魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
「むっ……」
俺の身体から放たれた光はロマリアスの手を物理的に弾き飛ばす。
(ふぁ――っははははは――っ!! 俺様、再登場――っ!!)
俺の頭の中に1週目魔王の頭の悪い高笑いが響きわたる。
彼はしばらく笑い続けていたがそのうち戸惑いの色が濃くなってくる。
(あ、あれ? 俺の能力を解放させたのなら俺の人格が表側に出るもんじゃないのか?)
ふむ、どういう仕組みなのかわからないけど主導の人格は俺のままらしいね。
それにしても俺の事を兄様と呼ぶのは一人しかいない。
俺が孤児から保護して魔法のイロハを教え込んで一人前まで育てた彼女……グリッシュだ。
まあ、俺の予想以上の魔導師になってしまって終いには魔法については教わるレベルまでいってしまったがそれは内緒だ。
死んでからも彼女に心配をかけるわけには行かないぞ。
『主っ! 主様っ! 大丈夫なのですか!?』
(くっそ、まあいいや。俺の能力を貸してやるんだ、負ける訳ないと思うけどグリッシュの為にもしっかりシバイてやれよ!)
1週目の魔王はそう言って俺に話しかけるのをやめた。
シャルルの声も止んだ所をみると俺と魔王の会話で何かを察してくれたのだろう。
大丈夫だ、多分。
今の俺は恐らくあいつには負けない。
ロマリアスは弾かれた自分の手を眺めて面白そうで冷たい笑みを浮かべていた。
「おまえは面白い。殺して連れ帰ってもいいが色々な実験に付き合ってもらおう」
ロマリアスがそう言うと頭上から魔力の輪が降りてきて俺を拘束してきた。
だが不思議と今の俺にはその魔法が妙に安っぽく見えて仕方が無かった。
輪投げじゃあるまいし馬鹿にしてんのか。
わかるぞ、こうか。
頭の中のイメージの通りに身体を動かすと魔法の輪は呆気なく霧散した。
「他力本願感は否めないが……こんなものでは俺は拘束できない」
「ふむ、その様だ。では、これでどうだ」
生半可な魔法では俺を拘束できないと思ったのか今度は前の物よりも太く頑丈そうな数十の魔法の輪を放ってくる。
だが、来る事が分かっていればこんなものは避けるまでもない。
魔王の力を借りる前までは躱す事もままならず一撃でも喰らえば全く動けないと思っていた奴の攻撃も今はスローモーションの様にゆっくりと見える。
俺は落ち着いて立ち上がると襲ってくる魔法の輪を一つずつファイヤーボールで撃ち落としていった。
今なら魔法も十分制御され適切な出力で発動する事が出来た。
「面倒だな、完全な状態で連れ帰ろうと思っていたが多少の破損は止む終えまいか……」
何やら物騒な事を言うとロマリアスは更に全身で魔力を練り始めた。
本来、ゴブリンである俺はビリビリと生命の危機を感じているが、それとは違う所でやはり大丈夫という感覚が湧いているのがわかる。
反撃の為の魔法を準備しながらどう攻撃してやろうかと思案していると突然、やつの頭が爆発した。
いや、正確にはやつの魔法障壁の頭の辺りに攻撃魔法が着弾して爆発したようだ。
魔法が飛んできた方向を見るとそこには思いもかけない人物が立っていた。
「今ばい! イナバ様!」
アルシーが放った魔法がロマリアスに直撃し決定的な隙が生まれた。
(余所見すんな! 撃つぞ! ゴブリンっ!)
わかってるって!
準備していた通常魔法の出力がモリモリと増えていくのを感じていた。
感謝するぞ! 魔王っ!
「いけぇ――っ!!」
左掌を広げロマリアスに差し出すと異常な出力の魔法の光が視界を埋め尽くす。
わー真っ白だ。
いや、そんな事を考えている場合ではない。
俺の放った魔力の光はロマリアスを簡単に飲み込み突き当たりの壁に辺り大爆発を起こした。
やべぇ――っ、部屋が崩れる!
後ろの仲間達を見るとアルシーを中心としてバリアの様なもので守られていた。
「こちらは大丈夫ばい! ご自分の身ん安全ば図ってくれん!」
そうだねー。
俺の頭上からもさっきから瓦礫が降ってくるのを躱して躱して……。
瓦礫が収まると身をかがめて爆風が収まるのを待つ。
少し待つと煙の中からやつのデカイ図体が見えてきた。
両腕で身を守る様に固まっていたがゆっくりとその姿勢を解きこちらをむいた。
よく見ると身につけたローブは焼け焦げボロボロだ。
身体にも無数の傷がついていて痛々しい。
「くっ、おまえは……。この魔力はまるで魔王ではないか」
今度こそいけるか!
さっきは簡単に弾き飛ばされたから十分警戒しながらシャルルを構えて突っ込む。
ロマリアスの首に向け横薙ぎを放つと奴は防御姿勢をとるが間に合うはずもない。
「とった!」
そう思った瞬間にシャルルが硬い何かに止められた。
『えっ!?』
「ガルドか……」
シャルルが戸惑うが俺にはその存在に心当たりがあった。
そこには見た事のある鬼人、オーガのガルドがシャルルを両腕を使い受け止めていた。
先のリリアとの戦いのダメージなのか身体中が傷だらけであるにも関わらず俺の一撃を受け止めるとは大した奴だ。
「ロマリアス様、ここは一時撤退が得策かと……ぐはっ!」
無事では無かったか。
それはそうだ、魔王を討ち取るつもりで放った一撃だ。
外見上は無事であっても身体の芯に相当響いているはずだ。
ガルドは口から血を吐きながら苦しそうに喘いでいる。
「ぐっ……」
ロマリアスは己の不利を悟ったのか何か呪文を唱えると瞬く間に消えた。
あの圧倒的だったプレッシャーは弱々しく消えてなくなり辺りに静寂が戻る。
「殿は俺の役目だ、まさかジャイアントオクトパスを持ち出してゴブリン1体捕らえる事が出来ないとはな……」
ロマリアスを逃してしまった挙句、厄介な鬼人がこの場に残った。
(鬼人如きが俺様の邪魔をするとはな……、ゴブリン、目に物を見せてやれ)
全く……魔王は簡単に言ってくれる、……が、言われるまでもない。
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