魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
私は一体、今なにを見ているのだろう。
友人のイナバ殿とその相棒のはずのアルシー殿が戦っているのだ。
しかもその状況は芳しくない。
明らかに何者かに操られているアルシー殿には手加減は無く、それと比べてイナバ殿は明らかに攻撃に手心が加えられている。
イナバ殿は信じられない程にタフで何度アルシー殿に叩きのめされてもその度に起き上がってきた。
ただそれもほぼ決定打どころか攻撃すら当てられないイナバ殿にとっては致命的な事となるだろう。
一方的に攻撃され続ければ如何に頑丈な彼もやられてしまうかもしれない。
「イナバ殿! どうされたのか?! どこかダメージが残っているのか!?」
私はイナバ殿に疑問を投げかけるがすっかり戦いに飲まれているイナバ殿はそれ処ではないらしい。
それなら……、私は2人の戦いを目で追いじりじりと近づきながらアルシー殿に隙が生まれるのを待った。
イナバ殿の大振りの一撃が奇麗に空振った所にアルシー殿が重たい打撃を食らわせ地面に叩き落とす。
ここか!
アルシー殿に生じた隙を見逃さずに私は背後から攻撃を仕掛けるが……。
「はぁっ!!」
「うわっ!」
アルシー殿は身の回りに障壁を張り私は弾き返されイナバ殿と同様に地面に叩き落とされた。
いたたたっ。
『あなたっ! 余計な事はしないでください!』
えっ?
誰か?
私に誰かが話しかけてくる。
『私です』
「えっ? ……イナバ殿、その武器……」
「仰りたい事は後で聞きますよ。ただヒルベルダ様に話しているのはこのインテリジェンスウェポンで間違いないです」
『アルシー様は今現在、力を加減せずに全力で戦っておられます。大した攻撃や防御でなくとも全力で、です。恐らく加減自体が今のあの状態では出来ないのでしょう。そんな状態で戦い続けると本来ならば直ぐに魔力枯渇に陥るはずなのですが……』
「なかなか、そうはならない……と」
『そうなのです、主様。何やら嫌な予感がします』
「嫌な予感とは……なんなのかね」
『悪意の高い呪いのアイテム等で強制的にあの姿になっている可能性……です』
どうやら事態は最悪らしい。
普段の彼女はその体型を魔力の残量により変化させる事で消費を抑えているが今は何らかの力で強引に成人化しているという可能性が高いという事だ。
実際に今も彼女は空中に浮かびながら頭を抱えて苦しんでいる。
魔力の流れに大きく乱れた淀みを感じるのだ。
「うぅ~~っ、わ、私に……指図を……するなぁ――っ!!」
「うわぁ――っ!」
「「きゃあ――っ!」」
再びアルシー殿から強力な圧力を感じた。
彼女は魔力を爆発させて近くにいた私達は吹き飛ばされた。
私はイナバ殿と少し離れた所に飛ばされたが彼等の会話は聞き取る事が出来た。
イナバ殿は件のインテリジェンスウェポンと話しているらしい。
私にも双方の声は聞こえている。
「くっそぉ――っ、シャルル、どうすればいい?!」
『……』
「お、おい、どうしたんだ? アルシーを正気に戻せるんだろう?」
『……主様、とても言いにくいのですが……』
ぞわっ。
シャルルが何かを説明しようとした瞬間だった。
私は経験した事も無い悪寒を感じる羽目になった。
「な、なんだね! この圧力はっ?!」
「……あいつか」
『あいつ……ですね』
イナバ殿達はこの不愉快な雰囲気の正体が分かっている様だった。
私が彼等と同じ方向に振り向くと長身の魔導士風の人影が急にその空間に浮かび上がつた。
確かに一瞬前の瞬間にはそこにはいなかった、存在しなかった筈なのだが……。
「あいつは……誰なんだい?」
「ロマリアス……。俺の敵で魔王候補だ」
ロマリアスと呼ばれた人物は音もなく私達の方に一歩、二歩と歩み寄り私達に声をかけた。
「また……お前達か。お前は……オークに進化した様だな。どうか、私の部下になる気になったか?」
「それはない」
「……であろうな。まあ、いい。程よく強力な魔力量の駒を手に入れたからな」
ロマリアスはイナバ殿の拒絶の言葉を聞くと元から分かっていたかの様にニヤリと笑うと今度はアルシー殿の方に歩いて行った。
「待てっ! お前……アルシーに何をしたんだ?!」
「んっ? 私が何をしたか、か? そうだな、この娘に偽の記憶を刷り込んでやったとかか?」
「なんだと……?!」
「戦場で記憶をなくして彷徨っていたのを私が拾ったのだ。マルファスが目の前で討たれたのが相当効いたのだろうな。くっくっくっ……、邪魔な奴が犬死し更に有能な手駒が手に入った。奴には感謝せねばならんな」
「……。」
「ふっ、更に面白い事を教えてやろうか。私が精製した特殊アイテムで後から刷り込んだ記憶は2度と戻らない。そしてそのアイテムを通してあの娘は無尽蔵に魔力を身体に供給する事が可能だ」
「お前っ!! ぐわっ?!」
イナバ殿がロマリアスに掴みかかろうとしたが横からアルシー殿が猛スピードで突っ込んできた。
重い一撃を喰らいイナバ殿は街の壁まで飛ばされた。
これは……。
何度も死地を潜り抜けてきた私だが今度こそダメかもしれないね。
☆★☆★☆★
いたたたっ。
アルシーめ、手加減位してくれよ。
『主様、身体は大丈夫ですか? これは不利です、一旦引きましょう』
「ううむ、……ん、そういえばシャルル、さっき何か言おうとしてたけど教えてもらっていいか?」
俺はシャルルにそう尋ねたがイマイチ反応が鈍い。
『……。主様、アルシー様を救う方法が一つだけあるとしたらどうしますか?』
そう言うとシャルルはその身に魔力を流して先端に剣先の様な形を生成した。
『私で……アルシー様の心臓を突き刺してください。そうすれば彼女は呪縛から放たれる事が出来ます』
そしてシャルルは衝撃の提案をしてきた。
ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると私が喜びます(*´▽`*)