魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
俺はアルシーとリリアの物凄い食いっぷりを眺めていた。
ああ、それは高い食材を贅沢に使った料理なので味わって……ああ。
「お! これはうまかよ! こっちもよいっちゃ!」
「にゃっ! それはあたしが先に目をつけてたにゃ! あんたは漬物でも食ってにゃ!」
「なんばしょっとぉー! ぽりっ あ、これもうまかね、全部もらうばい!」
「それはないにゃー! あたしにもよこすにゃ! ぽりっ」
これはひどい。
ああ、アルシー、ポロポロこぼしてるよ。
リリアもそんなに掻き込んだらお腹痛くするから……。
そんな光景を見つつ気を取り直し俺も料理に舌鼓を打つ。
「……、これ美味しいですね! 故郷の味にそっくりだ」
俺が料理に対する惜しみない賞賛を送るとヒルベルダ様はニッコリして言った。
「それは良かった。何しろ料理に対する魔王様の圧が凄くて……。食材を揃えるのも本当に苦労したのだよ」
「へえ、例えばどんな材料なんですか?」
俺はこの時の何気ない質問をしばらく後悔する事となる。
「うむ、よく聞いてくれた。この鍋に入っている肉がマッドタートルの首の肉だ。白とオレンジの野菜は名無しの森に生息する食虫植物の根だね、あ、人間は捕食しないので安心する様に。それとその器にといてあるのがジャイアントオオコウモリの卵なのだが、それで……」
中盤からの説明は最早何を言っているのか分からなかった。
いや、理解したくなかったが正解か、何だよ正解って。
亀と植物は1,000歩譲っても良いだろう、この際だ。
だが、何だよ、ジャイアントオオコウモリって。
とにかくでかいのか? 形容がダブってんぞ。
それにあいつ哺乳類じゃなかったっけか、あんな見た目でさ。
いや、地球とは違う生態系なのかもしれないし卵で産まれるのもアリなのか?
もうよく分からん、美味ければいいか。
結論、俺は深く考えない事にした。
そもそものこの世界の住人が何の違和感も持っていないんだ。
この場合の異分子は俺の方だ、郷にいれば郷に従え、だ。
いいさ、料理の研究は今後の課題だ、俺が納得できる料理法を確立して見せれば良いのだ。
俺がそんな事を考えながら料理をつついていると他の2人の早食い度合いも相まってテーブルの上には空になった皿やら鍋やらが増えていった。
「はあー、満足だ。食った食った」
「んっ? イナバ様はもう満腹になったと?」
「ああ、腹八分というにゃんしね」
恐ろしい。
うちの女性陣2人はこれでもまだ限界ではないらしい。
「イナバ殿、ちょっと話があるのだが良いだろうか?」
「ああ、はい」
若干、引いていた俺にヒルベルダ様が話しかけてくる、なんだろう?
「あなた方はこの街のギルドに種族進化をしにやってきたと聞いている。種族進化には試験があるのはご存知だろうか?」
ああ、そう言えばアルシーがちょこっとそんな話をしてくれたな。
「はい、どんな内容かは知りませんが話は聞いています」
「……種族進化の試験はあるダンジョンへのアタックとなる。ダンジョンアタックには最低5人パーティーで挑む必要があるのだがアルシーさんとリリアさんの他に当てはあるのかと思ってね」
なに! そんな話は初耳だ。
アルシーはともかくリリアだってこの街で出会ったばかりだし正確には臨時で組んだだけだ。
そうすると最高で3人足りないのか、これは困った。
「もし……、お困りなら私が試験の際に一時的に参加する事も可能なんだが……如何だろうか?」
「え!? それは本当ですか!? 可能ならば是非!」
「うん、多分、魔王様にも同じ提案が既に出ていると思うので……ギルドを含めて私が説明しておこう」
それは助かる!
ウェルニーで正面から直線的に攻めた俺達を出し抜いたヒルベルダ様の能力は語るまでもない。
高レベルなだけの歪な俺の今の能力をフォローしてもらえるかも知れない.
いや、最悪、ゴブリン隊にお願いするのも頭によぎったが先の戦いで囮同然に使った事を怒られてしまった、お土産を持って侘びに行く事を考えているが日々の訓練も大変だろうししばらく彼らには休暇を与えたい。
「なんの話をしてるのにゃー」
主食を平らげデザートの話をしていた女性陣2人が俺達の話に入ってきた。
俺は試験の事やヒルベルダ様参加の件を説明した。
「それにゃらもちろん私も参加するにゃ! イナバさんには恩があるにゃ! それを返すまでは私は離れないにゃー!」
「え!? リリア、いいのか?」
彼女が付いてきてくれたら索敵、罠の解除、敵のかく乱等、多岐にわたり活躍してくれるだろう。
しかし、彼女は元々はウェルニーのギルド所属なのだ。
「かまわにゃい、ギルドの私達の部隊は私を残して壊滅してしまったし私もイナバさんに会わなかったら死んでたかもしれないにゃ。ダメだと言われてもこっそり付いていくにゃ」
「ダメだなんて言わんよ。だが、一緒に行動してくれるなら恩なんて感じなくていい。正直、最初は自分の手柄にする気マンマンで街を解放しようとしてたんだしリリアの協力がなければそれも叶わなかった。一緒に行動していくのであればお互いをフォロー出来る関係を望みたい」
「承知しましたのにゃん。でもこれでも全部で4人。あと一人たりにゃい」
そうだな。
遊撃担当の俺、魔法担当アルシー、俺達2人は回復もできる。
まあ、俺の回復は出力がバグってるが……。
哨戒担当リリア、これは専門家なのでむしろ俺達は手を出すべきじゃない。
アタッカーヒルベルダ様、攻撃も防御も折り紙付き、しかも聞けば精霊魔法も使えるとか……。
アルシーもそんな香りがするが何でもありだな、この人達。
役割を細かく区切っていくと盾役、タンクがいてくれたら助かるな。
ヘイトを調整して上手くダメージコントロールしてくれる。
そんな都合のいい人はいるだろうか?
俺はダメ元でヒルベルダ様にその希望を話した。
「なるほど、それなら心当たりがある。この件は任せて頂けるか?」
多少、お世話になりっぱなしな気もするが心当たりもない俺達に断る選択肢はなかった。
タンク役の件は彼女にお願いし俺達は宿泊用のテントへ帰る事にした。
あ、もちろん女性陣2人は帰る前にデザートもたらふく召し上がった事を付け加えておく。
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