魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
私は本当に運が無いと思う。
そうは思わないかね、ここまで色々な事が起きるなんてさ。
父である魔王が騙し討ちで討ち取られ私の部隊も奇襲で壊滅。
イナバ殿の仲間であるアルシー殿とも逸れてしまった。
エルンヘイムや魔王城はおかしな連中に牛耳られ、落ち延びる最中にも何度死ぬ思いをしたか分からない。
いや私如きの命なんてどうなってもいいのさ。
きっと父の跡はイナバ殿が継いでくれる。
だが生き延びたからにはイナバ殿に貢献出来る様にこの命を使いたい。
絶対にあの方は生きていると確信の元、捜索を続けた。
それからの日々は惨めだったね。
潜伏していた廃村跡を拠点としてちりぢりになった仲間を集めた。
食べるものも着る物も碌なものがない廃村で私達は日々耐えたんだ。
ひもじく凍えながらどれだけの時間が過ぎたのだろう。
私と同時期に襲撃で行方知れずになったイナバ殿も生きていた!
やはりあの方はそう簡単に死ぬわけがない!
しかも、サンダルファン王国の第一王女を保護して部隊を率いているとの事。
さすがイナバ殿だ、彼に合流出来ればエルンヘイムを奪還できるかもしれない。
私も彼等に合流するぞ。
……その前に川に行って身体を洗わなければいけないな。
感動の再会時に野生の香りがしたら台無しじゃないか。
☆★☆★☆★
私はイナバ君と一緒にギルド関係者が潜伏している地下水路の施設に辿り着いた。
イナバ君は度重なる戦闘と相次ぐ移動で疲弊しきっていたのだろう、到着して直ぐに眠ってしまった。
眠ってしまったイナバ君はエルンヘイムギルドの受付嬢レニーが休憩室のベットまで運んで行ってくれた、意外にも彼女はパワー系なのだよ。
「マスター、今何か失礼な事考えていませんでしたか?」
「気の所為さ、イナバ君は大丈夫かな?」
「はい、気を失った様に眠っていますよ。またいつ大きな戦闘が起きるか分かりませんから今だけでも休んでもらいましょう」
「ふむ。エルンヘイムに平穏を取り戻すなら彼の力が絶対に必要です。少しでも気力を取り戻してもらいましょう」
戦力は多い方が良いに決まっているからね。
イナバ君には一刻も早く戦線復帰してもらいたいと思う。
悪い流れの時にはこれでもかって位に良くない事は続くからね。
「あ、そうそう。マスター、先ほど伝令が着きまして……」
レニーがそう言いかけた時だった。
部屋にギルド職員が駆け込んできたんだ。
私は感じたね、これは悪い知らせに違いない……と。
「マスター! 施設に続く地下水道の幾つかが敵にバレました! 多方面よりモンスターが接近しています!」
……やっぱりね。
「多方面ではまずいね。情報は正確に願うよ。私とレニーで向かおう。足りなければギルド幹部に向かわせてください」
早くイナバ君には起きて欲しいけどもここは一先ずは我々の戦力だけで少し頑張ってみましょうか。
我々の帰還を同時にこんな襲撃が来るなんてタイミングが良すぎますね。
不覚です……。
つけられましたか。
☆★☆★☆★
魔王マルファスの作りし城下町エルンヘイム。
どんなに優れた街にも闇のエリアと言うのはあるものでどんなにセキュリティーを強力にしても外から潜入する人物を阻むというのは難しいものだ。
私がこの街に陰から潜入しなければいけない事態そのものが噴飯ものであるのだが、お陰で私は今エルンヘイムの街の中にいる。
昨日までは哨戒をだしても平穏そのものだった。
この街はマルファスを失ってからも見掛け上は平和そのもので街の人々も日々の生活を粛々とこなしていた。
だが今日は何だか様子が違うようだ。
先ほど戦闘を思わせる様な爆発音と地響きを感じた。
イナバ殿の軍が近郊まで来ている事は確かだがこんなにも突然戦いが始まるとは思えない、なんだか嫌な予感がするね。
「ヒルベルダ様、外壁近くで戦闘が行われている様です」
「やはりか……、様子を見に行くぞ。警戒を解かずについてきたまえ」
「はっ」
私は戦闘地域に気づかれぬ様に用心深く、慎重に歩を進めていく。
やがて周囲の家屋は崩れ黒煙が立ち上りむせ返る様な血の匂いが鼻を突くのに気が付いた。
この尋常じゃない威力の魔法を放てるのは私の記憶ではは数える程しかいない。
嫌な予感を抑えつつ角を曲がり開けた視界に私が見たものは一見、にわかに信じられない光景であった。
瓦礫にうつ伏せで倒れているリリア殿に女性が剣を突き立て様としている。
「敵かっ?!」
頭で理解するよりも身体が反射的に動く!
何がどうなってこういう状況になっているのかなんて関係ない。
「私の仲間を……許さないよ! 君っ!」
私はその女性に向かい渾身の魔力を込めて攻撃魔法を放つ。
魔法は一直線に飛び彼女に着弾の瞬間、防御魔法で防がれたのが見えた。
だが、2,3歩、後ずさりさせる事が出来た。
「ヒルベルダ様――っ!!」
リリア殿が私の名を叫んだ。
おーっ、元気じゃないか。
ボロボロだから死ぬ直前かと思ってたよ。
直ぐに片付けるから待っていて、と私は少し微笑んだ。
そして再度、彼女に目を向ける。
かなり高レベルな魔法使いだろう。
私が敵う相手だろうか……、いや、そんな事はどうでも良いのだ。
「何があったか知らぬが我が友への仕打ちと兵士に対する狼藉、許す訳にはいかないね。先ほど伝令を出しておいたので、まもなくイナバ殿もこちらに来るだろう。逃げ場はないよ、覚悟するといいっ!」
私はそう言うと謎の魔法使い女に向かって光の剣を携えて駆け出した。
ここまで読んでくださり有難うございます。
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前の話の最後を少し変更しました。
ヒルベルダ様はアルシーの大人形態は知りませんでしたね。