セックスが禁じられた世界で俺の精子が狙われている 作:夜狩景士
気が付くと夕食の時間になっていた。
今日は何を食べよう、と考える。世界中のあらゆる料理が私空間では誰でも食べることができる。
フランス料理のコースでも、ラーメンでも、行ったことのない国の民族料理でも、なんでもかまわない。
ただし、それは本物ではない。
メタフードという低コストで大量生産されている汎用食材を、メタクックという調理機械が、本物に近い味と食感、風味まで再現してものの一分間で作り上げてしまう。
人類が半減したことで、第一次産業に従事する者も激減し、流通経路を含めて本物の食材を入手することが困難になった。
当然ながら本物の食材の価格は高騰し、一部の富裕層しか食することができないようになっていた。
たとえ偽物とはいえ、本物に限りなく近い味を再現してくれるメタフードとメタクックが政府によって無償で提供されているので、一般の人間はそれで良しとしていた。
光司はパンデミック前に味わっていた料理とメタフードの違いに最初は違和感を感じていたが、それから二十年過ぎた今となっては、本物の食材を使った料理の味というものを忘れてしまっていた。
「今日は寿司にしようかな」
光司が呟くと、キミコがすかさず尋ねる。
「ネタは何にする?」
ちょっと考えてみたが、光司は面倒くさくなった。
「任せる……あっ、大トロを多めにして」
ソファでぼんやりしていると、メタクックから寿司がすぐに出てきた。
キミコが食卓に運んでくる。
見た目も食感も本物と遜色がない。味も上等だ。しかし、今となってはすっかりメタフードに舌が慣れてしまっているだけだ、とは思う。
光司は産婦人科医として、医療従事者の集まったフロアに暮らしている。
上のフロアには、医療施設があり、そこで患者を診察することで一般より多い収入を得ている。
たいていの病気は、遠隔診察で薬を処方することで治るが、まれに手術が必要だったり難病だったりすると、医師による触診が必要になる。
そのための医療施設だった。
もちろん、人間同士の接触が禁じられているので、患者と医師は防疫スーツによって間接的に接して治療を行う。
産婦人科医としての光司はメインである出産がなくなっているので、婦人科の難病の患者をたまに診るだけだ。
アイリンクにメッセージが届いた。
光司が点滅するメッセージを指で弾くと、沙奈絵の姿が現れる。
「光ちゃん、元気?」
沙奈絵は光司の幼馴染だ。年齢は光司と同じ五十代だが、童顔のせいか若く見える。
目元のシワさえなければ、二十代と言っても不思議ではない。
アイリンクの映像は眼の前に話している相手が本当に存在しているように立体的でリアルだ。
光司は沙奈絵と近況を話した後、尋ねた。
「今夜も、する?」
こくんと頷く沙奈絵の頬がほんのり紅く染まった。
光司が童貞を捨てたのは小学生の時で、相手は沙奈絵だった。
光司の父親も産婦人科医だった。自宅に隣接した産院を経営していた。
多忙な父だったが、光司に対して幼い頃から性教育を行う。
正しい知識を与えるだけでなく、実践して見せてくれた。
小学校五年生になると、父は母との性行為を光司に見せる。
事前に座学として、セックスとはどういう事をするのかは知らされていた。
だが、目の前で父と母が艶めかしく交わっている状況は、光司に想像以上のインパクトを与えることになった。
今から思えば、母は嫌だったと思う。光司の視線に耐えられず、顔を背けていた。
だが、父の性技の巧みさに、声を抑え切れず母は乱れる。
白濁した愛液を絡ませながら、父のペニスが母の膣口に抜き挿しされている光景に、光司は釘付けになってしまった。
母は、セックスを見られて以来、光司と距離を置くようになった。
もちろん、露骨に光司を避けるのではなく、普段と同じように優しく接してくれてはいた。
だが、父に女として抱かれている母を見てしまった光司は、母の豊かな胸と尻を実の親に対するのとは別の視線で見てしまう。
そんな光司の変化を母は敏感に感じ取ったのかもしれない。
小学校に通う道では、女子中学生、女子高生、働いているお姉さんや、ムチムチしたおばさんなど、様々な女性とすれ違った。
その度に、彼女たちの裸の姿を想像してしまっていた。
女性に対する興味が昂ぶってしまった光司。父の早すぎた性教育は、父の思惑を超えて光司を別の方向に押し出してしまったように思う。
早く父と母のように、交わりたい、と思い詰めた光司。
その光司に一番近かった女性が、隣の家に住む沙奈絵だった。
沙奈絵とは、幼い頃からよく遊んでいた。沙奈絵を女として意識し始めたのは、小学校五年生になって沙奈絵の胸が膨らみ始めてからだ。
この頃は、男子と女子で別々に遊ぶようになり、沙奈絵とは挨拶するだけの間柄になっていた。
ある日、学校の帰りに、道の先を歩く沙奈絵を光司は見つけた。
心臓が一気に高鳴った。少しずつ距離を詰め、偶然を装って声をかける。
「やあ、沙奈絵」
光司は喉を振り絞って声をかけた。自分の声が不自然に聞こえなかったか気になった。
「あっ、光ちゃん……」
いつもの様に微笑む沙奈絵。光司はちらりと胸に眼をやった。
「あの、さ……沙奈絵……」
光司が言葉を途切らせる。沙奈絵が首を傾げて次の言葉を待つ。
光司は顔を真っ赤にして、思い切って言った。
「久しぶりに、一緒に遊ばない?」
沙奈絵に変に思われるのではないか、と光司は眼をつぶってしまう。
「いいよ!」
明るい沙奈絵の返事に、光司は眼を開けて驚く。
「えっ……いいの?」
「光ちゃんとは、最近全然遊んでないからね」
屈託のない笑顔の沙奈絵。
「今からウチ来る? 今夜パパもママも遅いんだ」
何度もお互いの家を行き来していたが、沙奈絵の部屋に入るのは久しぶりだ。
見慣れない男性アイドルのポスターが貼ってあった。
「あんまりジロジロ見ないで……恥ずかしいから……」
沙奈絵が言う。
他愛もない話が何往復かした後、二人の間に沈黙が訪れた。
「沙奈絵……手、握ってもいい?」
光司が震える声で言う。沙奈絵がこくんと頷いた。
光司が手を恐る恐る伸ばし、沙奈絵の手を握った。
幼い頃から何のためらいもなく手をつなぎ合ってきた。
だが、今はその頃とは違った意味合いで手をつないでいる。
二人の間に、微妙な緊張感が流れた。
突然、沙奈絵が耐えきれず声を上げて笑い出した。
「光ちゃん、変だよ!」
右手をつなぎながら、左手で口を押さえて笑う沙奈絵。
ひとしきり笑うと、沙奈絵が笑顔を消して言った。
「光ちゃん、私をエッチな眼で見てるでしょ?」
図星を突かれて、光司は固まってしまう。
「私の胸とか……お尻とか……」
光司はいたたまれず眼を伏せた。
「ごめん……沙奈絵……」
「謝らなくていいの、光ちゃん」
えっ? と思い光司は顔を上げて沙奈絵を見る。
「私も同じだから……」
そう言うと、沙奈絵が眼を閉じた。
光司は、そっと沙奈絵に身体を寄せた。
顔を近づけ、唇同士を触れさせる。
(ああっ……沙奈絵と、キスしてる……)
光司の股間が硬くなった。沙奈絵の柔らかい唇の感触が光司を昂らせた。
右手をつないだまま、左手で沙奈絵を抱き寄せる。
「んっ……んんっ……」
喉の奥でくぐもった呻き声をあげる沙奈絵。
光司は両親がしていたように、沙奈絵の唇を舌で割った。
「んっ……はっ……ふうんっ!」
切なげな息を漏らして、光司の舌を受け入れる沙奈絵が身体をよじる。
光司は唇を吸いながら、沙奈絵の身体を床のカーペットに横たえた。
沙奈絵のTシャツをゆっくり捲りあげる。
膨らみかけの乳房が晒された。
光司は豆粒のような沙奈絵の乳首に吸い付いた。
「あっ……光ちゃん!」
沙奈絵は、光司の頭を抱えて乳首を吸われるままにした。
光司の手が沙奈絵の下半身に伸びる。
ショートパンツの中に手を差し込み、柔らかい陰部に触れた。
「ああっ……あんっ!」
沙奈絵が肉体をよじる。光司はさらにパンティの中に指を差し込んだ。
生え始めた薄い陰毛を感じながら、秘密の谷間に指を入れた。
(ここに……チンコ、
光司は硬直した陰茎から湧いてくる疼きに急かされて、沙奈絵のショートパンツとパンティを一気に下した。
「やんっ!」
下半身を晒された沙奈絵が、陰部を手で隠した。
光司も自分のズボンを下ろす。硬く突き出した陰茎を沙奈絵の眼の前に晒す。
「光ちゃん……オチンチン、大きくなってる……」
沙奈絵が眼を見開いた。
「沙奈絵っ! チンコ、挿入れたい!」
「えっ……」
沙奈絵は、息を呑んだが、光司の切実な眼差しを見て、こくりと頷き、眼を閉じた。
股を開き、光司は沙奈絵の股間に腰を入れる。
陰茎に手を添え、沙奈絵の膣口に先端をあてがった。
だが、なかなか陰茎は沙奈絵の中に挿入っていかない。光司は焦る。
沙奈絵の潤いが足りていないのだ、父からセックスのやり方を教わっていた光司は気づく。
唾を溜めて、沙奈絵の膣口に何度も垂らした。亀頭を何度か擦っているうちに、先端がにゅぷっ、と呑み込まれた。
徐々に陰茎が沙奈絵の中に挿し込まれていく。
「んっ……ふっ……んんっ!」
切なげに眉を歪め、顔を横に逸らした沙奈絵が濃い息を漏らしている。
陰茎が半分ほど挿入ったところで、光司は肉の抵抗感を感じた。何度か押し込んでみるが先に進まない。
光司は上体を倒して、沙奈絵の唇を求めた。下半身で繋がりながら、二人はキスをする。
今度は沙奈絵も舌を絡めてくる。くちゃっ、くちゃっ、と息と唾液を混ぜ合わせ、二人は唇を吸い合った。
突然、結合部の抵抗が緩んで、光司の陰茎が一気に沙奈絵に挿し込まれた。
「んんっ……はあんっ!」
沙奈絵が唇を外し、叫ぶ。
光司は沙奈絵の処女を貫いたのだ。
「沙奈絵っ!」
光司は初めて女性と結合したことで、全身が震えた。
「光ちゃん!」
見つめ合った二人は再び唇を重ねた。同時に光司が腰を振り始める。
「んんっ……はっ……んんっ!」
上下の口で繋がりながら、二人の裸身が絡まり合う。
(凄いっ……気持ちいいっ!)
光司は猛然と腰を振る。陰茎に絡まる沙奈絵の柔らかい肉が絞めつけてくる。
(これが……セックス!)
陰茎の根元から、快感の疼きが湧き上がってきていた。
光司はまだ精通していなかった。
射精という行為について、父から教わって知識として教わっていたし、母とのセックスで実際に父が母の腹の上に白濁液を放射しているところを見た。
セックスのことを考えて女性の裸を想像しているときに、陰茎が硬くなることは経験していた。
父に正しいオナニーの仕方を教わったので、自分で刺激してみると、なんとも言えない気持ち良さを感じることができた。
だが、未だ射精には至っていない。
父からは避妊について教わっていたし、コンドームも渡されてはいた。
まさか今日久しぶりに一緒になった沙奈絵と、こうしてセックスをすることなど思いもよらず、コンドームを持っていなかった。
沙奈絵に挿入して腰を振り上げている光司は、快感の奔流に身を預けている。
「あっ……はっ……うんっ!」
苦し気に眉を歪めた沙奈絵が、光司に突かれながら肉体をくねらせている。
「沙奈絵、沙奈絵、沙奈絵えっ!」
腰を振るたびに、陰茎を締め付ける沙奈絵の膣壁が心地よい。
「光……ちゃん……」
薄く瞼を開けて光司を見上げる沙奈絵。
その時、光司の尿道を初めての精液が駆けあがっていった。
「あっ、あっ、あああっ!」
めくるめく快感とともに、光司は沙奈絵の子宮に向かって新鮮な白濁液を注ぎ込んでいた。
(ああっ! 射精しちゃった!)
自分でコントロールできない射精という行為。気持ち良さとともに、避妊もせずに沙奈絵に射精してしまったことで、光司は青ざめた。
沙奈絵は光司の精液を受け入れて、うっとりとしている。
光司の首に腕をかけて、沙奈絵は唇をつけてきた。
沙奈絵を連れて光司は自宅を兼ねるすぐ隣の産院に向かった。
沙奈絵を外に待たせて、受付の看護師に父に会いたいと伝える。
父は診察室の奥にある控室に招いてくれた。
光司は正直に沙奈絵とセックスして、膣内に射精した、と言った。
父は驚いた眼をしたが、すぐに状況を理解してくれた。
結局、アフターピルを処方してくれたので、沙奈絵の妊娠は避けられた。
もちろん、光司は父にこっぴどく説教されることになったのだが。
昨年、五十歳を過ぎて急に性欲に目覚めた光司は、キミコと毎日のようにセックスし始めた。
だが、生身の人間に触れたい欲求が募り、貴美子との結婚以来連絡を断っていた沙奈絵を探し出し、接触した。
お互い配偶者を浮気によって喪った境遇を話し合っているうちに、お互いが初体験の相手同士であることを想い出し、惹かれ合った。
沙奈絵は着ていたシャツのボタンを外し、レースのブラジャーに包まれた巨乳を晒した。
初めてセックスした時の膨らみかけの胸は、今や成熟した女の円みを帯びている。
光司も服を脱ぎ、全裸になる。興奮で陰茎が反り上がっていた。
沙奈絵が背中に手を回し、ブラのホックを外すと、カップに窮屈そうに詰まっていた乳房がぐん、と前にでる。
「沙奈絵のおっぱい、相変わらず凄いね……」
光司の言葉にうっとりとした沙奈絵が、自分の乳房を左手で揉み込んだ。
「光ちゃんのチンポも、凄いことになってるね……あっ、はあんっ……」
自分の乳首を指でこりこりと刺激しながら、沙奈絵が切なげな吐息混じりの声を出す。
沙奈絵の右手が自身の股間に伸びた。
自分でわかっている敏感な所をピンポイントで刺激している。
光司も猛った肉棒を猛然と扱いた。
「ああっ……沙奈絵に、挿入れたいっ!」
光司が叫ぶと沙奈絵はくぱあっ、と陰唇を指で拡げてみせた。
「沙奈絵っ、行くよっ!」
光司は肉棒に手をそえ、沙奈絵の股間に近づける。
リアルなアイリンクの映像は触覚までは再現できない。
お互いの性器をバーチャルで重ねながら、二人は同時にオナニーをしていた。
「あっ、あっ、ああんっ! 光ちゃんっ!」
「沙奈絵、沙奈絵、沙奈絵っ!」
光司の放った精液は、沙奈絵の映像を越えて、床に降り注いだ。
「沙奈絵……」
お互いにベッドに横になって寝ている。光司はたわわな沙奈絵の乳房に手を伸ばした。
アイリンクの映像なので手に触れることはできない。
「沙奈絵と、セックス……したい」
くりっとした瞳で沙奈絵が光司を見つめる。
「私も……したい」
しばらく間を置いて、沙奈絵が呟いた。
人間同士が直接触れ合えなくなって二十年過ぎた。
人が暮らしていくのに十分な食料と環境が政府によって提供されている。
知っている人とは、アイリンクで繋がり合うこともできる。
だが、生身の相手を眼の前にして、触れ合うことはできない。
このまま、年老いて寿命を迎えることに光司は虚しさと絶望を感じていた。
産婦人科医として多忙を極めていた頃がなつかしい。
今のように自分の自由になる時間などほとんどなかったが、あの頃の方が生きているという実感があった。
沙奈絵とセックスしたい、と光司は言った。そして沙奈絵も同じ気持ちだと言う。
二人が生身で抱き合い、セックスをするということは、致死率百パーセントのDKウィルスによって死ぬことを意味する。
このまま漫然と死を迎えるくらいなら、最後に本物のセックスを堪能してから死にたい。
「いいのか、沙奈絵……」
「うん……」
二人の気持ちが通じ合った。