魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
ヒルベルダ様はアルシーさんと戦闘を開始した。
……が、私は一つ大事な事を思い出した。
彼女はこの子がアルシーと気づいていないかもしれない!
と言うのも、さっきからヒルベルダ様の攻撃は一撃必殺で殺意が半端ない。
「ヒルベルダ様! この子はっ! 彼女はアルシーにゃん! 殺したらいけないにゃん! 殺さにゃいで!」
「へっ?!」
私は精一杯の大声でヒルベルダ様に伝える。
と、その所為で彼女に一瞬の隙が生まれてしまった。
アルシーさんの攻撃魔法がヒルベルダ様を捉えて彼女は城壁まで吹き飛ばされてしまったのだ。
くっ、なんて事だ。
私が普段通りに動けたら……。
アルシーさんがヒルベルダ様が飛ばされた城壁目掛けて追撃で突っ込んでいく。
攻撃が命中し城壁が崩れる。
ああ、やられた、と思ったら既にヒルベルダ様はいない。
アルシーさんの後ろに回り込んで光の剣を寝かせて彼女の側頭部を狙い昏倒させようと攻撃を繰り出す。
が、かなり余裕をもってよけられてしまう。
2人とも凄い。
ヒルベルダ様は強いとは思っていた……がアルシーさんもここまで身体能力が高いとは思わなかった。
この一瞬の攻防だけでそれが分かってしまった。
これじゃあ、私がいつも通り動けても戦力になれるかどうか分からないね。
大人形態のアルシーさんは手ごわい。
それは認めなければ私達は……全滅する。
「リリア殿、動けるかぃ?!」
不意にヒルベルダ様が私に声をかける。
動けるか……と聞かれているが動けるだろうか。
でもここは動かないとみんな死んでしまう。
私はなんとか立ち上がり大丈夫の意思表示をする。
彼女はアルシーさんの側から掻き消え、一瞬で私の前方に現れる。
この人、やはり凄いな。
「イナバ殿には救援要請は既に出してきたよ。けど、いつここに来るか分からないからね。君、街の外にいるイナバ殿の部隊を呼んできてくれたまえよ」
なるほど。
ここに居ても私は戦力になれない。
それなら――。
「わかったにゃ! 待ってて!」
私は魔力を全身に流し痛む身体に鞭を打ち、城壁を跳び越え街を離れた。
☆★☆★☆★
「ここはもう良いです、下がってください!」
マズいですね。
戦況は非常に悪い、と言わざるをえません。
ここまでエルンヘイム城下の地下水路に魔物達が入り込んでいるとはね。
聞けばレニーの向かった方も状況は芳しくないとか。
ここにきてこれ程の攻勢を仕掛けてくるなんて想定してませんでした。
出てくる敵も個々が強すぎる様に感じます。
私であれば何とか止められますが他のものだと少々きつい状況……。
まずは下がって戦力を合流させて迎撃態勢を整えるほか無いですね。
「マスターっ! 新手です!」
共に戦っていたギルド職員が叫んだ。
見ると地下水路の側道から更に大量の魔物達が出てきた。
「――っ?! ……やれやれ。これはダメかもしれませんね」
「どうしますか?! マスター!」
「ここは私が引き受けます。A-5地点まで下がりレニー達と合流しなさい」
「な、なにを言っているんですか?! 無茶ですよ、一緒に退却しましょう」
「いや、誰かが殿《しんがり》を務めなくては……全滅するよ」
私は戦線を引きながら魔物のレベルが高い事と今後も絶え間なく増援が出現して戦線が崩壊する可能性を説き何とか皆を先に撤退させる事に成功した。
……のだが、状況を見て自分も直ぐに退却する事も約束させられた。
まあ、私もまだ死ぬ訳にはいきませんしね、約束は守りましょう。
私はその後も大量の魔物の攻撃を捌きつつ友軍の退却を見守った。
中には雷撃魔法を放ち私を援護しながら退却する者達がいた。
全く早く逃げろと言ったんですがね……頼もしすぎるじゃないですか。
さて……では、私も最後の仕上げに入りましょうか。
このままでは防衛線は魔物に押し切られてしまう。
なので、私は皆を撤退させた
だが、全軍撤退させたのにはもう一つ理由がある。
私が本気を出すと……周りを巻き込んでしまうからだ。
だがここに居るのは私一人。
天叢雲の柄に手を掛け全身の魔力を巡らせる。
魔物の大軍が目の前に迫ってくるが焦らず……焦らず……。
――ここだっ!
私は武器を一閃して魔物の大軍の真っただ中に斬撃を叩き込んだ。
途端に閃光が走りとんでもなく大きな爆発が巻き起こった。
爆風に吹き飛ばされて壁に叩きつけられた私は辛うじて片膝をついて地面に着地した。
ふう、思ったよりも大きな反動でしたね。
さて、結構な力を込めたとっておきの一撃だったのですが……。
私は顔を上げて魔物の大軍の方を見て少々ガッカリする。
減ってないですね……、と言うか減ってはいるけど次から次へと湧き出てくるので見掛け上は全く量が変わってないという事か。
しかしこの魔物、巨大な芋虫の様だ……。
色んな所に体液が飛び散って気分が悪くなります。
魔物と言う奴は私達、魔族にまで嫌悪感を抱かせるんですねぇ。
良いでしょう。
何度でも私の斬撃をぶち込んでやりましょう。
私の魔力が勝つか、お前達等の物量が勝つか、やってやろうじゃないですか。
……と言いたい所ですが、想像通りですね。
地下水路の強度がもたない。
くっ!
天井が崩れてくる。
私は瓦礫を避けながら魔物達の突進を抑えて戦線を下げる。
攻撃の強度を下げると魔物の突進を止められず力を入れると地下水路が崩れる。
神経をすり減らし上段からの斬撃で先頭の魔物を叩き切ると貫通し後ろの魔物にも多段ヒットする。
ただその攻撃の余波でそこかしこにひび割れが走っていった。
……いかんね、この攻撃でも壊れてしまうとは……
これは強度が限界だ。
もはやこれまで、逃げますか。
私は大きく横薙ぎで斬撃を放ち魔物達を押し戻すと返す刀で天井に強く斬撃を叩き込んだ。
大きく土煙が上がり天井から壁が崩れ落ち魔物の数体が巻き込まれて潰された。
うぷっ……。
気持ち悪い……。
私は吐き気を抑えながら地下水路の奥へ奥へ逃げたのでした。
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