魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
リリアも既に話は聞いているのか若干強ばった顔で俺達についてきた。
「それで……お話というのは?」
会議室に到着して俺はヒルベルタ様に促す。
「実は街の被害状況を調べている最中に気になる事があってね……この街の住人が地下水路に避難していた事は既にご存知だと思うのだが、その避難に使っていた場所の奥に更に下層に繋がる階段が発見されたんだが……」
「階段?」
「以前まではそんなものは絶対に無かったはずにゃ。この街のギルドに所属する私が言うのだから間違いないにゃ、保証するにゃ」
俺が大層、訝しげにしていただからだろうか、リリアが必死に俺に訴えてきた。
「いや、すまない、二人を疑ったわけじゃない。俺が知る限りでも確かにこの街には下水以上の下層は無かったはずだと思ってな、でもなんで分かったんだ?」
「壁が崩れたにゃ、……イナバさんもこの街に詳しいのにゃ?」
なるほどね、そりゃわかるか。
リリアが俺の言葉に素直な疑問を投げかけてきた。
「……んっ? ああ、少しな」
知っているといってもそれはゲームの知識であってこの世界の状況とはかなりかけ離れている。
それにゲームがどうの転移がこうのと説明してもこの段階ではアルシーしか理解できまい。
理解できない理由や知識は混乱を招くだけだ。
「関係各所に手を回し早急に調べたのだが、仰る通りそんな空間や階段の存在を示す資料は全く見つからなかったのさ。そうなると街が作られた後に作られたと考えるのが自然なのだけどね……」
「それで今回の襲撃反乱騒ぎ……か」
「完全に繋げるのはまだ時期尚早かと思うのだけど何も手を打たずというのもなかなか……ね」
「なるほど……そうなるとその調査に向かうので手を貸せと……」
「話が早くて助かるよ。既に私とリリアさんが向かう事はきまっている。だけど、アルシーさんがあの様子なのでイナバ殿はどうするかなと……。次から次へと厄介事に巻き込んでしまって済まないと思っているよ。もちろん3人で向かう訳ではないよ。騎士団から後2人助っ人がくる手はずになっているよ」
おお、魔王軍騎士団から2人も!
幾分、過剰戦力とも言えなくもないが何が潜んでるか分からないのだ。
それ位の用心深さは必要か。
「ここにその2人も呼んでいるので間もなく合流すると思うのだけど……」
ヒルベルタ様がそう言うとちょうど図ったかの様に扉をノックする音が聞こえた。
「あ、ちょうど来た様だ。入れ!」
扉を開け入ってきた人物を見て俺は大層驚いた。
入ってきたのは二人共竜人族で大柄な男性の戦士と細身の女性神官だった。
その内の戦士は俺がかつて辛苦を共にしたガンダルフに酷似していたのだ。
俺は思わず涙が溢れそうになるのを堪えて挨拶をしようと二人に近づいた。
「イナバ殿、こちらが今回調査に加わる重装歩兵団のギルベルトと妖魔魔術師兵団のマリンダだ」
なんだって!?
……そうかぁ
ガンダルフによく似てたからもしかしたらと思ったからワンチャン……なんて思ったけどな。
んっ?
先程の女性神官、妖魔魔術師兵団と言ったか!?
「イナバ殿? どうかしたかね?」
ヒルベルタ様に問いかけられたがそれどころではない俺は徐ろにマリンダに駆け寄り肩を掴んで問いかけた。
「君っ! 今、妖魔兵団と言ったか!?」
「は、はいっ! 言いました!」
「イ、イナバ殿っ!?」
ヒルベルタ様は俺の行動に驚きマリンダは戸惑いながらも問いに答えてくれた。
「グリッシュ! グリッシュと言う名前の人物を知らないか!?」
「グリッシュ? その様な名の者は我が兵団には居ないはず、心当たりもありませんが……それが何か?」
返ってきた返答に落胆した俺だがなんとか気を取り直して彼女に謝罪する。
「……いきなり取り乱して申し訳ない、古い友人なんだが……消息が掴めなくてね。妖魔魔術師兵団に所属していると聞いていたんだが……」
「なるほど、それは心配ですね。情報を差し上げられず申し訳ありません。その方と再会できる事を我が主神に祈っております」
マリンダの大人な対応に俺は感謝する。
周りのみんなも驚きはしているものの俺の言を信じてくれたようだ。
冷静になれば当たり前の話だ。
ここは叔父さん……つまり前魔王の収める世界。
グリッシュがまだ兵団に所属すらしてなくても何らおかしくはない。
未来で俺の片腕として働いてくれた魔術師だといっても信用される保証はない。
妖魔魔術師兵団の人間と知り合えただけでも良しとしよう。
「我 ギルベルト 竜人族 重装歩兵団 第一部隊副隊長」
あー、懐かしい。
話し方までガンダルフに似てるな。
「私は妖魔魔術師兵団の第一部隊副隊長マリンダと申します」
二人共第一部隊副隊長なのか、きっと優秀なのだろうな。
「こちらが今回調査に同行するイナバ殿だ。マルファス様の遠縁に当たる方なので失礼の無い様に」
ヒルベルタ様が二人に俺の紹介をしてくれた。
事前に情報は伝えてあるだろうがなにせ俺は雑魚モンスターの定番ゴブリンだ。
実際に会ってみるまで魔王の遠縁などと言っても信じられないだろう。
まあ、会った所で信じる要素はないとは思うが……。
さすがヒルベルタ様の選んだ二人だ。
心の中ではどう思っているか分からないが表情には一切出さずに俺にお辞儀をしてくれたので俺も同じ様に挨拶をした。
ちなみにリリアは二人と挨拶だけではなく世間話を始めた。
どうやら元からこの二人とは面識があるらしかった。
二人との挨拶と顔みせが終わり調査は明朝に決まった。
既に本日は日が傾き始めていたからだ。
今日もよく働いたし明日からも大変な一日が続きそうだ。
リリアは話が弾んだらしく二人とまだ話したそうだし俺はパーティーとしての親善会を兼ねて皆を食事に誘った。
昨日の様な日本料理屋ではなくその日は近くの営業再開したばかり酒場で囁かな酒宴を開き夜半過ぎまでしこたま飲んだのだった。
お酒はほどほどに、ほどほどにね。
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