※この作品はR-18です。

魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版   作:ヨシMAX

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第107話 オークのエルンヘイム解放戦①

 

 

 俺達イナバ隊はレニーとの簡単な作戦会議を終えてから夜の闇に紛れてエルンヘイムの北東にある森の中を移動し目視で街が確認できる場所まで移動した。

 

 俺は一人で部隊から離れて街の様子を眺めていた。

 

 街は静まり返っているがそうは言っても140万人都市だ。

 その8割が洗脳されていると考えても110万人が敵に回る可能性がある。

 挙句、俺達は街の人々とは全力で戦えない。

 であるのに向こうは手加減なく一度敵対してしまえば軽く殺しに来る。

 

 幸いにも明確に敵視されなければ襲い掛かってくる事は無い。

 これはセレル様に確認したので確実……と言いたい所だけど正直ロマリアスの魔法は規格外なので断言はできないと言っていた。

 

 もしかしたら魔法ではなく得体のしれない魔道具を使ったのかもしれない。

 そうすれば魔法を想定した推察など役に立たなくなってしまうのだ。

 

 まあ、そんな事を言っていたら一歩も前に進めなくなってしまうので俺達は事前に様々な手段を考えた。

 時間の無い中で良くもまあ、これだけの策を用意出来たと我ながら感心する。

 

 

 「イナバ様、出陣の準備は出来ましたか?」

 

 

 後方から声がした。

 噂をすれば何とやら……セレル様だ。

 この人は身体や精神を司る魔法がとても得意だ。

 

 精神誘導や洗脳に関する魔法にも高い知識を持っていたので先の作戦を考える際にも大いに役立ってもらった。

 

 

 「俺の方の準備は既に整っているよ。隊の方を任せてしまってすまないね」

 

 「大丈夫ですよ。イナバ様の戦いを有利に進ませるのは私の役割です」

 

 本当にこの人は……。

 容姿こそ幼い鬼娘であるがたまに俺よりも大人な雰囲気を醸し出す事がある。

 

 彼女はおずおずと近づいて来てソッと手を握ってくる。

 ポッと頬を染める姿は先程とは違い背格好そのままの初々しさだ。

 

 全くえらいギャップだよ!

 萌え死にしそうで困るのだが。

 

 

 「セレル様。抜け駆けとは許し難し……」

 

 

 わっ!

 どうしてみんな俺に気づかれずに近づくのがこんなに上手いのだ。

 これでも探索スキルを常時展開しているのに自信がなくなるわ。

 

 先程の声はグリッシュだった。

 

 

 「お兄様と番になりたいというその熱意は認めましょう。ですが抜け駆けはする許し難し……です」

 

 

 うん、なにを言っているのだろう、この子は。

 だが、グリッシュの能力は言わなくとも伝わるだろう。

 彼女にもエルンヘイム解放の為の策を幾つも出してもらった。

 

 ……こうして考えると最早、街の解放は約束されたものだ。

 序盤の戦力不足が嘘の様に俺達には安心感が満ちていた。

 

 

 「お兄様。エルンヘイム奪還作戦は準備万端整いましてございます」

 

 「さあ、皆の元に参りましょう」

 

 「ああ、分かった。行くとしよう」

 

 

 俺達が部隊の元に戻ると既にリーザ、ガンダルフ、リリア、レニー達の準備は終わっておりリーザは俺の姿を見つけると不機嫌に近づいてきた。

 

 

 「もーっ、どこに行ってましたの? イナバ様。戻るのが遅くてよ!」

 

 「リーザ、仕方ない。イナバ殿は……多忙である」

 

 「モテてモテて困っちゃうにゃん、イナバさん。可愛い子に囲まれて良かったにゃんね♪」

 

 「ん? どういう意味ですか? 皆さん」

 

 

 嬉々としてレニーに耳打ちするリリア。

 お前、そこである事ない事吹き込むんじゃないぞ。

 ……まあ、無い事でもないか。

 ただ俺の命が惜しければ、これ以上は止めろください。

 

 俺は背後に何とも言えない重圧を感じながら街が良く見える場所まで移動した。

 

 

 「まもなく陽が上がりますわ。ギルドと打ち合わせた奇襲まで時間がありません。急がなくてはいけません事よ」

 

 

 リーザの言う通りだ。

 こちらから先に動かなければギルドも事を始められない。

 連携が上手く行かなければお互いで損害を出してしまうかもしれない。

 

 

 「セレル様、手筈通りお願いします」

 

 「分かりました。みなさん、よろしくお願いします」

 

 

 セレル様は部下にも敬語だ。

 指示を受けたセレル様付きの従軍魔導士達が部隊全体に幻影魔法をかけ始める。

 さすがの腕前だ、1,000名を超える部隊が夜の闇に溶け込み見えなくなった。

 

 見えなくなっただけで存在はする。

 所謂、不可視化と言う魔法で街に近付くまで気づかれない為の措置である。

 基礎的なごく普通の魔法であるがそれ故に警戒の網から漏れやすい。

 

 余りに速く移動したり街に接近しすぎるとバレる可能性はあるものの充分使える魔法であると俺は考える。

 

 

 「よし、みんな、行くぞ」

 

 

 俺は静かに指示をだし森を出発した。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 「ふぁ~~っ、……定時連絡、東門、敵影無し」

 

 

 エルンヘイム警備隊に属する兵が通信用の魔道具に報告をするが返事はない。

 真夜中も過ぎてもうすぐ朝になろうかというタイミングだ。

 

 送信先の管制も何事も無いと思い込んでいる為、返答も満足にしない。

 現場もそれに対して何も感じないし確認もしない。

 管制も現場も緩みやすい時間帯といえるだろう。

 

 兵2人がエルンヘイムの城壁の上にある狭い詰め所に籠っていた。

 

 

 「おい、夜番明けたら飯に行こうぜ」

 

 「ああ、いつもの店でいいのか? ってお前もう飲んでるじゃねぇか」

 

 「飲まんとやっとれんだろが……って、その店、さっきの騒動で粉々だぜ」

 

 「はぁ――っ?! 全く碌なもんじゃねぇな! どこのどいつか知らねぇけど一発ぶん殴ってやらねぇと気がすまねぇな!」

 

 「なんでそんなキレてんだよ」

 

 「お前、俺があそこの女にどんだけつぎ込んでると思って……」

 

 

 一瞬、城壁の上に風が吹いた。

 

 

 「申し訳ありませんね。私の所為で……」

 

 「えっ?! 誰だ!!」

 

 

 慌てて見回すが辺りに何も確認できないまま、哀れな兵2人は再び目覚める事のない眠りにつく事になった。

 

 

 「あら、またちょっと手加減に失敗しましたね」

 

 「あー、またもや犠牲が出てしまったか」

 

 

 辺りに人影の無くなった東門の上でオークと黒衣の魔導士がなにやら悪い事をしていた様だがそれを知る物は誰も居なかった。

 

 




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