魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
目を開けると2人の女性が巨大なタコに壁へ投げ付けられる所であった。
よくもあんなタコ如きがこの俺に敵対できるものだな。
敵意を向けるのも許さないが俺の知り合いに危害を加えるのは論外だ。
特に女性には優しくするものだと教えてやらないと……タコ風情には無理か。
俺は壁の手前に回り込むと投げ付けられた女性2人を受け止めた。
抱えられている方も抱えている方も顔を除くが見知らぬ顔だ。
知らない顔だが同じ場所で戦っていたのだし少なくとも敵ではないだろう。
抱えられている方は気を失っている様だ。
二人共、大人でもあり子供でもあるこれ位の年代の女性は特有の美しさがある。
とても良いものだ、俺のコレクションに入れたい。
壁に叩きつけられると思い込んでいる女性は目をギュッと瞑っている。
なかなか想像した衝撃がこない事を不審に思ったのか恐る恐る目を開けるとこちらを見て大層驚く。
「イ、イナバ殿、これは……一体……?」
ん? この俺を知っているのか?
まあ、最強魔王様の顔を知っていてもおかしくはないか。
「お前達、怪我はないか? あとは任せろ、ここで休んでいるが良い」
俺は壁際に2人を下ろすと巨大なタコに対峙した。
すると背中から俺を呼ぶ声がした。
『主! 主! 大丈夫ですか!?』
「んっ? お前はシャルルか、ひさしいな」
俺はこの声を知っていた。
かつて俺がゴブリンの頃に愛用していたインテリジェンスウェポンである。
なぜ俺の背中にそいつがいるのかは分からんがこれは好都合だ。
あのタコ足に俺の力を分からせてやる、分からせてやるのだ!
『えっ? 主様、あなたは……まさか記憶が戻ったのですか?』
「記憶が戻った? ……どういう事だ? まあ、良い、今の俺は何だかとても気分が良いのだ。あのタコ足を叩き潰すのを手伝う栄誉をお前に与えよう。」
俺は背中から勢いよくシャルルを抜くと全身に魔力を流した。
強すぎず弱すぎず、であるが圧倒的な魔王の魔力を、である。
俺を中心として凄まじい衝撃波が辺りに放たれ吹き飛ばす。
『ぐっ、この力はやはり……、いいでしょう、不完全とは言え貴方がこれだけの力を取り戻したのなら魔王軍を立て直す事など稚児の手を捻るよりも容易いでしょう……って、魔力ぅぅぅうう――、流し過ぎぃぃぃいいい――!! ぎにゃあああぁぁぁぁぁ……』
俺の濃厚な魔力を流し込まれたシャルルは激しく明滅しながらガタガタとその身を震わせて何やら奇声を上げている。
この程度の魔力で音をあげる等……こいつ、俺が見ない間に怠けおったな。
しばらく俺が使い続けて鍛えてやらなければならんな。
では、いくぞ!
俺は素早く半身の姿勢になり低く構えると前方に逆袈裟懸けの一撃を撃つ。
するとシャルルから半円状の魔力の刃が放たれ物凄いスピードで巨大ダコに飛んでいった。
さすがのタコも俺の斬撃の迫力に命の危険を感じ取ったのかナント自身の全身に魔力を流し始めたのだ。
くっくっくっ、面白いタコではないか。
だが……それしきの魔力で俺の必殺技「覇王の怒り(仮)」は防げるかな?
必ず殺すと書いて必殺だぞ!
巨大ダコは自信有りげに2本の足をクロスにして俺の攻撃を受け止めようとした……が、2本のタコ足は容易く切り裂かれ盛大に水飛沫を上げて水中に落ちた。
巨大ダコは信じられないとでも言いたげな表情で俺の方に目を向けた。
ちょっと狙いが甘かったか、今ので決めようと思ったんだがな。
「お前……タコの癖に表情豊かだな。残念だ、こんな会い方をしなければペットにでもしてやったのにな! ……いや、違うな、お前の未来はたこ焼きだ!」
巨大ダコはいきり立って残りの全ての足を俺に向けて襲ってきた。
俺はその攻撃の全てを冷静に見切り必要最小限の動きでかわしていく。
1、2、3、4、5……、
おい、何で2本切ったのにまだ足が8本あるんだ。
「タコの足は8本だろうがぁー!!」
俺は覇王の怒りで更に2本の足を切り落とす。
何を当たり前の事を叫んでいるんだと言われるかもしれないが7本や9本だったら腕組みできないし10本じゃあイカではないか。
もしかしてコイツの足は再生するんか?
合計4本切り落としてるのにまだ8本ある。
俺は一体何を言っているんだ?
ともかく、いまだ8本のタコ足がうねりながら俺に迫ってくる。
そんな攻撃をいくら出しても無駄なのだがな。
……と、その中の1本が明らかに俺ではなく先程保護した女性2人に物凄い速さで伸び始めた。
そうだよな、そうなるよな。
わかっていたぞ、カワイイやつめ。
「ひっ!」
「ヒルベルダ様!」
女性が短い悲鳴を上げ、後方の竜人と猫娘が彼女の名前らしきを叫んだ。
ふっ、
俺がこの場に居るのに皆は何を騒いでいるのか。
コイツの足は何度切ってもキリがない。
最強魔王の俺様の魔法をその身で味わうが良い。
「我が求めるは雷神の一撃 滾る怒りは其の命の炎を閉ざさん 希望も光も断ち切る刃に悔いる間も無く朽ち果てよ 引き裂かれる魂に一片の慈悲も無し おらぁっ! 死ねぇぇ! バンブェンティー・エルディンガラーフォール!!」
呪文の詠唱と共に左手に収束する雷撃の一撃を巨大ダコに向けて投げつけると辺りに放電させながら一直線に飛んでいった。
視界の端に逃げ惑う数人の影が見えた気がしたが細かい事は気にしない!
「行けえええーっ!!」
着弾の瞬間、地下水路の広い部屋が一面、白一色に塗りつぶされた。
辺りの景色が色を取り戻した頃には巨大ダコは黒焦げになり原型を止めなかった。
何だか周辺に食欲を唆る香りが漂う中、俺の周りに皆が戻ってきた。
「イナバ殿! 今の魔法は!? 一体何をしたんだい!?」
最初に助けた女性が埃まみれになりつつ困惑しながら矢継ぎ早に質問してきた。
まあ、俺は雷撃系の魔法が得意だ。
その威力を目の当たりにしたのだ、驚いても無理はなかろう。
「落ち着け、魔王の力に直面して驚くのも無理はないがあの程度で取り乱すんじゃない」
「何を言ってる!? あの魔法は「あの程度」で済まされるレベルじゃないぞ! レベル6の古呪だ! ゴブリンが使えるようなものでは無いだろうがぁ!」
んっ?
この娘は何を言っているんだ?
この俺がゴブリンだと……?
ここまで読んでくださり有難うございます。
宜しければ評価いただけると嬉しいです(*´▽`*)