魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
うう、身体中が痛い。
良く覚えていないけどなにやら凶悪な鬼に張り倒された気がする。
……周りが凄く騒がしいな。
太陽の日差しだろうか、まぶし……。
「あ、目が覚めましたか?」
目の前に鬼の美少女が居る。
俺の顔を覗き込みながら額に水で冷やしたタオルを置いてくれている。
ここは天国か、いや、鬼だから地獄か。
俺はこれから地獄の責め苦を受ける事になるのか……。
魔族ではあるけど出来るだけ健全に生きてきたんだけどなぁ。
くそ、どうせ苦しい思いをするなら好きな様にさせてもらうぜ。
俺は目の前の鬼美少女に抱き着いた!
「おお――っ、いい匂いがする! それに柔らかい! 温かい!」
「あらあら、まあまあ」
鬼少女は戸惑いながらも俺の無礼にも微笑んでくれている。
おや、これはいけるやつか?
それならっ!
「俺の初めてを貰って下さ――い!」
すぱぁ――ん!
鬼美少女とあんな事やこんな事をしようと思って押し倒そうとしたら後頭部を思いっきり叩かれた、いたた。
「こらぁ――っ! 何をしてるの! 寝ぼけてんじゃないわよ、フォル!」
振り向くとそこには激怒のティアナが居た。
俺……生きてんのか?
「先ほどは大変失礼いたしました。確か……2年前の外交訪問の時にお会いしましたね、フォルさん」
鬼少女は俺に押し倒されながらも俺に微笑みかけながら話しかけてくれた。
やばっ、惚れてしまうやないか。
って、あれ……?
「サ、サンダルファン王国のセレル王女殿下?!」
「ご無沙汰しております」
「あ、ああ――っ!!」
俺は光の速さでセレル様から飛び退きスライディング土下座の体制に入った。
「も、申し訳ございませんでした――っ!!」
「いえいえ、私こそいきなり吹き飛ばしてしまって……」
「いいんですよ! 王女様に失礼な事をしたバチが当たったんです!」
「元気そうで安心いたしました」
……なんて優しい女性なんだ。
何だかティアナが不機嫌だけどどうかしたんだろうか。
ふっと見るとセレル様の後方から俺を静かに見つめる騎士が居る。
剣に手を掛けて今にも抜きそうな雰囲気だが……やられる?!
「リーザ、私は大丈夫です。剣から手を引いてください」
「は、はい。承知いたしましたわ、セレル様」
そうか。
俺は爆発の起きたエルンヘイムの東門まで来てセレル様に飛ばされたんだ。
周りを見ると、ここは攻撃部隊の大きなテントの中らしい。
ま、街はどうなったんだ?!
「大丈夫ですよ。私達は本気で街を攻略するつもりはありませんし被害も最小限に抑えるべく戦っております。本命の攻撃は城に対してのみです。私達は……陽動なのです」
「セレル様っ?!」
殺気を放っていた女性騎士が主人の暴露に驚きの声を上げた。
正直、俺もティアナも驚いた。
だがセレル様は冷静だった。
「大丈夫でしょう。この方達はエルンヘイムを大切に思ってくださってます。今の都市の状況は不本意でしょう」
セレル様の言葉は俺が長い事、抱いていた疑問を氷塊させるに十分だった。
「セレル様、やはりこの都市は……」
「ご想像の通り、今現在このエルンヘイムはマルファス王に敵対していた魔王候補に占領されています。私はマルファス王の親族であるもう一人の魔王候補に協力しエルンヘイム解放に向けて活動しているのです」
「フォル……、これから私達、どうすれば……?」
セレル様と会話をしているとティアナが俺の肩越しにこれからの不安に対して尋ねてきた。
この街の状況が分かった以上、俺の取るべき行動は決まった。
「ティアナ、俺はセレル様に協力したい。お前はどうする?」
俺は正直に今の気持ちをティアナに伝えた。
彼女は多少驚いた様子であったがにっこり笑って答える。
「そういうと思ったよ。私もこの街もマルファス王も好きだからね。敵対している魔王候補なんかに渡したくないね」
俺達の方針は決まったか。
だが2人じゃあ何も出来ないしセレル様に協力した方が良いに決まっている。
だけど……、この街で急に現れた俺達2人を仲間として扱ってくれるだろうか。
「セレル様、俺達……」
「お話は分かりましたよ。頼もしい仲間が増えて嬉しく思います」
「セレル様」
「大丈夫ですよ。万一の場合は私が全ての責任を負います。……そんな事は無いと確信していますが」
既に信用されたらしい。
セレル様はどうしてこんなに強いのだろうか。
精神的にも、身体的にも。
どかぁぁぁぁああん!!
そんな事を考えていると今度は城の方角から爆発音が聞こえた。
「どうやら向こうも始まったようですね。こちらも少し大胆に暴れましょうか」
「セレル様、被害は最小限に抑えないといけませんのよ」
「分かっています、リーザ。貴女がフォローしてください」
どうやらセレル様の言っていた通り、城の方でも攻撃が始まったらしい。
こちらの攻撃も激しくして戦力を分断したい所だろう。
「セレル様……俺達も手伝います」
セレル様はにっこりと笑い、であるが風格を纏った雰囲気で俺達に答えた。
「有難うございます。ですが貴方達には他の重要任務を担当して頂きたいのですが……」
「セレルにゃん。なにか用事なのかにゃん? 街への攻撃もクライマックスにゃんだから早く戻りたいのにゃ」
なんだかおかしな話し方をする奴がテントの入り口にやって来た。
よく見ると猫人族だろうか。
手には短めの刀と短刀を装備しており身体のそこかしこに返り血を浴びている。
確か被害は最小限に抑えるとか何とか言ってなかったっけか。
ティアナを見ると子犬の様にプルプルと震えて怯えてしまっている。
そうだ、こいつ兵士のくせに怖がりなんだった。
「リリア、待っていましたよ。今からこの2人と一緒にイナバ様の城攻撃を支援してください。街の地形や情報なんかはお二人に教えてもらってください」
「にゃっ?! セレル様のお仲間にゃっ?! それに私一人でも支援出来るにゃ」
「確かにそうでしょうけども貴女は一応ウェルニー所属、この街の事はこのお二方の方が詳しいですよ」
セレル様がリリアと言う猫人族を諭すが彼女はイマイチ納得いかない様子だ。
まあ、そうだろうな。俺もそう思うよ、だが……。
「よろしく、ボス」
「ふにゃ――っ!」
俺に可愛らしく新しい上司が出来た。
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