魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
翌日も陽が昇ると朝食を済ませて訓練を始めた。
「今日も魔力生成と実戦訓練かぁ……」
「そうはイカンっちゃ、イナバ様。魔力の訓練ばかりでは先に進まん。今日からは武器ば使うた実戦ば始めると。こればーい!」
「う、うわ――っ!!」
俺の独り言に合わせてアルシーの声が聞こえたかと思うと頭上から巨大な箱が落ちてきた。
そうはイカンってお前のスケジュール通りにやっているんだが!? とツッコミを入れるが箱は無慈悲にもグングン迫ってくる。
「ぐへっ!」
俺は潰されたカエルの様な悲鳴を上げて無残にその巨大な箱の下敷きになる。
這う這うの体で箱の下から這いずり出てくると目の前にアルシーが立っていた。
「順調にレベルが上がっとーんに、こん程度ば受け止められなは不甲斐なかねぇ」
「なんだい? この箱」
巨大な箱に手をかけて立ち上がった俺はアルシーの嫌味を華麗に流し箱を見る。
「武器やろ」
「武器はわかっているよ。何でこんなにいっぱいあるのさ? 俺は何の武器を使って戦うんだい?」
箱の中は片手剣、両手剣、双剣、刀、弓、クロスボウ、槍、棍棒等々、様々な武器が入っていた。
「そげな事、私に分かる訳なかやろう。やけん、今からイナバ様に適性のある武器がどれなんか調べるとよ」
「そりゃそうだ」
こうして俺は武器箱に入っていた様々な武器を片っ端から試していった。
俺はゴブリンにしてはスピード特化型らしく、どちらかと言うと稀有な部類に入るのだそうだ。
アルシーと相談して折角、スピードがあるのに片手を盾でつぶすのは勿体無いという結論に至り、両手に小手を装備してそれで相手の攻撃を受ける事にした。
片手剣は小柄なゴブリンにはとても扱いやすい武器だが剣身の長いものを使うと、どうしても戦闘中にバランスを崩してしまい剣身が短いと破壊力が小さい、……まあ、ゴブリンにしてはレベルの高い俺の一撃はそこそこの威力がある。
……であるが効率を考えて却下、ゴブリンに華麗な剣術もないだろう。
両手剣はというと、これは単純に重たい。
力はあるので取り回しに不都合はないのだが、それでも俺の膂力に耐えうるものというと剣自体が大きくなり重くなる。
そうすると剣を振りきった時にどうしても多少身体が流れる為、僅かながら動きに隙ができる。
スピードがあるのに意味がない、やはり却下。
お次は槍だが、これも剣に似た結果だった。
柄が長ければ短躯のゴブリンには取り回しが難しく、短いと取り回しは容易いが槍のメリットが犠牲になる。
なにより槍は武術の心得がない俺には熟練度が圧倒的に不足していた。
弓とクロスボウも同様だった。
と言うのも当初、非力なゴブリンで転移してくる予定だったので遠距離特性を活かしてという目論見だったのだが俺が割とスーパーゴブリンになった為、攻撃力が固定の弓やクロスボウでは勿体無いという結論になった。
もちろん、色々な追加効果のある弓矢を使えば、それなりに有利に戦闘を運べるのでその利点を否定するものではない。
的を粉砕……というか地面ごと抉り取る事も出来たけど……。俺の戦闘スタイルには合わないと言う事で却下だが……サブウェポンとしては魅力のある武器だ。
残ったのは双剣と棍棒……
双剣は悪くない。片手剣でデメリットだった破壊力の無さを両手持ちにする事で手数を増やして補う事が出来そうだ。素早さ特化の俺にはいい武器だと思うが、それだけだ。振り出しに戻ってしまうが破壊力が必要な時に困ってしまう。
「ふぅ――っ、あとはこの棍棒だけか……」
「そうやなあ。まあ、ゴブリンなんやし棍棒が一番無難そうと言えるやろうが……、ああっ!!」
「わあっ!」
アルシーが突然叫んだ。
「ビッ、ビックリした……、どうしたんだよ。アルシー」
「あ、ああっ、すまん。ずっと探しとったシャルルがこげん所にあったけん思わず……」
シャルル……?
この棍棒の名前かな、一端にお洒落な名前付いてるんだな。
『シャルルは私の名前です。お洒落ですが何か?』
んっ?
「アルシー、何か言ったか?」
「へっ? 何も言いよらんよ」
おかしいな、確かに聞こえた気がしたんだけど。
異世界に転移してきたんだし自分が気づかないだけで相当疲れてるのかな。
俺は箱から棍棒を取り出し数回振ってみるが中々具合が良さそうだった。
うーむ、ついに見つけた俺に合った武器だ!
そう思ってホレボレとその棍棒を眺める。
『ブサイクなゴブリンに使われるのは不本意ですが貴方には何か感じるものがあります。いいでしょう、甘んじて受け入れましょう』
ほえっ?
またなんか聞こえた。
俺が間の抜けた顔をしながら左右をキョロキョロとしているのをアルシーが不思議そうに見ていた。
『何をあほづらしてるんですか。私ですよ、私』
間違いない。
本当に誰かが俺に話しかけており、且つ、それはアルシーではない。
この棍棒が俺に話しかけたのか?
『棍棒ではない! シャルルとその娘が言ったでしょうが! 敬意のない扱いは主でも容赦しませんよ!』
お、おう、シャルルか……、それは失礼したな。
……えっ!
「ぶ、武器が、しゃ……喋った……」
「何を言いよらしたんか? 大丈夫かい、イナバ様?」
俺のつぶやいた言葉を聞いてアルシーが訝しげに尋ねてきた。
『落ち着きなさい、武器が喋るわけ無いでしょう?』
「喋ってる! 喋ってるよ! アルシー、ほら、ほらっ!!」
「いきなり沢山の武器ば触ったけん、疲れて混乱しとるんかね? 今日はもうやめて明日にすると?」
やめて、そんな可哀想な奴を見る目で俺を見ないで!
俺、頭おかしくなったのかな??
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