魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺とアルシーは敵軍に占拠された街の中心地にある城壁の手前で潜んでいた。
二人で打ち合わせた結果、俺達の高出力魔法で巨大門をぶっ飛ばし強行突破する事にした。
門の向こうに立てこもる敵軍、およそ1,000、アルシーは只々、手加減なしで魔法を放てば簡単に突破できると言うが……。
「アルシー、本当に手加減なしで撃っていいのか? 周りに被害は出ないんだよな?」
「大丈夫ばい。あんな門如き魔法で打ち消しゃるはずばい。万一、被害が出たとしたっちゃ後で直すけん安心してくれん」
被害でるんかーい。
まあ、このまま、まごついてても状況は進まない。
適度に威力に抑えて魔法を放つしかないな。
もうどうにでもなれ――!!
俺は集中して魔力を身体中に循環させ高出力魔法の発動に入る。
とは言え、魔法自体はファイヤーボールなのだが俺のそれは常識外れな出力だ。
俺の魔法発動に合わせてアルシーも高出力魔法の準備を始める。
全身が淡く光り始め両手に魔力が収束していく。
とてもではないが俺が知っているファイヤーボールの魔力量ではない。
「アルシー! 発射、合わせるぞ!」
「5秒前から! タイミングはいつでん良か!」
「よしっ、じゃあ……5秒前! 4、3、2、1……」
カウントダウンを始めた俺の両手は眩い光を放ち始め周辺の大気が震え始める。
狙いを付ける為に包囲している軍勢を見た俺は息を飲んだ。
なぜなら門の手前に誰かいるからだ。
「アルシー!! 誰かいる!!」
「なんやって! もう止めるとは無理ばい!」
アルシーも驚愕の表情を浮かべるがもうどうしようもない。
俺達の両手から容赦のないドラゴンのブレスにも似た業火の帯が敵とその誰かに向けて発射される!
俺は無駄だと思いつつも誰かに向けて叫ぶ。
「よけろ――――っ!!!」
すまん、名も知らぬ人よ。
俺達の全てを力で解決しようという脳筋思考のせいで尊いその命を……。
「ふぇぇぇぇええええええ――っ!!!」
どっごぉぉぉぉぉおおおおおおん!!!
俺達のファイヤーボール(仮)は頑強な門を易易と貫き、それでも止まらず唸りをあげて上空めがけて飛んでいって消えた。
憐れ、その人物は悲鳴をあげながら俺達の魔法で消し飛んだ……かに見えた。
「危ないじゃにゃいですか! どこに目をつけてるんですにゃ!」
「うわぁ! い、いつの間に……」
いつの間にか俺達の背後に居たその人物が血相を変えて喚いていた。
その人物は黒装束に黒頭巾で身を固めており俺のいた世界で言う所の「忍者」の様な姿だった。
「あんた、焦げ臭いな」
魔法が掠めたのか少し焦げ臭い。
少し煙も出てる。
「あんた達のせいでしょうが! 一体何を考えているんですにゃ!」
そう言ってその人物は頭巾を取ると銀色に輝くセミロングの髪が風になびく。
切れ長で濃い翠眼に鼻筋がスッキリと通っており大きくもなく小さくもない口元の全てが美しい。
身長はゴブリンである俺が見上げる位には高い、160センチ程はあるのではないだろうか。
……ただ、頬に猫ヒゲが生えており頭にはモフモフの耳がピコピコと動いている。
「猫ミミ……わっ!」
「ギニャ――ッ!!」
思わず猫耳に目が釘付けになって油断していた俺に翠眼に怒りをにじませた猫娘が飛びかかってきた。
「わ――っ! 待て、待て、落ち着け! どうした!」
「どうしたもこうしたも一言位詫びたらどうにゃ――っ!!」
ネコ爪を光らせた殺る気まんまんの右手を辛うじて抑える俺。
全力で押さえ込んでいるにも関わらず猫娘の手はびくともせず逆に俺の両手がギリギリ嫌な音を立てている。
切れ長で美しいはずの翠眼は大きく見開かれ狂気の色が滲んでいた。
「きゃっきゃっうふふん最中に申し訳なかっちゃけど……」
「どうすればそんな風に見えるんだ! 助けてくれ、アルシー!」
アルシーは先ほどの全力魔法ぶちかましでやや身体が縮んでいた。
「門が消し飛んだけん中から敵ん兵士が出てきとーっちゃけど……」
「「は?」」
彼女の言葉に俺達は我に返り、ゆっくりと魔法を撃ち込んだ先に目を向ける。
すると門があったはずの場所には巨大な穴が口を開けており、そこから敵兵が警戒しながらも続々と出てくるのが見えた。
悪い事に俺達が散々騒いでいたせいで既に奴らに存在を気づかれているようだ。
こちらに進みつつ俺達を見て何やら騒いでいるように見える。
「くそっ! 大規模魔法をぶっぱなして動揺している所を奇襲する華麗な作戦がっ!」
「どうする? イナバ様、一旦退くと?」
「そんな訳あるか! 一気にぶっ潰すつもりで来たんだ、住人が捕まってたら早くしないと不味いしギルドの状況も心配だ」
「そうこな!」
「あんた、名前は!?」
「にゃっ!? ……リ……リ……ヌにゃ」
俺の大声に猫娘は毛を逆立てて怯えておずおずと答える。
「え、なんて?」
「リ、リリアンヌにゃ!!」
「おう! わかった、わかった! さっきの様子なら大丈夫だと思うが、俺達の後ろから離れるなよ! リリア!」
「ふぎゃ――っ!! 勝手に愛称で呼ぶにゃ――!!」
俺はリリアの返事を待たず強引に手を引っ張りながら敵軍に突っ込んでいく。
猫人族なのでにゃごにゃご言っているが気にしない事にする。
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