魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「はぁ、はぁ、――ようやくお前だけか」
シャルルのサポートを受け魔王のスペックの数万分の一でも取り戻してるとはいえ俺の疲労はそろそろ限界だ。
省エネ重視で戦えば良いのだろうが、今の俺にはそれが出来ない。
だが、形振り構わず戦った甲斐あってゴブリン軍団も既に残り1匹……、しかし、デカい。
こりゃ、あれだな。
ゴブリンジェネラル、リーダー格だな。
通常ゴブリンの倍はある赤色の体は筋骨隆々で質は良くないが鉄製の全身鎧を身につけている。
『奴はそこそこの強さです。素早い動きと手に持つ大剣に注意なさい』
そうなのだ、ジェネラル級は俺の身長と同じ位の大剣を装備している点が非常に厄介である。
さっきから隙を伺っているのに手を出せば俺が大剣で叩き潰される未来しか見えない。
戦い馴れてるな、あいつ。
ゲームでもゴブリンジェネラルは序盤の鬼門と呼ばれる存在で弱いうちに出会うと一刀両断、そこそこ強くなっても強力な膂力の為、討伐に手こずる魔物の1匹だ。
数回、打ち合ったが他のゴブリンの様にはいかず全て大剣で防がれてしまった。
多少高いスペックでも所詮ゴブリンの身体、F1のエンジンを軽自動車に乗せたようなものだ。
大きな力を使いこなせず振り回されている為、決定的な一撃を繰り出せずにいる。
ジェネラル級の隙を伺いながら何か打開策はないかと辺りを見回す。
すると先ほど燃え上がらせて始末したメイジの近くに杖を見つけた。
黒焦げになったメイジが慌てて放り出した為に原型を保っていたのだろう。
魔法なら! ――っと閃いたと同時にジェネラル級も動いた。
今まで以上の速さで俺めがけて大剣を横薙ぎに振るってきた、やばい!
姿勢を低くし地形を変える程のジェネラル級の剣戟を辛うじて避け、杖目指して駆けた!
「シャルル、魔法使ったらまずいかな?」
『いいんじゃないですか、ジェネラルを物理だけで倒すのは骨が折れますし、今回は物理限定とは言っていませんでしたし……』
「ですな」
追いかけてくるジェネラル級をもう一段、引き離す。
全力で走りながら左手で杖を取り茂みに滑り込む。
追って来たジェネラル級が覗きこんできたので杖をやつに向け……。
「ファイヤァァボォォオオール!!」
ごぉぉぉおおおおおおお――!!!
杖からファイヤーボールとは思えない程の出力で炎がぶっぱなされた。
その反動で小柄な俺は吹き飛ばされる。
「うわぁああああ――!!」
なに、今の?
出力過多は分かってたけど程があるだろ、火炎放射器みたくなってたぞ!?
『……相変わらず出力調整が壊滅的に下手ですね』
立ち上がった俺が見たのは顔のすぐ横を炎が通り過ぎて呆然としているジェネラル級だった。
バカみたいにぶっぱなした魔法の炎は周りに燃え移り森は火に囲まれ始める。
それでも、さすがに気を取り直してジェネラルは咆哮をあげた。
「くっ!」
茂みから飛び出した俺をジェネラル級が追ってくる。
再度、杖を奴に向けて魔法を放とうとしたが何故だかウンともスンとも言わない。
えっ、えっ? なんでだ、どうすればいい!?
『落ち着きなさい、主!』
動揺する俺を見かねてシャルルが声をかけてくる。
『私に流す魔力の形を伸ばしてみてください、出力を上げるのです、それならジェネラル級といえども倒す事は可能です』
出力を上げる? それなら得意だ、こうか?
これでジェネラル級を倒せるのなら魔力なんて幾らでも……。
『ぎゃ――! だ、だから流しすぎです、主。その半分で十分です!』
そ、そうか、難しいな。
走りながら俺はシャルルに魔力を流し直す。
するとシャルルが仄かに白光し始めた。
『おおっ、いい魔力です! これで決めますよ!』
よしっ!
逃走を止め、急ブレーキを掛けて反転しジェネラル級の顔めがけて地面を蹴った
ジェネラル級の汚らしい顔めがけてシャルルを振りかぶる。
シャルルが纏う光が剣の様に伸び1.5倍程の長さになる。
渾身の一撃!! くらえ!!
「だぁ――――!!」
ぐびゃっしゃあ!
全力で振り下ろしたシャルルはジェネラル級の頭頂部にめり込み嫌な音を立てた。
首が完全に胴体に沈んだ奴の身体は衝撃を支えきれずに他同様、轟音と共に倒れた。
「グ、グロ……」
頭頂部が陥没し頭が胴体に埋まったジェネラル級の凄惨な最後を見てさすがに気分が悪くなる。
着地して嘔吐いていると他のゴブリン撃墜時と同じ様にジェネラル級の残骸から光が舞い上がり、俺の身体に吸収された。
……なんとか勝てたらしい。
『言った通りになりましたね。ただ、次からは魔法を打ち返す時は遠慮せずに私に魔力を込めて打ち返しなさい』
「いいのか? 熱い熱いと騒いでたじゃないか」
『大丈夫です。魔力を込めてくれさえすれば私は大抵の事はこなせますので。それで早速なのですが少し魔力を流して頂けますか? ゴブの返り血まみれなので』
「なるほど、わかったよ」
シャルルに魔力を流し込むと銀色に輝き汚れが全て綺麗に無くなった。
『はぁ、さっぱりした』
俺とシャルルが話しているとアルシーが驚きと喜びの表情を浮かべて飛んできた。
「イナバ様! 凄かやんか! ジェネラル級ば倒すなんて。絶対に勝てんて思うとったけん」
俺を持て囃すアルシーに面食らっている内にも周りの森は燃え広がっていく。
「あ、アルシー、それよりも森が燃えていく! 何とかしてくれないか!?」
「あー、そうやね、じゃあ、こんな感じで……」
そういうとアルシーは手に持つ杖を掲げクルリと一回転した。
光のカーテンが広がり森に広がった炎が消えていく。
「す、すごい……、いや、さっき絶対勝てないって言ったよね? 勝てないのに挑戦させたのか?」
「いやいや、貴重な人材ばこげん事で失う訳にはいかん。戦闘技能はこれから伸ばしよるっちゃ、イナバ様の能力ならば負けはせんて思うとったと、いざとなったら、私が手ば貸すつもりやったけん。ばってん、つい見とれてしもうて……、イナバ様、強かとねぇ」
アルシーは何だかしらんがウットリとしている。
「強か男は好きやけん。イナバ様には強い男の雰囲気があるて思とるよ。こん調子なら魔王軍最強んも夢やなかかもしれんね。近こううちにウェルニーに向かう事もできるやろう」
好きとか言うなよ、照れるだろ。
――ん? ウェルニー? ……そうか、そろそろか。
出来る事が爆発的に増えるのが魔王軍ギルドに所属し一兵卒として戦場に出る頃からだ。
このゲームはギルドに属してからが本番と言える。
「ステータス見るばい、イナバ様」
ん? そうか、成果を確認しないとな。
どれどれ。
名前:イナバ(♂)
種族:ゴブリン将軍
称号:伝説のゴブリン大将軍
レベル:35
HP:322/322
MP:265/265
固有スキル:再生 LV5
:成長促進 LV5
:絶影 LV5
常時スキル:言語LV4、筆記読解LV1
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボールLV10
:【風属性】ウインドウヒールLV10
「お、LVが上がってる。スキルはそのままか」
「本当やなあ! 凄かとね。このまま成長していけば次の進化でオーク(笑)になれるとよ」
オーク(笑)か――い!
早く人型になりたい(涙)。
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