魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
レスターと呼ばれた少年は無造作に、さも面倒臭そうにスティの首を切り落とした。
次に少年は左手に魔力を集中し逃亡した兵士達にホーミングレーザーの様な魔法を放つ。
レーザーは城壁の裏表を関係なく逃亡した兵士を獲物を定めた猛禽類の様に追いかける。
「ぐわぁあああああ!!」
逃げ出した兵士達は例外なく、そのホーミングレーザーで焼き尽くされた。
「ぁぁ……」
後ろに来たアルシーが俺の服の裾を掴み顔色をなくしている。
リリアも目の前の信じられない光景に険しい顔だ。
「君達は逃げないの? 全く……迅速に殲滅せよとの指示だったのにこんな所で一騎打ちなんてしてるんだから呆れるね」
レスターと呼ばれた少年は逃げ遅れてその場で戦意喪失した兵士達を見ながらその端正な顔を醜く歪めてニタリと笑った。
「だから人間なんて使い物にならないと進言したのに我が主は遊び好きなんだから……」
パチンッ!
レスターは右手の指を鳴らす。
「ぐわぁぁぁあああああああ!!」
すると残りの兵士達全員が黒炎に包まれ、あっと言う間に消し炭になっていく。
隊長スティは首をはねられ、1,000人の兵士達は焼かれ死に絶えた。
そして辺りは静寂に包まれる。
「さて、君達。待たせて申し訳ない」
レスターが俺達の方に向き直り話しかけてくる。
「僕の名前はレスター。ロマリアス卿に仕える魔法戦士だよ」
ロマリアス?
俺が頭を捻っているとアルシーが補足の説明をくれる。
「西ん領地ば支配しとって私達に反抗しとる魔王候補ん一人ばい」
「その通り、我が主ロマリアス様は魔王になる資格をお持ちの候補の1人だ。その第一歩として、現魔王殿の領地で起こった捕虜共の反乱に手を貸して戦火を広げようとしたんだけど、どうも捕虜の質が悪く意思も脆弱でね、使い物にならないと主に進言したのに面白ければどうでも良いとの事でね、捕虜共を軍に手助けさせて街を襲わせたのさ」
レスターが聞いてもいない事をペラペラと話し始める。
魔王領内という圧倒的敵地で部下達を率い反乱を起こし遂には都市を陥落させたスティの質が悪い?
意思が脆弱?
吐き気をもよおしそうな程の気分の悪さを抑えてレスターを睨んでいるとリリアが叫んだ。
「領主様は! 私の仲間はどうした!」
「んっ? 仲間なら君の後ろにいるだろう」
奴がそう言った瞬間、俺は背中に寒気を感じた。
この世界に来て最早慣れ始めてきた強烈な悪の感情……、これは殺意だ!
間に合わない!
そう思いながらも咄嗟に振り向きながらシャルルで後方を払う。
キィンッ!
俺の背中を狙いすました剣の一撃とシャルルがぶつかり甲高い音をあげた。
俺達の背後にはいつからそこにいたのか年の頃、20歳位の青年が立っていた。
隣でリリアがガタガタと震え目を見開いている。
「ハ……ハインツ……にゃの?」
どうやら背後から不意打ちを食らわせたその青年はリリアの仲間らしい。
「狼人族……か?」
「隠密部隊の副長の……ハインツにゃ。小さい頃から孤児院で一緒に育って部隊に入ってからは私を支えてくれた相棒にゃ。襲撃時に偵察に出動した時にはぐれてしまったんにゃが、なんで……こんな……」
リリアが俺にそう答えながらその大きな瞳から止めどなく涙を流す理由。
それは既にハインツの命が尽きているからだ。
彼の服は胸元から裂け大きな傷が見えており夥しい血が流れた後があった。
きっと自慢であったであろう銀色の体毛が黒く薄汚れている。
生気の無い澱んだ瞳は黒目が無く黄ばんだ白目に血管が目立ち、脱力してだらんとした手にはこちらも自慢の逸品だったのだろう業物の刀が握られ刃から不気味な輝きを放っていた。
そして血に染まった歯をむき出しにしてとても正気とは思えない低い唸り声が漏らしている。
……既に理性は感じられない。
「貴様……、ハインツに何をしたのにゃ……?」
「総攻撃前に街の包囲をしていた我々の周りを小煩くこそこそと探っていたからね。ちょいっと死んでもらったんだよ。君に化けて合流して少しばかりの間、仕事を手伝ってやったらデレデレしちゃってさ、ぷぷっ、完全に油断した所に不意打ち食らわせた時の顔ったら……、くくっ、まあ、最後まで何が起こったのか理解できずに死ぬ奴の間抜けヅラを拝めたので僕は最高に楽しかったけど我が主がネクロマンサーなので死体とられちゃってさ、獣人の毛皮は珍しいから剥いでコレクションに入れようと思ったのに」
「ふぎゃぁぁぁぁぁああああああ!!」
止めようとした俺を振り払いリリアは友の仇を討つべく満身創痍とは思えない動きで奴に向かう。
が、突如弾かれた様に吹き飛び、これで何度目か、城壁に叩きつけられ轟音と共に砂煙が上がる。
「リリアッ!!」
「ああ、ハインツ君ね。主が少しばかり魔改造したので生前と比べ物にならない化物になっているので注意してね、ぷぷっ!」
激しい戦いの後とは言えリリアを吹き飛ばしたのはその動きを捉えたハインツの強烈な蹴りだった。
奴の言う通り、ハインツの能力は凄まじいが、それ故なのか彼の全身からは動く度に骨の軋むような嫌な音がなっている。
「うふふ、化物になって身体能力は上がったけど耐久度は微増がやっとだったんだって。弱いって不便だね」
寒気のする様な目で俺達をみるレスターの口元は笑っている。
「どうする? 降参するなら主に頼んで我が傘下に組み込む事も可能だと思うよ。もちろん全員仲良く魔改造された後だろうけどね、くっくっくっ」
ちょっと、これは我慢の限界かな。
「アルシー、リリアを頼む」
ハッとした顔で俺の顔をみる彼女は何かを言いたげであったが深く頷くとリリアが叩きつけられた方に向かってくれた。
「それは有難いね。けど、少しだけ抵抗しようと思うんだけど……どう思う?」
「いいさ、好きにすれば。後悔するのは死んだ後で良ければだけどね」
リリアの一騎打ちを台無しにした挙句、その心を深く傷つけたのは許せない。
正義感とかそういうのもあったかもしれない。
だけど、この時、俺の心の中をしめていたのは嫌悪感と純粋な怒りだった。
落ち着け……落ち着け……
怒りは戦況を図る目を狂わせる、俺は冷静だ。
相手は敵魔王軍の幹部と強力なアンデット剣士。
明らかに負け戦かもしれないが……。
えーいっ!
あいつに一発お見舞いしないと気が済まないぞ!
俺にはぶっ壊れ魔法と伝説のシャルルがついている。
後悔するのはお前の方だ!
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