魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「本当に、どうもすいませんでしたぁ――っ!!」
俺は目下、魔王の娘ヒルベルダ様に土下座謝罪の真っ最中である。
魔王軍ギルド入りを目指す俺ではあるが、その組織の長であるマルファスの娘である彼女を蹴り飛ばしたり麻痺させたり……まあ、麻痺させたのは俺じゃないんだけど大変な事をしでかしたもんである。
そしてなぜか麻痺をさせた張本人はリリアと共にヒルベルダ様の隣で俺を糾弾している。
「本当にイナバさんは最低だにゃ―」
「ほんなこつイナバ様は淑女ん扱いが下手くそやけんね」
……理不尽だ。
「いえいえ、私も取り乱してしまったよ。頭をあげてもらえるかい」
それに比べ第一印象こそ最悪であったがヒルベルダ様の語り口はフランクではあるものの、流石現魔王様の娘、考え方やその振る舞いはしっかりとしていた。
そしてなんとこのヒルベルダ嬢、何故か正面から乗り込んだ俺達よりもロマリアスの元に速く辿り着いた魔王軍援軍の先遣隊だったのである、……なんで救援を求めた俺達よりも速いんだよ。
『なんにしてもこの方が間に合って良かったですね、主様。恐らくこの方……ヒルベルダ様はロマリアスには及ばぬものの相当な強者であると思います。……まあ、そんなこの方を主様は戦闘不能に陥れたのですが……』
ぐふっ! 痛い所をつかれた。
目的地到達で先を越され、更に最大の味方を気絶させ麻痺させて、挙句にはアルシーとリリアが取り巻きを倒してくれたお陰でロマリアスは退却した訳で俺はその間、ロマリアスに一方的にボコられてただけなんだよね。俺ってば唯唯タフな雑魚ゴブリンですわ。
「……という訳だね」
おや?
俺が良心の呵責に苛まれている間にヒルベルダ様の話を聞きそびれたようだ。
「聞いてたかな? イナバ殿」
まずっ! ……仕方ない、ここは正直に……
「……すいません、ちょっと考え事を……」
ヒルベルダ様はにっこりと笑顔を浮かべ再度同じ話をしてくれた。
でもなぜか背筋に冷たいものを感じたのは何故だろう。
「うん、つまりね、魔王軍本隊が到着したからイナバ殿と御一行様方を駐屯地までご案内しようと思うんだが」
なるほど、魔王様が着いたのか……、そうか、そうか。
それで俺達に魔王様に会えと……、んっ?
……なん……だと……
✩★✩★✩★
全く、この街に来てからというもの、ロクな事がないのは気のせいか。
ヒルベルダ様の話を聞いた後、立ったまま軽く気を失っている間に魔王様のいる駐屯地に連れてこられてしまった。
「イナバ殿御一行をご案内いたしました。とうさ……魔王様へ目通りお願いしたい!」
一番大きなテント前に立つ警備兵にヒルベルダ様が俺達の到着を告げる。
今一瞬、「父様」と言いそうになったのはスルーしておこう。
ゴブリンが魔王様に何の用だと言わんばかりの警備兵の視線が突き刺さる。
「……ウェルニー解放の功績により魔王様に謁見が許された……目通りを!」
「なっ! このゴブリンが!? ……失礼した、しばし待たれよ」
ヒルベルタ様が再度申し立てると警備兵はやや浮き足立ったがテントの中に入っていった。
その様子を見て彼女が俺に耳打ちする。
「すまない……、伝令は到着しているはずだがイナバ殿の風貌……ゴブリンという事までは伝わっていなかったようだ。魔王様は種族の優劣なく優秀な者は引き立てるお人なんだが……」
そりゃそうだ。
でなければこの俺がこんな所に呼ばれる事なんてありえないだろう。
「イナバ様! 御一行様! お入りください」
そんな会話をしている間にテントから出てきた警備兵に呼び出しをされる。
いよいよ魔王様とのご対面だが。
魔王マルファス様は魔界統一に片手を掛けていたのだが無念にも実現前にその命を散らした。
俺が軍に入ったのとほぼ同時の為、ゲームの頃も魔王と会う事はなかった。
俺は混乱した魔王軍の中で上手く立ち回り、汚い手も少々使ったが何とか空席の魔王の座を奪取できたのだった。
そう、魔王さえ生きてくれてたら俺の苦労はなかったし前世の虐殺もなかった。
一言位、文句言ってやろうか……って思ったがやめとこ、まだこの人、誰にも負けてないしな。
魔王様のいるテントは屋根がとても高くチビの俺には見上げる様な有様だ。
謁見中の武器携帯は魔王様と幹部連中しか許されておらず入口の警備兵にシャルルを預ける。
『主、私がいなくても泣いてはいけませんよ』
「泣くか」
入口の幕を上げてヒルベルダ様を先頭に俺とアルシー、そしてリリアが一緒に中に入った。
いきなりよくも娘に狼藉を働いてくれたな! とか凄まれなきゃいいけどな。
そんな目にあったら泣いてしまう。
「待っておったぞ、イナバ殿」
テント内は壁に取り付けられたランタンしかないが妙に明るい。
何かの生活魔法であろうか。
中央に会議用の円卓、背もたれのない椅子が幾つか置いてある。
奥の椅子に豪華な鎧姿の偉丈夫が腕を組んで座っていた。
目の覚める様な蒼い瞳と髪をもち顔立ちは非常に整っており美しい。
左右の側頭部には黒くて太い角が反り返っている。
ヒルベルダ様は魔王様の座る椅子の後方で腕を後ろに立っていた。
「余がエルロア島を統治するマルファスだ」
魔王が先に名乗ってしまった。
俺は何となくの知識で慌てて片膝になり顔を伏せた。
「陛下、挨拶が遅くなり申し訳ございません。この度は謁見の機会を賜り恐悦至極に存じます。イナバと申します」
適当な知識だけど、まあ大体こんな感じかな。
「うむ、ヒルベルダより聞いている。よくウェルニーを陥落より救ってくれた」
ヒルベルダ様……
彼女との誤解は解けた……けど、どうなる事かとドキドキしてしまう。
魔王マルファスは机に肘を付き口元に手を置きこちらを見ている。
気のせいか少し口角が上がっている、笑っているのか。
「娘との一件も聞いている、戦闘中の不運なすれ違いであると認識している」
お?
おお――っ!
さすが魔王様、そうだよね―、
元々彼女から突っ込んできた訳だし俺、悪くないよね―!
ヒルベルダ様の顔は酷くひきつっているけど俺は悪くないよね―!
そんな風に言い訳がましく心の中で考えている間にも魔王様の話は続いている。
「此度の戦闘、鎮圧の儀、大儀であった。ロマリアスのウェルニー侵攻は直前には我の所にも情報が届いていた。援軍が間に合わず陥落寸前にまで追い込まれてしまったのは不徳の致す所である。礼をいうぞ、イナバよ」
マジか、なんで事前に情報を掴んでおいて間に合わないんだよ。
お陰でそこかしこでボコられて自分が弱弱ゴブリンだという事を再認識してしまったぞ、全く。
ヒルベルダ様が俺を余計な事は言うなよみたいな顔をして見てるのは気のせいか。
……まあ、ヒルベルダ様だけでも間に合ったのは良かったけどな。
フッと気づくと魔王様がいつの間にか立ち上がってなんと俺の肩に手を置いた。
下っ端のゴブリンに手を触れるとは思っていなかったので正直驚いている。
だが、もっと驚いたのは次の瞬間だった。
(誠広、久しいな。桃里姉さんは元気か?)
――その時、俺の頭の中に聞き覚えのある声が響いた。
「……っ!?」
(おっと、声を出すなよ、誠広、俺は今、周波数を限定した念話で話している)
周波数って……無線かよ。
それにしても友達も身内もいない俺を名前呼びする人物は……。
(そうだ、誠広。お前の目の前にいる魔王様がお前の叔父さんだよー)
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