魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました― ハーメルン版 作:ヨシMAX
振り向くとそこにはアルシーに魔法で傷の手当てをされ貧血気味なのか青い顔をして辛そうではあるが無事なリリアが皆に囲まれて座っていた。
リリアは俺の視線に気づくと憮然とした表情で言った。
「ちょっと油断してただけにゃ。あんな攻撃、次は絶対に当たらないにゃ」
普通はあれだけのダメージを負ったら次は無いぞ。
そう思ったのだが言わないでおいた。
生きているのならそれで良い……そう思ったからだ。
……
……
そんな風に格好つけてる場合じゃなかった!
「リリアっ! 無事で良かったっ! 理由はあとで話すんで急いで逃げるぞ!」
俺の余りの剣幕に気圧されたのか割と速やかに従ってくれた。
「みんな、放り出されたら助からんけんね。全員で触れ合ってくれん!」
「みんな、大丈夫か!?」
アルシーの問いかけに俺がみんなに確認する。
ヒルベルダ様はマリンダに肩を貸しリリアは俺の背中におぶられている。
そして俺達を守る様にギルベルトが隣に控える形だ。
「大丈夫だっ!」
「こちらも……」
全員で手を繋いだ事を確認するとアルシーは帰還呪文を発動させるべく詠唱を紡ぐ。
フッと足元が浮いた様な気がした瞬間、地上のウェルニーに帰還していた。
俺達が居たであろう地下通路の辺りから物凄い噴煙が上がっている。
恐らくある程度の崩落が起きたのだろう、後で直さないとな。
「うちば置いて行くなんて何ば考えとるんか!? 前回あれだけピンチに追い込まれた事ば忘れたんか!? 許さんよ! 全く……」
無事に帰還してホッと息をついた途端に涙目アルシーが真っ赤な顔をして詰め寄ってきた。
それはそうだろう、仕えるべき魔王候補と共に先の戦いであれだけの激戦を繰り広げて命の危険をくぐり抜けたと思ったら今度は自分に黙って更に危険な場所にノコノコと向かってしまうのだ。
「済まないな、アルシー。今回ばかりは俺も仲間の重要性を思い知った。今後は過信はしない」
「……、うん、分かりゃあよかっちゃよ」
俺が自分の行いを悔いて殊勝なセリフを吐くとアルシーは戸惑ってしまった。
「では私達は魔王様とギルドに報告へ向かうのでこれにて……。足手纏いになり申し訳なかったよ。イナバ殿……」
「そんな事はない! 種族進化でも世話になるし早めにこうして探索に出れて良かった」
「えっ!? ……種族進化の試験に同行しても?」
試験に関わらずそのうちアルシーやリリア以外ともパーティーを組む機会がやってくるだろう。
そもそもの話、あちらさえ良ければ俺はヒルベルダ様とはいつまでも縁を持っていたいと思っている。
「もちろん、よろしく頼みます」
「有難う……この汚名は必ず返上して見せるよ」
そう言うとヒルベルダ様は気合の篭った瞳で拳を握り締めた。
全然、汚名じゃないというのに……。
それと……、
「ギルベルト……さん、マリンダさんも同行してくれませんか?」
「……承知! 我、役に立つ竜人、同行できて光栄だ」
「わ、私も頑張りますっ!」
竜人の実力は俺が一番よく知っている。
例え今の彼が俺の知っているガンダルフに及ばずとも一緒に冒険がしたい。
そしてマリンダもグリッシュが所属していた妖魔魔術師兵団の一員だ。
まだまだ実力はこんなものではないはずだ。
俺はヒルベルダ様とマリンダ、そしてギルベルトと別れた。
(ふっ、ガンダルフのじじい、元気かな。おっと、この時代ならまだ若いのか、想像するとちと気持ち悪いぜ)
お前、あんまり失礼な事言うもんじゃないぞ。
ガンダルフの拳骨は目が飛び出るかと思うほど痛いからな。
(わ、わかってるぞ、何度目が飛び出しそうになったか……、くそっ、俺は引っ込むからな、またな)
そう言って魔王の声はしなくなった。
さてと……。
「じゃあ、アルシー、リリア、俺達は飯にでも行くか? リリア、怪我は大丈夫か?」
「にゃ、アルシーさんのお陰でもう大丈夫にゃ、ただ血が足りないので食事、賛成にゃ」
血が足りないって……。
君の怪我はアルシーがいなければ多分致命傷だったからね。
すぐに食欲が湧くのだって本来なら考えられない回復力だよ。
「うちも賛成ばい。まずは腹ごしらえしてからいろいろ考えるとするっちゃ」
この人達にはもう何も言うまい。
さすがうちの女性2人は相当な人外であるが食事の重要性については俺も賛成だ。
先日の食事の件でも分かった事だがこの2人は所謂燃費の悪い人種だ。
つまり非常に大食らいだ。
腹が減るとパフォーマンスが著しく落ちると考えた方が適切。
斯く言う俺も空腹は苦手で体温は下がるわ、手は震えるわでまともに思考出来なくなってしまう体質なのだ。
この後は魔王の叔父さんとも話した通り種族進化を含めてパーティ強化の期間に入る訳なのでカロリー摂取は極めて重要な仕事の一つとなる。
自己弁護はこの辺で良いか……。
そうと決まればさっそく店探しだ。
俺は2人を連れて食事処を見て回った。
襲撃直後という事もあり街に繰り出す人は全盛期程ではないがそれなりに居る。
ヒルベルダ様に連れて行ってもらった料亭も良かったが、こういう酒場然とした大通りを巡るのも悪くない。
幾つか店を回って俺達は一軒の店に入った。
名を「駆け回る羊亭」という。
なぜ駆け回るのか、駆け回ったら眠れないではないか……等と考えてはいけない。
この世界の普通のセンスだと思う事にした。
1階の酒場は外の閑散さとは無縁で復興中ではあるが……いや、だからこそ大いに賑わっており美味しそうな匂いが漂っていた。
多少のガラの悪さが際立つものの馴染めない訳でもない。
俺達3人は店員に案内されてテーブルに付くのだった。
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