#篠ノ之箒#
一夏と結華が出会い約二ヶ月が経った頃。織斑家と鉄装家は隣ということもあり両方の家庭で助けあいつつ縁を深めていった。その更にその仲を深めるということで両家は近くにある篠ノ之神社の夏祭りに来ていた。
「はい、一夏。これで結華ちゃんと遊んできなさい。男の子なんだからしっかりとエスコートするのよ」
「えすこーとって?」
「……引っ張ってあげるの。いつもの様に遊べばいいわ」
「わかった」
一夏は一夏の母親からお金の入った財布を受け取ると隣を歩く結華の手をとった。
「いこ、ゆいかちゃん」
「わかったわよ」
結華は一夏の誘いに若干苛ついているような素振りをしながらも一夏の誘いに乗って着いて行った。腕は振りほどかずそのままで。
「ほら、千冬も遊んできなさい。せっかくのお祭りで浴衣も着ておめかししてるんだから男の一人でも引っ掛けてくれば良いじゃない」
「いや、私は春百の世話が……」
千冬は抱っこ紐を使って抱いているて織斑家次女の春百(はるも)の顔を見ながら母にそう言った。
「それは私と父さんとやるからたまには遊びに行きなさい。親の本来の役目を貴方がする必要はないもの。それに、いつも行かないのだから今日ぐらいは楽しんでくれば良いわ」
「……分かった」
千冬は渋々ながら親の言うことに従い春百を両親に預けると屋台には向かわず奥の神社の方へと人混みに紛れて消えていった。
「一夏の恋は早かった……いや早すぎたが千冬は男どころか遊びにも興味を示さんとはな」
一夏と千冬、春百の父親は脇目も振らずに神社の方へ向かった千冬にそうこぼした。
「あなたに似て、遊びや恋に興味が無いだけですよ」
織斑父のこぼした言葉に織斑母はほんのりと笑みを浮かべながら父のその言葉にそう返した。
「さて、行くとしますか」
「ええ、そうですね」
織斑家の両親は一度立ち止まり鉄装家の両親の方を向いた。
「では、ここから一度個別に行動ということで。集合場所は先に行った通り」
「ええ、ではまたあとで」
織斑家両親は鉄装家両親の場所から離れていき、そのうち人混みに紛れて見えなくなる。
「……綴さん」
「どうした? 刃奈」
「……いえ、なんでもないわ。さぁ、お祭りを楽しみましょう?」
「そうか……そうだな」
「まずは……射的でもやりましょうか」
結華の母はかなり遊ぶ気満々のようである。
・―・―・―・―・―・―・―・
「ゆいかちゃんなにする?」
「あれ」
結華が指を指したのは金魚すくい……それもポイにウエハース状のを使うモナカというかなり古いものだった。いまどきは紙ポイを使用した使い捨てのものが多いにも関わらずそう言った古臭い金のかかることをする屋台も少なくはないようだ。
「わかった。おもしろそうだし」
「じゃあ、しょうぶね。すくなかったほうがゆうしょくおごり」
「のぞむところだよ」
二人は屋台の前に来るとその屋台のおじちゃんが声をかけてきた。
「お? 坊主、中々可愛い嬢ちゃん連れてるな。プレゼントに金魚か?」
「ううん、しょうぶ。まけたほうゆうしょくおごるって」
一夏が説明をすると屋台のおじちゃんが少し笑った。
「ほう? 中々面白い事してんなぁ……勝負ってんなら二人で一回分にしてやるよ。ここは2回まで出来るからな」
「ほんとうに? ありがと!」
「ありがとうございます」
「ははははは! 嬢ちゃん随分礼儀正しいな! 一回500円だ」
結華は特に何も反応せず、一夏は代金を払う。おじちゃんは針金にモナカを刺し出来たポイと椀を二人に渡す。
「かなり難しいからな、頑張れよ」
その言葉に頷きつつ二人はその二つを受け取り金魚の居る水槽の傍にしゃがむと金魚を見つつ結華がカウントを始める。
「さん、に、いち……すたーと」
結華の合図で始まる。
一夏は浅い所に居る金魚を掬おうとし、結華はモナカの縁の部分を少しだけ水に着ける。頑張って掬おうとする一夏だが金魚が逃げてしまって上手く掬うことが出来ずポイをどんどん濡らすだけ、それに対し結華は水に少しだけ着けた縁を撒き餌のようにして金魚を一箇所に集め3~5匹一気に掬う。一夏のポイは水を吸ってどんどんふやけていき最終的にはふやけてぼろぼろになり金魚の餌に成ってしまった。結華はその後もコンスタントに数匹ずつ掬いポイが使えなくなる頃には27匹ほど椀に入れていた。
「はっはっは! 坊主、嬢ちゃんにボロ負けだなァ!」
「きんぎょすくいってむずかしい」
「わたしのかちね」
結華は勝ち誇ったように(事実勝ったが)そう言った。一夏は少し残念そうな顔をしていたが負けは負けだと認めているようだ。
「で、嬢ちゃんどうする? そんなに居ても飼えねェだろ?」
屋台のおじちゃんが大量に掬った金魚をどうするのか質問してくる。
結華はその質問に少し黙って考えこんだ後におじちゃんに向かって答えた。
「さんひきずつふたつちょうだい」
「ゆいかちゃん?」
結華のその注文におじちゃんは盛大に笑い、一夏は首を傾げた。
おじちゃんは笑った後三匹ずつ二つのビニールの袋に入れると片方を結華に、も片方を一夏に差し出した。
「坊主、お嬢ちゃんからの施しだ。ありがたく受け取れよ?」
おじちゃんが「これでいいんだよな?」と言いたげな顔でニヤリとした笑みを結華に向けると結華は小さく頷いた。
「ほんと!? ゆいかちゃんありがと!」
「……どういたしまして」
金魚の袋を受け取った一夏は嬉しそうに笑って結華にお礼を言い、結華はしずかに言葉を返した。
そのあと結華もおじちゃんから金魚を受け取るとビニール袋に入っている金魚ではなく水槽の金魚を眺めている一夏に声を掛けた。
「なにしてるの?」
「なんかめがおっきいのいたから……びょうきかなーって」
一夏が右手で指差した先には黒く目が出ているいわゆる「黒出目金」が居た。
「それは『くろでめきん』っていうしゅるいのきんぎょでびょうきじゃないわよ」
「へー! じゃあこれは?」
次に指を差したのは出目金の目が出ていないような「琉金」という金魚を指していた。
「それは『りゅうきん』ね」
「いろんなしゅるいがいるんだね……ゆいかちゃんこんどもっとおしえてよ」
興味を惹かれたのか目を輝かせて一夏は結華にお願いした。そのお願いに結華は
「ええ、いいわよ」
と快く了承した。
「やったー! やくそくだよ? やぶらないでよ?」
「やぶらないわよ」
「わーい!」
嬉しそうにはしゃぐ一夏に結華は一度溜息を吐くと一夏の肩を叩いた。
「なに?」
「もうそろそろいかない? おなかすいてきたし」
「じゃあいこー」
一夏は立ち上がると再び右手で結華の左手を取っって屋台を回り始める。
「……ねぇ」
「なぁに?」
「なんでてをつなぐの?」
「はぐれたらたいへんだし……おかーさんに『えすこーと』しろっていわれてるから?」
一夏自身いつものようにやっているだけであるため何故かと聞かれると自分でもよく分からなかったが……なんとなくの答えは出せたようである。
「ふーん……ところでおごるっていうのわすれてないわよね」
「もちろんわすれてないよ、それで何食べる?」
何を食べるかと聞かれ結華が周りの屋台を見回して、ある屋台を指差す。
「あれ」
「やきそばだね、じゃいこー」
結華が指を差し何を食べるのか決まると一夏は焼きそば屋台の方へ結華の手を引いて焼きそば屋台の前まで来る。
「坊主、お嬢さん連れてどうした?」
屋台で焼きそばを焼いていた若いお兄さんが聞く。
「やきそばふたつちょうだい」
「ああ、あいよ」
焼きそばを用意しようとするお兄さんに結華が口を開く。
「ついでにラムネもふたつ」
「あいよ」
追加注文する結華に一夏は少し苦笑いを浮かべる。その顔を見た結華が一夏に聞く。
「なにかふまんでも?」
「ううん、そんなのないよ。ぼくのぶんのもありがとう」
「あんたがはらうのよ」
「わかってる」
払う分を増やした結華になぜ一夏がお礼を述べるのか結華には分からなかったがここ二ヶ月でそれが一夏らしさだと知り納得することにした。
「ほれ、焼きそばとラムネだ。1300円な」
「えーと……これでいい?」
一夏はラムネと焼きそばの袋を受け取りつつしっかりと代金分を払う。
「ああ、いいぞ。まいどありー」
「じゃ、いこっかゆいかちゃん」
一夏は右手首に受け取った袋を掛けると結華の左手を取って落ち着いて座れる場所を探し始めた。結華はしばらく手を引かれて居るだけだったが一夏と同じように場所を探す。
そして見つけたのは神社の裏側。近くに手押しポンプがあるところだった。ちょうど人が少なく表の方よりもかなり静かだった。
「お祭といえばラムネだよね」
「そうね」
草場に座った一夏と結華はそんな会話をしつつ袋からラムネ取り出して栓を開ける。きつく押さえていたようだがラムネが出てきて二人の手を汚すがどちらもは気にせずにラムネを飲む。
「おいしいね」
「そうね」
しばらくはラムネを飲んでいた二人だが焼きそばを食べようとしてラムネを地面においた所で手を止める。
「……て」
「べとべとね」
いやな感じがしなにか無いかと周りを見回すと結華が手押しポンプがあったのを思い出して立ち上がり、近寄る。一夏もそれに習って立ち上がって結華の後を追う。
「これって……ておしポンプ?」
「そうみたいね」
一夏の問に答えつつ結華は蛇口に立て掛けられている桶もなにも置かずに手押しポンプを上下に動かして水を出した。
「あれ? おけつかわないの?」
「はじめのやつはパイプとかにたまっててすこしよごれてるからながすのよ」
「そうなんだ」
ある程度流したところで桶を置き水を貯める。手押しポンプはそこまで高い位置ではないため女の子である結華でもしっかりとポンプを動かし水を出すことが出来た。その光景を見て一夏が興味を持ったようで手押しポンプを動かす結華に近づき「それやらせて」と目を輝かせて言った。
「はい。やりかたはみてたしわかるわよね」
結華は頷いてその位置を離れつつ一応やり方は分かるのかと聞いた。
「うん」
一夏は手押しポンプを上げ下げして水を出す。とても新鮮な感覚がした。
ある程度桶に水が溜まったところで一夏は手を止めた。
「ゆいかちゃんさきでいいよ」
「あとでいいのに」
「だってべとべとでしょ? こういうのはおんなのこをさきにやらせるのがいいっておかあさんが」
結華としては後でも良かったが一夏の気遣いを感じて断るに断れなかった。
「……分かった」
結華は桶に手を入れて手を洗い始める。井戸の水は冷えていてとても心地よかった。しっかり洗い終えると一夏に場所を譲った。
「どうぞ」
「はーい」
一夏は水に手を付け洗い始めた。時間としては結華と同じぐらいである。手を洗い終えると一夏は桶の水を流し蛇口に立てかけてもとに戻す。
二人共手を洗い終えて戻ろうとすると後ろから声を掛けられた。
「ん? おまえたちは……」
髪を後ろに束ねたポニーテールの少女が話しかけてきた。服装は白い道着……剣道に使うものだというのは一夏も結華もなんとなく分かった。
「ちょっとてがよごれたったからいどをかりてたんだ」
一夏の説明にポニーテールの女の子はなるほどと頷いた。
「そうだったのか。みたところおなじぐらいのようだがなまえは? 私はしのののほうきだ」
「ぼくはおりむらいちか」
「てっそうゆいかよ」
箒は何か思い当たるように首を傾げた。
「おりむらいちか? てっそうゆいか……? もしかしてしちさきようちえんのあじさいぐみの……」
「ああ、うん。そのクラスだよ」
「そうだったのか! よろしくな!」
箒が握手しようと手を出してきたため一夏はその手を握った。
「うん、よろしく」
「てっそうとやらもよろしくな!」
箒は一夏と手を離し結華にも手を出した。
「よろしく……モッピー」
「もっぴー? いみはわからないがよろしくな!」
結華は適当に握手してすぐに手を離した。
「ふたりはまつりりをまわっているのか?」
「うん」
「なら、あとでわたしもいっしょによいか? いまはちょっとようじがあってな」
「ようじって?」
「けんどうのもんかせいをぼしゅうしてるんだ。そのかんばんむすめだな」
「じぶんでかんばんむすめ……きゃくひき?」
結華の冷静なツッコミが入る。読んで字のごとくという状態である、もはや元の言葉の意味など無かったような状態なのは小学生の思考だからだろうか。
「そうだ! きゃくひきだ!」
「そうなんだ……うん、あとでね」
「ではな!」
箒はそのまま何処かへと行ってしまった。
「さ、ゆいかちゃんいこ?」
「そうね」
2人は焼きそばを食べに元の場所へ戻っていった。
改訂版です