魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
魔王となった叔父さんとの会談を終えた俺はテントの外で待機していてくれていたヒルベルダ様に連れられて仲間の待つ来客用テントに到着した。
もちろんウェルニーにも宿屋はあるのだが今はどこも建物が壊れていたり従業員が怪我で動けなかったりで休業状態だ。
入口の幕を持ち上げて中を見ると……、仲間が行き倒れていた。
「イ、イナバ様……遅いばい。お腹……空いた……けん」
「話……長いにゃ……、絶滅するにゃ……」
「あ、あー、すまなかった、なにか食いに行くか」
アルシーとリリアは青い顔をして倒れていた。
そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、この短時間で頬が痩けた気さえする。
「ヒルベルダ様、申し訳ないですがこの有様なので今からでも食事のできる店を教えてもらえると助かるんだが……」
「ああ、それなら……」
俺はアルシーを肩に担ぎリリアを小脇に抱えこの時間――もうすぐ夜明け――でも開いているヒルベルダ様御用達の店に向かった。
アルシーとリリアは意識こそ保っているが歩く元気もないみたいだ。
だが二人は何かブツブツと言っていて若干怖い。
それにしても激戦の後ではあるが何でこんな極限状態になってるんだ。
そもそもリリアはともかくアルシーは空気中の魔力を補充出来るはずなのになんで回復しないんだろう、……ああ、そうか、素っ裸にならないと吸収しないんだっけ、この子、……面倒だな。
俺達はあちらの階段を上りこちらのスロープを下り大通から脇道に入り薄暗い路地に到着した。
そして俺は目の前に広がる驚くべき光景に戸惑っていた。
水源である池を中心にして土地の起伏を利用した築山で囲み松や桜が植え込まれた風景は正にあれだ……日本庭園。
だけど俺自身が実際に日本庭園に行った回数なんて、たかが知れているから何て言うんだろう。
日本贔屓の外国人に「貴方の考える日本庭園とは?」と聞いたらこんな風に答えるなって感じ。
物凄くコンセプトがブレているんだけど、でもそれでもわかる感じ。
……うん、自分で言っていてさっぱり伝わる気がしない。
「さあさあ、こちらに、イナバ殿」
なんちゃって日本庭園に呆然としていたらヒルベルタ様に建物へ案内される。
見えてきた建物は……これまたコテコテの日本の建築物だ。
学校の教科書で見た記憶がある、確か数寄屋造りとかいうやつだ。
「ヒルベルタ様、ここは……」
「ふふふ、やはり気になるよね。ここは数代前の魔王様がこの世界に齎した隠れ食事処なのだよ。伝承では二ッポンという国から召喚された魔王様がこの世界中から掻き集めた食材でニホンショクというのを再現したそうだ」
な、なんだって、日本食だと!
転移直後にアルシーが用意してくれた食料は既に無くなってしまった。
この世界の食事に慣れようと密かに頑張っていたのだが……こんな所に解決策があったとは。
「父……魔王マルファス様から聞いているよ。イナバ殿も魔王様と同郷だとか。肉や魚、野菜等は近いものしか無いのだけどコメ……という穀物はほぼ同じ物がこの世界にも存在している」
「なん……だと……。こ、コメがあるのか?」
ヒルベルタ様はにっこりとして頷く。
どうやら既に彼女には俺達の素性は明かされているらしく魔王と同郷という事にも違和感はそこまで持たれてないようだ。万一の場合、魔王本人に願い事をするより間に誰か入って貰った方が良いだろうし。
それよりもコメか! コメがあるのか!
俺はヒルベルタ様の後を追い建物の方へ娘二人を担いで歩いていく。
建物の入口で店主が出迎えてくれ奥の部屋に通してくれた。
ちなみに知識がないので正確な名称は分からないが店主の姿はまんま料亭の料理人スタイルだ。
俺達が通された部屋は日本で言う所の政治家の使う様な部屋、所謂、大きな和室であった。
大きく開かれた窓からは日本庭園を眺める事ができ床の間に掛け軸がある。
ちなみになんて書いてあるか分からないのはここでも日本でも同じだ。
質素ではあるが上品さを感じられる大きな木製のテーブルに座布団を敷いてそれぞれ座る。
向かいにアルシーとリリア、俺とヒルベルダ様が隣同士だ。
便宜上、この店に顔が通るヒルベルダ様が一番下座に座ってくれている。
何度も言うが出会いは残念だったが普段は気の付く素敵な女性だ。
魔王の娘という事もあり戦闘力は高いし冷静であれば器量も良い様に見える。
何よりギルドであった時は鎧で分からなかったがスタイルがよろしい。
こんな料亭に来たので当然だが今の彼女は完全武装の鎧ではなく黒の膝丈ワンピース姿だ。
全体的にふんわりしているが出る所は出て引っ込む所は絞られている。
お尻も柔い。
他の2人はと言うとアルシーは元々のダボついた薄青色のワンピースだがリリアは流石に黒装束のままとはいかず着替えている。
胸元に淡い黄緑色のリボンを設えたブラウスに黒の膝丈スカートに黒タイツを身につけている。
3人ともとても可愛く似合っていてゴブリンの俺がこの場に居ていいのか不安になる位だ。
俺がそんな事を考えていると事前にヒルベルダ様が手配してくれていたのか襖の外から声が掛かった。
襖が開くとやはり日本の仲居さんの様な格好をした女性数人が木製配膳車を運んできていた。
部屋に入ると手馴れた感じで次々とテーブルに料理が並べていく。
どの皿も日本で見た事のある馴染みの料理に酷似しており漂う香りまで記憶と同じだった。
すき焼き、肉じゃが、刺身にステーキ、サラダはご丁寧に豆腐とシーザーが用意されていた。
本来、この様な料亭で頂く献立ではないが聞けば魔王……叔父さんからこのメニューの方が俺は喜ぶだろうというアドバイスがあり店主に相談済みであったそうだ。
素晴らしい気配りだ!
後は当然の様に白いご飯に味噌汁、漬物まであるのには感動した。
……まあ、先程ヒルベルダ様はコメ以外は近いものと言っていたので細かい味は考えない様にしようと思っていた。
ところがこれが旨かった。
俺もそこまで高級料亭に行った事は無いのだが出てきたのは少なくとも前の世界では大衆料理に分類されるものが多く俺でも旨いと感じる事はできた。
アルシーとリリアの2人は食事制限後の様な勢いで次々と平らげていく。
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