魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「これが例の階段か……」
翌朝、俺達は例の階段の前にいた。
街の住人が避難していた部屋は縦横数十メートル、奥行は数百メートルもある空間だった。
壁も天井も頑丈に固められてしっかりと補強もされており空気の流れも微かにあるため閉鎖空間特有の息苦しさは然程感じられない。
しかも壁全体が仄かに光を放っており地下ではあるが視界は良好だ。
これなら確かに相当数の住人を収容してかなりの時間を持ち堪えられるだろう。
……とは言え悪い点が全く無い訳ではない。
この空間には窓がない、時間も分からなければ太陽の光も届かない。
設備が整っており戦闘継続能力があったとしても立て篭る側の身体と精神が持たないだろう。
実際に立て篭った住人達からは疲労困憊の様子が見て取れた。
今回の探索パーティーは俺とリリアとヒルベルダ様、そして助っ人のギルベルトとマリンダ。
メンツとしては申し分ない頼もしい面々だ。
ただ魔法系の火力が俺しかいないのが不安ではある。
出力が馬鹿な俺が一発ぶっぱなしてしまったら如何に頑丈でも地下迷宮が崩壊しかねない、気を付けよう。
「では諸君、ここは所謂未踏破エリアとなる。この先、気を引き締めてお願いしたい。マリンダ、灯りを」
「はい、わかりました」
ヒルベルダ様がマリンダに魔法の光源を出すよう依頼する。
マリンダが何やら呪文を唱え杖を軽く振ると明るい光源が出現し空中にフワフワと浮かび始める。
果てしなく続く階段が光源で照らし出されたのでリリア、ヒルベルダ様、マリンダ、俺、ギルベルトの順で足元を確認しながら用心しながら降りていく。
どれだけ階段を下っただろうか。
なにか罠でもあるかと思ったが何事もなく長かった階段に終わりが見えた。
階段を降りきると今度は先が見えない程にまっすぐに通路が伸びていた。
通路の幅は人が3~4人並んで歩ける位に広く水の流れる音が聞こえる。
「両脇に水路あるにゃん、暗いし流れが結構速いから落ない様に気をつけるみゃ」
流石、猫人族の能力か、水がどこで流れているのかをリリアは言い当てた。
そして注意喚起を行うがそこまでまぬけな奴はいないだろ。
「ははっ、確かに暗いとはいえそうそう落ち……「きゃっ!!」……えっ!?」
「大変っ! ヒルベルダ様が落ちたわ!」
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁ―――っ!!」
まじか、そんな奴はいたわ。
流されていったわ、やばっ、見えなくなって声もきこえなくなったわ。
「大変! 早く追わなきゃ!」
マリンダが光源で水路を照らしながら流されたヒルベルダ様が流された方へ、通路の奥へと走っていく。
「あっ! 待つにゃ! 何か変にゃ「きゃぁーっ!」……あぁ」
「二人共 流された」
「あああ、だから言ったにょにぃ……何か気配がおかしいから気をつけろといったにょにぃ……」
「ん? リリア、それはどういうぅぅぅぅ――っ!」
俺がリリアに問いかけようと思った瞬間何かに足を引っ張られ凄い勢いで水路に引きずり込まれる。
「むっ!」
「あっ! イナバさぁぁ――ん!」
ぐぼぼぼぼぼあぁぁぁぁぁ……
暗い水路の中を強烈な力で引っ張られる俺。
やばい、やばい、服が脱げる、ぬげちゃうぅぅぅ……。
ざぱぁぁぁぁぁああん!
いい加減、気が遠くなりそうな頃に今度は高々と引っ張り上げられた。
足から持ち上げられている為、頭が下になり少々頭痛がする。
何とか目を開けて周りを見ると僅かに岩が光を放ち視界が確保する事ができた。
そして何とか足元に視界を移すと……俺の足にタコ足が絡まっているではないか!
タコ足は水路のどん詰まりにある小さな地底湖から出ており良く目を凝らすと他にも数本のタコ足のシルエットが確認できた。良かった、着衣は脱げていなかった。
「あっ! イナバ殿、無事でなによりぃぃぃぃいいいいいいいえぁぁぁあ!」
「ああ、ヒルベルダ様! いやぁぁぁぁああっ!」
俺が逆さ吊りのまま情報収集していると周りで聞き覚えのある声がした。
些か騒々しい。
どうやら先に水路に落ちたと思われた二人もこのタコ足に捕まったようだ。
そして現在進行形でグルグルと振り回されている彼女達は悲鳴を上げる事しかできない。
冷静沈着でクールな印象のあるヒルベルダ様も意外にエグい悲鳴を上げるもんだ。
なんか萌えるシュチュエーションであるがヤバイ!
このままでは俺達はタコ足に弄ばれて壁に叩きつけられ湖に落ちる可能性がある。
この湖にタコしかいないとも言い切れない。
みれば2人は武器を手放してしまったのか丸腰だ。
水中で襲われればひとたまりもない。
何とか本体をおびき出して叩かないと。
その時、水の中に二つの怪しい光が見えた!
あれって目か!?
タコの目って光るっけ?
いや、そもそもここは異世界、俺の常識は通じないだろう。
急な話なので周りが崩壊しない程度に適度に魔力を抑えつつその二つの光に目掛けて魔法を放つ!
「どうか、水路が崩れませんようにぃ!」
俺は命中するとか倒すとよりも先に出力がバグった魔法のせいで水路が崩壊しない様に願った。
幸いな事に光の見えた位置にほぼ正確に高々と水しぶきを上げて着弾したが如何せん水中にいる魔物には効き目が薄い様だ。
俺の魔法は大出力だが収束が雑なのか水に着弾すると四方に霧散してしまった。
「マジかよ……、こんなのどうすれば……『主様! 危ない!!』……えっ!? ぐふっ!!」
突然、シャルルの逼迫した声が聞こえたかと思ったらとんでもない衝撃を身体に受け全身が軋む。
どうやら先ほどの予想通りタコ足に水路の壁に叩きつけられたらしい。
ちょっと生きるの難しすぎじゃないかね、この世界さぁ……。
スキルのお陰で怪我や体力、魔力の消耗が瞬間で治るとしても、その瞬間は痛いし苦しい様だ。
俺の意識は混沌とした暗闇に落ちていった。
ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)