襲われる女性に遭遇し、一戦を交え撃退するも。
相当な時間と体力、深刻ではないが負傷が入ってしまい『このまま突入は、無謀ではないか?』との判断で、近くのセーフハウスに引いたのだが。
焦る気持ちが抑えられないのが、アヤとアキラであり。
その焦りを受け止め宥めつつ、アスカは十分な休息をとる事を説得する。
「俺ちょっと散歩してくるわ」
アヤとアスカが休養の準備にかかり、気晴らしという感じでアキラは外に出る。
「てか、俺達その触手城の事、なんにも知らないじゃねえか。まあどれだけ話聞けるかってとこだけど。飯食いながら話せる分量くらいは聞きまわるか」
アキラはその明るく気さくで人なっこい性格がここで活きる。
近隣の住民から触手城の噂を聞き出すため、都市伝説や廃墟の研究などと称して情報収集にぶらぶらと歩きまわる事で、自分の焦りを収め落ち着きを取り戻そうとしていた。
アキラがセーフハウスの扉を開けると、ほのかに漂う香ばしい匂いがアキラの鼻をくすぐった。
アヤとアスカが簡素な食材を手際よく調理して、テーブルには湯気を立てる皿が並んでいる。戦いの疲れがじわりと身体に染みていたが、こうして囲む食卓は、束の間の安らぎをもたらしてくれる。
「つまりは失敗したショピングセンターってわけね」
「そのとーり、交通は不便だし、地盤沈下の事故で駐車場も半身不随、事故で火災とかも出て、買い物楽しむにも人気はド最低。お、これ美味い」
「ビジネスオフィスに関しても、使い勝手の悪さから、スパッと手引かれたって話。あのパパですら『こりゃダメだ』と呆れていたしねぇ~近隣の住宅開発計画も早々に引き上げたってやつ」
アヤが椅子に腰を下ろすと、すぐに話題は『触手城』の話になる
商業施設としての失敗具合をアキラは説明しながら、二人の料理を頬張る。
アスカはフォークを口に運びながら、淡々と情報を整理していく。
彼女の語り口は冷静だが、言葉の端々に皮肉が滲む。かつては商業の夢を背負ったはずの場所は、今では人喰いの噂が絶えない忌避の廃墟となっている。
「タワー部分の最上階には、見晴らしのいいレストランがあったみたいだけど」
「それもさ~すっごい腕前のシェフを招いたみたいだけど。お客さんとめっちゃトラぶったみたい」
「ほんっとひどいな、呪われてるんじゃないか」
「あ、広い庭園にチャペルまである」
「ん、それ離婚率高いって。ここで挙式あげるのやめたほーがいいって、ダメ出しされまくってんね」
「なんか営業するの、無理じゃないか、これ?」
「だから廃墟化もやむなしってねぇ~」
「どこまで酷い施設なんだ……」
ネット上に残る施設案内の残滓を拾いつつ。どれだけ駄目な経営だったのか、想像もつかない。
「それにつけこんで、ハラマセーが拠点にしてるってわけね」
「まあ地元の連中は、お化け施設とか、人喰いショピングセンターとか噂されて。実際に踏み込んだって人間が行方不明とか、洒落になっていないし。警察とかが捜査しても、失踪の痕跡とかを見つけられないとか。立ち入り禁止と広報するのが精一杯だそうだ。それでも下手に冒険しにいって帰ってこなくなるのは減っちゃいない」
話が進むにつれ、三人の表情には次第に緊張が戻ってくる。
笑い話のように語られていた廃墟の実態が、ただの失敗施設ではない。
そこには触手の粘液にまみれた不気味な意思が蠢いている。
触手のぬめり、ゾンビーの獣じみた唸り声、モンスターの狡猾な視線。
ハラマセーの生態は、ただ戦うだけでは済まない、肉体と精神を犯すおぞましさがあった。
「ウチ思うんだけどさ~過去にここに挑んだピュアやヒーラーっているんかなって?」
唐突なアスカの問い。アキラとアヤは一瞬言葉を失う。
「それは………」
「わかんねえな、わかんねえけど、今は挑むしかねえと俺は思う」
「そうよね、リサを助けたい。私達は今はそれだけ」
この場にいる誰もが、リサを救いたいという思いに揺るぎはない。ただ、その先に何を望むのか?
それを曖昧にしたままでは、触手城に挑むのは危険すぎると、アスカは感じていた。
なによりも今のアキラとアヤは、視界が狭まっている。
「………………リサは助けだすのには賛成って感じ、それ以上欲ださないって事でオッケイ?」
「問題なし」「ねえな」
その言葉に、アキラもアヤも迷いなく頷いた。食事の席で交わされた確認は、彼らの覚悟を静かに、しかし確かに刻みつけ。
アスカは何を目標とするかを、二人に確認した。
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