魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
本格的な戦闘訓練が始まって早1ヶ月。
今では武器と魔法を交え実戦さながらの訓練を行っている。
アルシーの方針もあり参戦してくる魔物の質もどんどん上がっているので俺の実力も高まった。
そのスパルタっぷりにレベルや数値に表れない部分も十分強化された。
今日も俺は山小屋前の広場で戦闘訓練前の準備運動で汗を流している。
しかし、人生なんてどうなるかわからないものだな。
1ヶ月前までは無職で途方にくれていたはずなのに、ある日、突然、異世界に転移してゴブリンとなり小さい女の子に出会って格闘と魔法のイロハを学んで……いまは伝説のゴブリン将軍だ。
かつての魔王の知識や経験と日頃の鍛錬が大分馴染んできてパワーアップに貢献している。
それにしても……。
毎日毎日、素振りを繰り返し、シャルルの罵倒に耐え忍び、絵本で文字を覚えて、魔法書を読んで魔法の質向上に努め、ゴブリン共との戦闘に明け暮れて、ご飯の支度をし、お風呂の準備をし、掃除、洗濯、エトセトラ、エトセトラ……。来る日も来る日も……、来る日も来る日も……。
だぁーー!!
いつになったら俺の立志伝は始まるんだ!
日々強くなっていくのは分かっているのだけど後半のは完全に主夫じゃないか!
帰れるかどうかも分からないけど、とにかくゲームと同じ世界に転移したという事はクリアすれば何かが起こるかも知れないんだ。
そのスタートすら切れない今の状況はストレス満点この上ない!
いつまで俺はここで家事をしてなきゃいけないんだろうな~。
はぁー、最近じゃため息しか出ないぜ。
そんな心の中で嘆いているとお茶セットが載った宙に浮いたトレイとアルシーが近づいてきた。
そして俺の手前で立ち止まり指を鳴らすと彼女の前にテーブルと椅子二脚が出現した。
魔力は未だ完全回復していないものの彼女の空間魔術は相変わらず見事だ。
「イナバ様、お茶にするけん、ステータスを見せてくれん」
「ん、ああ、有難う。ステータスか、はい、どうぞ」
胸に掛けたプレートを掲げるとステータスウインドウが表示される。
アルシーはテーブルにトレイを着地させるとステータスを覗き見た。
名前:イナバ(♂)
種族:ゴブリン将軍
称号:伝説のゴブリン大将軍Ⅲ
レベル:45
HP:538/538
MP:375/375
固有スキル:再生 LV6
:成長促進 LV7
:絶影 LV6
常時スキル:言語LV7、打撃武器LV4、体術LV3、
身体強化LV2、探索LV1
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボールLV10
:【風属性】ウインドウヒールLV10
毎日のゴブリンとの訓練で打撃武器スキルを手に入れた。
たまに素手で戦ってたせいか体術も取得した。
文字の勉強を続けて言語スキルのレベルが5を越えた辺りで筆記読解スキルと統合された。
身体強化と探索という役に立ちそうなスキルも訓練中に覚えた。
ちなみにそれぞれの取得条件だが身体強化は敵を1,000匹倒すという簡単な条件。
探索は敵に先制攻撃を50回加えるという条件で解放された。
そう言えば数日前からゴブリンとの訓練中に4匹、異常に強い個体が出現する様になった。
彼らは共通語を話し1匹でも手こずるのに巧妙に4匹連携して攻めかかってくる。
アルシーは突然変異と気にしてなかったがその強い個体との訓練は大抵日没時間切れで終わる。
それ程にその4匹は個々の強さ、連携のタイミング共に他とは明らかに一線を画していたのだ。
彼らの強さに感服した俺はアルシーに4匹のゴブリンを部下にしたいと願い出て許可された。
早速俺は訓練とは個別に彼らを召喚してもらい俺の目的――魔王を目指し勇者と戦いにきた事――を伝えた。
すると、訓練とは言え敵対していたはずの彼らがなんと俺に礼を告げ忠誠を誓ってくれたのだ。
なんでも特に意味もなく生み出された自分達に生きる意味を与えてくれたとか……。
未来の魔王様の最初の部下になれて光栄だとか……。
意外な事に同じゴブリンでしかない俺の夢の様な目標を聞いても誰も馬鹿にしたりせず目を輝かせて賛同してくれたのには少しばかり感動してしまったのは内緒だ。
彼らに名を尋ねると特に決まった名前はないという。
頼もしい部下となった彼らに名が無いというのも不便なので名前を贈る事にした。
正面から立ち向かってきた勇敢なアルノート、
大きな斧と頑丈な鎧で皆を守るガンマル、
白魔法で皆を癒す心優しきファルス、
優れた技量の魔法を操る老齢のジータン、
うん、特に意味はない。
ネーミングセンスのない俺がよくも4人分の名前を絞り出したもんだよ。
名前を付ける度に相当量の魔力が吸い取られる感じがしたが万能回復スキルを持っている俺には特に支障はない。これがよくファンタジー物に出てくる名付けというやつか。これもよくある名付け後の進化があるかと思ったがどうやら主人よりも高い種にはならないらしく皆ゴブリンのままだった。
まあ、俺よりも強くなったら立場ないよな。
ただ、素のゴブリンだった頃よりは邪悪さが薄まり、皆、知性的な顔つきになった気がする。
そんな彼らといつしか晩酌を共にするようになりとても仲良くなる事が出来た。
4人の中で一番口数が少ないと思われたガンマルが酔うと饒舌になるのが意外で面白かった。
アルノートは泣き上戸、ファルスはキス魔、ジータンはそんな俺らを優しく見守る好々爺だ。
4人とも俺を魔王にするべく、これからも精進してくれるのだとか。
有難い話だよ、本当に。
ちなみにファルスは女性だからな。
ここまで読んでくださり有難うございます。
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