魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺は現在急加速した馬車の中で重力に弄ばれるか弱きゴブリンとなっている。
「あばばばばっ」
「イナバ様! 何を遊んどるけん、敵に補足されとらんか警戒してほしいっちゃ!」
別に遊んでいる訳じゃないのだが……甚だ心外であるが反論はせず探索スキルを周囲に放ち警戒をする。
もちろん夕餉の時間帯なので各家庭から上がっている煙であるかもしれないし、実際そう願っていた。
だが、グングンとウェルニーに近づくにつれ、願いは虚しく立ち上るのは夕餉の温かい煙ではなく建物が燃える黒煙である事が決定的となり数もどんどん増えていく。
幸いな事に外周を爆走している俺達の周囲に敵影はない、その反面、街中から相当数の怪しい反応がある事に気づいた。
都市の中から新たな爆発音と黒煙が上がっていく。
「アルシー!」
「わかっとー! イナバ様、裏門んぶち破って潜入するばい! 魔法の準備ばしてくれんね!」
「わかった! ……けど、俺の魔力じゃ出力過多では……」
――と確認する間もなく城壁はグングンと近づく。
ちょっとスピード違反ではないですかね。
「いぃ――くぅばぁ――い!」
アルシーが手綱を急激に引くと馬車は後輪を滑らしながら半回転し急制動しながら門に向かう。
俺はその間、馬車の壁にへばりついて遠心力で飛ばされない様に耐えながら魔法を放つ準備をする。
「今ばいっ!」
その声を合図にして俺は両手を前に突き出し魔法を思いきり放った。
出来る限り、街に被害を出さない様に出力を絞ったつもりだったがファイヤーボールの魔法は一直線に街の裏門に向かい目標に当たると跡形もなくそれを消し飛ばす。
そして目的を果たした後も俺の魔法は消える事なく門の奥から爆発音と新たな黒煙を立ち上らせたのであった。あ~あ、やっぱりね。
想定よりも大分派手な入場になったが爆風に包まれながらも無事に街の中に入った俺達の馬車は建物前で急停止した。
俺はというと無様に馬車から転がり落ちて2、3度バウンドして止まる。
「ううっ、痛たた……、おやっ?」
体中に走る痛みをこらえつつ目を開けるとオーガが倒れていた。
筋骨隆々の鬼人であるが額の中央に角と口に牙がある他は非常に人間に近い姿をしている。
衛兵が身に付けるヨロイと鉄の槍を装備しているがボロボロだ。
首筋に手を置くと体温が感じられ脈拍もまだある。
しかし出血が激しく、このままだと明らかに危ない。
俺は袋からポーションを取り出すと彼の体に振りかけてから残りは抱き起こして半ば強引に口から流し込んだ。
美味くないだろうが我慢して飲んでくれ!
ごぼごぼごぼ……
「ぶはっ!!」
オーガのおっさんが盛大に吐き出したポーションを全身に浴びる俺。
うう、薬くさいぜ……。
「ううっ、あんたは……?」
「ウェルニーの魔王軍ギルドに用事があってやってきた。何があった?」
「……急に街の外から所属不明の軍に襲われたと思ったら、ほぼ同時刻に都市の監獄が何者かに破られた。逃げ出した人間族の囚人の一部が街の門を中から開けたようだ」
「なんだと!」
街の中から監獄が?
この都市が陥落するのはゲームの中でも相当珍しいレアケースだ、それ程この街の防衛力は高い。
不意打ちに近い奇襲に合わせて内部でもタイミングよく反乱を起きるなんて出来すぎている。
元から計画してないとこんな事は無理だし計画もなしに反乱を起こした所で直ぐに鎮圧される。
そもそも、ゲーム序盤にこんなイベントはない。
マルファスは時期が来れば討ち取られるがそれにしたって早すぎる。
いや、もう既に俺というイレギュラーが転移してきた世界だ。
ゲームと同じ様に進むと思わない方が良いのかもしれない。
オーガに肩を貸し、馬車まで戻ると都市の様子を見に行っていたアルシーが戻ってきた。
「イナバ様ー! 都市が! めちゃくちゃたい!!」
「襲撃を受けて内部反乱も起こったらしい! すまないが彼に回復を頼む」
アルシーは一瞬驚いた様だがオーガに回復魔法をかけてくれた。
すると、彼の顔色が見るからに良くなり瞳にも光が戻ってきた様だ。
衰弱してる所に制御がぶっ壊れた俺の回復魔法を浴びせたら死ぬ恐れがある。
……回復魔法ってなんだっけ?
「すまない、かなり楽になった。君らは旅人か?」
「そうだ、なあ、あんた! 魔王軍ギルドはどうなったか分かるか!?」
俺は衛兵オーガに尋ねた。
「事の始まりは街の牢獄で火の手が上がった所から始まった。方法は分からないが人族の捕虜が蜂起した……兵士達はその鎮圧に向かったのだが同時に外部からも攻撃を受けたので俺はその対応に回され爆発に巻き込まれたんだ。非常に組織だった攻撃だった、すまないが……ギルドがどうなっているかは正直全くわからない」
くそっ、まさか全滅はないだろうが……、なんとかギルドに向かわなければ。
「アルシー、このオーガを魔法でエルンへイムに――」
「無理ばい」
「えっ?」
「私はイナバ様のサポートばグリッシュ様から厳命されと。イナバ様から離れて行動する事はできん。やけん無理ばい」
「……なら、オーガのおっさんだけでも魔法で――」
「無理たい。うちの魔法ば術者ごとしか飛べんけん」
「……」
「む・り・ばい」
俺はそれでも諦めきれずにアルシーに視線を向ける。
するとアルシーから、紫色のオーラが立ち上ってきた。
やばい! 死ぬ、俺、この都市救う前に死んじゃう。
――仕方ない。
俺は殺気をまとったアルシーから目を逸らしオーガに向き直る。
「なあ、あんた、どこかに馬か足の速い魔物はいるか?」
「俺が乗れるのは走りトカゲだが、壁沿いに行った所にある兵舎が無事ならまだ何頭かいるはずだ」
オーガのおっさんは俺達のやり取りに引きつつ協力的に答えてくれた。
「もし無事な個体がいたら近くの都市に援軍の要請をお願いしたい」
「わ、わかった。この近くにも都市があるので魔王城に援軍を要請できるかもしれない、が、あんた達は?」
まずはギルドの様子を見に行ってみるか、全滅していなければ守備隊に合流できるだろう。
粘れば衛兵オーガの呼んだ救援も期待できる。
俺はアルシーに耳打ちする。
「アルシー、街を取り返せばグリッシュに褒めてもらえるかな?」
アルシーはニヤリと笑い返答する。
「――もちろんばい」
よしっ!
「俺達はこの街を取り戻す!」
「はぁ? たった二人で!? そ、そんな事、無理に決まって――」
「しゃあしかぞ! お前はさっさと救援呼んで来んかい!」
アルシーのローリングソバットがオーガにヒット!
彼はよろけながら壁沿いに走っていった。
「頼んだぞぉ――!」
俺はオーガに声をかけた。
よろけてるが……大丈夫か。
まじで頼むぜ、おっさん。
あんたが俺達の命運を握っているんだからな。
おっさんを見送った後、俺はアルシーに向き直った。
「さてと、やってみるか」
俺とアルシーは小さく頷き合う。
謎の軍団達よ、俺の踏み台になってもらうぞ。
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