魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
何故、会った当初の彼女は魔力切れ寸前で活動していたのか。
理由は簡単。
魔力補充の方法が厄介なのだ。
何が厄介?
……うん、正確には違うな、俺にとって厄介なのだ。
何でも回復の間、全裸で過ごさなければいけないそうだ。
正確には素肌を大気中の魔力に晒していないと迅速な魔力吸収がうまくいかないのだとか。
裸で過ごすとかどこの裸族だよ……。
それなら拠点にいる間に満タンにする時間は幾らでもあっただろうと思ったのだが、よく考えたら俺の修行の為に四六時中、隣で協力してくれた彼女の姿を思い出して少し反省した。
補充した魔力を惜しみなく翌日の訓練に使ってサポートしてくれたのだ。
なので俺が気絶から回復した後はアルシーの魔力回復にひたすら時間を使った。
夜を待つ僅かな間にアルシーには建物の中で魔力の補充に努めてもらった。
もちろん、俺はその間、外で護衛をしていた。
真っ裸で敵に見つかったら大変だから……断じて覗いてない、覗いてないぞ。
そんなこんなで努力が実ったのか彼女の魔力は全体の60%位まで回復した。
なるほど、俺の魔力も多重レベルアップで無尽蔵に近いが今のアルシーの魔力も底が見えない。
こんな短時間でそこまで大量の魔力を回復出来るのは全裸にならなきゃいけないとは言え確かに特殊技能と呼んで良いな。
外見も初めて会った時より更に成長していた……大体、高校生位だな。
ここまで戻れたのは久しぶりと叫びながら部屋から飛び出しニコニコで裸のまま俺に抱きついてきた時には大層驚いた。
実年齢は分からないが年頃の娘さん(見た目)なのだから自重してもらいたい。
そんな事を考えながら走っていると遠くに市街地と中心地を隔てる巨大な門が見えてきた。
この門は街の中心地を覆う城壁に設置されており、万が一街が占領された時に中心側に立てこもり長時間篭城できる様に頑強に造られているのだが、現在俺の目の前の城壁はそこかしこに損傷が見られ壁の向こうからも黒煙が上がっていた。
そして城壁の上は既に敵兵に占領されてしまったのか煌々と明かりが灯され厳重な警戒態勢が敷かれている様だった。
「アルシー、あれ……」
「はい、イナバ様! ストップ!」
グイッ!
「ぐぇっ!」
アルシーが俺の襟を掴んで急ブレーキを掛けた。
お陰で俺の首は完全に締まってしまう。
「早う、隠るるばい! 恐らく門の向こうは既に占拠されとる、あれだけん数ば相手にするなん正気ん沙汰やなかとや!」
そう言うやいなやアルシーは石畳脇の街路樹の影に俺を引き倒す。
「わっ!」
いたたた、俺の扱いが雑すぎる。
……どれどれ。
改めて城壁の上の様子を確認する。
禍々しい鎧の重騎士がちらほら見えるが殆どがこの街で反乱を起こした人間族の捕虜達っぽい。
「それでどうすると? あの数をまともに相手にしてたらキリがないけん。……まあでも、私とイナバ様の力なら抜けん事もなかやろう。やるなら早か方が良かけん。心配はなかて思うが相手の援軍があるかもしれん」
最近分かったのだが可愛らしくも大胆なアルシー、意外と脳筋で力技で物事を解決したがる。
確かに俺とアルシーの無駄に高出力な魔法ならばあの門でも吹き飛ばせるかもしれない。
もし仮に生存者が残っていた場合、急いでこの包囲を破らなければいけないし早期決着が必要だ。
降伏を進めるなんて甘い考えはもう捨てよう。
……いや建前はもういいか、正直に言おう。
俺自身の全力フルパワー出力で魔法を放ってみたい!
……どうやら俺も魔物の思考に引っ張られて脳筋よりになっているらしい。
「よし、わかったぞ、アルシー、正面突破でいくか!」
「おおーっ、ようやくそん気になったと。簡単な事ばい。イナバ様の魔法ば撃ち込めば、あげん程度の建造物なんてイチコロばい。イナバ様はもう少し自分の力ば信じるべきばい。もちろん、私も一生懸命やるけん大丈夫ばい」
アルシーは瞳を輝かせながら俺の肩をバンバン叩きながらやる気になっている。
「そりゃそうと……、投降ば望まれとったとによろしかっちゃか?」
「ああ、まあ、そうしたいと考えてたのは確かだが仕方ない。……門は既に敵の手に落ちてしまった様だし、……弱者の言う事など最初から聞く奴はいないだろう」
「イナバ様は弱くなんかやなかばい!!」
アルシーが俺の言葉に食い気味で叫ぶ。
俺は苦笑いしながら元の世界でのゴブリンの立ち位置を彼女に伝えると不満ながら納得してた。
俺ことイナバはレベルアップでそこそこ強くなったゴブリンだ。
白兵戦はともかく魔法に関してはゲームで色々極めたお陰で理解度については問題ない。
出力については何というか……物凄くぶっ壊れ気味ではあるが……制御出来る様になるしかあるまい。
本来は群れてこそ凶悪さを遺憾無く発揮する種族なのだが個のゴブリンは少し訓練した大人にさえ負けてしまう。
ゲームの頃は弱小な魔物であったし、ここがゲームとリンクしているなら似た様なものだろう。
……まあ、敵がたかがゴブリンと侮ってくれてこそ勝ち目も出てくるんだがな。
俺達が夜まで待ったのは奇襲をかける他にも狙いがあった。
アルシーの枯渇した魔力の回復が第一、魔王軍からの救援要請の反応を待つのが第二の理由だ。
驚く事に明朝には魔王軍の援軍が到着する予定だという返答が来た。
オーガのおっさん、頑張ってくれたんだな。
なので、これから夜襲をかけ粘り強く戦っていれば魔王軍の援軍も到着して一気に形勢を逆転出来る……と思う。
「では始めるばい、イナバ様 準備はよかと? 正直、イナバ様ん全力ば一度見てみたかったんや。一気に包囲ば破って奇襲ばかけるけんね。最初から全開出力でいくばい。さあ! 魔力ば練ってくれん。さあ、さあ!」
アルシーの目に狂気の色が見えた。
はっきり言って怖い!
アルシー、
俺が全力を出したら多分ウェルニーごと吹っ飛ぶぞ。
……わかった、わかったからバンバン叩くなって。
よし! いくぞ!!
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