魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
ウェルニーの地下水路の奥深く。
ロマリアスを逃してしまった俺の目の前にはやつの腹心の鬼人ガルドがいる。
「多勢に無勢であるが簡単にはやられんぞ、こい! ゴブリンよ!」
恐らくはロマリアスも俺の魔法の攻撃で手負いであるはず。
そこまで遠くには移動できないと見ていたがどうやらガルドが命を掛けて時間稼ぎをするらしい。
ガルドは見上げる程の巨人で小柄な俺だと尚更であるが連戦続きのせいか全身傷だらけで見るからに初見の頃の覇気もなくはっきり言ってしまえば虫の息だ。
しかも奴は先のリリアとの戦闘で武器を失くしたのか両の拳を握って向かってこようとしている。
「お前程の強者ならあんなやつに仕えずとも幾らでも活躍の場があるだろうに」
俺はやつの姿を見て思わず本音が漏らした。
実際にゲームの頃にもガルドは出てきて敵ながら忠誠心に厚く部下の面倒みも良い味方であればとても頼もしい……痛し痒しな存在である。
厳しい戦場に自ら出陣しては味方を鼓舞し勝ちを拾ってくる戦国武将さながらの将軍である。
正直、ここで倒してしまうのは惜しい。
決して面と向かっては言えない事だが俺はそう思ってしまった。
「確かにお前の様にゴブリンで在りながら前途有望であり強さも合わせ持っておれば自ずと人も集まろうな。しかしながら俺は魔王には返しきれん恩がある。それはここで語る事ではないが」
やはり無駄か……。
俺の側から見たロマリアスは陰険で敵の死体を弄ぶ外道の様なやつだがコイツにとっては唯一無二の上司なのであろう。
全く理解はできないがな。
「では……ここで殺るか」
「応よっ!」
俺の言葉に応えた瞬間、ガルドはとても手負いとは思えない程の気迫を見に滾らせて俺に向かってきた。
俺だけの能力ではガルドが動いた事すら察知できなかったであろうが今の俺には魔王が付いている。
俺はさがりながらその攻撃を避けるが拳が無数に見える程のガルドの突撃は止まる事が無さそうだ。
俺は脇に避け半身で立ち止まりシャルルでガルドの顎をかち上げ動きを止める。
ガルドはたたらを踏んで後ずさりするが頭を振ると再度俺を睨みつけてきた。
覚悟を決めたはずだったが未だに迷いが俺の心を惑わす。
ガルドはそんな俺を見て血の流れる口で僅かに微笑むと隙だらけの大振りな右拳を俺の顔面目掛けて放ってきた。
威力だけなら申し分ない良い攻撃だ。
だが、俺はそれすらも躱しシャルルでガルドの側頭部に止めの一撃をいれた。
「がっ!」
たまらず倒れたガルドの息の根を止めるべく近づく。
普段の奴ならなんて事ない攻撃で簡単に躱せただろうが手応えがあった。
おそらく致命傷だ。
四肢を投げ出し横臥した奴からはもはや活力が感じられない。
やがて奴は焦点の合わない目を俺に向け言い放った。
「……さあ、殺れ! そして早く逃げろ!」
思いのほか、大きな声で叫ぶガルド。
「逃げろだと……?」
「俺の身体には戦いに敗れ一定のレベルまで生命反応が弱まると発動する爆破魔法の術式が施されている。魔王が自分の部下の亡骸を敵に奪われない為に行った事だ。理解できぬよのう、自分で回収できないのならそれまでどれだけ尽くしてくれた部下の亡骸を粉々にしてしまおう等とは……」
なんだとっ!?
「お前っ! そこまでされて何故やつに従っているんだ!?」
「わからぬ、魔王の考える事など、戦いの事しか考えられぬ俺には理解など到底できぬ」
そんなもの俺にも理解なんてできない。
ロマリアスは一体、部下の命や献身をなんだと思っているんだ!
人の命、殊更部下の命を自分勝手に使い潰す魔王の振る舞いにやり場のない怒りが沸き同時に虚しさに涙が流れる。
その姿を見たガルドは少し嬉しそうに微笑み話し始めた。
「ゴブリンよ……俺はある魔王にオーガの里を滅ぼされた生き残りでな、……ロマリアスはまだその頃は魔王の候補でも無かったのだが、俺に力を貸してくれてな、身一つで仇討に協力してくれたのだ。まあ活きの良い魔王軍の死体が大量に手に入ると思ったのが理由だとは思うがな……」
ガルドはそう言って愉快そうに笑うと一息ついて続ける。
「有りがちな話だ……どこにでも転がっているごく有り触れた話だ……。お前からは俺の行い、こだわりと言っても良いか……、愚かに見えるか?」
俺は懸命に首を振って否定するが、或いはもうオーガには見えていなかったかもしれない。
(……おい、俺。ガルドの死に場所を作ってやろうぜ)
くっ、魔王か、わかっているよ。
ここがガルドにとって望んだ死に場所な事位……。
「ゴブリン……、名は……何といったか?」
「イナバだ」
「先に逝った仲間達に自慢する事にしよう。俺は……将来、魔界を背負う魔王候補とその仲間達と戦って死んだのだと……、さあ、早く行け。もう術式が発動するだろう……」
最後にガルドはそう語るとやがて静かになった。
……と同時にガルドの身体から光が放たれそれはある魔法陣を形成し始める。
むっ、確かにこれはまずいかも知れない。
その魔法陣は亡くなった人間の死体を媒体として魔力を凝縮し爆発を起こさせる比較的新興である暗黒魔術に分類されるものだった。
俺はどうも暗黒魔術なるものが好きではない。
美しさに欠ける、品性もスマートさもない。
目標の効果が発動できればあとはどうでもいい。
使用される目的は下劣でロマリアスの嗜好そのものだからだ。
……と、そんな事はどうでもいい。
早くしないと爆発に巻き込まれ流石の俺も擦り傷位は拵えてしまうかもしれない。
それとリリア!
長らく忘れてしまっていたがリリアは無事なのか!?
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