魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺は火属性【ファイヤーボール】と風属性【ウインドウヒール】を習得した。
理由は俺に最初からあった火と風の適正が残りの水と土との相性が悪く同時には会得できないからだ。
火の魔法を習得した時に膨大な魔法の知識が俺の頭に流れ込んできた。
恐らくだが魔王であった頃の知識を取り戻したというのが一番しっくり来る。
お陰で俺は火の魔法であれば詠唱も魔法名も唱える事なくイメージだけで発動する事ができる。
そして後から習得した風属性魔法も火属性ほどではないが同様の現象が起きた。
魔王時代の俺は風魔法をそこまで得意としていなかったのが影響しているのか。
まあ、それでも達人級なのだが。
「イナバ様―っ!! 用意は良かとー!?」
俺達は魔法の試し撃ちの為に森の広場に来ていた。
彼女は広場の端に目標となる木製の的を立てて俺に手を振っている。
的は10個、突き当たり一列に定距離で設置してある。
「良いぞぉー! 撃っていいかぁー!」
彼女は両手で大きな丸を作って笑顔を浮かべた。
それを見て俺は魔力を練り的をしっかりと見定める。
俺の現在の魔力は10だ、少ない。
ファイヤーボールの標準消費魔力は2だから今の俺は5発撃てば弾切れになる。
的は10あるから当たり前だけど5発足りない、敢えてこうした。
そんな時は魔力を絞って残弾を増やせばいい。
本来ならばそんな事はできないがこれも俺には可能だった。
両手を上に向けてファイヤーボールを片手に5発づつ、計10発を空中で発射待機させる。
標準消費魔力を2から1にすると威力は減るが残弾を増やす事ができるのだ。
魔王時代は全く使う必要がなく記憶の隅に封印した知識だがゴブリンになった今なら大いに役に立てる事ができる。
「いっけぇーっ!!」
掛け声と共に腕を前に突き出すと10発のファイヤーボールが猛スピード、且つ、色んな軌道を描いて的に向かって飛んでいく。
そして全てのファイヤーボールが着弾すると爆散し猛烈な土煙が辺りを覆った。
魔力を1に絞った結果、威力も爆発範囲も最低レベルのファイヤーボールのはずなのだが煙が晴れた向こう側で的が全て粉々に粉砕されていた、魔力1……まあまあの威力だった。
「げほっ……、次はこれ、いくばい」
薄汚れたアルシーが咳き込みながら今度は5つの的を立てた、逞しいな。
俺は消費魔力を2に戻しファイヤーボール5発を発射待機させる。
さっきから魔力を使い切っているので本来であれば魔力枯渇で気を失うはずなのだが……俺の魔力回復は人外の速さなのだ、高々魔力10なんて一瞬で回復する。
実はファイヤーボールを放った直後に既に魔力は全回復していたのだが、これは再生スキルの効果だ。この効果がわかった時、魔力消費の度に身体が縮むアルシーは散々羨ましがっていたものである、彼女も一応超回復の持ち主なのだが能力が異常だと言われた。
今度は5つ、集中してファイヤーボール5発を空中に静止させ一気に放った。
再び火球は猛スピードで今度は的に対して一直線に向かい爆発して四散させた。
「げほげほっ……、威力、上がっているっちゃね。最後はこれやけん!」
再度、煤塗れになったアルシーは一際大きな的を全身を使い地面に立てた。
最後の一撃は実験もあるが全魔力10を使って的を吹き飛ばしてみようと思う。
魔力を絞るのも全魔力を費やすのも魔王時代の技術で可能だ。
「よし! アルシー、今度のは危険だ、少し離れていてくれ!」
ファイヤーボールではあるが俺の全力を込めるのでアルシーを下がらせようとして呼びかけた。
「大丈夫たい! そんなやわじゃなかよぉ! どんときんしゃい!」
どこの方言だよ、吹っ飛んでも知らんぞ!
俺はどでかい火の玉をイメージして魔法を発動させる。
「うぉおおおりゃぁぁぁああ! ファイヤーボォール!」
身体の中の全魔力を込めるととてつもなくどでかいファイヤーボールが生成されて的めがけて飛んでいった。
途端に魔力枯渇の目眩や吐き気に襲われるが何とか堪えると直ぐに回復した。
ファイヤーボールは周りの空気を圧して押し通り轟音と共に的に命中して爆散し、なんと小型のキノコ雲が発生した。
どごぉお――――ん!!
「うきゃああああ――!!」
えっ?
ファイヤーボールだよね!? 初級の源泉魔法でしょ? 初級ってなんだっけ?
何だかアルシーの悲鳴が聞こえた気がしたが俺の耳には良く入ってこない。
的があった辺りは焦げて黒い煙が上がっている。
数十メートル離れた所に吹き飛ばされたアルシーが転がっていた。
足がピクピクしているので生きてはいるようだ。
「アルシー! 大丈夫か!?」
我に帰った俺は転がっている彼女に慌てて駆け寄る。
これじゃあ、幼女虐待になってしまう!
「あ、あ、あ、あ、あ……」
「どうした? どこか打ったのか? そうだ、【風の意志よ、彼の者を癒し過ぎ去りし日の姿に戻せ、ウインドヒール!】」
俺は風魔法の詠唱と共に魔力を全力で練り右手に込めてアルシーに放った。
「ふぁああああああああ!!」
のびていたアルシーは魔法の光を浴びると今度は尻尾を踏まれた猫のような声を上げて震え上がった。
煤に塗れて擦り傷だらけだったアルシーは光に包まれると時間が巻き戻ったかの様にツヤツヤになった。
「アルシー、大丈夫か?」
「ふぁぁぁぁ……、もう! イナバ様! 加減てものをしるっちゃよ! 過剰な魔力は暴走するとよ! それにヒールも無駄に強力すぎやけん、……鼻血出るかと思うたっちゃんね!」
身体をさすりながらアルシーはぷんぷんと怒っている。
あれ? これって俺が悪いの?
確か俺はアルシーに下がれと言った気がするんだが……。
鼻血出るって……美幼女が台無しだよ。
「全く、実戦じゃなくて良かったと。やはり、魔力生成の特訓と魔法書ば沢山読んで精度を上げないけんな」
その後、俺が理不尽な美幼女によって魔法の特訓と座学に明け暮れたのはまた別の話だ。
✩★✩★✩★
「うーん、魔法の精度はいまいちやけど実戦訓練ばしてみようかね。訓練は明日以降も空き時間ば使うて続けるけん。やおいかんので、もう実戦ばするけん、実戦」
なんだかアルシーが無責任で怖い事を言い始めた。
「え、もう実戦なのか? 早すぎだろう、エイムがまだガタガタだし魔力生成訓練と魔法書で精度上げるんじゃないのか?」
ついさっきは実戦じゃなくて良かったって言っていた気がするが……、
記憶力は鳥並かな。
「大丈夫っつーとるばい! エイム力なんて戦っとる間に高まるもんばい。取り出したるこん魔法具で魔物ば呼び出すけん魔法のみで戦うてくれん。まあ、武器はなかとですが素手の戦いも禁止ばい、よろしかねぇ?」
アルシーは空間魔法で直径1メートル位の輪を取り出すと魔力を込めながらクルクルと回し思いっきり森の方角に放り投げた。
輪は淡い光を放ちながら森の木の中に消えていった。
「アルシー、今のなんだ? それに魔物を呼び出すって?」
「魔物ん種類はイナバ様と同じゴブリン、数は300体位で良かとね、奴らはぶっ殺す気で来よらすけど危のうなったら助くるけん、可能な限り戦闘ば継続してくれん。では行きますばい!」
「アルシー、ちょっ……、待って――!」
「訓練――、開始!」
俺の叫びも虚しく訓練は開始された。
殺す気って……、その割に辺りは静かである――、いや……、何か音がする。
なにか大群が近づいて来る様な……その地響きは段々と大きくなり地面を揺らす程となった。
「来るけん!」
アルシーの鋭い声が響いた。
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