セックスが禁じられた世界で俺の精子が狙われている 作:夜狩景士
今週はフェラチオとアナルセックスでDKウィルスに対する抗体ができるか検証した。
全ての女性で二十四時間以内に抗体が発生し、光司の精子が体内に取り込まれることによって即効性のあるワクチンのような働きをすることが証明された。
週末の朝食後、玲美がミーティングを行いたい、と提案してきた。
本当はすぐにでも玲美を抱きたかったのだが、仕事として光司に接している玲美の任務を優先しなければならない。
「政府から、小佐内さまにご提案があります」
玲美がいつものように丁寧に頭を下げる。光司は少し緊張する。あまりいい提案ではない予感がしたからだ。
「小佐内さまの精子が女性の体内でワクチンと同等の効果をあげています」
玲美が真面目で事務的な顔で光司を見つめている。あらためていい女だな、と思う。
「そこで、男性にも精液を提供して頂きたいのですが……」
光司は男性にペニスを咥えられている情景を想像してしまい、思わず眉を歪めた。
女性に対しては直接セックスして精子を提供することは問題ないが、男となると躊躇ってしまう。
「もちろん、男性と性行為をしろとは申しません……」
玲美の言葉にほっとする光司。
「ただ、精液を採取させていただき、男性に投与させていただきたいのですが……」
光司は当初、政府から精液だけを提供するように要請された。
それを断ったのは、精液を人工授精と人工胎盤に利用されることが嫌だったからだ。
男性に提供するという名目で採取した精子が、勝手に流用される懸念があった。
「もちろん、小佐内さまの意思を尊重して、男性の体内に投与する目的のみで精液を使用することを約束させていただきます……」
玲美の真摯な瞳に、ぞくっとする光司。玲美は信頼できる。だが、この特別私空間を離れてどんな形で精液が使われるかは信用できない。
「結局、男性にも抗体が発生したら、その男性の精子と抗体を持った女性の卵子で人工胎盤を使うんだろ?」
玲美の眼が少し泳いだ。
光司の精子を約束通り人工授精と人工胎盤に使わなかったとしても、光司の精子を投与されて抗体ができた男性の意思までは光司がコントロールすることはできない。
「そうなると、男性に精子を提供することはできないな」
人工胎盤の存在自体に反対の光司の立場からすると当然の結論だった。
「小佐内さま。あらためて、もう一度お考えいただきたいのですが……」
玲美が身を乗り出してきた。
「このまま小佐内さまが、女性と性行為を続けても、人類全体に抗体が発生するまでに、失礼ですが小佐内さまの体力と寿命が尽きてしまいます……」
一年を五十二週とすると、今のペースで週五人の女性と交わると、年間で二百六十人だ。
このように毎日セックスを続けることが、現在五十代の光司にあと何年続けられるだろうか?
例えば、週に五人ではなく、一回のセックスで抗体が発生した時点で次の女性に替われば、週に十五人と交わることができる。
それでも年間千人に満たない。
それを思うと、光司が精子を提供して、それを基にワクチンを開発してもらう方が、圧倒的多数の人間を救うことができる。
「人工胎盤の是非については、パンデミックを克服した後、あらためて議論することができるのではないですか?」
玲美が光司を見つめている。その視線の圧に光司は思わず眼を逸らした。
「現に小佐内さまと性行為をした新人類の女性は皆、生身の人間同士のセックスの素晴らしさを知りました……」
玲美が手を伸ばし、そっと光司の胸に触れた。
「私も、そのひとりです……」
玲美の頬に赤みが差した。
「いずれ、現在懐妊している女性から男児が生まれてきます……その男児が成長して精通した時点で、小佐内さまの意思を離れて彼の精子が使われることになります……」
光司がいくら抵抗しても、時間の問題だということは明白だった。
「それに、人類にとって遺伝子の多様性を確保するためにも、他の男性にも抗体が必要なのです……」
玲美の言うことは全くの正論だった。光司はそれを分かっていながら、多くの女性とのセックスに溺れているのだった。
そろそろ、目を覚まして人類にとって正しい選択肢を選ばなければならない時期に来ているのかもしれない、と光司は思う。
「少し、考えさせてくれないか……」
光司は玲美の瞳を見つめて呟いた。
「もちろん……小佐内さまの意思は尊重させていただきます……」
玲美は一礼すると、リビングを離れて自室に消えた。
この週末は、結局玲美を抱かなかった。
自分の性欲を充たすために、多くの女性と交わって来た。
光司にとって人工胎盤に反対する気持ちは噓偽りがないものだったが、それを多くの女性とセックスする口実としているのも事実だった。
一応、法を犯した容疑者という立場である光司は、特例で特別私空間を提供され、多くの女性と交わってきた。
自分の意志で頑なに性行為による精液の提供に固執してきたが、それが世間でどのように捉えられているのかは、容疑者としてネットの情報が遮断されている光司にはわからない。
恐らくは、性欲を拗らせたスケベな中年男、として嘲笑されているに違いない。
結局、今後の身の振り方について結論が出ないまま、新しい週を迎えた。
いつものように、ナンバー1の部屋のドアから光司は開ける。
驚きで光司は眼を剥いた。
全裸の女性が腕を組んで立っていた。
ショートボブに太い眉。意志の強そうな瞳。
そして浅黒い肌にボディビルの選手か何かの競技のアスリートを思わせる筋肉質な肉体だ。
「はじめまして……」
彼女の迫力に改まった態度で光司は挨拶した。
全裸の女性は光司を睨んだまま、返事をしない。
「えっ、と……お名前は?」
光司はすっかり女性の凛とした佇まいに呑まれてしまった。
「雷奈」
「らい……な、さん?」
光司は聞いたことのない名前に戸惑う。
「カミナリの雷に、奈良の奈……」
そっけなく答える雷奈。
「さっさと、して……」
よくみると割れた腹筋の上に女性らしい円みを帯びた乳房があり、股間は綺麗に剃っていた。
女性として好みかと言えば違ったが、週末いつものように玲美と交わらなかった光司の陰茎はたちまち硬直した。
雷奈は、ベッドに腰を下して股を大きく開いた。右手の人差し指と中指で陰唇を、くぱあっと拡げる。
「愛撫は、いいから……すぐ挿入れて……」
色気もない即物的な言葉を雷奈が吐く。
だが、光司はそんな彼女の冷たい態度とあっけらかんと開いた肉体に興奮してしまった。
荒い息を吐きながら、光司は肉槍に手を添え、雷奈の開いた陰唇に亀頭をハメ込んだ。
「んっ……ふっ!」
短く息を吐いて、雷奈が光司の肉棒を受け入れる。
両手を後ろについて上体を起こしたままの雷奈の顔が至近距離にある。
雷奈は敵意のあるような瞳で光司を睨んだ。
光司は抵抗感のある雷奈の膣壁をゆっくり裂いていった。
唇を合わせようと顔を寄せる。
「臭っ!」
雷奈が顔を背けた。口臭には気を使っているつもりだったが、キスを拒否されてしまった。
ちょっとした嗜虐心が光司に芽生え、一気に雷奈の奥を突いた。
「ふんっ!」
雷奈の表情が一瞬歪んだが、すぐに鋭い眼で光司を見つめてきた。
光司は腰を引き、再び雷奈を突き上げた。
「うんっ!」
全く色気のない、まるでトレーニングでもしているような息を漏らす雷奈。
光司はこの女を啼かせてやろう、と一気にハードなピストンを打ち込んだ。
「うんっ……ふんっ……はっ!」
愛情の交換としてのセックスとは違い、ただ肉を打ち付け合っているだけの抽送だった。
いきなりの挿入だったので、膣内の潤いが足りない気がする。
肉棒をハメ込まれている雷奈は痛みを感じているのではないか、と光司は思った。
だが、雷奈の膣襞の締め付けが、徐々に光司の射精欲を滾らせてきた。
「ん……んっ……んっ……」
この女から甘い喘ぎ声を引き出したい、と光司は乳房を掴んだ。
雷奈は反射的に光司の手を払う。
光司は驚きとともに雷奈の行動に怒りを感じた。
衝動的に雷奈の両脚をつかみ、万歳させるように拡げ、雷奈の起きた上体を崩しベッドに倒した。
肉棒の挿し込む角度を垂直にし、猛然とピストンを打ち込む。
これまで交わってきた女性は皆、たっぷりとした愛液で光司の陰茎を包んでくれた。
だが、雷奈とは激しい摩擦で性器を擦り合わせているだけだ。
乾いた痛みのようなものが、光司の肉棒から感じられた。
これはセックスというより、単なる種付け行為だ。
鍛えられた雷奈の肉体が、強烈な膣内の締め付けとなって光司の肉棒を絞り込む。
「雷奈あっ、射精すぞおっ!」
こんなレイプみたいなセックスは光司の嗜好から外れていたが、射精欲には逆らえない。
雷奈が膣内を、きゅっ、きゅっ、と意識的に締め付けた。
「ああっ、おおっ!」
光司は雷奈の最奥で肉棒を止め、精液を放った。
どくん、どくん、と雷奈の子宮にこの週末溜め込んでいた大量の白濁液を注いだ。
雷奈は下から挑戦的な視線で光司を見上げている。
このように光司に対して敵意を向けてきたのは、一番最初にセックスした新人類である莉里香以来だった。
その莉里香も、光司との生身のセックスで結局は蕩けてしまったのだ。
雷奈も、何度か肉体を重ねれば、態度が変わるだろう、と長い射精を終えた光司は思った。
「
雷奈は短くそう言うと、いきなり両手を伸ばし、光司の首筋を思いきり締めた。
「ぐっ……なっ……うぐっ!」
何をする、と叫ぼうとした光司の喉仏が雷奈の強靭な握力で潰される。
「ぐうっ……や……やめっ……ぐ……」
命の危機を感じ必死に抵抗しようとする光司の力を雷奈は上回っていた。
光司の視界に暗幕が降りる。
そのまま光司は意識を失った。
(ここは……どこだ?)
見たことのない景色だった。
眼の前に川が流れている。霧か靄のようなものが川の上に漂っている。
向こう岸に人影が現れた。
徐々に霧が晴れるように人の姿がはっきりしてきた。
亡き妻の貴美子だった。
優し気な微笑みでこちらを見ている。
光司は貴美子に向かって歩き出した。足元を流れる川のせせらぎが耳に届く。
(俺……死んだのか?)
川に足を踏み入れようとした時、貴美子が手のひらを見せた。
止まれ、ということか?
光司が立ち尽くしていると、貴美子が首を横にゆっくりと振った。
まるでまだ来なくていい、と言っているようだった。
やがて貴美子の姿が霧の中に吸い込まれるように輪郭を失っていった。
「小佐内さま、小佐内さまっ!」
ぼやけた視界がクリアになっていく。
涙をためた玲美が光司の顔を覗き込んでいる。
「小佐内さまっ! 気づきましたかっ!」
どうやらベッドに寝かされているらしい。
「よかった……」
玲美が光司の胸に顔を埋めた。髪から甘い香りが漂ってくる。
どうやら自室のベッドに身体を横たえているようだ。
玲美が光司の横に立ち、腰を九十度曲げて頭を深々と下げた。
「小佐内さまっ! 申し訳ございません!」
確か雷奈に射精直後に首を絞められたのだった。
死を覚悟するほど雷奈の力は強かった。今ここにいるということは、助かったということだ。
「雷奈は?」
「拘束して警備官が連れて行きました」
雷奈といた私空間で二人きりのはずだった。玲美は二人の行為中の
光司の疑問を察したのか玲美が答える。
「実は、小佐内さまと女性の行為については監視しておりまして……」
やはり、これまでの女性との行為は玲美によってモニターされていたのだ。
同じ特別私空間内なので、女性がいる私空間でも監視すること自体は違法ではない。
「申し訳ございません。監視の件について黙っておりまして……」
再び玲美が頭を下げる。
光司は玲美を責めるつもりはなかった。この監視のおかげで命が助かったのだ。
締め付けられた首に痛みを感じた。
光司は身体を起こそうとするが、うまく力が入らない。
「小佐内さま。無理をなさらず、お休みください」
玲美が起きようとした光司の肩を優しく押さえた。
光司はそんな玲美の首に手をかけて胸元に寄せた。
「ありがとう……玲美」
玲美のさらさらした髪を撫でる。
光司が失った意識を取り戻したときはすでに夕方だった。
他の女性たちとの行為は急遽中止することになった。
光司の体力はベッドに上体を起こせるまで回復している。
「雷奈は、何故俺を襲ったんだろう?」
光司は率直な疑問を玲美に問うた。
「今、調査中です」
ベッドの横に座る玲美が答えた。
「小佐内さまと行為をする人選については、最終的に承認するのは、私です」
玲美の目尻に涙が浮かんだ。
「危険に気づけず申し訳ございません……」
「玲美のせいじゃないよ……人が何を考えているかなんで、誰にもわからないよ」
次の朝まで、光司は考え事で浅い眠りしかできなかった。
「おはようございます。小佐内さま……」
玲美がリビングに出てきた。
「お体の具合はいかがですか?」
「問題ないよ。女性たちを待たせちゃったね。今日から再開しようか」
「いえ。今回の件、まだ原因が不確かなので、しばらく小佐内さまには待機していただきます」
「俺は平気だけど……」
「ですが……また同じようなことが起きないとも限りません……」
玲美は深刻な表情だ。特別私空間の責任者として自分を責めているのだろう。
「俺のことを面白く思っていない勢力があるということかな?」
「何とも言えません……」
「実際のところ、ネット世論は俺のことどう言ってるのか教えてくれない?」
玲美は光司を見つめたまま押し黙った。
光司も多くの女性とのセックスに夢中で、人類とその未来のことは考えないように避けていたのは事実だ。
「様々な意見があります……」
玲美の言葉の歯切れが悪い。
「正直に言ってもらってかまわないよ」
目を伏せていた玲美が改めて光司の表情を窺った。
「小佐内さまの行動に否定的な者がいることは事実です」
やはりな、と光司は思う。
「ですが、DKウィルスに対する抗体の件で、小佐内さまに希望を見出している者の方が半数を超えています」
生まれ付いたときから現在のように人々が私空間に分離している新人類にとっては、現在の快適な生活を壊す存在と思われているのかもしれない。
また、人々が普通に交流していた経験を持つ旧人類のなかにも、生活のためにあくせく働かなくてもよい現状を維持したいと思う者も多いだろう。
「俺は、人工胎盤に反対するあまり、視野が狭い考えしか持てなかった」
光司の言葉に、玲美がはっ、となる。
「俺の精子自体を提供するよ……」
「小佐内さま……」
「玲美の言ったとおり、DKウィルスを撲滅してから人工分娩について人類全体で議論すればいいことだ」
個人個人バラバラに暮らしていた人類が、パンデミックの恐怖から解放されれば、家族という絆を取り戻すことができる。
そうなれば、人工胎盤というテクノロジーに頼ることの是非を議論することができるだろう。
「そもそも人工胎盤は、パンデミックで人間同士が接触できない状態で緊急避難的に導入されたものです……DKウィルスを排除できない状態で、人類が存続するためにやむを得ず使われたテクノロジーです」
玲美は冷静に状況を理解していた。
「もっと倫理的な議論を人類全体で尽くすべきでしたが、パンデミックの恐怖で冷静な議論はされずに導入されたのです」
「DKウィルスが克服されたら、改めて落ち着いて議論できるだろうね……」
光司の意志が固まった。
光司がワクチン開発のために精子を提供する意思を表明した。
「それでは、女性達との性交渉は中止しますか?」
玲美が尋ねる。
「それに関しては、どうしようか迷っている……ワクチン開発には時間がかかるし、その間俺と交わった女性に抗体を与えることができるし……」
正直、毎日様々な女性を抱くことができる日々を手放すのは惜しい、と光司は思う。
だが、この状況は冷静に考えれば異常だったと言えた。
「改めて、小佐内さまとの行為を希望する女性たちの意思を確認したいと思います」
玲美が言った。
「ワクチンが開発される可能性が高い、と伝えて、それでも小佐内さまを希望される女性のみを、ここにお連れします」
ワクチンで抗体が得られるのなら、わざわざ自分のような中年男とセックスを望む女性はいないのでは、と光司は思った。
「それに関しては、玲美に任せるよ」
雷奈に絞められた首の痛みは、ほぼ消えた。
毎日複数の女性とセックスしていた光司だったが、この三日間は全く射精していなかった。
「小佐内さまと行為を望む女性の意思がまとまりました」
朝、玲美が報告してきた。
「辞退された女性も数人いましたが、ほとんどの方が小佐内さまとの行為を希望されています。そして新たな希望者がさらに増加しています」
意外な結果に光司は驚いた。
「小佐内さま。これから、どうされますか?」
「正直、こんな男に魅力があるとは思わないが……希望している女性がいるのなら、俺は受けようと思う」
「わかりました。そのように手配します」
玲美が微笑む。
「ところで、小佐内さまと面会したいという政府の者がいます。会っていただけますか?」
リビングに長い黒髪を背中まで伸ばした、スリムな体型の女性が現れた。
年齢的に新人類だろう。
だが、光司が驚いたのは、その女性に見覚えがあったことだ。
「初めまして。政府新人類代表の綾瀬智恵美と申します」
政府の新人類のトップが直々に光司に会いに来た。
「どこかで、お会いしましたか?」
光司は思わず智恵美に尋ねる。
「いえ。今日初めてお目にかかります」
沙奈絵と死を覚悟したセックスをする前くらいから、光司のアイリンクに度々ノイズとして現れていたのは、この女性だった。
「まずは、こちらの不手際で小佐内さまに加えられた危害を防げなかったことをお詫びします」
智恵美は、深々と頭を下げた。
「いえいえ。あれは事故ですから、お気になさらないで下さい」
光司が慌てて言うと、智恵美は、くっくっ、と笑う。
「政府の人間だからって、そんな丁寧な言葉は使わなくていいですよ」
新人類のトップだが気取ることもなく、気さくに接してくる智恵美に、光司の心も解れる。
「ところで、何故俺が襲われたのかわかりましたか?」
光司の問いに、智恵美が優し気な瞳で見つめてきた。
「それに関しては、小佐内さまとじっくりお話させていただきます」
智恵美の表情が急に妖艶なものに変わる。
「今夜、ご一緒させていただけますか?」
光司は智恵美の言葉に戸惑う。
これは食事の誘いなのか、夜の営みの誘いなのか?
まさか政府の代表がわざわざ光司とセックスするために出向いたのではあるまい。
だが智恵美の瞳には光司の胸を突く妖しさが込められていた。
ふと、玲美が困惑したような視線で智恵美の方を見ているのが眼に入った。
「では、小佐内さまと寝室でお話をしましょうか?」
夕食の後、智恵美がストレートに言った。
光司は政府のトップの真意を図りかねている。
「話でしたら、こちらのリビングでいいのではないですか?」
智恵美が微笑む。玲美は眼を伏せている。
「話というのは、言葉だけでするものではありませんわ……」
光司は明らかに性的な誘いであることを確信する。
「いくら政府のトップだからと行って、順番を飛ばすことは不公平だと思いますが……」
光司の言葉が非難を含んだニュアンスを帯びた。
智恵美の表情は変わらない。
「あなたが私の話を聞きたいのであれば、寝室で二人きりでなければなりません……」
光司は自分が何故襲われたかの理由を知りたいとは思うが、政府のトップとセックスしてまで知りたいとは思っていなかった。
「残念ですが、ここでできない話なら聞きたいとは思いません」
光司は智恵美の眼を見て言う。
「例えば、今回のパンデミックが仕組まれたものだとしたら?」
驚きで眼を剥く光司。
政府のトップである智恵美が言うことで、何やら底深い闇のようなものが立ち上がってくる気がして光司は身震いした。
「そんなこと、俺に言っていいんですか?」
「もちろん。小佐内さまには知っていただかなければならないことです」
「どういうことだ?」
「私とお話しをする気になりましたか?」
智恵美が妖艶な微笑みで光司を見つめた。