魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺はリリアの返事を待たず強引に手を引っ張りながら敵軍に突っ込んでいく。
何やら、リリアがにゃごにゃご喚いているが気にせず全力で走る。
隣にはしっかりとアルシーが付き従い猛スピードで飛んでいるのが見えた。
俺は走りながら背中に備え付けていた伝説のメイス、シャルルを引き抜き迎撃態勢に入る。
「ちょっと! もうはにゃして! 自分で走れるし戦えるにゃ!」
リリアはふぎゃふぎゃと俺に訴える。
なに、この可愛い生物。
確かに俺達の魔法を避けた姿には動きは只者ではなかった。
俺がリリアの右手を離すと彼女はよろけはしたが直ぐに体制を立て直し俺の隣を走り始めた。
「にゃあ――! 急に離すんにゃない! 危にゃいじゃないか!」
離せと言ったり離すなと言ったり……。
「ところでリリアはここで何を?」
俺が走りながら尋ねると彼女は走る速度は変えないまま俯いてしまった。
「あたしは……このギルドの隠密部隊に所属していたのにゃ。不穏な情報を事前に察知して周辺の偵察に出払ってたにゃ。警戒は万全だったはずにゃのに、にゃぜか完全に不意をつかれて都市は襲われてしまったのにゃ。目をかけてくれた領主様を助ける為にギルドに侵入しようとしてた所をあんた方の魔法で焼かれたのにゃ」
焼かれたって……。
なるほどな、予期せずギルドの関係者に接触できた。
これから潜入する事を考えるととても都合がいい。
よし! ではでは……。
「わかった。リリア! 俺達で助けにいくぞ!」
「……っ! うん!」
俺が語りかけると最初は戸惑った様子のリリアだったが直ぐに元気の良い返事が返ってきた。
既に目の前に迫っていた敵軍を蹴散らす為に身体強化の魔法をかける。
見回した所、ほとんどが人間族の捕虜達を主体とした軍の様だ。
不思議と人間を目の前にしても倒す事に禁忌はそれほど感じない。
やはり俺もすっかり魔物よりのようだ。
お前達にも言いたい事があるのだろうがここまでメチャクチャした報いは受けてもらうぞ。
俺が足を止めてシャルルを両手でもつとシャルルから闘気が立ち上る。
アルシーとリリアも追いつき俺の後ろに控えている。
「なんだ、ありゃ、ゴブリンか」
「子供と猫もいるぞ」
「たった3人で戦う気なのか、冗談だろ」
もう既に奴隷軍の兵士達が思い思いに話す声が聞こえる距離だ。
いいぞ、油断してくれ。俺は雑魚のゴブリンだぜ。
人数が多すぎて数えるのも嫌になる程の大勢の兵士達を眺めながら初動で油断を誘えた俺は狙い通りと口角を上げる。
「いいっくぞぉ――!!!」
俺がシャルルを大きく振るとそれに伴い鋭い衝撃波が発生し兵士達に向かって飛んでいく。
「ぐわぁああああああああっ!!」
巻き込まれた兵士達がゴミのように吹き飛んでいく。
それを見ていた兵士達の士気が一気に下がっていくのが伝わってきた。
それはそうだろう。
雑魚ゴブリンと子供と猫。
こんな3人組に自分達が負けるわけがないし瞬殺するつもりだったのだろう。
それがこの様だ。浮き足立たない方が嘘だ。
今のうちに少しでも人数を減ら……。
「しっかりしろっ!! 敵は強いとは言え、たったの3人だ、慌てるんじゃない!」
俺が予定通りの展開にほくそ笑んでいると敵軍から叱咤する大声が上がった。
隊長クラスのやつだろうか。
「そこのゴブリン、……貴様との一騎打ちを所望する」
他の兵士同様、カブトは被っていないものの少しだけ豪華なヨロイを身につけた筋骨隆々な男。
叩き殺す事だけを目的とした幅広の大剣を携えてズイッと前に出てきた。
ビリビリくる程のやばい殺気を俺に対して放ってくる。
俺以外はどうとでもなると思っているのだろうか。
悪いがアルシーも相当頭おかしい魔法使いだぞ。
まあ、いい。
素晴らしい殺気に免じて乗ってやるよ。
奴にあわせて俺も前に出ようとしたその時。
「ゴブ……イナバさん。あたしにやらせるにゃ」
リリアが黒頭巾をかぶり直して俺の隣に出てきた。
「なんば言いよるんか、リリア! 危険やけん、イナバ様に任せよう!」
アルシーが驚きながらもリリアを下がらせようと彼女の肩を掴んだ。
リリアは右手には俺の世界で言うところに日本刀、左手に脇差位の長さの小刀を持っていた。
非常に静かであるその立ち姿は殺気を滾らせるわけではないが隙がない。
いわゆる強者の雰囲気を醸し出していた。
出会いの印象から只者ではないと思われたリリアだが大正解かも知れない。
「危なくなったら割り込むから。まあ、大丈夫だと思うけど」
「なっ!」
アルシーが驚きの声を上げたが俺はリリアの肩に置かれた彼女の手を優しく取ると後方に下がらせた。
「イナバ様! 本気と? 相手強かと! 彼女死ぬばい!」
「いや、根拠はないが……多分大丈夫だ」
「有難うにゃ」
リリアが俺に礼を言い敵の隊長に向かい歩いていく。
敵軍の兵士は隊長の相手を俺ではなく猫娘がするという事でざわついていたが、隊長が何も言わずむしろ警戒を強めた為、しばらくして静まった。
「ウェルニー魔王軍隠密部隊2番隊隊長、リリアンヌ・マドロール」
「……アルヴァミア帝国騎士団第4部隊隊長、スティ・レンドック」
リリアの名乗りに合わせて敵軍の隊長も返答した。
アルシーから海向こうの大陸にある人間族の帝国名だと教えられる。
戦争の末に捕虜にでもなったのか、あんなに強そうなのにな。
それにしても両方隊長で家名持ちかよ。
「領主様は無事?」
「さあな。ただ、城は落ちたらしいぞ。領主も一族全て捕らえられたと聞いたが……」
リリアの殺気が一瞬、弾けた気がした。
リリアとスティの一騎討ちが始まる。
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