魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
リリアが俺を小脇に抱えて全力で走りだしたのだ。
「おい! リリア! 何やってるんだ! アルシー一人であんな……」
「とは言え全員があそこで足止めされてても仕方ないにゃ! アルシーさんに任せるにゃん!」
『主はあの娘の実力を正しく評価するべきです。先ほどの魔力を跳ね返した彼女の力は驚異的でした。寧ろ我々の戦力不足を心配するべきです』
悪かったね……雑魚ゴブリンで。
くそっ、こうなったら一刻も早くこの街を襲った黒幕を倒さなくちゃな。
俺達は……というか俺はそのままリリアに担がれたままギルドの建物に側面から回り込む。
アルシーが正面で敵を引きつけてくれたお陰で無事に建物の近くまでたどり着けた。
「おいっ、リリア。もういいだろ、降ろしてくれ。自分で動けるよ」
「さっきのお返しにゃ。物みたいに運ばれる気持ちは分かったかにゃ?」
ようやく俺は地面に両足をつけて大地に立つ。
「ふうっ、ようやく解放されたか……、え? なんだって?」
「むっ! 担がれて運ばれる気持ちが分かったのかにゃ!?」
「ん? ああ、意外と気持ち良かったぞ、猫人って体温、温かいんだな」
「そ、そんな事聞いてないにゃ―!!」
「ぐわっ!」
何故か顔を赤くしたリリアにはたかれた。
なんだよ!素直ないい感想だと思うぞ、あ、鼻血でた。
一応、俺だって元々は立派な成人男性だしリリアの様な綺麗な女性に密着したらドキドキするし幸福を感じる。
アルシーもとても綺麗な女性なのだが時たまとんでもなく幼児化するので対象には考えにくい。
『主様、騒いでないで、そこの扉から侵入しますよ。早くしなさい!』
邪な事を考えて鼻をさすっているとシャルルに怒られた。
侵入って言うなよ、俺達が泥棒みたいじゃないか。
それはそうと……
「見ろよ、この扉。当たり前だけど鍵しまってるぞ。俺、開錠なんて出来んし」
「誰と話しているのにゃ、気持ち悪いゴブリンだにゃ、そんな扉位なら私が開けられるにゃん」
え、本当に?
ポカーンとする俺をよそにリリアは懐から道具を取り出し扉についているドアノブに差し込んで何やらガチャガチャし始めた。
すると数秒も経たずに、ガチャリッと金属音を立てて扉の鍵が解かれた。
「ほれっ、開いたにゃ」
「えっ? マジで? 早くない? 凄いな、リリア」
「そ、そりゃ当然なのですにゃ、私の職業を忘れたかにゃ? それにここは私の職場ですにゃ」
普段ツンとした感じのリリアが珍しく誇らしげで照れたように答えたので少し意外だった。
でも、最後のは関係ないんじゃないかな、職場の扉を開錠なんてしないだろう。
リリアが扉に手をかけて開こうとした瞬間。
『危ない!』
「「えっ!?」」
扉が爆散して弾けとんだ。
そして至近距離でその爆風の直撃を受けた俺達は哀れ力尽きて倒れ……なかった。
『そう何度も同じ手に引っかかってたまりますか』
数秒前まで確かに手に持っていたはずのシャルルが爆散した扉の前で淡い光を放ち浮かんでいた。
そして同じ様に淡い光に包まれた俺とリリアに傷一つ付いていない。
『先程は遅れをとりましたが本来主を守るのは私の役目です。こんな見え透いた罠で主を亡くすのは三流以下です』
どうやら今度はシャルルに守られたらしい。
本当にどんだけ足手纏いなんだよ、俺様は。
少しばかり落ち込んでいる俺を尻目に煙の中から2メートルはあろうかという正体不明の人影が近づいてきた。
「俺の気孔弾で傷一つ付かないとはお前らなかなかやるじゃねぇか!」
なんちゅうでかい声だ、耳が死んでまうわ。
目の前に現れたのは肌の赤い半裸の大男。
筋骨隆々ではち切れんばかりだ。
口は大きく牙が生えており頭からは2本の角が伸びている。
恐らくは鬼人、街に来た時にあったオーガであるがあの時のおっさんとは比べ様もない程大きい。
鬼人はオーガの進化種だ。
「根暗で軟弱なレスターは倒したらしいが俺様はそう簡単にはいかんぞ!!」
そう言いながらそれこそ瞬きも許さない程のスピードで俺に接近してその巨木の様な腕を振り下ろしてきた。
「!」
甲高い金属音があたりに響く。
情けない事に拳が迫る瞬間、目をつぶってしまった俺の視界に再び映った光景は2本の刀をクロスにさせオーガの拳を受け止めてるリリアの姿だった。
「今度は私の番だにゃ! ヒーローは最後に現れるにゃ、イナバさんは先に行くにゃ!」
リリアは器用に両足で地面を蹴ると刀がクロスしている箇所めがけて蹴りを放ちオーガの拳を弾き返す事に成功する。
凄いな、斥候だか隠密だか忘れたけどあんな真似が出来……、えっ?
「どっせぇぇぇぇ――いっ!!」
「う、うわぁああああああ――!!」
リリアは着地すると同時に俺の襟首を鷲掴みにして開いている扉の奥めがけて投げたのだ。
くっ、リリアめ……。
あのオーガはさっき戦った人間の比じゃない強さだぞ。
一人で勝てるわけが……。
そうだ! これなら!
俺は急いで腕輪に魔力を込める、無意識であるが必要以上に……。
すると腕輪は発光して光の弾が超光速で後方に撃ち放たれた。
「「「「うぎゃあああああああ――っ!!!」」」」
ずどぉぉおおおおおおんっ!!!
何やら悲鳴が複数と後方で大きな衝突音が聞こえた気がした……気がしたが気にしたら負けだ。
リリアと精鋭ゴブリンが4匹いればなんとか勝負になるだろうか。
みんな、頼むぞ!
『主! 壁が……』
どかああああんっ!!
いてててっ。
そうだった、俺も絶賛壁に向かって吹っ飛んでいた最中だった。
いつの間にか淡く発光しているシャルルが俺の近くに浮かんでいた。
「シャルル、もう少し早く声をかけてくれると助かる」
気を取り直して頭を振りながら起き上がり周りを見る。
良かった、記憶の中にある間取りと同じだ。
俺は一度深呼吸してから探索スキルを周辺に展開した。
……あれ? これって……。
『主様、気づきましたか? この魔力の大きさは異質です。上位悪魔級……いや、魔王級の強大さを感じます』
「シャルル、君は探索スキルが使えるのか?」
『当然でしょう、まあ、私のはスキルではなく魔法ですが……超高等のインテリジェンスウエポンなのですからね。で、その魔王級は戦闘中ですね』
そうなのだ。
こんな魔王級が序盤に出てきた記憶は無いしそれに匹敵する能力をもつ者がもう一人いるなんてもっと有り得ない。
俺達が過去に来た事はまだ漏れてはいないはずだが油断はできないな。
『主様、戦闘はこの先の大ホールで起こっている様です。魔王級の敵は味方とは限りませんので油断せず近づきましょう』
「わかったよ、シャルル」
俺はシャルルを構え直し奥の大ホールに続く廊下を走り始めた。
ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)