魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
油断してしまった。
まさか地下水路にタコ型モンスターが巣食っているとは思わなかったよ。
不覚にも私はそのタコの足に絡み取られ水路に引きずり込まれて現在は無様に空中に釣り上げられて振り回されている。
私のすぐ後にもマリンダとイナバ殿が水路を引きづられて来たのは確認できた。
3人とも下半身をタコ足に絡め取られ逆さ吊りの状態でどうにも脱出出来そうにない。
「あっ! イナバ殿、無事でなによりぃぃぃぃいいいいいいいえぁぁぁあ!」
「ああ、ヒルベルダ様! いやぁぁぁぁああっ!」
私がイナバ殿に声をかけた瞬間、私とマリンダはグルグルと振り回され始めた。
「ふぉぉぉおおおおわぁああああ――っ!!」
振り回されて奇声を上げた私の乱れた視界が捉えたのはイナバ殿が魔法を放つも水中のタコには効果が薄く壁に向かって叩きつけられる姿だった。
まずい、リリアさん達ともはぐれてしまったし、武器も振り回されている間に落とした様だ。
このままでは全滅待った無し……。
……仕方がない、奥の手だ。
こんな所でこんな厄介な敵に会うとは思わなかったよ……あまり派手に暴れたくなかったし制御に不安もあるのだが少し魔王一族の本気を出す事にしようか。
ロマリアス戦にも使わなかったんだがな……。
私には特殊な能力がある。
短い時間であるが基本能力が数段階跳ね上がるのだ。
体力や魔力も大幅にアップするのでこんな芸当もできたりして。
「はぁっ!」
右手の延長線上に魔法で具現化させた1.5メートル程の光の剣を発生させ身体をくの字に曲げると絡み取られている自分の足に剣を振りかぶる。
「えいっ!」
タコ足を気合一発で切り落とすと頭を上に一回転する。
そして落下中にマリンダに絡まっているタコ足も切り落とすと彼女は力なく地底湖に落ちていくのが確認できた。
どうやらマリンダは気を失っている様だ。
まずいね……。
このままじゃまたタコ足にマリンダが捕まってしまうよ。
実際、暗い水の底を新たなタコ足がマリンダに向かって伸びているようだ。
私は爆上がりした身体能力を頼りにマリンダの方へ全力で泳いだ。
「ぶぁぶくぶくぶくぶぇぇぇい! (でぇぇえええぃっ!)」
魔力剣を横一閃でなぎ払うと水の中ではあるが衝撃波が起こり何とかタコ足を防ぐ事に成功した。
マリンダ、今行くぞ!
「ぶびょぶびぃっ! (よしっ!)」
私はマリンダを小脇に抱えると急いで水面への浮上を試みる。
「ぶっふぁっ! やった! 息ができる!」
ホッとしたのもつかの間、一瞬の隙をつかれた私は再度、タコ足に絡まれてマリンダ諸共、凄まじい勢いでつり上げられ壁に向かい投げ捨てられてしまう。
このタコ!
この場所での戦いになれてる……、って、当たり前だな。
くっ! そんな事を考えている場合ではない。
このままでは2人一緒にあの世行きだ!
やむを得ん、ここは私がクッション替わりとなってマリンダを庇い、後程、回復してもらうのがベストだろう。
私は来るべき衝撃に備えて身体を丸めてマリンダを抱えこむ。
せめて背中から突っ込みたいのだが、既に自分が上を向いてるのか下を向いてるのか分からないわからん。
全く……未踏波エリアで一番油断していたのは私だったのかもな。
バシィッ!!
壁に向かっているはずの私の身体が不意に止まる。
どうやら何者かに抱き止められた様だ。
私が恐る恐る目を開けるとそこにいたのは……。
☆★☆★☆★☆★
我はリリア様と共に3人が引きずり込まれた水路を伝い行方を追った。
するとその先には広い部屋があり奥に信じられない程の大きさの湖があった。
驚く事にその湖には巨大なタコの様な魔物がいたのだ。
頭部は湖から全てが出ている訳ではないが我の知る大きな建物よりも一回り、いや、三回り位は大きい。
頭だけではない、水面から出ている足もとてつもなく太い。
恐らく先に水路に落ちた3人はこの足に絡め取られたのかもしれない。
「イナバさん!!」
我がタコに気を取られている間にリリア様が壁に打ち付けられたイナバ殿を見つけ走っていた。
イナバ殿はかなりの強さだとヒルベルダ様から伺っていたのだが……。
あのタコは危険である。
よく見ると湖の中で何者かがタコと戦っているようだ。
ヒルベルダ様とマリンダ殿だとしたら……これは少しまずい。
我は泳げない。
「えっ? イナバ……さん?」
我がそんな事を考えているとリリア殿の戸惑った声が聞こえた。
振り返るとイナバ殿が立ち上がり湖の方に歩いていくのが見えた。
フラフラと覚束無い足取りであるが何かがおかしい。
「イナバさん?」
リリア殿が近づいて肩をつかもうとした瞬間、凄まじい怒気が辺りを包んだ。
「きゃっ!」
「むぐぅっ!」
イナバ殿の凄まじい怒気に晒され視界を奪われた我らは吹き飛ばされた。
「くっ!」
転がり続ける途中で何とか体制を整えるとタコが何かを投げつけたのが見えた。
いかん! あれは!
と、次の瞬間、イナバ殿が現れその何か――ヒルベルダ様とマリンダ殿――を抱きとめた。
なんて速さだ……、先程まですぐそこに居たのに。
イナバ殿は壁際に二人を下ろしタコに対峙する。
なんて迫力だ、あれがゴブリンか……。
先ほどの彼とは全くの別人ではないか。
あれではまるで……。
我は一介のゴブリンに凄まじき魔王の将器を感じたのだった。
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