※この作品はR-18です。

魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版   作:ヨシMAX

4 / 114
魔王軍立志伝ワールドにようこそ(`・ω・´)


第3話 ゴブの異世界転移

 「うわぁ――!」

 

 「ぎゃぴぃ!」「ぐぎゃぁ!」

 

 

 俺は今、自分を襲ってきたゴブリンと共に全力で草原を逃げている。

 何からかと尋ねられれば……、正体不明の火の玉からだ。

 その火の玉は俺と周りのゴブリンを完全にロックオンして上空からグングンと落下してくる。

 

 良くこんな場合は横に逃げればいいとか立ち止まれば良いんじゃねとかよく言われる。

 だが実際に試してみるとこの火の玉は不自然な程に軌道を変えて俺達を狙ってくるのだ。

 自由落下じゃないのかよ!

 止まる事も逸れる事も許されず全力疾走している俺だが何故かそこまで疲労感はない。

 とはいえこれではジリ貧でいつかは着弾の爆発に巻き込まれてしまう。

 

 どうしてこんな事になったのか……、俺は数十分前の出来事を思い出すのだった。

 

 

 ✩★✩★✩★

 

 

 暗闇の中をひたすら落ち続ける感覚。

 硬直した首を何とか動かし周りを見ても真っ暗で上下左右も自分の状態もよく分からないし実は落下ではなく浮いているのかもしれない。

 

 

 視覚、聴覚、触覚が曖昧になっていく不思議な感覚が続く中、俺は違和感を感じ続けていた。

 身体の外側が剥がされスキャンされ、どんどん違うものに作り替えられていく様な……。

 言葉にすると恐ろしい事この上ないが不思議と焦りも痛みもなかった。

 

 

 やがて何も見えず聞こえなかった世界に柔らかな光が差し込んでくる感覚が分かった。

 そして、ずっと落下していた様な感覚も収まり、俺の身体は重力に逆らう様に減速しどこかの地面にふわりと着地した。

 

 

 ここ最近の荒んだ生活でそれ所では無かったが爽やかな風と日差しが目を閉じても実感できた。

 落下している時は冷えて凝り固まっていた身体にも少しずつ力が戻ってくる。

 ゆっくりと瞼を開くと木の葉の間から暖かな陽の光が射し込み冷え切っていた身体に温もりも戻っている事に気づいた。

 

 

 横たわったまま瞳の動きだけで辺りを見回す。

 どこかは分からないが森の中だ。

 背中に感じるのは背の高めな芝の感触だろうか。

 一体何が起きてここまで飛ばされたのか、ここがどこなのか、今の俺には想像もつかない。

 

 

 辺りは木が鬱蒼と生い茂っているが暗い感じではなく、休みの日にキャンプでもしたくなる様な気持ちの良い場所だ。

 恐らくゲームの初期配置近くだと思うが魔王として魔王軍の再建を目指すイベントなら魔王城の近くに送って欲しかった。

 

 

 身体を撫で回し異常がないかを確認する。

 どうやら置かれた状況は問題ばかりだが身体は無傷の様でホッとする。

 これから俺は魔王として部下達を率いていく大切な身の上なのだ。

 服装も紺のTシャツに下は黒の短パンで部屋着のままだった。

 Tシャツから出る節くれだった右腕は血色のいい緑色で健康そのもの……。

 

 

 んっ?

 節くれだった……みどり……、だと。

 

 

 一瞬、思考停止しかけた俺は、やおら立ち上り、周りを見回して近くにあった川に走った。

 魔王であれば空中を浮遊する事が出来るはずだがなにやらドタドタと走りにくい。

 何とかたどり着くと川の水面に自分の顔面を写す。

 

 

 ……紛う事なきゴブリンであった。鷲鼻に長い耳、裂けた口と、その中に存在する小さな牙。

 そして全身緑色であれば、これは間違いなくゴブリンである。

 俺がゲーム開始当初、苦労を共にしたゴブリンそのものだった。

 

 

 えーと、なんだ、この状況は?

 部屋中が光に包まれて白一色になって……それから……。

 全ては単なる気のせいで普通にゲームに正常にログインできたのだろうか。

 セーブが消えた訳でもないのにゴブリンに戻るなんてなんちゅー嫌な不具合だ。

 

 

 ふっと、顔を上げると眼の前に子犬位のドラゴンが封筒を咥えて蹲っていた。

 そして俺に対して受け取れという様な仕草で封筒を突き出してくる。

 俺は封筒を受け取ると封を開けて中のカードを開いた。

 

 

 

 “お帰りなさいませ! 魔王様!

 

 魔王軍は勇者一行の襲撃にて壊滅の憂き目となりましたので魔王様には時間を遡りゴブリンに戻って頂きました。

 勇者一行から身を隠し更なる魔王軍強化の時間を稼ぐ為の私の最後の献策でございます。

 また、通知を通してお伝えしましたが魔王様は幾つかのスキルを取得済、及び、後ほどナビゲーターが合流する予定です。

 そちらを活用し魔王軍再建を頑張ってください。ご助力できない事だけが心残りでございます。

 

 ちなみにこの書状は私が魔王様と共に過去に送った唯一のものです。

 ご一読頂いた後にこの世から一欠片も残さず消滅する仕掛けです。

 魔王様の行方を明らかにしない処置ですのでどうかご理解ください。

 魔王様が迎えに来てくださる事をこの時代の私の側でお待ちしております。

 

 

 

                            魔王軍総司令官 グリッシュ“

 

 

 なん……だと?

 魔王からやり直すんじゃないのか?

 ゴブリンまで戻すなんてあんまりじゃないか!?

 こんなイベントやってられるか!

 

 

 勢いで手紙を放るとそのまま消えてなくなったがそんな事は最早どうでもいい。

 

 

 ログオフだ! ログオフ!

 俺はゲームを終了させる為にメインパネルを出そうと画面をさがす。

 だが、全くそれらしきものが見つからないのはどういう事だ?

 

 

 ま、まさか……、ゲームではなくて本当に異世界に飛ばされたというのか?

 クソがっ!? 人間がゴブリンになってたまるか!!

 

 

 「このドラゴンだってVRのキャラだよな、それならこうすればステータスが……」

 

 

 俺はゲーム上でNPCのステータスを調べる時の様にキャラに手を翳そうとした。

 

 

 「痛っ!」

 

 

 突然、子ドラゴンが威嚇をして俺の手を引っ掻いた。

 緑色の皮膚に傷が付き青い液体が流れていく。

 何より信じられないのが、傷が痛いのだ。

 ゲームの頃はコンプライアンス的な事情により負傷しても血は流れないし痛みも、もちろん無かった。

 

 

 ……えっ?

 俺のツヤのない萎れた緑色の頬に嫌な汗が流れて落ちた。

 

 はっ、はっ、はっ……。

 過呼吸気味になり息が苦しくなっていく。

 俺は……本当にゴブリンになってしまったのか?

 子ドラゴンはそんな俺の気も知らずにバサバサと翼をはためかせて飛んでいった。

 

 

 ああ、……これからどうすればいいんだ。

 こんなザコモンスターにされて衣食住の準備もなく、ここがどこかも分からない。

 この世界が異世界なら俺にとってはある意味、現実世界となっているわけだ。

 死んでしまうよ、無理だよぉ。

 




ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。