魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
なにか大群が近づいて来る様な……その地響きは段々と大きくなり地面を揺らす程となった。
「来るけん!」
そう言うが早いか、木々を薙倒し大小様々なゴブリン軍団がやってきた!
個は弱いが群れると途端に狡猾になるゴブリンが、その数、見えるだけで数十!
「ちょっ、ちよっと――、多いよ、多い! アルシー!!」
俺は森から飛び出してきたゴブリン軍団に度肝を抜かれ一目散に逃げ出した。
「大丈夫とよ、イナバ様。逃げたら、つまらんけん。過去世界ば頑張ってきたあんたなら、あん程度、蹴散らせるっちゃ。イナバ様は魔力行使の精度はばり悪か、ばってん魔力枯渇ば起こさんし魔法の威力がおかしか位に高かけん大丈夫ばい」
アルシーは浮遊魔法なのか、走る俺の隣を浮きながら付いてくる。
それ! 楽そうだなっ!
「だからって、いきなりあんな大軍――!」
「つべこべ言わず、よかけん戦いんしゃい! あんたなら負けんっちゃ!」
アルシーは空中で器用に一回転し、俺に廻し蹴りを食らわせた。
「ふべっ!!」
痛たた……、確かに俺の炎魔法の熟練度は魔王の知識のお陰でアホみたいに高い。
なんと俺のファイヤーボールは10段階強化MAXの状態だった。
10段階なので次の魔法も解放されてるはずだが覚えた所で俺の技量では暴走する可能性が高い。
なので、まずは基礎であるファイヤーボールの知識と技術をこの身体に馴染ませる事から始めようという事になったのだが……。
蹴られた拍子に転がったまま後ろを向くとゴブリン軍団がドスドスと走ってくるのが見えた。
正直、吐きそうな程のブスっぷりなのだが、俺もあんな感じなのだろうか。
いやいやいや! それどころじゃなかった!
とりあえず、距離を取らないと魔法も使えない。
俺は慌てて立ち上がり一目散に駆け出す。
とは言え、このままでは何時まで経っても事態は好転しない。
……やるしかないか。
ただでさえ精度が悪い俺が走りながらだと更に悪くなりそうだが……。
俺は両手に魔力を生成させると走りながら後方にファイヤーボールの連弾を撃ちこんだ。
両手から射出されたファイヤーボールが弧を描き着弾し大爆発を起こす。
この威力なら普通のゴブリンであればイチコロのはず……再度俺は走りながら後方を確認する。
えっ!?
おいおいおい、でかい! でかすぎる!
立ち上がった黒煙から大きな影が次々と出てくるのが見える。
あれはホブとかソルジャーとかジェネラルとかじゃない!
エ、エンペラーじゃないのか……!?
それをファイヤーボールで倒せというのか……ん?
視界の端にメッセージウインドウが開きレベルアップの文字が幾つも流れた。
最初のゴブリンに対する一斉掃射でレベルアップしたのか!
これなら……いけるかもしれない!
一筋の希望が見えたと思ったが、再度、俺の前に壁が立ちはだかった。
逃げている内に崖に追い込まれてしまった。
くそっ、次から次へとぉ!!
振り返るとゴブリンの大群が相変わらず、こちらに向かってくるのが見える。
すると群れから数匹が先行して俺に向かい地を蹴って襲いかかってきた。
しめたっ!
彼我の戦力差が明らかな時の逐次投入ほど愚かな事はないぞ!
飛び出した標的をファイヤーボールでどんどん仕留める。
ゴブリン程度の速さなら外す事もなく時間経過と共に群れの数は削られていく。
右、左、正面、上、左……。
いいぞ、大分エイムのコツが掴めてきた。
――と言うより、何だかわざと時間差で突っ込んできてる気がしてきた。
まさか。
さっきから引き続きレベルアップメッセージがバンバン流れているのが見える。
俺は魔法を無尽蔵に放ちつつステータスを確認する。
名前: イナバ(♂)
種族: ゴブリン戦士
称号: 伝説のゴブリン戦士長
レベル: 30
HP: 255/255
MP: 220/220
固有スキル:再生 LV5
:成長促進 LV5
:絶影 LV5
常時スキル:言語LV4、筆記読解 LV0
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボール LV10
【風属性】ウインドウヒール LV10
……うん、確か、俺、ゴブリンだったよな。
強くなりすぎだな。
たかが実戦訓練でここまで強化出来ちゃったら、あっと言う間にチートだよ。
まあ、常時スキルと魔法スキルは別らしいが……。
そんな事を考えながら撃ち続けていると一匹の紅いゴブリンが弾幕を潜り抜け向かってきた。
なんだ!? あの紅いやつは! 速い、速いぞ!?
見る見るうちに間合いを詰められ俺の脇腹めがけてダガーを突き刺そうとする紅ゴブリンの攻撃を紙一重でかわす。
――が、死角からの追撃である蹴りには全く対応が出来ず背中にモロに食らう。
「ぐはぁっ!!」
肺の空気を吐ききる程の衝撃に顔を顰めながら為す術なく真っ直ぐに木の幹にぶち当たる。
「ううっ、油断した……、崖から落ちなくて良かった……」
強力な回復スキルと鎧の性能のお陰で痛みはすぐに引くが衝撃等のダメージは残る様だ。
頭を振り起き上がった俺は紅いゴブリンの追撃に間合いを取る為に地面を蹴った。
――すると、自分の思った以上に高く遠くに飛んでしまった事に驚く。
「な、なんだ、これは!?」
俺の身体能力はレベルアップを繰り返した結果、驚く程に上がったようだ。
少し面食らったが能力が上昇して困る事はない。
全力の一発を叩き込んでやるか。
俺は崖下に落ちない様に着地すると再度空中に跳び全力の魔力を練り始める……が、ふと思う。
MP10を込めたファイヤーボールで小さなキノコ雲ができるレベルだ。
全力の20、いや15%位を込める程度で十分だろ。
よしっ、うまくいくか分からないけど……。
俺は左手で群れに牽制のファイヤーボールを連打で撃ち右手の魔力でも狙いを付ける。
ファイヤーボール連打でゴブリンの群れを上手く誘導し向かってくる紅いゴブリンとゴブリン共が一直線上に並ぶ位置に移動させた後に育てた右手の火球を撃ち込む。
紅いゴブリンが火球の圧力で押し込まれた。
瞬間、カッと閃光が走り次に巨大なキノコ雲が発生し最後に轟音が響き渡る。
「ぐっ、わぁあああああ!」
俺は自分のアホ出力魔法の威力に吹き飛ばされた。
地面を転がり続けた俺は崖から落ちたが辛うじて岩壁の小さな出っ張りを掴む。
「うむむむむっ……、よいしょっと」
崖から何とか這い上がると物凄い爆風の流れてくる爆心地の方を見た。
先程の実験の時とは比べ物にならない巨大なキノコ雲と爆風に顔をしかめながら、どうにか視界を確保する。
爆煙が晴れてくると魔法が炸裂した辺りの地面は盛大に抉れており最大深さ4メートル位の穴が口を開けていた。
そして辺りには元ゴブリンの残骸が焼け焦げて異臭を放ちつつ散乱していた。
全く自分の魔法ながら凄まじい威力だ。
「おーっ、イナバ様、凄まじか威力やったね。ほらね、こん実戦訓練でエイム力も魔法生成の精度も強化できたやろう? こん実戦訓練も定期的に行うけんよろしゅうね」
アルシーの弾んだ声が聞こえた。
どうやら上空で俺の戦いをじっと見ていたようだ。
スキルの効果で身体的には全然元気、しかし精神的に疲労しきった俺。
にっこりと微笑む彼女を見てやはりゴブリン共はコントロールされていたんだなと思った。
アルシー、恐ろしい子……、
いや、歳上かもしれないから恐ろしい女性だ。
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