魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
巨大ダコとの激しい戦闘が終わり辺りは静まり返っていた。
俺はシャルルから受けた注意喚起を皆に伝え警戒する。
「みんなっ! 周囲の様子が何か変だ! 危険なので集まってくれ!」
「どうした? イナバ殿、なにか見つけたのか?」
マリンダに肩を貸しながらヒルベルダ様がこちらに歩いてきながら問うてきた。
俺はギルベルトとリリアが近くにいる事を確認し嫌な気配について説明した。
シャルルに教えられた嫌な気配は今や俺でも感じられる程の強烈なものとなり辺りに漂っていた。
『主様、注意してください。間もなく来ますよ』
シャルルが更なる注意を呼びかけてくる。
「な、なんだっ!?」
『あそこです!』
シャルルが俺の腕を引っ張り地下水路の広場の一角に集まる悪意の塊を指し示す。
あまりのプレッシャーに周辺の気体がプラズマ状に変わり目に見える程の放電現象が発生し始めた。
……と、そのプラズマの一部が鋭い剣となり俺の隣を通り過ぎる。
「あぶにゃいっ!」
「えっ?」
「ぐぅっ!」
全く反応できなかった俺を余所に誰かが突き飛ばされた音と苦痛に呻く声が順に聞こえ、視界の端では真っ赤な鮮血が飛ぶのが見えた。
一瞬が数十秒に引き伸ばされた気がした。
まるで水中にいるみたいだ。
やっとの思いで首をひねって声の方向を見るとそこには実体化した鋭利なプラズマに腹部を貫通され夥しい血を流しているリリアと突き飛ばされて倒れ呆然としているヒルベルダ様がいた。
リリアを挟み反対側にいたギルベルトも何が起きたのか理解できずに立ち尽くしていた。
「リ、リアさん……? リリアさん! しっかりしてくださいっ!」
ヒルベルダ様は段々と何が起きたかを理解し、そして錯乱し始めた。
狂った様にリリアを掻き抱いている。
「魔王の娘を狙ったのだが……余計な邪魔が入ったか」
この声は……。
知っている、俺はこの声を知っているぞ。
こいつはっ! 許せんぞ!
リリアはこの街の戦いで仲間を失くし上司を失くし相棒も失くしたのだ。
それでもこの街の為に命を掛けて戦う姿を俺は見てきた。
リリアだけじゃ無い、街の人達にも想像を絶する苦難を差し向けた張本人!
何の関係も無い人々の平和な日常をぶち壊した張本人!
「ロマリアスかぁ――っ!!」
『あ、主! 落ち着きなさい! くっ!』
無意識に俺はシャルルを構え、ロマリアスに向かって飛び出していた。
ずっとシャルルが何かを喚いていたがそんなものは関係ない!
小柄なゴブリンの体躯を無理矢理に駆使して一足飛びで大柄なロマリアスの懐に入り、このまま側頭部にシャルルの一撃を加えて……。
『あるじっ!』
シャルルの声が全く耳に入ってこない。
気づくと先程の巨大ダコ戦の焼き写しの様に俺は壁に吹き飛ばされていた。
「ぐはっ!」
『もうっ! あなたは簡単に敵の間合いに入りすぎです! 気絶してる場合じゃ……い……だ』
わかってる、わかってるよ。
そんなにうるさく言うなよ、お前は本当に訓練中から口うるさい武器だな。
俺だって何とかしたい一心でやってるんだから少しは汲んでくれてもいいんじゃないのか。
そもそも社畜で普段運動なんてしない典型的な現代社会人の俺がこんな世界で生きていける訳ない。
多少強くなった所でゴブリンが魔王に太刀打ち出来る訳もない。
ああ、強くなりたい、ゲームの頃の魔王に戻りたい。
(なるほど……魔王になりたいのか、魔王の力を取り戻したいか?)
んっ?
シャルル、お前随分渋いボイスで喋ったな、武器でも風邪をひくのか?
(愚か者っ! この俺をシャルルと間違えるな! と言うかお前は俺か、愚か者は無かったか)
えっ?
あんたはもしかして例の1週目魔王の俺……の記憶なのか?
(正確には魔王だった頃の記憶を元にしてお前が生み出した仮人格という所か、俺はこの世界線ではまだ存在しないはずだからな。さっきの衝撃で強めに覚醒出来たようだ。……それはそうとあいつはロマリアスという魔王の出来損ないだ。ああ、今は候補なのか)
出来損ない!?
あいつ、あんなに強いのにかっ?
俺と魔王が頭の中で話しているとロマリアスが俺を観察しながらゆっくりと近づいてきた。
「先日お前と会ってからずっと気になっていた。お前は……何者なのだ、魂の力が我々魔王に匹敵する程に強いがとても……希薄だ」
何やら気持ちの悪い事を言いながら大柄な男が歩いてくる。
はっきり言って醸し出す雰囲気から俺に勝てる相手とは到底思えない。
「この街から撤退する前にお前の正体だけは探っておきたいと思ってな。お前はただのゴブリンではないだろう」
(さて、今のお前はあいつに勝ち目はない。ここを切り抜ける為に俺に任せてみる気はないか)
ふむっ、そう言ってくれると思ってたぞ。
それで……条件はなんだ?
(そんなものはない)
嘘つけよ。おまえは俺だ。
無条件で働く訳ないだろ?
散々、現世で理不尽に働かされてきた俺がゲームの中でもタダ働きする訳がない。
(うむ、お前も知っての通り俺はあの理不尽勇者に倒された。あの時、意識が途切れる直前にあいつの声が聞こえたような気がしてな)
あいつ?
(にい様をよろしく頼む……と)
……っ!?
まさにロマリアスが俺の胸ぐらを捕まんと手を伸ばそうとした時にまばゆい光が辺りを包んだ。
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