魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺達が訪れた魔王軍の都市ウェルニーは謎の敵軍に襲撃されて陥落寸前……ほぼ陥落していた。
俺はアルシーと協力して都市中央にある占拠された魔王軍ギルド本部を目指し行動を起こした。
その途中で出会ったギルドの隠密リリアを加えた俺達は敵軍の隊長と対峙したのだった。
ギルドの隠密リリアンヌ・マドロールと奴隷部隊の将スティ・レンドックの一騎撃ちが始まる。
スティが僅かに右足を前に出す、――とその途端に二人の姿が掻き消えた。
レベルだけが高い俺の目ではそのスピードを殆ど捉える事が出来ない。
そもそも、俺、パワーレベリング仕上げの人工的な高レベルゴブリンだしね、全然見えねえぜ!
ガキィイン!!
グシャッ!!
何もない空間に火花が散ったかと思ったら轟音と共にリリアが弾き飛ばされ建物に衝突した。
と、次の瞬間には上がった砂煙の中に彼女の姿はなくスティの背後に現れ独楽の様に回転すると2発の斬撃波を放つ。
スティはギリギリで反応して振り返ると大剣を軽々と取り回し斬撃を明後日の方向に弾く。
追撃として放たれた斬撃に紛れたリリアの投げた脇差に気づいたスティは大きく後方に飛びそれも避けた。
「「えぇっ!?」」
アルシーや捕虜の兵士達が一騎打ちのレベルの高さに驚きの声をあげた。
リリアもスティも相当な強者だ、この都市にあれだけの猛者がいる事に驚きだ。
実はこのゲームのNPCはストーリーに関係のある人物ですらプレイごとにランダムで生成されるのだ。
もちろん何度ゲームをやり直しても固定で出てくるメンバーも多数存在する。
グリッシュやマルファスなんかは何度やり直しても当然出てくる。
最初のダメージは多少通ったのかリリアの頭からは血が流れている。
リリアが相当強いのも驚いたがスティのパワーとスピードも人外すぎだ。
リリアは流れる血を右手の甲で拭い予備の脇差を抜き構え直すと姿を消した。
スティもそれに合わせる様に掻き消えると今度は上空で剣戟の音だけが鳴り響く。
剣を交える度に衝撃波が発生しその戦いの激しさを周りに伝えていく。
たまに兵士が衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされていくのがシュールで顔がにやけてしまう。
俺、こういうの弱いんだよね……ぷぷっ。
二人の戦いは拮抗していたかに思えたが時間が経つにつれてスティがジリジリと押し込み始めた。
徐々にリリアの身体に切り傷が増えてくる。
スピードはリリアの方が上だが一撃の重さや破壊力はスティに分があり次第に彼女は疲弊していく。
よく戦っているがこの流れはまずい状況だ。
リリアが今気強く相手の体力を奪っていっても一撃貰えば致命傷だ。
シュールな光景に笑っている場合ではないな。
俺はシャルルを握り直し加勢に入る準備をした。
一騎打ちはリリアの負けとなるが死ぬよりはマシだ。
多少、汚いが俺がスティを倒せば良いだけの話だ。
潮時だ、一歩前に出る。
するとリリアが身体に似合わない大声で俺に叫んだ。
「来るにゃぁぁぁあああああ!! まだ勝負はついてにゃい!!」
……ビックリした。
リリアの身体が一瞬輝く。
身体強化の魔法だろうか、あいつ魔法まで使えるのか。
と言うか、それなら初めから使え、ナメぷしてんじゃないぞ。
強化魔法により更にスピードの上がったリリアが再びスティに攻撃を仕掛ける。
多少の上積みは見られたがそれでもやはり攻撃の重さでリリアが押され気味だ。
何度目かの衝突の後に姿を現したリリアとスティが武器を一閃し交差した。
がきぃいいん!!
「ぐぅっ!」
一騎打ち開始直後の映し直しの如く、リリアが後方に弾き飛ばされてくる。
「身体強化」
俺は自分に身体強化の魔法を掛けてから吹っ飛んできたリリアを受け止める。
まあ、見事にボロボロにされたな。
まるでボロ雑巾の様だ
よく見ると目の下に隈が出来て憔悴している、魔力の残量ギリギリだったわけか。
無茶しやがって……。
スティは剣を振り下ろした状態で止まっていたがよく見ると鎧の腹の部分が砕けていた。
奴はカハッと口から血を吐くと片膝をついた。
「くっ、この俺がここまでの深手を負わされるとわな……」
おお、リリアの全身全霊の一撃でスティもほぼ戦闘不能状態になった。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
ここまでの強者ならここで仕留めておかなければなるまい。
今度こそ俺はスティに止めを刺すべく近づこうとした。
「あれっ?」
スティの近くにいつの間にか一人の少年が立っていた。
飾りっけの無い必要最低限の軽鎧に漆黒のマントを纏っており腰に帯剣している。
年の頃は15歳位、黒髪で黒い瞳、戦士の姿をしているが、一見、日本人と見間違う様な風貌の普通の小柄な少年だ。
「ああ、レスターさんか……、お見苦しい姿を見せちまって申し訳ない……」
スティの味方なのか少年の顔を見た途端、ホッとしたような顔になり彼に詫びる。
「全く、こんな所で何に時間を取られているのか。だから人間族は……」
少年はそう言うと装飾のついた長剣を鞘から抜き放ち……。
「えっ?」
スティの首をスパッと藁束を試し切りするかの如く、はねた。
首がゴトリと落ち、鮮血が吹き出して主を無くした身体もゆっくりと倒れる。
「う、うわぁ――!!」
敵軍兵士の何人かが悲鳴を上げて逃亡する。
俺もリリアもアルシーも全員が何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くす。
2人が命を賭して戦った広場は一瞬にして血生臭い戦場になった。
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